2004.11.26

「コイズミ」はほんとにブッシュの友達なのか?

ブッシュは、「コイズミは友達」という一方で、
日本などに対して明らかに差別的な対応をしている。
ブッシュ政権は世界をどうするつもりなのだろう?

●孤独で内向きのブッシュ政権

 ブッシュのサイトが海外からのアクセスを拒否しているという話を本欄で書いた。その回の反応が大きかったようなので、その後の経過を含めてもう少し書いておくことにしよう。

 この回の原稿を編集部に渡した数日後の26日、ネットのアクセス状況をモニターしているイギリスの会社「ネットクラフト」が、アメリカ国内4か所とロンドン、アムステルダム、シドニーからのブッシュ・サイトへのアクセス状況を調べたところ、アメリカ国内は問題なかったが、国外の3か所では25日からブッシュのサイトにアクセスできなくなっていることに気がついた。サイトでその事実を明らかにしたところ、英BBCなど海外のいくつものメディアが報じた。この件について世界で最初に報じたのがもう少しで本欄になるところだったが、ネットクラフトが気がついて「世界的スクープ」は逃してしまったわけだ。
 その後ブッシュのサイトは、「セキュリティ上の理由で」海外からのアクセスを制限していることは認めた。しかし、それ以上の説明はいまもってない。あとで書く理由で、海外のハッカーを恐れてというより、国内からのアクセスに万一でも支障をきたさないために姑息で稚拙な対策をしたとしか考えられない。アクセスできなかったブラウザには「サーバーが見つからない」ではなくて、「あなたにはアクセス権限がない」と事実そのままの露骨なアクセス拒否の表示が一時は現われた。こんな刺激的な表示をしないことも可能であり、彼らがいったい何を考えているのかよくわからない。
 選挙後数日して海外からのアクセス拒否は一部解除されたようで、アムステルダムとロンドンからはアクセスできるようになったと、8日になってネットクラフトは伝えている。ただし、シドニーからは依然としてアクセスできないという。日本は調査ポイントになってはいないが、選挙後10日以上たったいまでもやはり(ほとんど)アクセスできない。ヨーロッパからのアクセスができなくなる25日より以前にも日本からはアクセスしにくかったから、ふたたびその状況に戻ったことになる。ヨーロッパからはアクセスできるが、アジアやオセアニアなど太平洋のこちら側からのアクセスは制限されているように思われる。
 共和党全国委員会のサイトで10月19日に何らかのトラブルがあり6時間ほどアクセスできなくなるという事故があったが、その2日後の21日からブッシュのサイトは「アカマイ」という会社に仕事を頼んでいる。アカマイはコンテンツデリバリサービスというのをやっていて、契約者のサーバーにあるコンテンツをアカマイのサーバーに保存【ルビ:キャッシュ】して、それを表示することでもとのサーバーに負荷がかからないようにしている。アカマイはこの技術を開発、98年に会社を設立して、ヤフーをはじめとするポータル・サイトやニュースサイト、Eコマースなどアクセスが一時に集中しがちなサイトにこの技術を提供している。
 ブッシュのサイトはつまり殺到するアクセスへの対策をしているのだ。万一もとのサーバーがダウンしてもその間はアカマイのサーバーがカバーするようにもなっている。にもかかわらず、ブッシュのサイトはなぜ海外からのアクセスを制限しているのだろう。
 10月26日になってアクセスできないことに気がついたヨーロッパなどでは、アカマイへのサービス委託が関係しているともとれる記事も出たが、太平洋のこちら側ではアカマイへの委託以前からしばしばアクセスが拒否されていたわけで、アカマイのせいとは言えないだろう。前に書いたように2000年の選挙戦のときからこうしたことは起こっており、ブッシュのサイトの以前からの方針としか考えられない。
「『コイズミ』は友人で、日本とは(かつては戦争をしたが)いまは良好な関係を築いている」と、ブッシュは選挙戦の演説でさかんに語った。しかし、このふるまいを見ると、じつはアジアを軽視しているとしか思えない。「セキュリティ上の理由」以上の説明をしないのは、それ以上のことを言えないからだろう。

●ビン・ラディンの高笑いが聞こえる

 アメリカ大統領選挙の直前にメッセージビデオを送りつけてきたビン・ラディンは、ブッシュが勝つことをねらったのではないかと前回書いた。「ブッシュが勝ったら9・11の再来だぞ」とばかりに脅しをかければ、アメリカ国民の気質としては「脅しに屈したらダメだ。ブッシュのもとに結束しなきゃ」ということになる。ビン・ラディンも当然そんなことは予想したに違いない。それどころかむしろブッシュが勝って、アメリカと世界の亀裂が大きくなることこそが彼の望みなのだろう。ブッシュ再選が決まった後、アメリカ軍は、ファルージャの町に対して激しい攻撃を仕掛けた。来年1月に選挙を強行するにはほかに手がなかったのだとしても、過酷な戦闘が繰り返されればイスラム世界とアメリカの対立はいよいよ厳しくなり、それにともなって国際社会の亀裂も深くなっていくだろう。いまごろ世界のどこかでビン・ラディンは高笑いをしているのではないか。
 ブッシュを勝たせたアメリカ人は、今後、世界がどうなっていくと思っているのだろうか。
 大統領選挙後、ギャラップが興味深い調査をしている。「次の4年間で、ブッシュは国をより統合すると思いますか。それとももっと分断するでしょうか」。さて、アメリカ人がなんと答えているかというと、57パーセントは「統合する」と答え、39パーセントが「分断する」と答えている。「融和に向かう」と答えたアメリカ人が多いが、選挙ではそもそも半分強の人がブッシュを支持したわけで、勝って満足している人々が呪われた未来を予想するはずはない。共和党支持者は、当然ながら選挙結果を喜んでいるが、民主党支持者の4分の3は選挙結果を聞いて「うろたえた」と言い、さらにその7割は「とてもうろたえた」と答えたとギャラップは伝えている。
 また、ギャラップは国際版のサイトで、世界各国がアメリカについてどんなイメージを持っているかを調査し、10月に結果を発表している(調査は今年の6、7月に行なわれた)。朝日新聞もフランスのルモンド紙などと共同で対米意識調査をやり、やはり先月結果を発表しているが、朝日の調査は10か国が対象なのに対し、ギャラップのほうは60か国以上について調べている。それによれば、アメリカについて否定的イメージを持っている人は34パーセントで、G8を構成している先進8か国のなかでダントツのトップで嫌われている。
 ギャラップのサイトで見ることのできる10月の発表は簡単なものだが、昨年行なわれた調査についてはもう少し詳しい内容が明らかになっている。「アメリカの外交政策が自分の国にどんな影響を与えていると思うか」を尋ねていて、「悪い影響」と答えた人より「いい影響」と答えた人が多かったのは52か国中10か国だけ。コソボを筆頭にアフガニスタン、イスラエル、グルジアと紛争地帯のいわくつきの土地柄のところが並んでいる。日本は68パーセントの人が「悪影響」と答えており、「好影響」と答えた人は13パーセントしかいない。アメリカの外交政策について否定的に見ている国の第2位である(52か国中トップはスイスで、フランスは日本よりはまだましで3位)。
 これらの調査を通してみると、9・11のテロ後、世界的にアメリカの外交政策の悪影響を感じる人は増え、イラク戦争前が最悪。戦争が終わって少し回復したが、昨年末にかけてまた悪化、少なくとも今年の6、7月までは改善された様子はない。9月から10月にかけて行なわれた朝日新聞などの調査でも、日本人の4人に3人は、この3年でアメリカに対する見方が悪化したと答えており、よくなったという人は17パーセントしかいない。
 ギャラップは「誰が勝っても、新しい大統領はアメリカに対する悪いイメージを改善しなければならない」とまとめているが、はたしてそれは可能なのだろうか。海外からのアクセスを拒否するようでは、期待してくれというほうが無理だろう。

関連サイト
●世界の人々がアメリカについてどういうイメージを持っているかを調査したギャラップ・インターナショナルの調査。「人々の声」というタイトルで行なわれているシリーズ調査のひとつ。アメリカの外交政策が各国に与える影響についての昨年行なわれた調査のほうはhttp://www.voice-of-the-people.net/ContentFiles/vop2004.aspにある。
●第2期ブッシュ政権についてどう思うか、大統領選挙直後のアメリカ人に尋ねたギャラップ社の調査。ブッシュが再選されたと知って「感激した」が23パーセント、「将来を楽観した」が33パーセント、「悲観した」が18パーセント、「ぞっとした」が24パーセント。このサイトのレポートは(1か月の試用期間を除いて)有料だが、http://www.pollingreport.com/2004.htmで結果の数字を見ることができる。
ピュー・リサーチセンターも選挙後行なった調査の結果を11日に発表した。ケリーを支持した4人に3人は困惑し、3人に1人は怒りを感じたと答えている。また、10人中2人はインターネットで多くの情報を得たと答え、30歳以下に限ると10人中4人。どちらの数字も4年前の選挙時から倍増している。

(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.363)

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2004.11.19

アメリカ大統領選挙に勝ったのは、ビン・ラディン?

