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2012.03.26

フェイスブックの上場申請書に見る強みとリスク

日本はフェイスブックの最重要戦略ターゲットのひとつだ。
またフェイスブックの抱えているリスクは強みでもある。
そういう構造が株式公開の目論見書から見えてくる。

●日本はフェイスブック垂涎の市場

 株式公開のための書類には、会社のリスク要因が列挙されている。フェイスブックの上場申請書にももちろん書かれている。それを読むとフェイスブックの強みと弱点を読みとれる。

 フェイスブックの11年の収入は37億1100万ドル(約3000億円)。10年が前年比約2・54倍、11年も88パーセント増。純利も、11年が10億ドルで、10年が前年比約2・64倍、11年も65パーセントの大幅増だ。しかし、伸びは落ちてきている。
 これまで利用者の増加にともなって収入が増える構造だった。利用者数がネット人口の一定の割合に達してしまえば伸びにくくなる。この書類でも、リスク要因としてそう指摘されている。

 対策としては、フェイスブックがまだ浸透していない国の利用者を増やすことだ。
「われわれの戦略」と題した章のトップにまさにそう書かれている。「グローバルな利用者コミュニティを拡大する」と次のように言っている。

「ブラジル、ドイツ、インド、日本、ロシア、韓国のような比較的浸透していない大きな市場を含む、あらゆる地域の利用者基盤を成長させていくことに焦点をあてる」。

 チリ、トルコ、ベネズエラはネット人口の80パーセント以上、英米は60パーセントほど、ブラジル、ドイツ、インドは20-30パーセント、そして日本、ロシア、韓国は15パーセント以下の浸透率だと指摘している。列挙している国のなかでも日本、ロシア、韓国はとりわけ低い浸透率で、これら「フェイスブック後進国」の利用者を増やすことが最重要の課題というわけだ。
 競争相手としてまず上がっている企業はグーグル、マイクロソフト、ツイッターだが、各国で強い位置を占めているSNSとしてミクシィも名指しされている。

 フェイスブックの収入において海外のウェイトは着実に高くなってきている。
 09年には米国内の収入が5億1800万ドル、国外が2億5900万ドルで、国外の割合は33パーセントだったが、年々高くなり、10年には44パーセントを占めるまでになっている。このままいけば、早ければ今年中、遅くても来年には国外の収入が国内を上まわる。
 国外の主要な収入源は、現在は西ヨーロッパ、カナダ、オーストラリアだそうだが、国外のウェイトが高くなればなるほど、「未開の大国」日本などの利用者を拡大することが重要になってくる。

●モバイルがフェイスブックの大きなリスク?

 もうひとつこの書類で知ったフェイスブックの意外な弱点はモバイルだ。
 フェイスブックはモバイルにはまったくディスプレイ広告を出していなくて収益がないのだそうだ。こう言っている。

「フェイスブックのモバイルでの利用を促進するモバイル製品を開発していることもあって、予測可能な未来においてモバイル利用者の成長率が月間アクティヴ利用者全体の成長率を上まわると予想している。モバイル利用者の多くは、ディスプレイ広告を表示しているパソコン上のフェイスブックにもアクセスして使っているが、しだいにわれわれの利用者が、おもに携帯端末でフェイスブックにアクセスするようになっていくことはありうる。われわれは現在、フェイスブックのモバイル製品から直接しかるべき収入を得ていないし、うまく収入を得られることを証明してもいない。だから、利用者がパソコンでアクセスする代わりにますますフェイスブックのモバイル製品にアクセスするようになり、そしてわれわれがモバイル利用者から収益をあげられないならば、われわれの収入や財務に否定的な影響をおよぼす」。

 今後モバイル利用者が増えていくことはまちがいない。となればたしかに大きなリスク要因だ。しかし、これは同時に大きな強みでもある。フェイスブックがいつまでもモバイル広告市場に手をつけないなどということは考えられない。今後有望なまったく未開拓な分野がフェイスブックにはあることになる。
 この申請書で紹介されているデータによれば、世界のモバイル広告市場は10年が15億ドル。毎年64パーセント平均で拡大していき、15年には176億ドルと10倍を超えると予想されているという。フェイスブックにはまだまだ大きく成長できる分野が残っていることになる。

●フェイスブックの広告リスク

 また、広告の割合が高いこともリスク要因として上がっている。
 広告の売り上げは、09年から10年が約2・45倍、10年から11年が69パーセント増と伸び率はやはり鈍化している。今後も急成長を続けるのであれば、広告以外の分野の開拓も必要だ。

 しかしグーグルと比べれば、状況はかなりいい。グーグルはいまもって収入の96パーセント前後のきわめて高い広告依存率だ。グーグルはこうした状況を脱しようとしてきたが、なかなかうまくいかないでいる。

 フェイスブックも09年には収入の98パーセント、10年も95パーセントが広告収入というきわめて高い広告依存率だった。しかし11年には、85パーセントと劇的に下がっている。これは「フェイスブック・ペイメント」という決済システムを導入して手数料収入を得ることに成功し始めたからだ。広告は景気に左右されやすく、収入の不安定要因になりうるが、フェイスブックは早くも広告以外の収入の道を確保し始めている。

 とはいえ、収入の多角化という観点で、不安定要因がないわけでもない。
 ゲーム・アプリ会社のジンガからの売り上げが、11年にはフェイスブックの全売り上げの12パーセントを占めるまでになっている。この売り上げは、バーチャル・グッズの購入などで「フェイスブック・ペイメント」が使われたさいの手数料収入や、フェイスブックに出したジンガの広告費をあわせたものだという。フェエイスブックの売り上げのなかでジンガが占める割合は、09年と10年は10パーセント以下だったが、着実に大きくなってきた。またフェイスブックがジンガのアプリに仲介した広告も多いとのことで、申請書が指摘しているとおり、ジンガのゲームの人気がなくなったり、ジンガがフェイスブックに見切りをつけてほかのプラットホームに移った場合に受ける潜在的ダメージは拡大している。

 さらにフェイスブックは、外部の企業が自分たちのデータを使ってサービスを展開することを認めており、こうした外部サービスにもフェイスブックの広告は表示していないのだそうだ。そのために自分たちの収入が減ってしまう可能性や、プライバシーの問題などに対するメディアの批判もリスク要因としてあがっている。

 リスクを心配すれば切りはないが、さしあたりフェイスブックは弱みを強みに転化できる余地が大きい。その点が現在のフェイスブックの最大の強みだろう。

afterword
 これまで利用者は、匿名でウェブサイトにアクセスし、みな同じコンテンツを見ていた。しかし、大規模データベースやコンピューティング技術の発展、最近のソフトウェアの革新によって、利用者の関心に応じてパーソナライズされたウェブ体験ができるようになったと申請書で書いている。たしかに自分たちも気がつかないうちにそれぞれ「違うウェブ」を見るようになってきている。

関連サイト
●フェイスブックの上場申請書(
http://sec.gov/Archives/edgar/data/1326801/000119312512034517/d287954ds1.htm)。
●フェイスブックは2月末、KDDIなども含めたモバイルなどでフェイスブックのコンテンツの決済を簡単にできる仕組みを発表した(http://developers.facebook.com/blog/post/2012/02/27/helping-improve-the-mobile-web/
。モバイルと広告外収入の増大という上で書いた2つの弱点のどちらをもカバーする試みで、早くも手を打ち始めたわけだ。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.719)

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