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2012.04.09

客観的予想にもとづく新しい政治の仕組み

これまでの政治は、政治家や有権者の欲望によって歪められてきた。
そうでない仕組みはできないか。
いまの時代にふさわしい仕組みがあるのでは?

●選挙に代わるもの

 選挙で選ばれた政治家が政治的決定をする間接民主主義への不信感が高まっている。首相を直接選挙で選ぶ公選制を求める声も強くなっている。

 前回、ネットを使って民意をリアルタイムで把握し、統治に反映させることを提案した東浩紀氏の著作『一般意志2・0』をとりあげた。
 フェイスブックのような実名SNSまで登場し、デジタル世界が現実世界を呑みこまんばかりになっている現在、社会の仕組みもデジタル環境に対応したものにする必要がある。そういう意味でも『一般意志2・0』は興味深いが、後半で
具体的な仕組みの例として提案されているのはニコニコ動画だ。飛び交うコメントを政治的決定に反映させるというが、意見の代表性が疑わしい。東氏も、全面的に反映させろなどとは言っていないが、その分、後半は前半の勢いのよさがなくなって、ルソーの「一般意志」の発展型としては後退したものになってしまった。

 そうなったのは、「国家が集合的な情念(ナショナリズム)に導かれたときいかに暴力的な存在になるか」を東氏が恐れたからだった。しかし、世論がナショナリズムで燃え上がって戦争に突っ走るようなことが起こるのは、世論が客観的な思考ではなくて情念に導かれるからだ。もっぱら客観的な思考にしたがうような仕組みができれば、懸念は減少する。だから、ルソーの考えを具体化するのであれば、予測市場の仕組みのほうがいいのではないかと前回書いた。「こうなってほしい」という個人の欲求が投影されるいまの選挙制度よりも、「客観的にどうなると思うか」にしたがって投資する予測市場のほうが正しい結論に到る可能性が高いはずだ。

●「みんなの意見」は確率的に正しい

 予測市場は、特定の専門家の考えよりも市場という「みんなの考え」のほうがすぐれているという発想にもとづいている。
 スロウィッキーのベストセラー『「みんなの意見」は案外正しい』には、専門家などよりもみんなの意見のほうが正しかった具体例がたくさん書かれている。しかし、なぜみんなの意見が正しくなるのかについての理論的根拠は書かれていなかった。

 東氏の本を読んだことをきっかけに、読もうと思っていてすっかり忘れていた『「多様な意見」はなぜ正しいのか』を読んだ。複雑系の研究者であるスコット・ペイジが書いたこの本は、簡単な数学も使ってみんなの意見がなぜ正しくなるのかを論理的に説明している。
 簡単な数学とはいえ、読み通すのには骨の折れる本だが、この本の説明にしたがって、みんなの意見が正しくなる数学的根拠をひとつだけ示してみよう。

 正解を続けると賞金が上がっていき最後に大金を手に入れられる「クイズ$ミリオネア」というクイズ番組があった。このクイズ番組では、答えがわからないとき観客に聞く「ライフライン」という手段が回答者に与えられていた。
「アイポッド、アイフォン、アイパッド、アイボの4つの中でアップル製品でないものはどれか」という問いがあったとする。
 100人の観客のうち10人はアイボだと正解を知っている。30人はアップルの製品2つを知っているが、あとひとつがわからない。残りの60人は、まったくわからないとする。
 10人は正解がアイボだと知っているので、アイボを選ぶ。
 アップルの2つの製品を知っている30人は残る2つのどちらか迷う。2つのうち1つはアイボなので、正解の確率5割で15人がアイボを選ぶと確率的には考えられる。あとの15人は、アイポッド、アイフォン、アイパッドのどれかを選ぶ。3つのうち1つを選ぶことになるので、確率的にはそれぞれ5人ずつ選ぶと想定される。
 残る60人は、どれだかまったくわからないので、あてずっぽうで4つのうち1つを選ぶ。確率2割5分でそれぞれ15人ぐらいが選ぶと想定される。
 合計すると、アイボだと指摘するのは10+15+15で40人。残る3つには、5+15でそれぞれ20人ぐらいが選ぶと想定される。正解を知っている人がたとえ10人しかいなかったとしても、「ライフライン」が正しい答えを返す可能性は高い。

