フェイスブック化した世界へようこそ
フェイスブックが浸透するというのは
ネット全体が実名化するということでもある。
そうした次世代のネットの誕生によって起こることは?
●ウェブ全体がフェイスブックに組みこまれていく
コンピューター・ウィルスは困った存在だが、ウィルスのように広がるのは、ネットの重要な特徴だ。それがあるときは破滅的な結果を引き起こし、あるときは政治権力をひっくり返し、またあるときは、ボランティアなどの善行を広める。
フェイスブックがネットで広め始めたのは、「実名」である。ネットで情報発信する人々を、匿名の存在から実名の存在に変えていく。
情報発信を実名でするか匿名でするかはしばしばネットで熱い議論になったとはいえ、これはそんなに大きな変化なのか。
私も最初はそう思っていたが、どうもこれは世界を変えるぐらいに大きなことかもしれない。理屈を考えると、そういう気がしてくる。
他のサイトにないフェイスブックの圧倒的に優位な点は、いうまでもなく、利用者のリアルな情報を持っているということだ。それもプロフィールだけでな
く、交友関係など多様な情報を持っている。こうした情報は「ソーシャル・グラフ」などと呼ばれているが、リアルな情報を自分たちで持っているだけでなく、
他のサイトやアプリも利用できるようにしている。
他のサイトなどでも、フェイスブックの「ソーシャル・グラフ」を使って友人・知人のコメントが表示されるし、コメントなどのアクションをすれば、フェイ
スブックに登録した写真や名前が他サイトでも表示される。つまりそれらのサイトでも、利用者は実名の存在になる。そしてコメントしたことが友だちのページ
などにも表示される。このようにして、ほかのサイトもフェイスブックのソーシャル・グラフの世界に組みこまれていく。
●オセロ・ゲームのように実名化
さらにフェイスブックは、09年4月には、「オープンストリームAPI」という仕組みを導入し、フェイスブックのストリームを他サイトで
読めるようにした。フェイスブックにログインせずとも、外部ソフトやサイトで情報を読める。サイトへのアクセスが減る可能性があるのでフェイスブックの会社内部でも反対の声があったが、CEOのザッカーバーグは、Windowsがコンピューターのプラットホームになったように、フェイスブックをインター
ネットのプラットホームにするという。フェイスブックの機能が広く使われるようになれば、サイトへのアクセスが減ってもかまわない。
ザッカーバーグにとっ
て重要なのはフェイスブックというサイトではなくて、利用者が何をし、何に関心を持っているのか、そしてどういった人間関係を持っているかという情報その
ものであり、それを記録しているサーバーというわけだ。こうしてフェイスブックがプラットホームになることを公言している。
ほかのサイトは、フェイスブックに組みこまれるのを歓迎しないのではと思うかもしれないが、むしろ喜んで「フェイスブック化」するだろう。
今後のネット広告では、行動ターゲット型の広告が広がっていく。行動ターゲット広告では利用者がウェブで何を見て何をしたかなどの
行動をもとに、利用者の関心を把握し、興味を持ちそうな広告を表示する。
「関心を把握し」と書いたが、AKB48のCDを買ったからSKE48も関心があ
るのではないかとその広告を出すといったぐあいにあくまでも推定だ。マトはずれかもしれない。若い女性のファッションをあつかったサイトを見ているから、
若い女性だろうと思って結婚式場の広告を出してみたところ、女装趣味の男だったということもありうる。まれなケースといえばそのとおりだが、「推定」はあ
くまでも「推定」で、はずれる可能性があり、実際、けっこうはずれるらしい。
しかし、フェイスブックの情報は自己申告で、親しい人たちが見ている。だから、ウソが少ないと考えられる。フェイスブックの情報を持ってログインしてく
れれば、友人・知人の行動や利用者の関心に応じて広告を出せるし、商品などのお勧めもできる。だから、ほかのサイトは喜んでフェイスブックの世界に組みこ
まれていく。
ヤフーやグーグルなども、それぞれのIDとパスワードでさまざまなサイトにログインできるようにしているが、フェイスブックもまたそのアカウントでほかのサイトにログインできる「フェイスブック・コネクト」と名づけた仕組みを始た。
他サイトやアプリで利用者がフェイスブック・コネクトを使ってログインすれば、それらのサイトやアプリもフェイスブックの持っている個人情報を使える。
利用者にしても、いちいち個人情報を入力してログインするのは面倒だが、
「フェイスブックのアカウントでログインしますか」と尋ねられ、「承諾すると、あなたのこれこれの個人情報がフェイスブックから渡されます」といったメッ
セージにクリックひとつで承諾すればいい。
たとえばニュース・サイトが、記事を無料で読める代わりに、フェイスブック・コネクトでのログインを求めるなどというのはいかにもありそうだ。こうしてログインすると、匿名の利用者が実名の存在に変わる。
オセロというゲームがある。相手のコマをはさんで自分のコマを置くと、相手のコマが裏返り自分のコマになる。これと同じく、匿名のウェブ・サイトが次々と「裏返り」、実名サイトに変わっていく。
●フェイスブックは次世代のインフラ
このようにしてフェイスブックが持つ利用者情報はさまざまなウェブ・サイトの基本的な情報になり、フェイスブックは次世代のインフラになっていく。
フェイスブックのほうも、他サイトでの行動まで収集でき、ますます広範な個人情報を集められる。プラットホーム化することによってますます盤石な存在になっていく。
実名化したウェブは、もはやバーチャルな世界というより、リアルな世界そのものだ。ネット外の行動も変えていくだろう。
たとえばモノを買うときにフェイスブック・コネクトでの認証を求められる、といったことも起こるかもしれない。
フェイスブックは、「フェイスブック・クレジット(日本ではフェイスブック・ポイント)」という「通貨」も発行し始めている。ゲームのアイテムやアプリ
の購入に使え、アメリカのスーパーなどではフェイスブック・クレジットのギフト・カードまで発売し始めたようだ。フェイスブックがクレジットカード会社に
なりつつある。
また人間関係も変わる。
会う前からその人の交遊関係や趣味、関心など詳細な情報がわかる。何を考えているのかよくわからない、多かれ少なかれゾンビのような人間たちで成り立つ世界ではなくなる。
情報もお金も支配するフェイスブックの世界。
フェイスブックというインフラにあまねく浸透された時代がやってくる。
「フェイスブックの新たな世界へようこそ」。
はたしてそれは、幸せな世界だろうか。
afterword
こうしたフェイスブックの動きを見て、昨年9月には、ミクシィなども自分たちの持っている人間関係情報を他企業も使えるようにし始めた。ただし、フェイスブックのように詳細なプロフィールを登録する動機付けをミクシィは作れるだろうか。
関連サイト
広範な情報を集めるフェイスブックやツイッター、グーグルやヤフーの検索などに対する警戒感も高まっている。これらのサイトでトラッキングできないように
する「Disconnect」というChromeなどの拡張機能も配布されている(http:/disconnect.me/)。
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.706)
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