米大統領選挙はブッシュが勝利し、他国民の落胆の
ため息のなか終わった。アメリカ人は何を考えて
ブッシュに投票したのだろうか。

●誰でもできるブッシュの勝因分析

 もし世界の人々がアメリカ大統領選挙に投票できたら、ケリーの圧勝だったという世論調査やネット投票の結果が出ている。「アメリカ人はこう考えて投票したんですよ」とテレビや新聞で解説されるけど、どうも納得できない。「平均的なアメリカ人」が何をどう考えたかを表わす具体的な数字で、彼らの思考回路を見てみることにしよう。

おあつらえ向きに、こんどの選挙では詳細な出口調査が行なわれ、ネットで誰でもその結果を分析することができる。
 それを見ると、これまでメディアが言ってきたこととは少し違う事実も明らかになってくる。たとえば、こんどの選挙では、「セキュリティ・ママ」がブッシュを応援した、と言われてきた。子どもがテロにあうのではと心配し、テロとの戦いを声高に語るブッシュを支持、再選の原動力になっている‥‥メディアはまことしやかにそう語ってきた。しかし、少なくともこの出口調査からはそうした事実はうかがえない。
 MSNBCのサイトに出ている出口調査結果では、子どものいる女性とそれ以外の投票行動が対比されている。それによると、子どものいる女性でブッシュに投票したのは50パーセント。残りの49パーセントはケリーに投票している。ところが、「パパ」も含めるとブッシュへ投票した割合は59パーセントにアップする。つまり、ママよりもパパのほうがよりブッシュに投票しているのだ。
 ただし、子どもがいるいないはじつは大きな要因ではなかったようだ。男性はケリーよりブッシュに11パーセントも多く投票している。それに対し、女性は51パーセントがケリーに投票していて女性票にかぎればケリーの勝利。性別による違いが大きいのだ。さらに、子ども以前に結婚しているかどうかで投票行動が違ってきている。未婚者は6割近くがケリーに投票しているのに対し、既婚者ではこの数字が逆転し、6割近くがブッシュに投票している。結婚すると保守的になってブッシュに投票するという行動パターンがはっきりと出ている。

●アメリカ人の考える恐るべき大統領の資質

 こんどの選挙ではイラクなどについての政策よりも、道徳観、もっとはっきり言えば宗教意識が投票行動を左右したと言われるが、それはこの調査でも見てとれる。所属宗派と教会へ行く回数によって、誰に投票したが大きく変化している。ブッシュも属しアメリカの多数派であるプロテスタントで「毎週教会へ行く」という人は7割がブッシュに投票しているのに対し、教会に行かない人でブッシュを支持したのは36パーセントにすぎない。こんどの選挙は宗教戦争でもあったことが見てとれる。
 思想傾向による投票行動の違いはもっと顕著で、自分がリベラルだと思う人は86パーセントがケリーに投票し、逆に保守的だと思う人は83パーセントがブッシュ支持。
 もうひとつ歴然と関係しているのは収入で、年収1万5000ドル(約160万円)以下ではケリー支持が63パーセント、20万ドル(2100万円)以上ではブッシュ支持が63パーセント。収入が増えるにつれてブッシュ支持の割合は高くなっていく。
 よく考えると笑っている場合ではないのかもしれないが、思わず笑ってしまうのは、「大統領のもっとも重要な資質は何か」。「宗教意識」とか「強いリーダー」と答えた人は9割がブッシュに投票しているが、「知性」と答えた人でブッシュに投票したのはなんと9パーセントしかいない。たしかにブッシュはあまり利口そうにはみえない。アメリカ大統領に知性はいらないとはとても思えないが、知性が重要と答えた人はそもそも投票者全体の7パーセントしかいない。アメリカの大統領ともなれば、外国にいるわれわれも影響をうけるんだからもっとちゃんと考えてよね、と言いたくなる結果である。
 この調査結果によれば、支持者の多くが考えるブッシュの資質は、宗教心があり(91パーセント)、はっきりとした姿勢を示す(79パーセント)強いリーダーで(87パーセント)、その一方、他人について親身になって心配することはあまりなく(24パーセント)、知性もなく(9パーセント)、必要な変化をもたらすこともない(ブッシュが必要な変化をもたらすと答えた人はわずか5パーセント)ということになる。こうした性格こそが、まさにブッシュへの懸念が海外で高まっている理由なのだと思うが、皮肉ことに、アメリカではわれわれが危惧する点が大統領にふさわしいブッシュの資質と見られているようだ。

●ビン・ラディンが勝たせたかったのは誰か?

 日本では、新潟の地震やイラクでの邦人人質殺害など大きな事件が続き、あまり注目されなかったが、大統領選挙の直前、ビン・ラディンがビデオ・メッセージをカタールの放送局アルジャジーラに送ってきている。ビン・ラディンが映っている以前のビデオのように、いかにもゲリラ戦を戦っている兵士といった感じではなく、ニュース・キャスターのようにデスクの後ろで落ち着き払って、アメリカ国民に向けて「これが次の9・11を防ぐ方法だ」などと語っている。「82年にアメリカの支援のもとイスラエルがレバノンを空爆し、高層ビルが破壊され女性や子どもたちが死んだ。その情景を忘れられず、報復を思い立った」と個人的な回想をしていることもこれまでと違っている。
 このビデオ・メッセージは、投票に影響をあたえる意図で送ってきたとしか思えない。しかし、どちらの候補者のプラスになるのかはよくわからなかった。「イラクにかまけてテロの親玉を野放しにしてしまった」とブッシュを非難したケリーに有利に働くという説と、対テロを争点にしたがっていたブッシュに有利になるという相反する説があった。
 出口調査にも、このビデオの影響を見る質問が含まれている。ビン・ラディンのビデオを重要だと思った人は56パーセントで、彼らがどちらに投票したかというと、ほぼ票を分けている。どちらかが有利になったようには見えない。ただし、そう言い切っていいかは少し疑問が残る。「ビン・ラディンのビデオは重要ではない」と答えた44パーセントを見ると、ブッシュに投票した人は、ケリーに投票した人より13パーセントも多いのだ。「テロリストの手に乗るもんか。そんなビデオは重要じゃないよ」と反発した人がブッシュにより投票したともいえそうで、このビデオはブッシュに有利に働いたのではないか。
 山岳にこもっているテロリストとはとても思えないぐらいに、ビン・ラディンはさまざまの情報を得ているようで、9・11のテロに見られるようにこれまでも西欧社会の政治経済構造を逆手にとって攻撃を仕掛けてきた。このビデオ・メッセージでも、マイケル・ムーアの『華氏911』の場面を使ってブッシュを皮肉ったりもしている。このビデオの影響についてもビン・ラディンが周到な計算をせずに送ってきたはずはない。では、ビン・ラディン自身は、いったいどちらを勝たせようと思ったのか。
 他国の反発や多くの一般市民が巻き添えになることもいとわず、ブッシュは武力に訴える。ビン・ラディンがもし自分たちの延命を第一に考えるなら、ブッシュが負けてほしと思ったかもしれない。けれども、もしつねづねビン・ラディンが言っているように、イスラムと西欧文化を対立させ、さらに、国際間や当のアメリカ国内に激しい葛藤を呼び起こしたいのなら、ブッシュの勝利を歓迎するのではないか。アラーの神のために死ぬことを名誉と考える彼が、我が身大事をまず考えるとはとても思えない。世界を二分する「最終戦争」をもたらす可能性のより高い大統領の誕生を望むだろう。アメリカ大統領選挙の結果は、現実にそうした方向に一歩近づいたといえるのではないだろうか。

関連サイト
CNNのサイトの大統領選挙の出口調査結果。さまざまな質問をしていて、結果を州別に見ることもできる。大都市住民は62パーセントがケリーに投票しているのに対し、田舎に住んでいる人は58パーセントがブッシュに投票している。またニューヨーク市では、74パーセントがケリーに投票している。MSNBCのサイトにある出口調査結果は、CNNのものと質問項目や集計の出し方が少し違っている。
●出口調査を行なった「ナショナル・エレクション・プール」。前回2000年の大統領選挙では、出口調査にもとづいて誤った当確を早々に出してしまうというポカをやったアメリカのテレビ各局は、AP通信とともに新たにこのコンソーシアムを作り、調査会社に依頼した。95パーセントの確率で±4パーセントの誤差の範囲内の結果を得られるという。
●アメリカ人以外によるネット投票をした「グローバル投票2004」。ケリーが77パーセントの票を獲得して圧勝。ブッシュに投票した人は9パーセントしかいない。
●10月29日にカタールのテレビ局アルジャジーラはビン・ラディンのメッセージ・ビデオを放送し、3日後に全文を英訳してサイトに掲載した
 ビン・ラディンのビデオは、興味深いことに、戦いののろしをあげるばかりではなく、「私たちの安全を脅かさない国の安全は自動的に保証される」と和解へのメッセージともとれる言葉で締めくくっている。このビデオでビン・ラディンはこれまでより安全なところにいるように見えるが、実際はむしろ逆で、かなり追いつめられているのかもしれない。
 放送されなかった部分では、9・11のテロが経済テロであったことを明確に語り、アメリカが被る損害の100万分の一のコストで、アフガニスタンでのかつてのソ連との戦い同様アメリカが破産するまで戦い続けると言っている。また、ブッシュ政権が利権をむさぼって、結局、損をしているのはアメリカ国民だとも言い、親子二代のブッシュ政権を非難している。

