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2012.05.23

シロウトが政治決定をする時代がやってくる?

裁判員は法律のシロウトであるにもかかわらず、
妥当な判断をしているようだ。
それならば、政治についてもシロウトにゆだねてみては?

●政治にも裁判員制度


 裁判員制度に対して、シロウトの裁判員で大丈夫なのかという心配があったが、メディア報道などで知るかぎり、かなりうまくいっているようだ。

 クジで選ばれた裁判員が、むずかしい事件にもきちんと判断し妥当な答えを出せるのであれば、政治についても同じことができるのではないか。たとえば消費税増税の是非 とか、これからの社会保障をどうするかなどといったことについても判断できるのではないか。

 しかし、こうしたむずかしい政策について少数のシロウトが判断して、ほかの人が納得するかどうか。そのほうがむしろ問題かもしれない。多くの人に納得してもらうためには、クジで選ぶにしても、前回までとりあげた討議型世論調査のように、人口動態なども配慮して「みんなの意見」を代表していると納得しても らえるような形で人を選ぶ必要があるだろう。

 クジで選んだ「ふつうの人びと」の考えを政治に反映させようという試みは、実際に世界各地で始まっている。
 デンマークのテクノロジー評議会というところもそうしたことを実践しており、これから書くように、サイトでさまざまな手法を紹介している。


●政治の市民陪審
 

 たとえば、「市民の陪審」という手法は、16人の市民からなる陪審団をクジで選んで組織する。人数が少ないので十分に人口動態を反映して選ぶのはむずか しいが、できるだけそうしたことも意識して編成する。あらかじめ専門家やオピニオン・リーダーに集まってもらい、とりあげるテーマについて議論し、バラン スのとれた説明文書を作成して陪審団に送っておく。


 審判は木曜から月曜までの5日間だ。最初の3日間を市民陪審団と専門家や関係者のやりとりにあてる。専門家や関係者がまずプレゼンをし、陪審団からの質問に答える。

 4日目は陪審団による議論で、あらかじめ設定されている項目への答えを作成する。その過程で陪審団が合意できない点をはっきりさせ、それについては考えられる選択肢をあげて投票し、その日の終わりに最終的な文書にまとめる。

 それで終わりではない。最終の月曜は、陪審団による発表だ。それを聞いて、関係者や政党の代表者などがコメントし、陪審団と議論する。最後に、各党の政治家がどう行動するかについての考えを述べて終わる。

 このイベントの直接的な成果は、陪審団によってまとめられた文書だが、間接的な効果もある。その過程において政治家も一般の人びとも、十分に理解できていない政治課題に関心を深め、知識を得ることができる。

 陪審員は、専門家や関係者と議論までしなければならないから、討議型世論調査よりも負担が大きい。しかし、陪審と名前がついてるぐらいで、重要な判断が ゆだねられている。政治家はその判断に従わなくてもいいが、無視するのであれば、それなりの理由が必要だ。そういう意味で、政策決定の透明性が得られる。

 これは5日間もかけてやるので時間的にもたいへんだが、一日で終わるやり方もいくつか紹介されている。

 たとえば「投票集会」では、60人ずつといったぐあいに、政治家、専門家、それに性別や年齢などの分布を考慮しながらクジで選んだふつうの人びと、これ ら3通りの人に集まってもらう。あらかじめ対立する関係者の意見を聞いて、問題点やありうる対応策などについてわかりやすく説明した文書を作成し、3集団 に渡しておく。

 当日は、対立する各派にまずプレゼンしてもらい、質疑応答をしたうえで、各問題点について投票していく。政治家、専門家、一般の人それぞれ の投票用紙は色分けされているので、どのグループがどの意見に賛同したかがわかる。出た結果について、その問題を検討している議会の委員会メンバーなどに コメントしてもらって終わる。

