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2012.03.21

27歳のフェイスブックCEOの「資本主義発見の物語」

フェイスブックの上場申請書のザッカーバーグの手紙からは、
19歳で会社を作り、資本主義の仕組みをいかにして理解するようになっていったかが読みとれる

●グーグルの上場から8年経って

 今回はフェイスブックの上場申請書をとりあげるが、こうした書類について書くのは2度目だ。

 前回は04年のグーグルの上場のときで、創立者2人が10倍の議決権の株を持つことに批判が集まった。しかし、グーグルの創立者たちは、目先の利益を犠牲にしても長期的な利益を追い求めるという自分たちの考えを実現するためには必要であり、メディア企業なども編集権を守るためにそうしていると抗弁した。

 そもそも彼らは株式資本主義を信用していないんじゃないかとそのとき私は書いた。
 グーグルのやり方は、株式資本主義を信じている人びとには不満だったようだが、彼らが不信感を抱く気持ちもわかる気がした。上場して目先の利益を確保しなければならなくなることへの警戒感はいまやかなり広く共有されるようになってきたようだ。
 フェイスブックのCEOザッカーバーグも、上場すれば世界有数の金持ちになるにもかかわらず、できるだけ上場を遅らせたがっていた。
 もっとも、上場によって利益をあげられる人びとが待ちわびていたから、そうそう先延ばしもできなかった。

 議決権に格差がついた株の発行も、強い権限を手放したくない経営者が率いる企業では見られるようになってきたらしい。04年当時には「非常識」と見られたグーグル方式が、それほど異例のことでもなくなってきて、以前ほどの反発はないようだ。

 上場申請書のなかのザッカーバーグの手紙についてはすでにいろいろと取り上げられているが、グーグルの創立者たちには株式資本主義に対する疑問があったように感じられたのに対し、ザッカーバーグの手紙からは、今回書くように、いわば資本主義発見の物語が読みとれる。


●お金がいらない時代の申し子

「フェイスブックはもともと会社を作るために作られたわけではありませんでした」という早くも有名になり始めた言葉でザッカーバークの手紙は始まっている。
 また「われわれの使命とビジネス」と題したくだりでも、ザッカーバーグはこう書いている。

「私は、そうしたものがあるといいと思ったので、フェイスブックの最初のバージョンを自分で作ることでスタートさせました。それ以来われわれのチームに引き寄せられた優秀な人びとの多くの考えやコードでフェイスブックはできています。優秀な人びとの多くは、いいものを作ったりその一部になりたいと思っていますが、彼らはお金も欲しいのです。チームを作るプロセスを通して、そしてまた開発者のコミュニティや広告市場、投資家の基盤作りを通して、私は強い推進力や成長力を持った強い会社を作ることが重要な問題を解決する多くの人びとを集める最良の方法になりうることを深く理解するようになりました」。

 お金を稼ぎたくてサービスを作っているのではなくて、よいサービスを作るためにお金を稼いでいるのだとザッカーバーグは続いて説明しているが、このくだりでおもしろいのは、フェイスブックに集まってくる人びとは「お金も欲しいのだ」とわざわざ書いている点だ。当たり前のことのように思うかもしれないが、ザッカーバーグにとっては当たり前でなかったからこそ、こう書いているのだろう。

 ザッカーバーグは、まずお金が欲しいと思うタイプの人間ではない。好きなことをすることとお金を稼ぐことのどちらを選ぶかといえば、迷わず前者をとるだろう。もしお金がないまま年をとればザッカーバーグも違ったことを思い始めるかもしれないが、少なくとも若い彼は、金なんてそんなに要らないと思っている(そう思っている人間のところに莫大な金が行くのだから皮肉なものだが)。お金がそんなにあったってそもそも使い道がないとも思っているはずだ(もっとも金のかかるものでいえば、どうも専用の飛行機は欲しかったようだが、それも手に入れてしまった)。

 彼が欲しいのはまずパソコンで、いまやそんなに高くないし、ネットにつながっていればかなり多くのものが無料か格安で手にはいる。ますますお金がいらなくなっている。ザッカーバーグは、コンピューターの高い技術があればあるほどますますお金がいらなくなっている時代の申し子だ。だから、フェイスブックを始めた19歳のころの彼が、他人もそんなものだろうと思っていたとしても不思議ではない。

 ところが、世の中はそうではなかった。
 フェイスブックをすぐれたものにするためには、優秀な人を集める必要があるし、そのためにはお金もいるという、大人なら誰でも知っていることを19歳のザッカーバーグはだんだんと学んでいったわけだ。


●広告も上場もしぶしぶ‥‥?

 優秀な人びとを集めるためには、会社をいいようにされるのではないかと警戒していたベンチャー投資家たちと付き合うことも必要だったし、広告掲載も承諾せざるをえなかった。

 広告ビジネスの立ち上げについて、カークパトリックの『フェイスブック』がおもしろい逸話を紹介していた。
 グーグルからフェイスブックのナンバー2に引き抜いたサンドバーグが広告ビジネスを検討し始めると、ザッカーバーグは長期の旅に出てしまった。広告にもビジネスにも熱心でない自分がいると邪魔になるという配慮があったのかもしれないが、そもそもそうした「汚れ仕事」に彼は興味がなかった。
 しかしこの手紙では「強い推進力や成長力を持った強い会社を作ることが重要な問題を解決する多くの人びとを集める最良の方法になりうることを深く理解するようになりました」と書いている。

 ザッカーバーグには、世の中で当たり前に通っていることでもあらためて自分で理解しないと納得しない、そんな頑固さがあるように思われる。この手紙には「われわれ」と「私」が混在しているが、「私」と書いているところはまさにザッカーバーグ自身の声だろう。「深く理解するようなった」というこの文章の主語も「私」である。

「金を稼ぐことが主要な目標だと思ってわれわれは朝目覚めるわけではないのですが、われわれの使命を達成する最良の方法は強くて価値のある会社を作ることだと理解しています。
 上場についても同様に考えます。われわれの従業員と投資家のために上場します。彼らに株を与えたときに、われわれは懸命に働いてその価値を高め、売買できるようにすると約束しました。この上場はその約束の達成なのです」

 目先の利益を追わなければならなくなる上場に積極的ではなかったものの、ザッカーバーグは、こう考えて自分を納得させたのだろう。なぜ上場して、会社を大きくしていかなければならないか、ザッカーバーグは時間をかけて学び、理解していったわけだ。
 この手紙をザッカーバーグの成長と資本主義を受け入れていったプロセスの物語として読むと、興味深いものがある。


afterword
今回は、上場申請の書類からフェイスブックの強みとリスクを読み解いてみるつもりだったが、ザッカーバーグの手紙だけで終わってしまった。「フェイスブックの解剖」は次回あらためて。

関連サイト
フェイスブックの上場申請書(
http://sec.gov/Archives/edgar/data/1326801/000119312512034517/d287954ds1.htm)。ザッカーバーグの手紙には、フェイスブックの使命は世界をよりオープンにして結びつきを深めることにあり、そうなれば世界はもっとよくなると信じているということも繰り返し書いている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.718)

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