(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.362)

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2004.11.12

広告に見るアメリカ大統領選挙

アメリカを2分した大統領選挙が終わった。
広告を舞台にした戦争も、かつてない激しさだった。
選挙戦の広告を通して、その裏側を見てみよう。

●ネット広告の有効性に懐疑的だった大統領候補たち

 各陣営、政党、支援グループの選挙広告費は、前回の大統領選挙のなんと3倍。6億ドルを超え、史上最高額の広告合戦を繰り広げた。
 それに対し、ネット広告費は、その100分の1にもならなかった。ネット選挙などと言われ、ブッシュ、ケリーはともに、党大会での指名受諾スピーチで今回初めて、自分たちのサイトにアクセスするよう呼びかけたりもした。しかし、おもな候補者、政党、支援グループすべてのネット広告費は1月から8月までの8か月で266万ドル。ケリーは指名受諾演説をした7月29日1日だけで570万ドルの寄付を受けたというが、全ネット広告をあわせてもその半分にも達しなかったわけだ。いかにネット広告にお金をかけなかったかがわかる。
 調査したピュー・リサーチ・センターは、「ネット広告ならば、年齢構成や地理的な条件を考え、浮動層にたいして最適な形でピンポイントに呼びかけられるのに、これは驚くべき結果だ」と書いている。さらにこの報告書は、マスメディアを使うと費用がかかり、また有権者を見物人にしがちだが、ネットは、対話型でより多くの声を反映させることができると述べ、今回の大統領選挙ではネットを使ってボランティアを募り寄付を集め、サイトやメール、ウェブログ、ソーシャル・ネットワーキングなどによって有権者を引きこみはしたが、各組織はネット広告の有効性を確信するにはいたらなかったのだと結論づけている。
 バナー広告のクリック率は低く、広告主にとってメリットが少ないと言われるが、それでも検索連動広告の登場などもあって、アメリカの今年のネット広告は80億ドルに達すると見られている。これはテレビ広告の8分の1ほどにあたる。大統領選挙でもこれぐらいの割合でネット広告が使われてもおかしくはない、と先の報告書なども言いたいのだろう。ただ、今年の大統領選挙では、広告費をかけず、作った広告をウェブやメールなどで配布するという安上がりな宣伝戦も行なわれたようだ。

●両陣営のネット広告戦略

 テレビ広告と比べれば両陣営とも地味だったとはいえ、ケリーのほうがブッシュよりもネット広告に前向きだった。1月から8月までのブッシュのネット広告費41万ドルに対し、ケリーは3倍以上の132万ドル。これは候補者の陣営が直接使った広告費で、政党のぶんは含まれていない。8月までに民主党が26万ドルのネット広告を出したのに対し、共和党は49万ドル。ネット広告へのブッシュの支出が少ないぶん支持政党の共和党が少しだけカバーしたことになる。9月に入ってからもこの傾向は変わらなかったようだが、9月末から10月前半にかけてのテレビ討論が始まると、民主党はニュース・サイトに積極的にバナー広告を出した。討論についての論評や分析をネットで見ようという人たちを自陣営のサイトの討論ページに導いて、テレビ討論でケリーが勝ったことを印象づける作戦に出たという。アクセスしてきた人には論点を教え、ラジオのトーク番組に電話したり世論調査でケリーに有利な答えをするよう呼びかけた。
 両陣営ともネットを使って25ドルとか50ドルといった少額の寄付を募り、有権者の個人情報を集めて選挙戦略を練った点は同じだったが、ネット広告戦略ははっきりと異なっていた。ブッシュは、中流階級の女性と接戦の州の有権者に絞って広告を打った。ブッシュが広告を出したサイトのリストの上位には、デッドヒートが続いた州のメディア・サイトとともに「家族」とか「親」「グルメ」などといった言葉が入ったサイト名が並んでいる。
 一方、ケリーのネット広告は寄付を募るのがおもな目的で、78パーセントまでがそうした広告だったという。サンフランシスコ・クロニクル紙のサイトを筆頭に、ニューズウィーク、ヴィレッジ・ボイス、ロイターなど大都市のマスメディア・サイトが出広の上位に並んでいる。ケリーの支持者は東西の沿岸地域の大都市住民が多いから、こうしたサイトに広告を出して寄付を集めようとしたわけだ。
 
●品のない大統領 

 広告内容もまた違っていた。ブッシュが出した広告は対立候補をたたくものが多く、先の調査機関が調べたなかでは、ブッシュ夫人が教育政策を述べたビデオへのリンクだけがポジティヴな広告で、ほかはケリーをたたくネガティヴ広告だったという。
 ブッシュのサイトを見ても、トップページの目立つところに「ジョン・ケリーの不当なやり方」というタイトルのリンクがおかれていた。クリックすると「ケリー・メディア・センター」なるページが出てきて、その日のケリーの言動をひとつひとつたたいた(ケリーのサイトにも反論ページはできていたが、「緊急応答センター」というもっとおとなしい名前になっていた)。テレビ討論でもブッシュの攻撃的姿勢は、ケリーの比ではなかった。大統領なんだからもう少し風格があってもいいんじゃないかと思ったほどだ。
 CNNのサイトの大統領選挙特集ページにも広告コーナーがあり、それを見ると、勝負がついたと見られた州には広告費用がほとんど投じられなくなったところがかなりあった。アメリカにいても、両陣営の新しいテレビ広告を目にしない人たちもいるわけだ。しかし、『アメリカ動画博物館』というサイトにアクセスすると、日本にいるわれわれも両陣営の数多くのテレビ広告を見ることができる。そして、それを見てもブッシュ陣営の「えげつなさ」がわかる。たとえばこんな具合のテレビ広告になっている。
 冒頭でブッシュが出てきて「私はジョージ・ブッシュだ。このメッセージを私は承認している」と言ったあと、無声映画のせかせかと人やクルマが動き回る場面に変わり、次のようなナレーションが流れる。「いかれた考えを持った人々がいる。たとえば、ガソリンの税金を上げて運転させないようにしようとしている。それがジョン・ケリーである。彼は1ガロンにつき50セントの増税を支持した。もし法律化されたら、平均的な家族は年に657ドルよけいに支払わなければならなくなる」。
 こんな調子の広告が多く、続けて見るとうんざりしてくる。しかし、ブッシュ陣営のこうした広告は明確な戦略にもとづいていたらしい。このサイトの解説によると、有権者がイメージを固めるまえに、ケリーは増税と国防予算の削減に熱心で、意見をころころ変えるリベラルだと思わせてしまう作戦だったそうだ。結果的に、この戦略はあたったことになる。現職の大統領がこうしたネガティヴ・キャンペーンをやるのは珍しいが、それでも前例はあり、ベトナム戦争で泥沼に陥ったジョンソン大統領が、有権者の注意をそらそうとしてやったと説明されている。イラクで泥沼状態になっているブッシュの陣営が、同じ立場だった大統領の戦い方を参考にしたというのはいかにもありそうなことだ。
 ケリーのほうは、有権者に安心感を持たれるためにネガティヴ広告を避けてきたらしい。しかし、ブッシュ陣営の激しい非難広告をうけ、選挙戦最後になって攻撃的な姿勢を強めたという。ただ、ピュー・リサーチ・センターの調査でも指摘されていたし実際にテレビ広告を見てもわかるが、批判広告というよりも比較広告で、自分だったらこうすると対案を提示しているものも多い。音楽もソフトなものを使い、攻撃性を弱めていたりする。
 こうした広告を通してみても、現職の大統領であるブッシュの戦いぶりの異常さはわかる。この人物がまだあと4年「世界のリーダー」として君臨するとは。またまたたいへんな4年になるかもしれない。

関連サイト
『アメリカ動画博物館』では、トルーマンが再選された52年の大統領選挙から今回までのテレビ広告を見ることができる。学校現場で使われることを目的にして集められたようだ。作成した各陣営や支援グループが寄贈している。「アートスケープ」というサイトでこの博物館の概要を紹介した。
CNNのサイトの大統領選挙のコーナーでは、二人の候補者と政党、支援グループが毎週どれぐらいの広告費をかけたか州ごとにわかるようになっている。終盤になると、勝敗を分けると見られたフロリダ州やオハイオ州などに絞って多額の資金が投じられたことが見てとれる。両州の人たちはうんざりするぐらいテレビ広告を見せられたのだろう。
●アメリカの世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」のネット部門「ピュー・インターネット・アンド・アメリカン・ライフ・プロジェクト」がまとめた大統領選挙におけるネット広告についての調査報告書。このリサーチ・センターの調査はしばしば紹介されるが、石油会社を設立して財をなしたピュー一族の寄付によって運営されている調査機関だそうだ。
●ウィスコンシン大学も、広告分析のプロジェクトを立ち上げ、今年の大統領選挙について調査している。さらに、広告専門ウェブログ「daisyads.com」などの情報も役に立つ。
(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.361)

