« 「暗黙の民意」による政治をするとき | トップページ | 政治家が決められなければ市民が決める――「ふつうの人びと」がまとめた財政赤字削減策 »

2012.04.23

良識を発揮できるのは政治家ではなくて素人(しろうと) ――討議型世論調査

選挙によって選ばれた政治家が何も決められず、
国民の意思を反映できないならば、
一般人が政治にもっとかかわるしかない。
そうした方法が模索されている。

●世論調査はほんとうに「民意の表われ」か

 政治家の議論がたいていおもしろくないのは、立場があらかじめ決まっているからだ。野党の政治家は、与党の言うことに反対するつもりで議論している。た とえ内心は相手の言うことがもっともだと思っても、ともかく反対する。意見が変わらないのでは議論を聞いていてもスリリングではない。国会の議論も同じで、どこの党の政治家かによって言うことが決まっている。

 いまの国会を与党・民主党は「熟議の国会」などと呼んでいるそうだ。参議院で過半数割れしている現状では、与党は、野党と話し合って賛成してもらうしかない。それでそう言っているわけだが、野党はそうそう言うなりにはならず、決まらない。

 このように代議制民主主義が行き詰まりつつある。それを代替するような仕組みはないかとこのところあれこれ探っているわけだが、今回とりあげる討議型世論調査もそうしたもののひとつだ。日本のメディアなどでも取り上げられ始め、注目度はしだいに高くなっている。

 民意を政治に反映させる方法としてはまず選挙があるわけだが、選挙はときどきしか行われない。しかも政策ではなくて人を選ぶ。候補者の言っていることすべてに賛成できなくても誰かを選ぶしかない。ひとつひととつの政策決定に民意が十分に反映されるとは言いがたい。
 そうした欠点を補うために世論調査が行なわれる。とくに最近は頻繁に行なわれ、政権の支持率が下がると、総理大臣のクビが飛ぶ。

 世論調査は「民意の表われ」とはいっても、その世論は、かかってきた調査の電話などにそのときの気分でイエス・ノーを答えたものだ。よく考えられた答えとは言いがたい。簡単なことならともかく、複雑でいろいろな条件を考えてみる必要がある問題はとくに、世論調査の結果を過信するわけにもいかない。

 スタンフォード大学のフィシュキン教授が提唱した討議型世論調査は、無作為抽出した人たちにまず世論調査を行なったうえで、参加者を募ってフォーラムを 開く。調査対象のテーマについてバランスのとれた資料を用意しておき、集まった人たちに読んでもらい、10人から15人といった少人数のグループに分かれ て議論する。さらに議論で出てきた疑問点などを全体会議で専門家や政治家などに尋ねる。調査対象のテーマごとにこうしたことを繰り返し、最後にまた調査する。対面式だけでなく、オンライン方式で行なわれる場合もある。

 このように時間をかけて熟考してもらい、どう答えが変わるかも見る。変化があまりなければふつうの世論調査でもいいが、変化するようなら、従来の世論調査ではやはり不十分ということになる。

●2泊3日の世論調査

  日本でも討議型世論調査は、これまで5回行なわれたようで、藤沢市の市政についての調査なども市のサイトに載っている。討議型世論調査のサイトでは、年金についての調査を公開している。

 この年金調査では、無作為抽出した3000人に事前にアンケートし、2143人から回答を得た。フォーラム参加者を募ったところ127人が参加した。少人数での議論と全体会議それぞれに1時間半ほどかけて、3つのテーマについて2泊3日の泊まりがけで調査している。

 最初と最後の調査を比較すると、年金を全額税負担する方式に賛成する人が28パーセントから47パーセントに倍増し、反対する人は51パーセントから32パーセントに減って逆転している。
 全額税方式化は税の引き上げを意味する。そのため事前調査では反対が多かったが、議論を経て、賛成者が増えた。高齢化が進行していくなか、現行の保険料方式を維持していくのはむずかしいと参加者が認識したためとレポートは説明している。

 最低保障年金の創設については、当初は賛成・反対が同じぐらいだったが、反対する人が賛成者の倍になった。最低保障年金にかかるコストが懸念され、また保険料を収めなかった人を税金で一律救済することへの不公平感が影響したという。