 アメリカ版「クイズ$ミリオネア」の場合だと思うが、ペイジの本には、10回のうち9回は正しく予測すると書かれている。また日本版ウィキペディアの「クイズ$ミリオネア」の項目には次のように書かれている。

「前半の比較的易しい問題では、正解の選択肢に圧倒的(80%以上)に票が集まり易い。難問が多い後半では票が大きく割れることもあり、最多票を裏切ったり、最多票を答えて不正解退場になるケースも少なくない」。

 たしかに「ライフライン」の答えは確率的に正しい可能性が高いというだけで、つねに正しいとはかぎらない。しかし、正しい可能性が高いことは確かだ。

「正しい可能性が高いというだけのそんなアテにならないことで、大事な政治的決定に使うのはトンでもない」という批判もあるかもしれない。こうした批判が出ると、東氏の『一般意志2・0』同様、このようにして示される意志に全面的に従うのではなくて、参考意見として使えば‥‥などと腰が引けてきそうだが、いまの投票が示す民意もいつも正しいとはかぎらない。さらに、国会などでの議員による投票ともなれば、党利党略や私利私欲、さまざまな要因がからんで、正しいかどうか。疑問に思う人は少なくないだろう。
 


●選挙VS予測市場――正しい結果を導くのはどちら?

 今年か来年かはわからないが、そう遠くなくやってくる総選挙では、消費税値上げに賛成するかどうかが問われるだろう。
 何も手を打たずに選挙をすれば、税金を上げることに賛成する人は少ない。そこで政権側は、「税金を上げないと年金を払えなくなるし、国家財政も破綻します」などと有権者の理性に訴えて説得しようとしている。

 有権者のほうは、「そうは言っても税金が上がるのはイヤだよな」などと感情論で葛藤したり、あるいは、「経済成長の足を引っ張る増税は愚策だ」などと別の論理で賛成しない人もいるだろう。しかし、「ともかくイヤだ」という感情(というか直感というか)にゆだねて投票する人は少なからずいるはずだ。
 この場合には、(東氏が恐れる)情念に導かれる政治が行なわれることになる。

 一方、「3年後に消費税は何パーセントにすべきだと思いますか」という予測市場を開設し、「現状のまま」「10パーセントにする」「15パーセントにする」「20パーセントにする」などの選択肢をあげ、それぞれの場合にどうなるか立場を異にする専門家に具体的なデータをあげてもらって投資する。この場合は、どうしてほしいかではなくて、どうなると思うかに賭けるわけだ。さて、少なくない人が感情にもとづいてする投票と、客観的な思考にもとづく予測のどちらがより従うべき民意だとあなたは思うだろうか。

 

●スコット・ペイジ『『「多様な意見」はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき』 (日経BP社)。ジェームズ・スロウィッキーの『「みんなの意見」は案外正しい』と少し違うのは、多様な「みんな」の意見をただ集めれば正しくなるわけではなくて、認識について多様な人を集める必要があること、また凡人をたくさん集めるよりはすぐれた能力がある多様な人を集めたほうがいいと指摘している。

afterword
ペイジの本では、採用についてもおもしろい指摘をしていた。試験の成績だけではなくて、どの問題に正解したかを見ることが必要だという。10問中6問、5問、4問正解した3人がいて、もし5問正解の人が6問正解者と同じ問いに正しく答えていて、4問正解の人は6問正解者が不正解だった問いに正しく答えているのであれば、6問正解の人の次に4問正解の人を採用したほうが組織にとっていいはずと書いている。たしかに。

 

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.721)

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