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2004.11.11

ブッシュのサイトのアクセス拒否一部解除

 ブッシュのサイトへの海外からのアクセス拒否は一部解除されたようです。
 アムステルダムとロンドンからはアクセスできるようになったとNetcraftは言っています。
Netcraft: GeorgeWBush.com Reopens to Rest of World

 ただ、シドニーからはアクセスできないそうです。
 日本もあいかわらずできません。
 結局、10月末にアクセス制限が厳しくなって、海外からは(カナダを除いて)アクセスできなくなり、いままたそれ以前の状態に戻って、太平洋のこちら側からのアクセス制限をやっている、という状態かと思います。

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2004.11.05

唖然とさせられるブッシュ・サイトのアクセス制限

「外国の人々がどう思おうとかまわない」
そう言うブッシュは、海外から自陣営のサイトへの
アクセスについて不可解な行動を取っている

●謎のアクセス拒否

 アメリカ大統領選挙の投票日がやってきた。「ブッシュのサイトでも覗いてみようかな」とやってみた人たちのうちの多くはおそらく失望することになるだろう。
 なぜかって? アクセスできないからだ。げんにこの原稿を書いている私も、アメリカのプロキシ・サーバーを経由するという「裏技」を使わないかぎりアクセスできないでいる。

 ほかのサイトならいざ知らず、アメリカの現職大統領の公式サイトだ。いくらアクセスが多いといっても、資金潤沢なブッシュ陣営が十分な回線を確保できないとは思えない。同じくアクセスが殺到しているはずの対立候補のジョン・ケリーのサイトには何の問題もなく、いつでもつながる。これが当たり前だろう。大統領選挙が近づいている大事なこの時期に長期間アクセスできないなんてぽかをやったら、技術陣はたちまち首が吹っ飛ぶはずだ。
 しかし、どうもそれほど単純な話ではないようだ。ブッシュと共和党のサイトは10月19日に6時間ほどアクセスできなくなっていたとアメリカのメディアは報じている。さしあたり原因不明の事故とされ、ハッカーの仕業とは断定できないという。その後、回復したとアメリカのメディア・サイトは伝えているが、実際のところアクセスはできない。ネットで調べてみると、「ブッシュのサイトにつながらない」と文句を言っている人たちがこの「事故」の前からいることがわかった。どうやらアメリカ国外にいる人間はもっと前からアクセスできていないようだ。あちこちのウェブログ情報によれば、ヨーロッパからはアクセスできているようだが、オーストラリアや日本、中国、フィリピン、マレーシアではつながらないと言っている人たちがいる。ただし、みんながみんなつながらないわけではない。ほぼ同時刻に同じプロバイダーからアクセスしても、アクセスできる人とできない人がいるようだ。そしてブッシュのサイトにアクセスできない人は、共和党のサイトにもアクセスできていない。
 まさか反ブッシュ的な傾向の人をはじいている? 一瞬そう思わないでもなかったが、いくらなんでもそんな手間のかかることをやりはしないだろう。そんことをしても何のメリットもないはずだ。また、海外の人に見せたくない内容がサイトにあるようにも見えない。
 アメリカ国内からはアクセスできているとはいえ、文字通り世界が注目している大統領選挙戦を戦う当人のサイトにアクセスできないのだから、もっと騒ぎになっていてもいいはずだが、この件を問題にしている人はそれほど多くはないようだ。不思議ではあるが、その理由は何となく思いあたる。
 じつは私も以前から「ブッシュのサイトにはアクセスしにくいな」と思っていた。けれども、アクセスが殺到していて運悪くアクセスできないのだろうぐらいにしか考えなかった。「インターネットなんてそんなもの、アクセスできないときもあるさ」。たいていの人はそう思ったのではないか。インターネットの技術を向上させようと日々努力している人々には申し訳ないが、インターネットの現状はかなり見くびられていて、アクセスできなくても不思議はないとすぐに思ってしまう。国ごとのアクセス制限などということが現職大統領のサイトでよもや行われてるとは想像したりはしない。
 しかし、考えてみれば、潤沢な資金や技術力があってアクセスできないなんて事態は避けたいはずのサイトで長期にわたってそうしたことが起こるのは、やはりかなり不思議だ。たまたまアクセスできないのではなく、意図的にアクセスできないようにしているとしか考えられない。では何のために?

●ブッシュの過剰防衛

 ウェブログなどでのいちばんもっともらしい推測は、海外のハッカーたちがブッシュや共和党のサイトにアクセスを殺到させて接続不能にしようとしているので、先手を打って海外からのアクセスを制限している、というものだ(ブッシュ得意の先制攻撃というわけか)。
 実際、夏の共和党大会のときには、ハッカーがアクセスを殺到させる「ソフトを配布して共和党のサイトをダウンさせようとしている」などと報じられたことがあった。さらに9月20日付けのインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は、ハッカー対策として海外のいくつかのプロバイダー(ヤフーBBの名前もあがっている)から国防省の不在者投票サポート・サイトへアクセスできないようにしていると報じている。このサイトの運営者は、問い合わせに答えたメールのなかでフランスのプロバイダーの名前をあげ、ハッカー対策として政府のサイトへのアクセスを拒否していることを認めたという。
 同紙は「それは壊れたダムにバンソコを張るようなもので、すぐれたハッカーなら容易にシステムに侵入する方法を見つけられる。必要なのは、アクセスできないようにすることではなくて、サイトを守ることだ」という声を紹介しているが、もっともな話だ。このサイトが対象にしている在外アメリカ人も含めて多くの利用者がいる海外の大手プロバイダー経由のアクセスをすべて拒否してしまうというのはそうとうに荒っぽいやり方だ。この記事を紹介しているあるサイトは、ブッシュ政権に批判的な海外のメディア報道を浴びていて反ブッシュ票を投ずる可能性が高い在外アメリカ人の投票を妨害しているんじゃないかとうがった見方を紹介している。
 それはともかく、たしかに意味があるのかどうかわからない不可解なやり方だ。不在者投票サポートサイトにしてもブッシュのサイトにしても、投票権のある海外のアメリカ人のアクセスまで妨げてしまうわけで、それでもかまわないというのは常軌を逸した発想だ。

●海外軽視の発想の表れ?

 この原稿を書き始めるまですっかり忘れていたが、そもそもブッシュ陣営がこうしたアクセス制限をするのは今回が初めてではなかった。4年前の前回の大統領選挙のときにも、ブッシュのサイトはアクセスしにくかった。いうまでもなく、そのときはまだ9・11のテロもイラク戦争も起きてはいず、ブッシュは対立候補のゴアと同じく大統領候補の一人にすぎなかったわけで、ことさら海外のハッカーにねらわれる理由があったとは思えない。ブッシュのサイトがゴア以上にハッカー対策をする必要はなかったのだとすれば、いったいなぜアクセス制限をしたのか。
 さしあたり私が思いつくことはひとつだ。アクセス制限の真の理由はハッカー対策などではないのではないか。アクセスが殺到するときに万一にも国内からアクセスできない事態にならないために海外からのアクセスを制限しているのではないか。
 言うまでもないことだけど、インターネットというのはグローバルなネットワークである。アクセスしてくる人の所在地によって差別し、自国内の居住者を優先するなどというのは、インターネットの理念に反するふるまいだ。少なくとも「世界のリーダー」を自認する国の大統領がやることではないだろう。ほかの国の人々の思惑を軽視しているブッシュらしいやり方ともいえるが、もしこの推測どおりだとしたら、あざといまでに功利的で、妄想的なまでに自国中心主義的な発想に取り憑かれているとしか言いようがない。ブッシュがあと4年大統領で居続けるかどうかまもなく結果が出るわけだが、何ともとんでもない人物がアメリカ大統領になっていたことになる。

関連サイト
ジョージ・ブッシュのサイト。海外からのアクセスは制限されているようで、日本からはアクセスできない。ただし、アメリカのプロキシを経由すればあっさりアクセスできる。そのためプロキシの設定などは、『CyberSyndrome』の「プロキシサーバ入門」がわかりやすい。サイトが表示されることもあるのは、ブッシュのサイトをキャッシュしているネット上のどこかのサーバーにたまたまアクセスできたからではないか。
●「ヤフーBBなど海外のプロバイダーからアメリカ国防総省の管轄下のサイトへのアクセスが拒否されている」と報じた9月20日の「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」紙
●ベンチャー・キャピタル「ネオテニー」の社長・伊藤穣一氏の英文ウェブログで、ブッシュのサイトなどにアクセスできないことが8月末に話題になっていた。このほか6月に「Blog From Another Dimension」というウェブログでもこの件が取り上げられている。いずれのウェブログにも各国のアクセス状況を知らせるメッセージが寄せられている。
●イギリスのネット企業のサイトが、ブッシュのサイトは他国からのアクセス拒否を認めたと書いている。この前々日の記事がメディアが報道し始めたきっかけになったようだ。ここでは、分散的なコンテンツ配信をAkamaiに変えたことがきっかけになったように書かれているが、上のウェブログや私の体験から見ても、もっと前からアクセス制限が行なわれていたことは確かだと思う。
(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.360)

