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2012.07.17

「自動走行車のカーレース」はほんとうにグーグルのエイプリル・フールか?

グーグルは自動走行車のカーレースを冗談に使った。
しかしじつは、検討してみたことがあったものの、
結局のところ葬り去ったプロジェクトなのではないか。

●両手をバンザイして走ったグーグル創業者

 グーグルもすっかり大きくなって「大企業病」だなどと陰口が聞こえるようになってきたが、あっと驚かす技術を発表するグーグルの魅力はまだ消え去ってはいない。多くの人にそう感じさせたもののひとつは、自動走行車のプロジェクトだろう。運転しなくても目的地に連れていってくれるクルマを作っている。

 今年3月30日CEOのラリー・ペイジは、自社のSNS「グーグル・プラス」で、コンピューター誘導で20万マイル以上の安全走行を行なったと動画を公開した。目がほとんど見えない老人が自動走行車に乗って買い物に行き、帰宅するまでが映っている。自動車の天井上の装置で衛星通信をして場所を確認し、レーダーでほかのクルマや障害物との距離を測定。ビデオカメラで周囲の状況をとらえて走行している。
 まだまだしなければならないことは残っているものの、いつの日か技術上・安全上の厳しい基準に応じたものになれば世の中に送り出すという。

 ところが驚くことにその翌々日、ペイジは次のように書いた。

「ほんとうに興奮している。ナスカー(NASCAR)と提携し、自動走行車の新しいカーレース部門を設立することを報告する!」

 ナスカーはアメリカのカーレースの団体だ。ナスカーのサイトとグーグルの公式ブログの双方にリンクが張られていた。

 ナスカーのサイトにアクセスすると、「グーグルがグーグル・レーシングを発表。ナスカーは自動走行技術にもとづくグーグルの新しいレーシング部門を支援する」というタイトルのニュース動画があった。
 ペイジの共同創立者サーゲイ・ブリンがドライバーとしてグーグルのロゴの付いたレース・カーに颯爽と乗りこんで走り出す。ハンドルに手をかける必要がないので窓から両手を突き出し、自動走行をアピールしている。レースドライバーたちもグーグルの英断に祝意を述べていた。

 公式ブログには、

「次の10年でコンピューターができるもっとも重要なことはクルマを運転することだ。そして、グーグル・レーシングが次の10年でできるもっとも重要なことは、可能なかぎり誰よりも速く走ることだ」

とあった。
 高速でレースをするためには、瞬時の状況判断が必要だ。自動走行の難度はきわめて高い。しかし大きな目標をぶちあげ、自動走行プロジェクトに拍車をかけるつもりのように思われた。

 しかし、これが発表されたのは4月1日。
 エイプリル・フールだった。
 公式ブログの最後には、「たぶんおわかりのことと思いますが、グーグル・レーシングはほんとのことではありません」と書かれていた。


●いつもながらの凝ったエイプリル・フール


 正直に言うと、私はこの話を信じかけていた。というのは、この1年前の自動走行の映像を見ていたからだ。
 昨年3月、イベントにあわせて自動走行車のお披露目が行われた。このときは、イベントに参加したメディア関係者などに走るところを見せたばかりか試乗させ、広い駐車場を走ったらしい。その映像も公開されている。
 自動走行車はかなりの高速で急ハンドルを切り、キキキキッと音を立てて走っていた。こんな走り方ができるのならレースもできそうだった。

 さらに、自動走行車のプロジェクト・リーダー、セバスチャン・スランのイベントでのスピーチにあわせて流れた映像では、崖っぷちの山道を走ったり、夜道ではシカが飛び出してきたりもしていた。

 コアではない仕事を整理し始めたグーグルが、検索にもモバイルにもクラウドにも関係なさそうなこうしたプロジェクトを何でやっているのかという気もするが、ペイジは昨年7月の決算発表のときにこう言っている。

「われわれがやっているドライバーなしの運転のような投機的なものに注力するのは簡単だが、われわれの資源の大部分はコアな製品にまわしている。われわれはしかるべきときに少数の投機的プロジェクトを手がけるかもしれないが、われわれはとても慎重に株主のお金を守っている。われわれは会社をこうしたものに賭けはしない」。

「目先の利益よりも長期的な利益を重視する」とグーグルは株式公開にあたって宣言したが、じつは投機的プロジェクトにカネを使っているのではないか。株主にそう見られることを恐れて、ペイジはわざわざこう断わったのだろう。

 自動走行は、モバイルで重要なGPS機能やグーグル・マップの仕事と関係しているといった説明もできる。しかし、創立者の二人がやりたかったことであることにはちがいない。どこかやましいところがあるからわざわざ弁解したのではないかという皮肉な推測もできそうだ。


●自動走行車のカーレースはほんとうにできないのか?

 ところで自動走行車のレースは、やろうと思えばできるのではないか。

 たしかに、ふつうのカーレースに参加するのは、人命にかかわる事故が起こったときのことを考えるとためらわれる。しかし、無人のクルマばかりを走らせるのであれば「ゲーム」ですむ。ロボットのサッカーなどと同じく、技術開発を促進するために大会を開くことは当然考えられる。むしろペイジやブリンがそうしたことを思い浮かべなかったというほうが考えにくい。

 ただしこれは自動走行車を世に出すためにはいい方法ではないかもしれない。

 グーグルのこのプロジェクトをとりあげた10年10月のニューヨークタイムズの記事は、「この技術が実戦配備されるのはもっとも楽観的な見通しでも8年かかる」と書いていた。なぜ8年なのかわからないが、目的地を設定すればおおかた事故をおこさずにたどりつけるぐらいのレベルにはすでになっている。

 しかし、それではダメだ。事故が起こらないと世の中の人びとに確信を持ってもらえることが商品化するためには必要だ。

 カーレースをやれば事故は起きる。
 人間の乗ったクルマならば、レースで事故が起きても、それは街中ではありえない速度で走ったからで、クルマの性能が悪いせいだとは思わない。けれども、自動走行のように「大丈夫なのか」と不信の目で見られているものはそうはいかない。「ほら、やっぱり自動走行だと事故が起きる」と自動走行のせいにされる。カーレースは、可能であってもやるのはプラスではない。ペイジとブリンはそう考えたのではないか。
 つまり自動走行車のカーレースがエイプリル・フールになったのは不可能だからではなくて、十分に可能で、やることを検討しさえしたけれど、事故が起きている場面を報道されるのはプラスにならないと考えたからではないか。

 自動走行車は、もはや技術的にはすぐそこにある。
 しかし、その商品化まではまだまだ無限と言ってもいいほどの距離がある。なぜかといえば、それは社会が認めないからだ。次回は、そうしたことを考えてみたい。

afterword
「われわれは慎重に株主のお金を守っている。われわれは賭けはしない」と株主に言ったグーグルは、自動走行の事業のパートナーを探しているという。グーグルは、クルマそのものを作るわけではないので、パートナーが必要なのだろう。パートナーを探すぐらい事業化に真剣で、現実的な研究になってきたということでもあるようだ。

関連サイト
●グーグルは、「グーグル・レーシング」というサイトまで作っている(
http://www.google.com/racing/)。
●「グーグルがグーグル・レーシングを発表。NASCARは自動走行技術にもとづくグーグルの新しいレーシング部門を支援する」というNASCARのサイトのニュース動画(
http://www.nascar.com/video/none/none/120331/cup-mar-google/)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.733)

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