心の中まで資本主義──阪神球団上場とファンの猛反発
村上ファンドの阪神上場案は激しい反発にあって
前途多難だが、こうした株のありようは、
ネット時代のこれからを指し示してもいる。
●タイガース株上場のファン投票は無理?
いまや日本を代表しつつある新興企業のトップにして、かの六本木ヒルズの住人たちのことをこういうのは何だけど、村上ファンドの村上世彰氏や楽天の三木谷氏、あるいはライブドアの堀江氏などを見ていると、小学校のときのクラスに何だかこんなやつがいたっけ、とどこか懐かしい感じもしてくるが、個性の強さがそう思わせるのだろう。小学校のクラスには、ワンパク秀才君がいたし、ソツがなくて大人の受けのいい子どももいた。また村上氏のように、頭がよくて何かと理屈を言うんだけど、なんとなくクラスから浮いている、というのもいた。
よりにもよって阪神のリーグ優勝間近に、親会社の株を大量に買って上場をせまり、熱狂的なファンを逆上させる‥‥なんて、たとえお金があったとしても、誰でもやれることじゃない。株の大量買収がばれにくいこの時期にやる必要はあったのだろうが、熱狂的な虎ファンからすれば、「優勝の熱をさますようなことをするとは、いかにもムードが読めないやつ」ということになる。
もっとも、ご本人は、毎日楽しくてしようがなさそうだ。ひところ連日のようにテレビに登場していたが、日に日にテンションがあがっていくのがはた目にもわかった。こんなに反撃をくらえば、ふつうなら落ちこむが、このへんの神経がそもそも並みじゃない。
村上氏は、タイガースの株を上場するかどうかをファンに聞いて、反対が多ければやめてもいい、と言っているようだが、この話を聞いて、2号前に書いた「ネット調査は回答者の代表性に疑問がある」という話を思い出した。回答者が調査対象者全体を代表していなければ、その調査結果は信用できない。阪神上場をめぐって行なわれるのは調査ではなくて投票といった性格のものだろうが、自称ファンに投票権があるということなら、実質的には誰でも投票できることになる。世論調査の国際学会がまとめた「世論調査ガイドライン」は、インターネット投票について、「こうした調査票をサイトで見つける確率が最も高いヘビー・ユーザーを過剰に代表することはほぼ確実」と言っている。郵便での投票を認めるとしても、ネット投票と併用するならば、容易に投票できるネット利用者のウェイトが重くなるのは避けられない。投票結果の妥当性には疑問がある。
タイガース株上場の提案に対して「ファンは怒っているぞ!」という気配が濃厚だけど、ライブドアがサイトでやったアンケートでは、73パーセントが上場に賛成。これはライブドアのIDがあれば誰でも登録できる典型的な公開型のアンケートで、回答者の代表性が確保されていない。調査ではなく、あくまで「アンケート」なわけだ。
日経新聞も、調査会社を通じて調べている。さすがに大手新聞社が「ネット調査」と銘打っているので、代表性に配慮はしているだろう。調査方法の詳細は書かれていないが、回答者は男女同数の515名とのことだから、やはり代表性は考えて選んでいると思われる。この調査の結果は、上場賛成が29パーセント、反対が24パーセント。「どちらとも言えない」が43パーセント。もっともこの調査も、阪神ファンを対象としたものではない。阪神ファンを選び出すためには、どこの球団を応援しているかをまず尋ねなければならない。そうすると、これぐらいの回答者ではたりず、もっと大規模な調査が必要になってくる。
もうひとつ関西地区在住者を対象にやったヤフー・リサーチの調査も発表されている。これは、72パーセントが上場反対。
案の定やり方によって調査結果はまちまちだ。
●インターネット資本主義の宿命
タイガースの株上場についての村上氏の提案でとくに興味を惹かれたのは、阪神球団を上場したら1口5000円、あるいはもっと安くして、ファンが気軽に株を買えるようにする、と言ったことだ。ファンは、ただ応援するのではなくて、株を買って経済的に支援し、勝てば経済的なリターンを得られる。そうすれば、いままでよりももっと球団と一体化できる、という主張だった。
それにたいするファンの反応がまた興味深い。経済が専門の大学教授まで、「何を言ってやがる」とばかりにムキになって怒っていた。たとえば、新聞に載ったある大学教授の署名記事のタイトルは「心の誇りに札束そぐわぬ」。阪神ファンはタイガースを「無償の愛」で支えているのに、お金の話をからませるなんてトンでもない、と猛反発している。
阪神も含めて球団は親会社の広告塔の役割を果たしているわけで、もとよりお金と無縁の存在ではありえない。ただファンは、気晴らしか人生を賭けているのかは人それぞれだろうけれど、お金の話と無縁に応援している、ということだろう。けれども、株とか証券というものの性格は、いまどんどん変わろうとしている。「好きなもの」に投資することが行なわれるようになってきている。