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2004.10.29

スクープのはずたっだのだけど──あこぎなブッシュ・サイト

 ブッシュのサイトが海外からのアクセスを拒否しているという話、来週月曜日発売の週刊アスキーに書いた。海外も含めてどこのメディアもとりあげていないようだったので、 世界的スクープになるかと思ったんだけど(笑)、先に発表されてしまった。

 日本語だと、「ブッシュ陣営はネット音痴--選挙用サイトで海外からのアクセスを遮断」などで書かれているけど、もとは「Bush website blocked outside US」かな。
 これらの記事には書かれていないけど、いまのところ日本からももちろんブッシュのサイトへはアクセスできません。
 ただ、明らかになってしまった以上、対応は変わるかもしれませんね。
 また、これらの記事には書かれていませんが、ブッシュのサイトのこうしたアクセス制限はいま始まったことではなくて、そうとう前からと私は見ています。
 詳しくは、来週月曜日発売の週刊アスキー「仮想報道」を見てください。
 このサイトへの掲載は、編集部との約束で、来週金曜日になります。

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2004.02.15

大統領候補は出会い系サイトが好き

「集団出会い系サイト」がこのところホットに
なっている。アメリカの大統領選挙でも、各陣営とも
こうしたサイトを積極的に利用している。

●大統領候補たちが好む「出会い系サイト」

 アメリカの大統領選挙の民主党候補はいよいよ絞られてきたが、今回の選挙運動では各陣営のサイトにウェブログができ、「ウェブログ選挙」になっているという話を前回書いた。ウェブログとともに各陣営が使っているのは一種の出会い系サイトのサービスだ。ネットでの選挙運動を早くから重視してきたディーン前バーモント州知事はもちろん、目下トップを走っているジョン・ケリー上院議員、若手のエドワーズ上院議員など各有力候補が軒並み利用し、トップページの目立つところにリンクをおいている。
 サイトの名前は『ミートアップ』。そのものズバリ「出会う」という意味だ。ただし、この「出会い系サイト」は、日本で流行っているように、男と女が出会うためのサイトではない。趣味や主張を同じくする人々が出会うためのサイトだ。
 サイトにはさまざまなトピックスが並び、それぞれのページにアクセスすると、「毎月これこれの日に何々の集まりをします」などと書かれている。関心のあるトピックスの集会を選び、メールアドレスや自分がいる街を登録すれば、次回の集会をメールで教えてくれる。具体的にどこで会うかは、3週間前に3つのオプションが示され、1週間前までの参加者の投票で希望の多かった場所に決まる。登録者に参加の確認が行なわれ、5人を超えると集まりが持たれ、達しないとキャンセルになる。
 もちろん大統領選挙の集会だけをやっているわけではなくて、ハリー・ポッター、SF、アニメ、ゲーム、チワワなどのペットまで、一般からの提案をまじえて4000近いトピックスが設定され、アナウンスされている。現在100万人がこのサイトに登録し、世界51カ国612都市で集会が開かれているという。02年の6月にサイトを立ち上げたというから1年半でここまでになったわけで、かなりのスピードで発展したことになる。同じ趣味の人が自分の住んでいる街にいないかな、なんて感じで、このサイトで情報を探しミーティングに参加する人が世界中にいるわけだ。

●選挙結果が予測できるサイト

 多様なトピックスの集会が企画されているものの、大統領選挙が熱っぽくなっていることもあって、目下、25パーセントほどが政治関係の集会なのだそうだ。サイトの運営者たちは「たかだか25パーセント」というけれど、日本で同様のサイトを作ったら、政治関係の集会がこんなに高率になることはとても考えられない。「アメリカ人が政治好き」というよりも、アメリカの大統領選挙はやはり一種の「お祭り騒ぎ」なのだろう。
 各陣営は、『ミートアップ』へのリンクをトップページの目立つところにおいて重視しているものの、それぞれの集会への登録者はそれほど多いわけではない。ディーンの集会への登録がもっとも多いが、それでも188600人。次が、リタイアを表明したクラーク元NATO欧州連合軍最高司令官で6万6700人。3位が、民主党候補レースで圧勝しているケリー上院議員で、47600人だ。この人数は集会の参加者数ではなくて、サイトでの登録者数だ。選挙に勝つために獲得しなければならない票数に比べれば微々たるものだが、彼らはこうしたサイトがなければ埋もれていた草の根の支持者だ。自発的に集まり、これをきっかけに各地の選挙運動を支える積極的なサポーターになってくれる可能性もある。ということで、各陣営はこのサイトを重視しているようだ。
 集会の登録者数ではケリーは3位だが、最初のアイオワ州で勝利したあとは、一日千人の割合で増えたという。ジョージ・ワシントン大学にはインターネットと政治についての研究所があるそうで参加者の動向を調べていて、『ミートアップ』を観察すると選挙の予測ができると言っている。

●“集団出会い系サイト”の利用の仕方

 東京での集会情報もいくつも登録されている。東京で登録している人は1900人ほどいるようで、ディーンの集会も、全世界同様毎月第1水曜日に開かれている。物見高い人は、「私、アメリカ国民じゃないし、ディーンのことよく知らないけど、おもしろそうだから来てみました」なんて感じで参加してみてはどうだろう。ディーンはリベラル派だから案外歓迎されるかもしれない。
『ミートアップ』は英語がベースだけれど、「日本語」がテーマの集会もある。「日本語を学び、使い、教えることを希望する人との出会い」が目的の集まりだ。「英語が苦手だけど外国人と友だちになりたいな」なんて人にはいいかもしれない。「日本語集会」はけっこう人気があるようで、言語のセクションでは、スペイン語、フランス語に次いで登録者が多い。東京では、外神田のリナックス・カフェなどで集会が持たれている。
 一つのトピックスは、全世界で毎月同じ日に開かれるが、いくつかのトピックスに登録して、世界中で同好の人間と出会いながら転々と旅行して回る、などというのもおもしろいかもしれない。ほんとにそんなことをしている人はいるようで、最初に登録した街を、今月は「ここ」といった感じで変更できるようになっている。それぞれのトピックスのページには、これまでの集会の写真が載り、概要が報告され、楽しげな雰囲気が感じられる。
 こうした集会に危険がまったくないかと言えば、もちろんそんなことはないだろう。政治や宗教の集まりに参加するときにはそれ相応の「覚悟」はしていくだろうが、そうでない集会についてもヨコシマな考えで参加する人がいないとはかぎらない。しかし、「出会い系サイト」のように2人で会うわけではないから、その分「危険な感じ」がしないのも確かだ。集会のあとには「感想を教えてくれ」とメールが送られるようだから、ヘンな集会をいつまでも続けるのはむずかしいだろう。
 ‥‥などと細かく見ていくと、やはりよくできている。同じ趣味を持った見ず知らずの人を自分で集めようとしたときの手間ヒマを考えてみれば、こうしたサイトのありがたみがよくわかる。自分のサイトで「何月何日に集会をやります」といってもそのアナウンス効果はしれている。『ミートアップ』のようなサイトにそこそこのアクセスがあるという評判が高まればますます多くの人が集まるようになり、トピックスも増えていく。

●2ちゃんねるも「集団出会い系サイト」?

 こうした集会はじつは日本でも『2ちゃんねる』などの掲示板を使って開かれている。「マトリクス」のファンが、『2ちゃんねる』で示し合わせて、映画の登場人物の格好をして渋谷や秋葉原などに集まり、走り回ったりもしたらしい。去年、本誌編集部の人に教えてもらって、その写真が載っているページにアクセスしてみたが、でぶっちょの人まで含めて、登場人物の「スミス」と同じ黒のサングラスに黒のスーツで勢揃いしていて、不気味やらおかしいやら、だった。
 この「マトリクス集会」はけっこう流行って何回もやられているらしいが、『2ちゃんねる』はそもそも集会のためのサイトではないし、なかなかこうはいかないだろう。
「集団出会い系サイト」はじつはソーシャル・ネットワーキング・サイトというもっともらしい名前が付いて、ネット業界などで熱い視線が注がれ始めている。日本でもこうしたサイトは生まれており、しだいに身近なものになってきている。いまもっともホットな「集団出会い系サイト」の世界を次回ももう少しのぞいてみよう(「ソーシャルネットワーキング」のカテゴリ参照)。

関連サイト
●”集団出会い系サイト”『ミートアップ』。このサイトはどうやって収入を得ているんだ、というのは誰しも抱く疑問だ。広告以外にも、大統領候補の陣営などから1000ドルから5000ドルぐらいの資金をもらって集会のお知らせメールに候補者のアピールを載せたり、会場となる飲食店からの協賛金を得たり、登録者に有料のプレミア・サービスを提供するといったことをしている。日本で『ミートアップ』の集会が開かれているのは東京だけだ。インターネット人口や英語を話す人がどれぐらいいるかで地域が選ばれているという。
●各候補者のサイトの目立つところに『ミートアップ』へのリンクがおかれている。これはディーン前バーモント州知事のサイト。写真の右下にリンク・バナーがある。
●『2ちゃんねる』で示し合わせて開かれる映画「マトリクス」のオフ会サイトのひとつ『マトリクス・レボリューションズ・イン・トウキョウ』。大晦日にも東京や関西などでオフ会があったらしい。
「マトリクス」オフ会『2ちゃんねる』」

