フェイスブックの急成長を支えるすご腕の女性COO
20代の若者がメガトン級のネット企業を作りあげる
などということは、日本では考えにくいが、
アメリカのベンチャーには支える優秀な人材がいる。
●注目度をあげている華麗なキャリアのナンバー2
私のように原稿を書いている人間はフェイスブックに批判的なことを書くが、8億もの利用者がいるフェイスブックに問題があると言うのは、ネットでビジネスをしている人にとって言っても仕方がないたぐいのことかもしれない。CEOのザッカーバーグが目指すとおりフェイスブックがネットの基本的なインフラになってしまえば、自分の立っている大地に文句を言っても始まらないのと同様、イチャモンをつけても仕方がないことになる。
日本ではフェイスブックはまだそこまでは行っていないが、このまま成長を続けていくと世界レベルではますますそんな存在になっていくだろう。
こうした急成長を成し遂げたのは、第一にはもちろん創立者でCEOのザッカーバーグの功績だが、彼を支え、フェイスブックを利益が上がる会社にしたのはナンバー2のシェリル・サンドバーグだ。この女性に対する注目度も高まっている。フォーブズ誌の「もっともパワフルな50人の女性たち」に07年に最年少の38歳でランキング入りして以後、順位は毎年上がり、昨年は5位。米メディアで取り上げられることも増えている。
フェイスブックに移る以前、彼女はグーグルにいた。グローバル・オンライン・セールスなどを担当する副社長で、セルフ広告を軌道に乗せた立役者だった。
08年にフェイスブックに移ってからは、金儲けに熱心でないザッカーバーグを説得して広告事業に乗り出させ、転職後3年でフェイスブックを黒字にした。フェイスブックは2月1日に上場申請したが、積極的ではなかったCEOをよそに、サンドバーグがその準備に動いたようだ。
アメリカの会社は、資産1000万ドル・登記株主500人を超えると定期的に財務状況を公表しなければならなくなる。グーグルはその時点で上場した。フェイスブックも分水嶺を超えるので、その後まもなく株式公開すると見られていた。実現すれば、1000億ドル(約7兆7千億円)のメガトン級株式公開になると予想するアナリストもいる。
●フェイスブックを選んだ理由
グーグルは、大学院生だった創立者2人を支えるために経営のプロ、エリック・シュミットを招き入れ、トロイカ体制を築いて急成長した。フェイスブックでサンドバーグは、このシュミットの役割を果たしているようだ。会社経営にも組織運営にもまったくシロウトだった20代のCEOを支え、人を雇い入れ、チームワークを固め、利益を生み出す方法を見出した。
アメリカのIT企業の幹部はしばしば社員を畏怖させることで統治してきた。ビル・ゲイツもスティーブ・ジョブズもそうで、彼らの目の前でプレゼンするのはほんとうに怖かったと多くの社員が語っている。ザッカーバーグも、自分の興味が失せてしまうと、誰であろうとその場にいないかのような状態になって話を聞かず、傲慢な人物とも見られている。
それに対しサンドバーグは、若い社員たちにも自分から積極的に話しかけ、人の話を聞く親身の対応で、年の違う若い社員たちに溶けこんだようだ。
そもそもフェイスブックに入ったのも、ザッカーバーグと徹底的に話しあった結果だった。
ザッカーバーグはあるクリスマス・パーティでサンドバーグと出会い、それから彼女の家で何度も夕食をともにした。サンドバーグは早寝で9時ぐらいには寝てしまうらしいが、ザッカーバーグと会っていたときには、しばしば夜中に家から彼を送り出していたという。
たとえ仕事の話でも男女が二人でしょっちゅう会っていればとかくのウワサを立てられてしまうことはアメリカでも変わりはないが、サンドバーグは、IT関係の仕事をしている夫がいる家に招くことで、あらぬ誤解を避けようとしたのだろう。
ザッカーバーグは彼女が気に入り、また38歳のサンドバーグのほうも自分より15も若いザッカーバーグのことを仕えるに値する人物だと判断した。
サンドバーグは経営手腕があるものの、大学では公共政策が専門だった。世界銀行に務めていたこともあって、発展途上国の人びと、とくに女性の生活改善などに興味を持つような人物だ。だから、金儲けよりも世界を変える夢を語るザッカーバーグと意気投合したようだ。
