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2012.07.30

クルマの完全自動走行時代はいつやってくる?

限定的な自動走行時代はもう間もなく来そうだ。
しかし、日本で完全自動走行できるようになるのは、
けっこうたいへんかもしれない。

●自動走行車の発売はもう間もない

 グーグルの自動走行車は、技術的にはほとんど事故を起こさずに目的地に行けるぐらいのレベルに達しているようだ。これまで事故が起きたと報道されたのは二度で、一度は信号で停止したときに追突された。これは相手に非があるとのことだった。昨年夏もネットメディアがグーグルの無人走行車の事故を写真入りでスクープした。しかしこれも、自動走行からドライバーの運転に代わったときに起きたものだとグーグルはすかさずコメントを出した。「自動走行は危険だ」というイメージができないように、グーグルは気を使っている。

 おもしろいことに、グーグルのこの自動走行車のプロジェクト・リーダー、セバスチャン・スランは、ヘリコプターの自動走行も研究している。

 考えてみれば、空を飛ぶ乗り物のほうが衝突の可能性は低い。離陸と着陸はむずかしいにしても、予測不能で突発的な行動をする人間や対向車のほうが動かない大地よりも厄介だろう。米軍はすでに無人飛行機を使って偵察や攻撃をしているし、人類はもう50年以上前から無人ロケットを宇宙空間にまで飛ばしている。無人機の実用化は空のほうがずっと早い。

 とはいえ、クルマの自動走行が始まるのももう間もなくのようだ。前回の原稿を書いたあと調べてみると、多くの自動車メーカーが開発に着手している。

 メルセデス・ベンツは、来年にも自動走行機能搭載のクルマを出すようだ。もっともこれは時速40キロ以下で低速走行し、渋滞時に前のクルマについていくようなときにだけ使えるらしい。アウディも、数年以内に時速60キロ以下の渋滞時に自動走行できるクルマを出すという。GMも10年代半ばには限定的な自動走行車を、そして10年代末までにはもっと高性能のものを出すと言っている。このほかボルボやフォード、フォルクスワーゲン、さらに中国のクルマ・メーカーにいたるまで、続々と自動走行の開発に参入し、この10年ほどのあいだに実現しようとしていると報じられている。


●日本のクルマ・メーカーは?

 しかし不思議なことに、日本のクルマ・メーカーの名前は出ていない。センサー付きのクルマはすでに日本でも発売され、衝突回避装置のついたクルマも相次いで発売されているが、「自動走行の時代がやってくる」という華々しいアピールの仕方はしていないようだ。なぜなのだろう。

 アメリカでは、オートクルーズの機能がかなり早くから搭載され、しかも実際に使われている。坂道などで減速すると、勝手にエンジンを吹かして加速してくれる。アメリカで遠距離ドライブをするときにはたいへん便利で、この機能があるかどうかで疲れ方が違った。

 最近は日本の高級車にもこうした機能がついているらしい。速度を設定すればその速度で走行してくれ、前方にクルマが迫っていると減速してくれたりもするという。
 しかし、オートクルーズは、ブレーキを踏むと解除されてしまう。日本の道路のように混んでいると使うのは面倒だろう。日本では、自動走行のありがたみがアメリカなどに比べて実感されていないのではないか。

 さらに、クルマであふれかえった日本の道路事情を考えると、完全自動走行の難易度は、アメリカに比べて格段に高いはずだ。

 自動走行の課題のひとつに、交通ルールを逸脱した走行の問題がある。自動走行は、いうまでもなく交通ルールを遵守して行なわれる。制限速度を超えて走るようなことはしないし、赤信号ならば止まる。
 完璧なドライバーというわけだが、実際の運転は交通ルールどおりにはいかない。対向車が来ていて急いで追い抜かなければならないときもあるし、もっと困るのは右折時だ。右折車用の信号があればいいが、なければ、信号が赤になって対向車が来なくなったときに曲がるしかないこともある。
「赤になったら行かない」を守っているといつまでも右折できず、交通渋滞を引き起こしかねない。日本の道路ではこうしたことが頻発する。