(週刊アスキー「仮想報道 vol.326」)

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2004.02.09

大統領候補はウェブログが好き

アメリカの大統領選挙は早くもヒートアップ。
各候補者はウェブログを駆使し、一喜一憂しつつ、
その活動をリアルタイムで伝えている。


●メディア・ボクシング

 CNNでアメリカの大統領選挙を見ていたら、キャスターが候補者たちにこんなふうに質問をぶつけていた。
「火星人にいま起こっていることを説明するとしたら、どう言いますか」
「ちっとも楽しそうに見えませんけど‥‥」
「あなたはもうずいぶん長い間そこに立ってメディアのインタヴューを受け続けてるけど、これがまともな民主主義国の選挙だと思いますか」
「あなたは最後まで戦いますか。それとも様子をみて撤退するつもりですか」
“メディア・ボクシング”という言葉が思わず頭に浮かんだ。候補者をわざと苛立たせるかのように挑発的な言葉のジョブを飛ばす。候補者はそれを右に左によけながら間髪を入れず答えていく。その様子は、まさにボクシング。しかし、彼らはそろって笑顔を絶やさず「とっても楽しいですよ」などと答えている。テレビを見ているほうは、「このウソつきが。こんなに好き放題に訊かれて楽しいはずはないだろうが」と思うが、候補者がげんなりした顔をすれば「大統領になる前からそんなではタフさがたりない」なんてことになる。まだまだ元気いっぱいで楽しくやっていますよ、という顔をしないわけにはいかないのだろう。
「まったく何を好きこのんで」という気もしてくるが、ターゲットはなにしろアメリカの大統領。言ってみれば地上最強の権力者なのだから、それぐらいの試練は仕方のないことだろう。‥‥などとテレビを見ているうちに、それまで全米的にはほとんど名前を知られていなかった候補者がお茶の間にすっかり浸透し、現職の大統領と戦うまでの知名度を獲得する。メディア・ボクシングもいっけん不毛のようだが、それはそれで理にかなっている。
 海の向こうのわれわれも、4年にいっぺん行なわれる選挙とはいえ、今年はとりわけそのゆくえが気にかかる。テロにあったアメリカはこの4年でもののみごとに保守化した。自由とか民主主義といったアメリカが金科玉条にしてきたことよりも“まず安全”ということになって、その結果しなくてもよかったかもしれない戦争に他国を引きずり込んで突入し、泥沼状態になっている。アメリカが“テロとの世界戦争”を始めていると考えている以上、どういう大統領になるかによって地球上の住人すべてが影響を受ける。となれば、アメリカ国民でなくてもその進展は気にかかる。

●ウェブログ選挙

 ネットに見る今回のアメリカの大統領選挙は、ひと言で言えば「ウェブログ選挙」だ。どの候補者も公式サイトとともにウェブログを立ち上げ、支持者たちがカンカンガクガクやっている。次々と書き込みがあり、それを見ていると陣営の動向がよくわかり、テレビとはまた別のリアルさがある。全米を転戦しながら行われる候補者のスピーチや、各メディアでの発言なども丹念に報告されている。
 とくにディーン前バーモント州知事は、イラク戦争に反対し、またリベラルな主張をして若者の人気を集め、ネット選挙を繰り広げてきた。ついこのあいだまでは民主党の最有力候補だったが、リベラルすぎて大統領選に勝てないと見られ、選挙戦撤退寸前に追いこまれている。とりわけまずかったのは、前回もちょっと書いたアイオワ州の党員集会後の絶叫演説だ。
「(アイオワで敗北して)だから何だって言うんだ? (次の)ニューハンプシャーに行くだけじゃない。サウス・カロライナにもオクラホマにもアリゾナにもノース・ダコタにもニュー・メキシコにも行くぞ! そしてワシントンに行って、ホワイトハウスを取り返す! われわれはあきらめないぞ! イエーイ!」
 公式ウェブログではさすがに「イエーイ!」はカットされているが、採録されている。この絶叫演説はテレビで何度も流され、こんなに「取り乱すようでは核のボタンを持つ大統領の資格はない」と不評を買い、さらに失速してしまった。このまま敗退すれば、この絶叫演説がディーンの敗北を決定したものとして今年の大統領選挙の歴史に残りそうだ。
 たしかにテレビでこのシーンを見るとディーンは興奮状態だが、テレビで繰り返し映された部分に続いて、「これは世代交代の選挙で、若い世代にたいまつを渡すのだ」と言っている。ディーンは明らかに若者を意識した選挙をしていて、若者のほうも選挙区にかけつけ、零下の寒さのなかでも家の扉をたたいてまわり、選挙区に行けない者も、「今日、党員集会だから行ってよね」と電話をかけまくっている。そんな様子もウェブログから伝わってくる。
 ディーン陣営のサイトは、公式サイトや公式ウェブログ以外にも「ディーン世代」と名づけたサイトができている。こちらは1年前にワシントンの大学1年生らが作った学生組織のサイトで、公式ウェブログに負けず次々と書きこまれ、彼らの動きが刻々と報告されている。
 
●クロスカントリー・ケリー

 ディーン陣営とは打って変わって意気揚々としているのは、ほぼ連戦連勝の快進撃を続けているジョン・ケリー上院議員のサイトである。もともとは有力候補だったのだが、「ディーン旋風」が巻き起こってすっかり影が薄くなっていた。それがトップに返り咲いたばかりか、いま大統領選挙が行われればブッシュに勝つという世論調査結果まで出たのだから、元気が出るのも当然だ。民主党員はともかくブッシュに勝てる候補者を探していたわけだから、この調査結果は、ケリーにはまたとない追い風だ。長丁場のアメリカの大統領選挙は波乱に次ぐ波乱が起きる。だから、いずれのメディアや評論家の予想も慎重だ。しかし、「最後まで戦う」と叫んでいたディーンも、17日のウィスコンシン州の予備選でトップをとれなければ選挙戦を断念すると支援者にメールを送ったそうだ。ケリーがこのまま民主党大統領候補の座を仕留める可能性は高くなってきた。トップ・ページの写真のケリーも何だか颯爽としてきて、早くも大統領の風格が漂っている。
 サイトでは、選挙戦をバス・ツアーに見立て「クロスカントリー・ケリー」というタイトルで募金をつのっている。選挙が行なわれる州が停留所で、「キャンペーンに燃料を入れてくれ」と言っている。
 トップページの募金の下には、旅行カバンの絵が描かれていて「ケリー・トラベラーに加わろう」と書かれている。何のことかとクリックしてみると、応援ボランティア募集のページだった。旅行サイトのような申し込みフォーマットができていて、いつどこの応援に行くか、到着はいつで出発はいつか、宿は自分で探すか提供してほしいのかがクリック一つで選択できるようになっている。このようにサイトでボランティア募集ができるようになって候補者たちは大助かりだろうが、応募するほうも、とくに学生などは、宿も提供してくれるわけだし、旅行がてら知らない土地に行ってみようかという気になるのではないか。アメリカの大統領選挙は「お祭り騒ぎ」でもあるが、いかにも気軽に手伝えそうな雰囲気だ。
 候補者のサイトにはそのほか、「支援サイトの作り方を教えます」とか「これこれの州は郵便で早めに投票できるのでよろしく」みたいなことが書かれ、懇切丁寧なガイド・ページがついていたりする。
 ネットでの選挙運動も年を追えば追うほど高度化している。潤沢な資金が動き、有能な人材が集まるアメリカの大統領選挙はネット選挙のパイオニア的な役割を果たしている。今回の大統領選挙では、さらにあるサイトのサービスが大流行だ。それは、ひと言で言えば一種の「出会い系サイト」。なるほどこうしたサービスを利用するのがアメリカの選挙では当たり前になっているのかと感心するが、それについてはまた次回。

関連サイト
●民主党の大統領候補指名を争うディーン前バーモント州知事のサイト「Dean for America」。米アイオワ州の民主党党員集会で敗れ、絶叫演説をしたディーン前バーモント州知事。演説の仕方が少々コワすぎた。この演説がたたって、はやリタイアか? 支持者のあいだでも動揺が広がった。昨年末までに4000万ドル(42億円)を集めたが、最初の2州のテレビ広告で資金を使い果たしてしまい、500万ドルしか残っていないという。緒戦で勝って逃げ切るつもりだったそうで「バクチがうまくいかなかった」と言っている。それにしても、すさまじい金の使い方だ。
●ディーン支持者の青年組織のウェブログ「ジェネレーション・ディーン」。勝っても負けても動向がリアルに伝わってくる。予想外の苦戦で、ウェブログでも大慌てだ。17日のウィスコンシンで勝てなければあとがないと、緊迫してきた。
●民主党候補の地位を獲得するまであと一歩、勝利が間近くなって活気づくジョン・ケリー上院議員の公式サイト。1月27日に民主党の予備選が始まってからだけで185万ドル(1億9400万円)が集まったのだそうだ。ほかの候補同様、ケリーのサイトにもウェブログがある。