その対象は、音楽だったり、映画だったり、ゲームだったり、本だったり、あるいはアイドルだったりする。多額の資金が必要なエンターテイメント・ソフトの出資者はこれまでは企業ばかりだった。けれども、ネットを使えば、少額の投資を多数集められる。たんに「好き」で終わらせず、それを生み出すためにお金を出して応援し、場合によってはその内容に口を出し、できあがったら、それを宣伝することまで個人が参加できる仕組みがすでに整いつつある。これまでのように、完成したコンテンツを購入し自宅に持って帰って楽しむだけ、あるいはコンサートや試合で熱狂してそれで終わり、ではなくて、コンテンツの企画から完成後まで息長く付き合うことができ、またそうした関わりが求められてもいる。誰もが少しだけプロデューサーになることが可能であり必要でもある時代がやってきつつある。
そうすることで株というものの性格も、ソフトのありようもともに変わっていく。これまではソフトができてからしか消費者の反応がわからないので、売れそうなものしか作りにくかった。しかし、制作の過程で消費者が投資家となって加わるようになれば、それは変わっていくはずだ。そして、投資であれば当然ながらファンにも経済的なリターンがある。コンテンツやソフトの消費ではなく投資へと、関わり方を変える方向に、ゆっくりと、しかし着実に向かっていくだろう。
スポーツチームについても、ファンが株主になれば、「経営陣がバカだから」などと文句を言っているばかりでなくて、誰もが少しだけ経営者となり、チームの方向性にかかわることができる。
先の大学教授は、別の新聞で、「お父さん、巨人に勝ったから株が上がるね」などと子どもが言うようになるのは教育上問題だと言っていたが、むしろ逆だろう。経済学者だったら、身近なもので株というものを理解する格好の教材になる、と考えるべきではないか。
村上氏もまたそうしたことを言いたいのかもしれない。しかし村上氏は、自分が儲けたいために言っている、と見られてしまった。株で儲けるのが村上氏の仕事なのだから、そう思われても仕方がないし、実際、「儲けたいため」ではあるのだろう。
村上氏の言動に対する好き嫌いはともかく、多くの人が投資という形で少しずつコンテンツやソフト(あるいは球団などスポーツチーム)を支える時代はやってくるだろう。ネットは直接民主主義的な仕組みであると同時に、広く少額の資金を集められる直接金融のプラットホームでもある。株とかオークションの仕組みは、もっと広くさまざまな局面で使われるようになり、これまで以上に重要なものになっていくはずだ。それがいいことか悪いことかはわからない。皮肉な言い方をすれば、心の領域まで資本主義化されていく。しかし、それが、インターネット資本主義の宿命だろう。
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楽天とTBSの統合は、TBSが前向きにならなければかなりむずかしそうだ。またたとえ統合しても、楽天とTBS双方が球団を持つことはできない以上、どちらかが手放さなければならない。TBSが球団を手放す気になってくれるというのは少々虫のいい期待ではなかろうか。楽天には、いったいどんな成算があったのか、ほんとに不思議。
関連サイト
●阪神タイガース公式サイトの「球団の基本姿勢」(http://www.hanshintigers.jp/team/company/index.html)。「球団のあるべき姿」のひとつとして「映像・音声などの情報ビジネスやキャラクター商品の販売などの関連事業を展開します」と書かれている。「無償の愛」だけで球団運営をしているわけではないとはいっても、上場もしていないのに、「球団のあるべき姿勢」として、サイトにこうしたことが書かれているのは意外。
●通称・村上ファンド、M&Aコンサルティング(http://www.maconsulting.co.jp/page_j/index.html)。通常は個別の案件に言及しないが、問い合わせが多いので、阪神電鉄の件については説明する、とのことで、プレスリリースがいくつも出ている。
●ライブドアのスポーツ世論調査「阪神タイガースの株式上場に賛成?反対?」(http://sports.livedoor.com/question/list?id=52)。賛成72パーセント、反対26パーセント。楽天のTBS株については、「TBSから手を引く」という人が41パーセントでトップ。
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