世界を変えるザッカーバーグの信念
27歳の若者の手の上に何億人もの個人情報が乗っている。
驚くべきことが起こっているわけだが、
それによって世界はどうなる?
●日本上陸に成功してもしなくてもフェイスブック的世界
アメリカの若者がどんなことを思っていたとしても、日本にいるわれわれにはたいていそれほどの影響はない。しかし、その若者がウェブを根本的に変えよう
としていて、実際にその力があるとなれば別だ。その若者というのは、このところ取りあげているフェイスブックの創立者でCEOのザッカーバーグだ。
フェイスブックが日本で普及するかどうかはまだわからない。しかし、ミクシィやグリーといった日本のSNSもフェイスブックの強い影響を受けている。
「フェイスブックのマネをしている」と言えば、これらSNSは怒るだろう。マネをしているのではなくて、自分たちも同じようなことを考えていて、SNSの
進化を考えるとフェイスブックと似てくるというのがこれら日本版SNSの主張のようだ。
彼らのメンツにとってこの違いは大きいだろうが、日本のSNSも「フェイスブック化」していくのであれば、結果は同じだ。フェイスブックが日本進出に成
功してもしなくても、日本にも程度の差はあれ「フェイスブック的世界」がやってくる。となれば、ザッカーバーグが何を考えているかはやはり大問題だ。
ザッカーバーグは、世の中はオープンで透明になればなるほどハッピーになると考えている。フェイスブックのプロフィールにも「私は世界をもっとオープン
な場所にしようとしている」と書いている。またカークパトリック著『フェイスブック』のなかで、ザッカーバーグの片腕、COOのシェリル・サンドバーグは
こう言っている。
「マーク[ザッカーバーグ]は、透明性とオープンな社会やオープンな世界についてのビジョンをほんとうに強く信じていて、人びとをそうした方向に導こうと している。彼は、そうした地点に行くためには、人びとが[個人情報を]こと細かくコントロールできるようにして安心感を与えることが必要だということも理 解している。彼は人びとがもっとオープンになると思っているし、その手伝いができれば幸福なのだ。だから彼にとっては、プライバシーは目的を遂げるための 手段だ。私は、それほど確信できないのだが」。
サンドバーグのことは近々取りあげるが、若いスタッフの多いフェイスブックではめずらしく40歳過ぎの「大人」で、フェイスブックのビジネスモデルを確立する役を担っている。
フェイスブックは立ち上げ早々から利用者が自分の情報をきめ細かくコントロールできるようにし、そのことが成功をもたらした。なぜそうしたかというと、
それによって人びとが安心してより多くの情報を出すようになるからで、個人情報のコントロールは透明性を増大させるための手段というわけだ。彼らの目的は
情報共有を推し進めるほうにあるので、公開設定を広げすぎ、利用者が意識しないうちに個人情報が流出し、利用者に不安感を与えてしまう。
だから、サンドバーグのこうした説明はザッカーバーグへの批判でもありうるが、ザッカーバーグを尊敬していると言う彼女に、もちろんそんな気はない。こ
うしたことは、フェイスブックにいる彼らにはわかりきったことのようだ。しかし、「大人」のサンドバーグは、情報を共有すれば世界はよくなるということに
ザッカーバーグほど確信を持てないでいる。
●27歳の若者の手に乗っていることに気づくとき
「プライバシーは目的ではなくて手段。目的は透明性を高めること」という発想が具体的な形になったとき、フェイスブックはしばしば非難のマトになった。
ニュースフィードやビーコンをめぐる騒動はすでに書いたが、09年12月には、名前や写真、友だちのリスト、性別などのデフォルトの設定
を公開にして批判を浴びた。情報を公開したことそのものよりも、フェイスブックの思惑ひとつで個人情報の公開設定が簡単に変わることにショックを受けた人
も多かった。
「あなたが決めた人にしか明かさないから個人情報を書いてくれ」と登録させておいて、突然プライバシー・ポリシーが変わったと公開してしまう。いつそんなことになるかわからないという不安を抱かせた。
