もっと言葉豊かに自己表現できるようになったフェイスブック
自分の行動が筒抜けになるのをプライバシー侵害と思うか
ほかの人にもっとわかってもらえると思うか。
そこがフェイスブックについていけるかの分かれめのようだ。
●自分の人生の回顧ページが自動生成される
フェイスブックについて、あれこれ疑問点を挙げながらも、このところ長々と取り上げてきたのは、フェイスブックがネットはもちろん、リアルな世界までも変える可能性があるからだが、フェイスブックは、きわめて興味深いインターフェイスの実験も繰り広げている。
前回は、今年9月のフェイスブックの開発者向けイベント「f8」でのCEOザッカーバーグの言葉をたどりながら、フェイスブックの新たな機能の発表をとりあげた。今回は彼の言葉を通して、フェイスブックがどういう方向に向かっているのかを見てみよう。
今年フェイスブックが打ち出したのは、アプリを使って何を見たり聞いたり読んだりしたかをリアルタイムに情報共有できるソーシャルな仕組みと、人生の重要なできごとをコンパクトに表示する「タイムライン」だ。
友人・知人が何をしているかをリアルタイムに表示するというのは言葉の上では簡単だが、たくさんの友人・知人の行動が次々と画面上に表示されれば鬱陶しい。重要な情報も埋もれてしまう。
もちろんそんなことはザッカーバーグもわかっている。
「よく耳にするのは、共有したいことはあるけれどつまらないものをニュースフィードに載せて友だち をうんざりさせたくないという声です。情報を発信したいが、迷惑はかけたくない。そこでもっと軽量で、ちょっとした物事を表示できる新しい場所を作ること にしました」。
この「ちょっとした物事を表示できる新しい場所」はリアルタイムフィード(ティッカー)と名づけられた。
ティッカーというのは電光掲示板のことで、電光掲示板ではニュース記事が次々と流れるように表示される。それと同じく、フェイスブックの画面の右端の列に「身の回りに起こっているあらゆること」を次々
と表示していく。
「ときおり目にとまることもあるでしょう。でも速いスピードでどんどん変わるので、友だちのちょっとしたできごとが表示されてもわずらわ しくは感じません」。
それぞれの行動の情報は「タイムライン」にも表示される。料理のタイムラインには自分が何を作ったか、音楽のタイムラインには自分が何を聴いたかが表示
される。最近の情報については詳しく、過去のできごとはセレクトされ、雑誌が年末に一年間の回顧特集をするように選んで表示する。
●パソコンが情報感知器に変わる!!
これまでは、友人・知人が「いいね!」ボタンを押して何をいいと思い、どういうコメントをしたかが「ニュースフィード」に表示された。しかし、友人・知人のリアルタイム情報まであつかい、情報量が増えるために、情報のレベルによって表示場所を変えることにしたわけだ。ティッカーに表示されるリアルタイム
情報のなかで特異な行動パターンがあれば、それをメインの「ニュースフィード」に表示する。
特異なパターンとして認識するふたつのケースをザッカーバーグは挙げている。「友だちが珍しいことをしたとき」と「たくさんの友だちが同時に同じ曲を聴くなどの興味深いパターンがあったとき」である。
フェイスブックは、友人・知人の発する膨大なノイズのようにも思えるリアルタイム情報のなかから有意味な情報を見つけ出し、ニュースフィードで通知してくれるわけだ。
これまでのパソコンは情報を作成し、またネットなどを使って情報を見つけ編集する装置だった。しかしフェイスブックにログインした端末は、パソコンでも
モバイルでもつねにリアルタイム情報が流れこみ、有用な情報を拾い出して教えてくれる情報の感知器のような装置になる。これまでの情報機器のありようが一
変する。
こうした仕組みを描き出すF8のプレゼン・ビデオは、だからSF映画のように見えてくる。
ただそうは言っても、自分が何をしたかを片端から友人・知人に知られるのを気持ち悪いと感じる人もいるだろう。というよりもむしろそう感じる人のほうが多いのではないか。
フェイスブックのCTOブレット・タイラーは「ソーシャルであることにユーザーの許可は必要ありません。これはアプリの機能なのです。勝ち残るのは、ソーシャルなアプリです」と言ってのける。ザッカーバーグもまたこう説明する。
「スーパーマリオでマリオがキノコを見つけたとたんにポップアップが現れ、フェイスブックで情報を共有するかというメッセージが表示されるのを見て泣きたくなりました。現在のゲームにソーシャル性が求められていることに気がついたことは評価しますが、しかし、アプリを使っているときに突然ポップアップが表示され、情報を共有するかと尋ねられるのはフェイスブックのプラットホームでの最悪の体験といわざるを得ません。このようなことをする必要はもうありません」。
たしかに何かをしているときに中断し、「いいね!」ボタンを押すのは不自然だ。わざわざそんなことをしなくても情報共有できるほうがずっといい‥‥ ザッカーバーグの言葉の魔術にかかると、なるほどという気もしてくる。
「プライバシーが侵害される」と否定的に考えればぞっしないが、自分が何をしているかを伝えるのは一種の自己表現だというのがザッカーバーグの考えだ。
●「情報共有」から「自己表現」へ
このF8では「表現」という言葉が何度も使われている。これまでフェイスブックは情報を共有するためのツールだったが、フェイスブックはさらにその先を目ざし始めたようだ。
「いいね!」ボタンでは、「○○をいい」ということができた。つまり、「名詞」について「いい」ということができた。今年はこれに「動詞」が加わったと
ザッカーバーグは説明する。「どれどれの曲」を「聴いている」。「何々の記事」を「読んでいる」。「この料理」を「作っている」。こういう具合に「○○」
を「××している」と表現できるようになった。「語彙」が増え、それによってより自己表現できるようになったというのだ。
「ときとしてぼくらがオープングラフでやっていることは人と人がつながるためのまったく新しい言語を構築するようなものだと感じることがあります。ぼくら はわずかな語彙からスタートしました。限られた基本的なことしか表現できませんでした。友だちは誰かといった内容です。去年オープングラフを導入したとき に名詞が追加されました。好きなものを何でも付け加えることができるようになりました。今年はこれに動詞が加わります。これで何にでも好きなようにつながることができます」。
「ものも言いよう」と言ってしまえばそれまでだが、自分の情報が人に伝わるのはプライバシーが侵害されるのではなくて、より自己表現できる能力が得られたのだ‥‥そう思えれば、たしかに受け入れられやすくなる。
afterword
ザッカーバーグは、ティッカーとタイムラインを使った新たな情報共有の特徴について、友だちのアクティビティのパターンを通して(Finding
Patterns)、スムーズな形(frictionless experience)で、リアルタイムに偶然の発見(Realtime
Serendipity)をするのだと説明している。
●「いいね!」ボタンは「○○をいい」ということで名詞(OBJECT)はあつかえたが、動詞(ACTION)も友人・知人に伝えられるようにした。フェイスブックの開発者向けサイトのOpen Graph Betaのページに掲載された図(https://developers.facebook.com/docs/beta/)。
●フェイスブックと連携しているワシントンポストのソーシャル・アプリ「ソーシャル・リーダー」。ワシントン・ポストのサイト(http://www.washingtonpost.com/)からフェイスブックにログインする。
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.708)
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