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2012.06.25

グーグルの「甘い誘惑」

「悪いことはしない」を社是としてきたグーグルが、
「甘い誘惑」に負け始めるきっかけになったできごとが
少なくとも過去2回はあったのではないか。

●「情報の宝の山」という誘惑

 グーグルは「悪いことはしない」を社是とし、自分たちの金儲けよりも利用者のことをまず第一に考えると言ってきた。ストリートビューのように批判が殺到した場合も、根底にあったのは、こうした機能ができれば便利で喜ばれるはずだという「善意」だった。その善意がだんだんとそのまま取られなくなり、世の中と微妙な「ずれ」が生じ始めていまに到っていると前回書いた。

 善意の行動がそのまま善行とはならず、結果として「悪」になるということはありうることだが、少なくともグーグル自身は、だいたいにおいて善意のもとに行動してきたと私も思う。
 ただし、最高幹部を含めてグーグルのスタッフたちを長時間にわたって取材しグーグル内部のようすを描いたスティーブン・レヴィの『グーグル ネット覇者の真実』という本を読むと、「甘い誘惑」があって利益のほうを考えるいわばきっかけになったできごとが、少なくとも過去2回はあったように思われる。

 そのひとつは、ダブルクリックという広告会社買収にからんだできごとだ。
 ダブルクリック買収は、マイクロソフトと買収合戦になったこともあって、ネットメディアで騒がれた。私もあるウェブ・マガジンでとりあげたことがあり、この件についてある程度は知っていたが、この本には私が気づかなかったことも書かれている。

 莫大なグーグルの利益の源泉は2種類の広告だ。
 ひとつは検索連動広告。もうひとつは、世界中のサイトにグーグルが載せている広告からの収入だ。
 グーグルのダブルクリック買収は最大のライバルであるマイクロソフトに買われたくないという防衛的意味もあったが、新しい広告ビジネスに進出するためでもあった。

 ダブルクリックは、全国展開しているメジャーな企業のディスプレイ広告を、マスメディアなどのメジャーなサイトに掲載してきた。これらの広告は、クリック課金ではなくて、表示されただけで広告料金が発生する表示課金だ。
 グーグルの広告は、誰でも安い単価でセルフメイド広告を出せるということで、中小の企業などのものが多い。広告料金が発生するのはユーザーが広告をクリックしたときだけというクリック課金型が中心だ。大企業を顧客に抱え、表示課金しているダブルクリックとは、顧客についてもまた課金の方法についても異なっている。自分たちが不得手な分野の広告に進出したいというのが、ダブルクリック買収のそもそもの動機だった。

 しかしまもなく「ネットユーザーに関する情報の宝の山が手にはいることに気がついた」と先の本には書かれている。


●「それは邪悪に見える」

 サイトを閲覧したり、広告を見たりすると、私たち利用者のコンピューターにクッキーと呼ばれる小さなファイルが送りこまれる。送りこんだ側はこのクッキーによって、利用者がネットで何を見て何をしたかなどの情報を得られる。ウェブが誕生してまもないころは、クッキーはプライバシー侵害になると反発されたが、だんだんと当たり前の存在になってしまった。
 ダブルクリックの広告は、表示しただけでクッキーが送りこまれる仕組みになっていた。しかしグーグルの広告は、クリックしたときだけクッキーが送りこまれるのでプライバシー侵害の度合いが低いと、プライバシー保護団体などからも評価されていたという。

 意識しないところで行なわれているので、利用者にはわかりにくいが、自分が見たいと思ったサイトからクッキーを送りこまれるのと、見たサイトにたまたま載っていた広告配信会社のクッキーを送りつけられるのでは話が違う。

 アクセスしたサイトのクッキーを受け入れれば、たとえばIDやパスワードを入力する必要がある場合でも、ふたたび訪問したときには入力の必要がなくなるといった利用者側のメリットもある。あるいはアマゾンなどの小売りサイトならば、自分がどの商品を見て何を買ったかなどの情報がクッキーを使って保存され、自分の好きそうな商品を勧めてくれるし、ニュース・サイトならば、自分の関心のありそうな記事を優先的に表示してもらえたりもする。
 広告も、自分の関心に応じて表示されたりはするが、そのことをありがたいと思う利用者ばかりではないはずだ。

 さらに、広告のようなウェブ・ページの「部品(パーツ)」もクッキーを送れる仕組みは、その気になればいくらも悪用できるし、実際されている。ウェブ・ページを見ただけでウィルスに感染するなどというのも、こうした仕組みが使われている。

 広告をクリックしたときにしかクッキーを送りこまないという従来のグーグルの方針は、「悪いことはしない」社是にあっていた。二人の創立者も、サードパーティー(他企業)のクッキーを受け入れることは望まなかったそうで、そこには「それは邪悪に見える」という考えが見てとれたとレヴィは書いている。


●追う立場のグーグルはもはやあと戻りができない

 しかし、ダブルクリック買収によって「甘い誘惑」が生じた。
 メジャー・サイトでクッキーを配布しているダブルクリックと、中小サイトをカバーしているグーグルがひとつになってクッキーを送りこめば、利用者がネット上で何を見て何をしているか、今までにない規模でわかる。それによって利用者の関心をつかんで広告を出せば、広告効果はより高くなる。ダブルクリックを傘下におさめたグーグルはこの誘惑に屈した。
 2008年8月、グーグルは自分たちの広告が表示されたときにもダブルクリックのクッキーを送りこむことにした。ダブルクリックを買収したのでもはやサードパーティーではないという理屈だった。

 先に書いたとおり、個人情報を幅広く入手すればするほど、利用者が何に興味を持っているかがわかり、広告効果はより高くなるわけだが、さらにこの3月グーグルは、60もあったプライバシーポリシーをひとつにまとめた。グーグルの提供している多様なサービスごとに個人情報収集のルールがあったのでは、まとめて使いにくい。ダブルクリック買収によって「甘い誘惑」の味を知ったグーグルは包括的な個人情報収集の方向に歩み出し、いまも歩いている。そしてそれは、膨大な個人情報の収集に成功しているIT企業、フェイスブックの存在によって、もはやあとへは引けないものになっている。

 利用者第一よりも利益を重視するきっかけになったもうひとつのできごとは、このフェイスブックという強力なライバルの登場だ。グーグルは、フェイスブックに勝つためには、ますます幅広い個人情報を収集しなければならなくなっている。後戻りするのはますますむずかしくなってきた。

afterword
スティーブン・レヴィの『グーグル ネット覇者の真実――追われる立場から追う立場へ』でもっともおもしろいのは、グーグルの最高幹部たちがスティーブ・ジョブズを激怒させたくだりだろう。次回はそれについて。

●グーグルの「プライバシーと利用規約」のページ(http://www.google.co.jp/intl/ja/policies/)。「Google 全体で 1 つのポリシー」というタイトルがついている。1つのポリシーになったことで、利用者にとってシンプルになりわかりやすくなったことは確かだが、グーグルも、それぞれのサービスを横断して個人情報を使いやすくなった。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.731)

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