●次々と小さな会社に転職した「キャリアアップ」
彼女の転職の経歴はとてもおもしろい。
クリントン政権で財務長官を務めたローレンス・サマーズは、のちにハーバード大学学長なども務めた経済学者だが、サンドバーグはサマーズの学生だった。サマーズは彼女の能力を認め、91年に自分が世界銀行のチーフ・エコノミストになったときには彼女をアシスタントとして連れて行った。続いて政権入りしたときには主席補佐官にした。秀才ぞろいのハーバードでもとりわけ優秀な学生だったわけだ。
その彼女が財務長官の主席補佐官の次に01年に選んだ職は、誕生してわずか3年、社員が250人しかいない新興ベンチャーのグーグルだった。彼女は、ビジネス部門の管理職ということだったが、その部門はグーグルにはまだなかった。つまり自分が率いる組織を人を集めて作ったわけだ。
それから7年経ってグーグルは大会社になり、サンドバーグはこんどは自分よりはるかに若い23歳のリーダーが率いる新興ネット企業にまたまた飛びこんだ。「あなたは何をするつもりなの。どこの会社のCEOになってもおかしくないのに」と友人たちに言われたそうだ。
少なくとも日本では、キャリアアップというのは大きな会社に移って前職より高い地位に就くことだろう。どうなるかわからないベンチャー企業に飛びこむことではありえない。
当然ながらグーグルでは、CEOのシュミットを始めとする幹部から引きとめられた。
しかし彼女は、シュミットのような立場の仕事を望んでいたようだ。
CEOであろうがなかろうが、文字どおり会社全体を取り仕切る立場に立ちたかった。しかし、グーグルではシュミットがいて、自分の望む仕事はできない。
フェイスブックが有望な会社であることは08年当時でもわかったし、その会社を率いるザッカーバーグは、グーグルに優るとも劣らない大きな野望を持っていた。それでサンドバーグは、その下で仕事をする意味があると思ったのだろう。
アメリカのIT業界などでは、サンドバーグが次はどこに転身するかが話題になっている。彼女自身は、ザッカーバーグは偉大なパートナーでボスであると言って、さしあたり転身するそぶりを見せてはいない。とはいえ「政界入りするのではないか」とか、「その気があれば大統領だって目ざせる」などと期待する声もある。
彼女が抜ければフェイスブックには大打撃になる。フェイスブックに関心がある人間には、目が離せない存在だ。
afterword
サンドバーグはメインの仕事の広告について、「フェイスブックは、広告市場参加者がネットや販促活動で使う唯一のものではなくて、彼らが何をするときにも使うものにならなくてはならない」と言っている。フェイスブックの広告は、0・5パーセントの人しかクリックしないが、記憶に残って友だちがその商品に触れたときに購入されればそれでいいという。
関連サイト
●「ニューヨーカー」誌のサンドバーグについての長文の記事「女性の場所――シェリル・サンドバーグはシリコン・バレーの男性支配の文化をひっくり返すか(A Woman’s Place: Can Sheryl Sandberg upend Silicon Valley’s male-dominated culture?)」(
http://www.newyorker.com/reporting/2011/07/11/110711fa_fact_auletta)。ザッカーバーグは、広告戦略や人事、経営管理、政治的な問題など自分がやりたくない仕事を自分よりもずっとうまくやってくれるとサンドバーグのことを評価しているそうだ。
●ビジネスウィークの記事「フェイスブックはなぜシェリル・サンドバーグを必要としているのか(Why Facebook Needs Sheryl Sandberg)」(http://www.businessweek.com/magazine/content/11_21/b4229050473695.htm)。「グーグルの失敗」を踏まえ、急成長を続けるフェイスブックをどう肥大化させないかを議論しているという。
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.713)
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