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2004.02.05

米アマゾン・コムの新商品は「大統領候補」

アメリカの選挙で、ネットを使って寄付を集めるのは
すっかり当たり前になってきたが、
米アマゾンは、それを新しい「商品」にしてしまった

●「大統領、買えます」

「アマゾン・コムって本を売っているところ」と思っているあなたは、もはやかなり遅れている。日本のアマゾンもオープン翌年の01年にはCDやDVD、ゲームソフトなどを売り始め、昨年7月には家電、11月には台所用品や健康グッズまで売り出した。米アマゾンのサイトに行けばさらに、レストランのメニューを見たり、ホテルや飛行機のチケットの予約・購入までできて、売ってないものはほとんどないといってもいい。とはいえ、米アマゾンのサイトに新しく並んだ「商品」は意表を突いている。「品物」は何と、「大統領候補」。サイトにアクセスすると、ページ・トップに「大統領候補」と「商品名」が出て、次のようなコピーが踊っている。「5ドルから200ドルまで、ワンクリックできわめて簡単に寄付できます」。米アマゾン・コムは、いまや大統領候補へ寄付するサービスまで提供し始めた。アマゾンは、ハリー・ポッターの新刊を買うのと同様の感覚で寄付できると言っている。
「寄付」のサービスではあるが、アマゾンにとってはこれは社会貢献などではなくて、れっきとしたビジネスだ。通常の手数料をとっている。アマゾンによれば、選挙運動の寄付を集めるサービスを無料でやってはいけない法律があるのだそうだ。
 それでもアマゾンは気がとがめるのか、FAQで法律の説明に続けて、「『アメリカに投票する子どもたち』というNPOにいずれ全額寄付するつもりだ」とわざわざ断わっている。手数料を自分たちのフトコロに入れてしまうのはやましいらしい。でもまあ、人々が便利になるサービスを提供することでお金を得て、悪いわけはない。アマゾンは、お金よりも、話題になってアクセスが増えれば十分なのだろう。
 各選挙事務所は誰から寄付をもらったか選挙管理委員会に届ける必要があり、候補者のサイトで寄付するさいには、名前、住所、職業、会社名、クレジット・カード番号などを入力しなければならない。アマゾンでアカウントを作っていれば面倒な入力をせずに何人にでも寄付できる。また、アマゾンは、各サイトから経歴や政策などの情報を集めて載せているので、見比べて「好みの候補」を容易に選ぶこともできる。情報を一個所に集めることで集客力のあるポータル・サービスになるというのはネット・ビジネスの基本的なセオリーだ。
 アマゾンはメディアのインタヴューなどでこのサービスについてこう言っている。
「大統領の選挙戦が熱っぽくなってきており、自分たちには3700万の顧客アカウントがある。アマゾンはすでにあらゆるものを購入したりサポートしている。このサービスもわれわれがすでにやっていることの延長上に自然に生まれたものだ」。つまり驚くほどのことではないと言いたいわけだ。しかし、このビジネスは、商品の売買の結果として決済機能を使うのではなく、決済機能そのもので利益をあげるものだ。まだ実験段階なのでいつでもやめる可能性があるとアマゾンは言うが、これはやはりアマゾンの新しい時代を画するサービスではないか。クレジット・カードを登録するという形で顧客の口座を確保しているアマゾンは、その信用力を使って、銀行や郵便局のような決済機関になりうる。このサービスによってアマゾンはそうした可能性を誇示したことになる。

●アマゾンvsブッシュ

 アマゾンのこのサービスを使って寄付を受けとれるのは、選挙事務所を持ち月5000ドル以上の収入があったり使ったりしている候補者すべてだそうだが、いまのところまだ寄付できない候補者もいる。ブッシュ大統領などもその一人だ。アマゾンがブッシュを嫌いだから‥‥というわけではもちろんない。当然ながら、アマゾンは勝手に寄付を集めるわけにはいかず、当の候補者の承認がいる。アマゾンはすべての候補者に熱心に参加を呼びかけているというが、サービス開始から10日経ついまも、ブッシュ大統領などからは許可を得られない。
 アマゾンが寄付を集めてくれるというのだから、候補者にとってはじつにありがたいサービスに思える。ネットをもっとも積極的に使ってきたディーン前バーモント州知事は昨年末までに40億円を集め、その半分はネットでの寄付だと言うし、昨年9月に遅れて立候補表明したクラーク元NATO欧州連合軍最高司令官も、運動開始直後の2週間で3億7千万円を集め、そのうち3分の2がネットでの寄付だという。ネットは絶大な集金能力を発揮している。民主党の有力候補は軒並みアマゾンの申し出を承諾し、寄付を集めてもらっている。それなのに、どうしてブッシュはオーケーを出さないのか。

●神経を尖らせる候補者

 ブッシュはアマゾンを信用していないのか。まさかアマゾンを知らないわけではあるまい。あるいは、「イラクに大量破壊兵器はない」と調査団の団長が証言し始め、ブッシュはその対応に追われ、アマゾンの相手をしているヒマがないのかしら?‥‥などとあれこれ考えながら、しばらくこのサイトを眺めていたら、ブッシュ陣営がすんなりオーケーしないわけが何となくわかってきた。
 というのは、このサービスで、候補者はありがたがってばかりもいられないのだ。それぞれの候補者に寄付をした人がこれまでに何人いて、一人平均いくら寄付し、総額ではいくらになったかというデータが表示される。各候補者のページにプロフィールや政策とともに最新の数字が載る。物見高いメディアや有権者が、政策などに目もくれず(?)、わかりやすい数字にまず注目するのは明らかだ。実際、アマゾンのこの「新商品」を伝えたメディア報道は、かならずと言っていいほど、どの候補者にいくら寄付があったかをあわせて伝えている。
 ブッシュはパーティーなどですでに多額の寄付を集め、潤沢な資金を持っている。アマゾンのこのサービスに参加して、もし民主党候補よりもはるかに少ない寄付しか集まらなかったら、「ブッシュは草の根市民層に人気がない」とメディアがこぞって書きたて、選挙の勝敗にも響く可能性がある。ネットにアクセスしているのは民主党支持者が多そうだから、ブッシュを支える選挙のプロたちが、「このサービスに参加するのはリスクが大きい」と判断したとしても不思議はない。
 アマゾンは、特定の候補者に肩入れしないと言っているが、1月23日にサービスを開始したことで、結果的にジョン・ケリー上院議員の支援をしてしまったようだ。サービス開始直前にアイオワ州で民主党最初の党員集会が開かれ、おおかたの予想を覆しケリーが勝った。ケリーがまさに上り坂になったときに始まったアマゾンのこの「寄付レース」でも勝ち馬に寄付が集まり、ケリーはダントツのトップになった。それをまたメディアが伝えている。この時期のサービス開始はケリー上院議員に追い風だ。
 時々刻々更新される寄付の額は、人気のバロメーターとして見られ、それを伝えるメディア報道がその数字の持つ意味をさらに増幅させる。人気がなく当選しそうもない候補者を支えても仕方がないから、「これはダメだな」と思ったら、移り気な有権者は、ほかの候補者に支持を変える可能性がある。便利なアマゾンのサービスも、候補者にとっては両刃の剣だ。つい最近も、負けた候補者が支援者を鼓舞するために絶叫演説をし、「そんなに取り乱すようでは大統領の資格はない」ということで支持率が急落するということがあったが、何がどう作用するかわからない選挙戦では、こうしたサービスひとつにも候補者たちは神経を尖らせていることだろう。

関連サイト
●米アマゾン・コムの「ワンクリックで大統領候補へ寄付」のページ
 ディーン前バーモント州知事優勢の予想を覆し、アイオワ州に続いてニューハンプシャー州で勝ったジョン・ケリー上院議員は、米アマゾン・コムのこの新サービスでも、開始早々トップに躍り出た。サービス開始1週間経った時点で、ディーンが240人から5347ドルの寄付を受けているのに対し、ケリーは376人から、ディーンの倍以上の1万2400ドルを集めている。
 アメリカの政治家が外国人の意向に左右されるのを避けるために米国民やアメリカ永住者以外は寄付できない。「ブッシュをホワイトハウスから追い出してもらいたいから民主党の候補者に寄付しようかな」などと思っても、残念ながらそれは法律違反。外国人は寄付できない。しかし、刻々と変化する情勢にあわせて寄付の数字がどう変化するかを眺めるだけでもおもしろい。
 (10月23日追記) このサービスは半年後の7月21日に打ちきられた。14候補者に30万ドルが集まったという。
『アメリカに投票する子どもたち』。コスタリカでは投票の重要性を学んだ子どもたちが両親を投票所に連れて行くので投票率が80パーセントにもなっているそうだ。88年にコスタリカに釣りに行った3人のビジネスマンがそれを知り、投票率を高めるには子どもの意識を高めることが必要と設立した選挙の啓蒙組織。
●アマゾンの寄付コーナーで、ジョン・ケリーに迫る2位になっているのはほかの民主党候補者ではなくて、どういうわけかリバタリアン党のこの候補者ゲイリ・ノランだ。アマゾン・サービス開始後1週間の時点で、ジョン・ケリーと同じく1万ドルを超える寄付を集めた。「ほかの候補者と同じ土俵で戦えば、自分たちは驚くほど強いのだ」とリバタリアン党は言っている。