人びとの情報はいまや27歳の若者ザッカーバーグの手の上に乗っている。冗談とか比喩ではなくて、ほんとうにそうなのだ。「フェイスブックは企業という
よりも、政府のような仕事をしている」と言う人がいたとカークパトリックの『フェイスブック』は書いていたが、まったくそのとおりだ。ネットのインフラに
なりつつあるフェイスブックは政府以上の個人情報も持っている。そしてそれらの情報は27歳のコンピューター・オタクの手のなかにあるというSFもどきの
「あっと驚く展開」になっている。
●制御がときに不可能になるネットの進化のスピード
プライバシーの設定をめぐって物議を呼ぶのは、フェイスブックがあまりに急成長したためもある。
2010年5月、ザッカーバーグはフェイスブックのブログで「コントロールをシンプルにすること」と題した記事を書いている。
「共有をコントロールしているときにはもっと共有したくなる。もっと共有すれば、世界はもっとオープンになり結ばれる」というシンプルな考えのもとにフェイスブックを始め、当初はほとんど機能のないシンプルなものだったが、いろいろな人が参加し機能が増えた。当初のように学生会員だけだったときとは違っ
て、いろいろな考えの人に応じてきめ細かく個人情報をコントロールできるようにしたために複雑になってしまった。複雑になれば、自分の情報はちゃんと守られているのかと不安を感じる人も出てくる。そこで基本的な情報は公開にして、写真やビデオ、電話番号や住所のような情報は友だちにしか見せないことにしたいと書いている。
頭のいいザッカーバーグは、設定を変更することそのものが不安を呼ぶことも十分にわかっていた。変更点を列挙したうえでこう書いている。「おそらくこれ
が今回の発表の最重要な点だと思うが、これでフェイスブックのプライバシーの検討は終わり、この変更が有用と思ってくれるならばいまの枠組みを長く維持す
るつもりだ。もう変更で悩む必要はないのだ」と。
そしてこう過去を振り返る。
「19歳でフェイスブックを始め、どのように進化してきたかを振り返るとびっくりする。変更するときにはいつもこれまでの教訓から学ぼうとしたが、いつも われわれはまた新たな間違いをしでかした。われわれは完全とはほど遠い。しかし、われわれは人びとや世界にとってもっともよいサービスを作ろうと苦しい努 力を重ねてきた」。
自分たちは間違いを重ねてきたと率直に認めている点はいかにも若者らしいが、こうした文章の端々からも、国境を超えてすさまじい勢いで成長してきたために、彼らの手にあまる事態が容易に生まれうることも感じさせる。
世界がいまや刻一刻と不安定の度を増しつつあるように思うのは私だけだろうか。
afterword
2010年1月の米メディアのインタヴューでザッカーバーグは、多くの企業は、習慣や、自分たちが作ったものにとらわれており、多数の利用者を抱えれば、
たいていの企業は、プライバシーの設定を変えるようなことはしない。しかし、われわれはそれがほんとうに重要なことだと思えばやるのだと述べている。8億
人の利用者がいても「冒険」を恐れないところがすごくもあり、また怖ろしいところでもある。
関連サイト
●2010年5月のザッカーバーグのブログ記事「コントロールをシンプルにすること(Making Control Simple)」(https://blog.facebook.com/blog.php?post=391922327130)
●英語版ウィキペディアの「フェイスブックへの批判」という項目は、「フェイスブック」の項目の記述よりも長い。さまざまな批判にそれだけさらされている
というわけだ(http://en.wikipedia.org/wiki/Criticism_of_Facebook)。フェイスブックは、プライバ
シー保護について利用者をだましたという米連邦取引委員会と昨年11月末に和解した。次回はそれについて。
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.710)
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