 もっとも、アメリカでも完全自動走行のハードルは低くはない。20万マイルの自動走行をこなしたというグーグルも、まだ何百万マイルものテスト走行をする必要があると、開発プロジェクトのリーダーが言っている。

 事故を起こしたときの責任をどうするのかという問題も解決しておかなければならない。乗っていた人間に責任があるのか、あるいはクルマ・メーカーか。クルマ・メーカーが他社の自動走行システムを採用した場合、システム会社が責任を負うのか。さらには、保険をどうするのかなど、解決しなければならない問題は山積みだ。

 自動走行にもっとも意欲的なグーグルでさえまだまだ解決しなければならない問題が多いと言っているのだから、混んだ道路を走らせなければならない日本のクルマ・メーカーがおよび腰だったとしても無理はない。


●完全自動走行時代が来たらどうなる?

 日本で始めるにあたってもっとも厄介なのは、社会が受け入れるかどうかだろう。

 アメリカでは、公道での自動走行について法的な対応も進み始めた。
 ネバダ州は法を改正し、この5月には、グーグルに路上走行の第1号のライセンスを出した。カリフォルニア州など、運転席に人が乗っていれば自動走行を禁じる法律がない州もあり、グーグルはテスト走行をもうやっている。しかし、無茶な自動走行をしてこの技術の先行きを危うくすることのないよう、グーグルが法制化を働きかけているようだ。カリフォルニア、ハワイ、フロリダ、オクラホマなどの州でも、一定の条件下での自動走行の許可を出す法制度を検討しているという。

 日本で自動走行ができるようになるのは、アメリカなどで普及したずっとあとのことだろう。とあれば日本の自動車メーカーがさしあたり積極的になれなくても不思議ではない。

 しかし、完全無人走行が実現すれば、なかなかおもしろいクルマ社会が誕生する。
 目的地に着いたらクルマを自動走行させて駐車場や家に戻し、帰るときに呼び寄せるということがあたりまえになるだろう。
 平均的なクルマは96パーセントの時間は動いていなくて、今日の都市は駐車場と化しており、使われていないクルマとパーキング・スペースが都市空間を占めているが、自動走行の時代が来ればそれが一変するとスランは言っている。

 またトラックは、前のトラックにぴったりくっついて走ると空気抵抗を避けられ、燃費が21パーセント少なくてすむそうだ。環境にもやさしく、車間距離をあけずに走行できるので渋滞もなくなる。そして交通事故も激減する(はず)。スランは18歳のときに親友を交通事故で亡くしたそうで、こうした悲劇がなくなることを望んで自動走行の研究をしているのだそうだ。


afterword

 2004年から国防総省の高等研究計画局(DARPA)は、自動で長距離走行するレースをやっている。この欄でも取り上げようかと思ったが、初回の04年はうまくたどり着けたクルマがなかったので書かなかった。やっぱりむずかしいんだなと思ったが、翌年にはスタンフォード大学のセバスチャン・スランのチームやカーネギーメロン大学のチームなど5台のクルマが完走したそうだ(07年は、空軍基地に作られた市街地を走るレースだったという)。


関連サイト
●スタンフォード大学のセバスチャン・スランのサイト(
http://robots.stanford.edu/)。スランはスタンフォードの終身雇用の教授になることをあきらめ、グーグルでの自動走行の仕事に賭けることにしたそうだ。グーグルはスランを初め、DARPAのレースに参加した人びとを何人も引っ張ってきて、自動走行のプロジェクトを始めている。
●TEDでのスランの講演(
http://www.ted.com/talks/sebastian_thrun_google_s_driverless_car.html)。講演にあわせて流れているビデオ映像で、山道を走行しているのはグーグルのロゴ入りのクルマではないので、DARPAのレース時の映像のようだ。

(週刊アスキー「仮想報道」vol.734)

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