 テクノロジー評議会のサイトでは、このような10ほどの方法を説明している。それぞれどういう課題に向いていて、直接的な成果は何で、間接的な成果は何か、またいくらぐらいかかるかなどを詳述している。


●シロウト議会
 

 これらは政府の決定に民意を反映させるための手法だが、もう一歩踏みこんで、「市民議会」が政策決定することはできないか。


 裁判員同様、一生のうちのある期間、政策決定に参加することを国民の義務とする。
 期間は、裁判員制度と同じくテーマの重大性や複雑さによって変わるだろうが、たとえば一週間とか一か月など、抽選で選ばれた人たちが関連文書を読み、専門家や関係者の意見を聞いて判断する。

 テクノロジー評議会の手法のどれを使ってもいいが、人数があまり少ないと説得力がない。国政か地方政治か、あるいはテーマによっても違うが、数十人か ら、重要なテーマについては国会なみに数百人ぐらい。その問題をめぐって対立しているグループは、プレゼンし質問に答えるとともに、クジで選んだ候補者の うちそれぞれ一定数を拒否できる。最終的に選ばれた人たちが関係者からの意見聴取やディスカッションなどをして結論を出し、それを政策とする。

 当面は、議会で結着がつかない問題や、住民投票の代わりに行なうのが現実的だろうが、やがてはいまの国会や地方議会を廃止してこれだけにしてしまってもいいかもしれない。

 いまの選挙では、有権者は、ほんとうのところ候補者がどんな考えなのかよくわからず、細かい政策について勉強する時間もないなか候補者のルックスや歯切れのよさ、人気などを加味して投票している。こういう投票で選ばれた政治家によるいまの代議制政治よりも、クジで選んだ市民が熟議する議会のほうがよほど ましなものになる気がする。

 また現在の選挙では、組織票のとれる候補者が政治家になりがちだ。つまり特定の利益集団の代表者が政治をしているわけだが、クジで選ぶのであれば、文字どおり「ふつうの人びと」の代表者ということになる。こういう人たちに、自分たちと同じ感覚で資料を読み、関係者の意見を聞いて決めてもらったほうが、そ の判断を信頼する気になれるのではないか。

 代表者が政治決定をするという意味では間接民主主義だが、自分たちの「分身」が決定しているという意味では直接 民主主義的でもある。

 首相は直接選挙で選べばいいし、閣僚は、学者や専門家などその分野の詳しい人を首相が指名すればいい。こうした首相率いる専門家集団の行政府から提案された法案や政策を「シロウト議会」が審議する。

 テクノロジー評議会は、議論すべきテーマそのものを決める手法も紹介していた。こうした手法を使ってシロウト議会から議案を出してもいい。

 裁判員制度が始まり機能することを知ったいま、こうしたことを考えてもいいのではないか。


関連サイト
 
●デンマーク・テクノロジー評議会のサイト(http://www.tekno.dk/)。この評議会は、このところ注目されている「熟議の民主主義」と 呼ばれる試みをしていることで有名な組織のひとつである。95年にデンマーク議会によって作られたものの、かなり独立した組織らしい。技術が環境や社会に あたえる影響の評価が任務というが、その手法は広く使える。
●テクノロジー評議会などの手法を使って、温暖化や生物の多様性について世界の市民の意見を政策決定に反映させようとしている「ワールドワイド・ヴュー ズ」のサイト(http://wwviews.org/)。09年の第15回気候変動枠組条約締約国会議(COP15)のときに、世界の市民の意見を反映 させるために世界38か国の市民の意見を聞く試みをした。今年の9月には、生物多様性についてのグローバルなイベントを開くとのことで、その準備を進めて いる。

afterword
 
 上で、消費税値上げの是非とか、これからの社会保障などがテーマになりうると書いたが、原発を再稼働させるかどうかとか、日本のエネルギー政策をどうするかなどといったことも「シロウト議会」の格好のテーマになりうる。

(「週刊アスキー「仮想報道」Vol.727)


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