 年金には、自分が払った保険金を積み立てて老後に年金としてもらう積立方式と、現役世代が払った保険金から高齢者に支払われる現行の賦課方式がある。
 若い世代は積立方式、高齢者は賦課方式に賛成する傾向がある。当初は積立方式に賛成という人が7割近くいたのに、大きく減り、賦課方式に賛成する人とほ ぼ変わらない3割台になった。積立方式への制度移行にともなうコストの大きさがわかったためで、「(賦課や積立ではない)第3のもっとよい案はないのか」 とか「賦課方式を維持しながら若い世代に負担をかけない方法はあるか」といった意見も出た。積立方式に変えればよいと考えていた参加者が疑問を感じ、異な る改革の可能性を模索し始めたと分析している。

 おもしろいことに、世代間の考えの差は議論を経て小さくなっている。年金は世代間の利害が対立する問題で、資料を読んだ段階では、損得がはっきりわかっ たことで世代間の差が広がった。しかし議論すると、参加者が自分の世代の観点からではなく、世代にとらわれない制度選択をするようになった可能性があると いう。


●討議型世論調査の課題と可能性


 素人は、議論を経て、自由に意見を変えられる。自分の利害すら超え、妥当な結論に近づいている。一方、政治家は、次の選挙のことを考え、支持母体の意向からも自由にはなれない。国会を「良識の府」などと呼ぶが、本当に良識を発揮できるのはむしろふつうの人のほうだろう。


 この討議型世論調査に問題点があるとすれば、討議に参加している人に偏りがあるということだ。最初の調査は、人口動態を考慮して無作為抽出したのだろう が、長時間の議論に参加できる人はかぎられる。フィシュキン教授は、代表制のある調査にするために、わざわざ乳搾りを派遣して牛を飼っている人にも来ても らったという苦労話を語っているが、なかなかできることではない。先の年金の調査でも50代60代の参加者が多く、30代が少ない。調査者を適切に選ぶことが重要であるとわかってはいても容易ではない。

 ただ、世論調査が目的ならば代表性のある調査者を集める必要があるものの、政治的決定を支援するための方法と割り切ってしまえば、それほどこだわる必要はないのかもしれない。
 裁判員制度でも、裁判員は国民全体の人口動態を代表して選ばれているわけではない。きちんと判断できる人であればそれでいい。世代や男女、住む場所と いった違いを超えて良識ある結論を導き出せるのであれば、参加者の属性にこだわる必要はないことになる。調査テーマにもよるが、年金のように世代間の考え の違いが大きい問題でもそこそこの結果になるのであれば、テーマによってはいよいよこだわる必要はないのかもしれない。


afterword
前回まで、特定のテーマについて情報を提供したうえで、ネットでの議論なども参考にしながら、予測市場を使い、不特定多数の人の考えを聞くことを提案した。討議型世論調査は、討議する点が大きく違うが、それを除けば、けっこう近い発想のようにも思われる。


関連サイト

●討議型世論調査のプロジェクトを展開しているスタンフォード大学討議型民主主義センターのサイト(http://cdd.stanford.edu/)。海外の調査ではテレビに協力してもらうことも意識しているようだ。テレビでもネット動画でも、放映すれば、視聴者の考えが深化する助けになる。住民 投票するのでも、こうして多くの人の考えを深めたうえでやったほうが正しい判断を得られる。
●慶應義塾大学DP(討論型世論調査)研究センター(http://keiodp.sfc.keio.ac.jp/)のサイト。このセンターのリーダーの ひとり曽根泰慶応大学教授は、タウン・ミーティングのような参加民主主義は、関心の強い能動的な参加者が集まり、出る意見にバイアスがかかっている可能性 があり、裁判員と同じく、無作為抽出で選ぶ必要があると言っている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.724)

« 「暗黙の民意」による政治をするとき | トップページ | 政治家が決められなければ市民が決める――「ふつうの人びと」がまとめた財政赤字削減策 »

政治」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/56597/54520851

この記事へのトラックバック一覧です: 良識を発揮できるのは政治家ではなくて素人(しろうと) ――討議型世論調査:

« 「暗黙の民意」による政治をするとき | トップページ | 政治家が決められなければ市民が決める――「ふつうの人びと」がまとめた財政赤字削減策 »

2014年8月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31