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2004.02.02

「ツケを払うのは子どもたちだ」という反ブッシュ・キャンペーン

民主党の予備選が始まり、アメリカの大統領選挙の
火ぶたが切られた。ブッシュもメディア戦略を
本格化させ、宣伝戦が活発化している。


●ブッシュへのカウンター・パンチ

「ともかく誰かブッシュを倒してくれ」。米民主党員の気持ちは、ひと言で言うとそんなところらしい。ディーン前バーモント州知事はイラク戦争に反対し、ネット選挙を繰り広げてリベラル派の人気を集めてきたが、「ディーンでは大統領選に勝てない」とここへ来て失速し始めた。かわってそれまで地味な存在だったジョン・ケリー上院議員がトップに躍り出た。
「誰でもいいからブッシュを倒してくれ」と思っているのは民主党員だけではない。アメリカにいる知人に訊くと、まわりでブッシュを支持している人はほとんどいないみたいだし、いったいブッシュの支持者はどこにいるんだという気がするが、よく言われるように、ブッシュ支持者は南部や中西部にいるのだろう。大都市周辺では「ブッシュには困ったものだ」と思っている人が多いと棲み分けができている。それにしても、これだけ強固に「ブッシュはいやだ」と思っている人がいる以上、ブッシュが楽勝できるはずはない。
 日本でも、イラク問題をはじめとして強引な手法をとり続けるブッシュにうんざりしている人は多そうだ。そう思っていたら、テレビのニュース番組で「ブッシュが当選すると思うか」とライブ調査をしていた。結果は半分ぐらいが「思わない」だった。キャスターは「ブッシュ大統領が再選されないと思っている人が半分もいるんですね」と驚いていたが、べつに驚くことではないし、そもそもこれは愚問だろう。この質問では、ブッシュを当選させたいと思っているのか、あるいは当選してもらいたくないけど当選するだろうなと思っているのかわからない。競馬の予想じゃあるまいし、客観的な予想を聞いても仕方がない。当選させたいかどうかを尋ねるべきだった。そうすれば、日本人がブッシュのことをどう思っているかがよくわかったはずだ。そして、その場合は、「イエス」と答える人はおそらくもっと少なかったにちがいない。
 とはいえ、アメリカ国内では、反対党まで含めて大半の政治家や有力なメディアが戦争に賛成してしまっている。フセインも捕まって、さしあたりブッシュの支持率はまだまだ高い。
 大統領教書の発表は、年頭に政権の方針を明らかにするビッグ・イベントで、議会では、両党のメンバーが拍手で迎えるという大統領の晴れの舞台だ。ブッシュはその日を、民主党の予備選が火ぶたを切った翌日に設定した。ゴールデンタイムの各家庭に生放送で流れる今年のこのイベントは、政策発表というより、大統領選挙へ向けての戦いののろしである。
 こうしたブッシュの動きに対し、反ブッシュ陣営の動きも活発化している。「ムーヴ・オン」というグループは、「30秒のブッシュ」と題したサイトを立ち上げ、アンチ・ブッシュの30秒テレビ広告を募集した。大統領教書発表の週にぶつけて優秀作をテレビで流すという。
 審査員には、日本でもベストセラーになった「アホでマヌケなアメリカ白人 」や「ボウリング・フォー・コロンバイン」で有名な映画監督マイケル・ムーアなどが加わり、1月12日に結果が発表された。評価の配点は、全体の印象が40点、そのほかオリジナリティがあるか、記憶に残る内容や見せ方か、メッセージ性がはっきりしているかがそれぞれ20点である。
 最優秀賞に選ばれたのは、「子どもが払うツケ」と題された作品で、ネットでの一般投票でもトップになった。サイトで作品を見ると、たしかに強烈な広告である。
 辛そうに皿を洗う男の子。大きな建物の廊下のふき掃除をする女の子。ゴミを回収する男の子。タイヤの修理をする女の子‥‥うす暗い蛍光灯が光る仕事場で顔を真っ黒にして黙々と働く子どもたち。次々と映し出される彼らはひと言も言葉を発しない。しかし、重苦しげな雰囲気が伝わってくる。何が言いたい広告なんだろうと思ったころにテロップが現われる。「ブッシュ大統領の1兆円の赤字のツケを誰が払うのか思い浮かべてみよう」。イラクでの戦費が増す一方で、減税の大盤ふるまいをしているブッシュ政権のツケは、将来、子どもたちが支払わなければならない。一瞬、何のことかと思うが、じんわりと批判の刃が感じられてくる、そんな広告だ。
 各種の世論調査から今年の大統領選挙では経済が勝敗を決める争点になるということで、いくつか見た応募作品には、そうした点に焦点をあてたものも多かった。
 このプロジェクトを立ち上げた「ムーヴ・オン」はコンテストの主旨についてこう言っている。
「毎年毎年、数十人のワシントンのメディア・コンサルタントたちが、大多数の政治広告を作ってきた。それらはみな同じようで、登場している俳優さえ似て見える。おそらくその結果、真に重要なメッセージがこめられていたとしても、有権者は関心を示さない。
 この3年間、ブッシュ大統領の政策は、環境を荒らし、国の安全保障を危うくし、経済にダメージをあたえ、中産階級の富を富裕層に配分してきた。ひとりよがりのメディアのおかげで、「思いやりのある保守主義」を掲げてきたブッシュ大統領は慎重に作り上げたそのイメージの影に隠れてきた。'04年の大統領選挙が近づいているいま、だいじなのは、ブッシュ大統領の政策のほんとうの意味を有権者が理解することだ。そのために、われわれは、何が問題かがはっきりとわかるクリエイティヴで斬新な広告を求めている」。
 ということでサイトを立ち上げ、広告を募集したのだそうだ。

●流れなかった広告

 サイトでは、2月のスーパーボールの中継で広告を流すためのカンパを募っている。目標額1千万ドルまであと少し、900万ドル近くまで達している。
 ところが何と、スーパーボールを放映するCBSはこの広告を拒否したらしい。「ムーヴ・オン」のサイトには、「スーパーボールでは、ビール会社やタバコ会社、そしてブッシュ政権の広告は流れるが、このサイトの広告を見ることはできない。CBSが拒否したからだ」と抗議声明を掲げている。
「CBSがブッシュ政権から多大な恩恵を得てきたからだろうか」と「ムーヴ・オン」は皮肉っているが、CBSには主張広告(アドボカシー広告)を流さない決まりがあり、その決まりに反するので拒否したのだという。アドボカシー広告というのは、企業が自分たちの立場を擁護するような広告のことだ。この広告がどうしてアドボカシー広告なのかわからないが、動物愛護協会の広告なども拒否されたという。CBSが属するバイアコム・グループは、これまでも草の根グループを敵視し、反戦広告を拒否してきた経歴があると「ムーヴ・オン」は指摘している。
 メディアに対して時の政権が陰に陽に大きな影響力を持つというのも、ブッシュ政権になって強まっている傾向だ。民主党員などが「ともかく誰かブッシュを倒してくれ」という気分になるわけだ。しかし、ブッシュは空前の資金をかき集め、民主党の候補が決まるのを手ぐすねをひいて待っている。民主党候補はすでにテレビ広告に大金を投じているようだが、宣伝合戦はこれからますます激しくなっていくのだろう。
 ケーブルテレビでCNNなどのアメリカのテレビは見れるようになってきたが、広告は別で、アメリカの広告をそのまま見る機会はまだ少ない。しかし、ウェブではテレビ広告を載せている候補者のサイトも増えてきたし、広告を分析したサイトもいくつか生まれている。日本にいながらにして、広告を通してアメリカの大統領選挙を観戦することもできる時代が来つつある。

関連サイト
●反ブッシュのテレビ広告募集サイト「30秒のブッシュ」。最優秀に選ばれたのは「子どもたちが払うツケ」。次点に選ばれたのは「われわれは子どもたちに何を教えているのか」。「次の大統領を選ぶ」ということで子どもたちが次々とスピーチをするが、ブッシュにならってとんでもないことばかり言い、親は目が点になる、というストーリー。
●テレビ広告を拒否され、「CBSが広告を検閲している」と抗議している「ムーヴ・オン」
●ホワイトハウスのサイトの一般教書ポータル・ページ。議会での演説前には要約を載せ、演説が始まるとライブ映像と準備稿を公開、演説が終わってまもなく「拍手」など反応が入ったテキストが掲載されるという具合に、刻々と更新された。しかし、もう10年近くアメリカの公文書館での資料収集を仕事のひとつにしているが、ブッシュ政権になってからの情報公開の後退は目を覆うばかりだ。このひとつをとってもブッシュ政権の性格がよくわかる。

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