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2011.11.21

電子書籍をめぐって情報戦争が始まった?

なかなか本格的に立ち上がらない電子書籍をめぐって
きな臭い情報戦争まで始まったかのようだ。
いろいろな思いが交錯して、電子書籍はどこへ行く?

●奇妙な日経の記事

 今回もフェイスブックの話を続けるつもりだったが、電子書籍をめぐって奇妙な動きが出てきたので、今回は予定を変更して、その話を書いておこう。

 日経は10月20日に一面トップで、年内にもアマゾンが日本で電子書籍事業を開始するというスクープ記事を書いた。大手出版社との契約交渉が詰めの段階になっていて、妥結がまもないことを強く匂わせる記事だった。
 この話はネットでも話題になったし、記事を読んだ人は、アマゾンが日本でも電子書籍事業を開始し、アメリカのように本格的な電子書籍時代が来ると思ったにちがいない。実際、日経もそう書いていた。

「電子書籍元年」と呼ばれた昨年来、各大手紙は電子書籍に記者を配置し、ゆくえを追いかけてきた。だから日経に抜かれて「しまった」と青くなった記者も多かったにちがいない。追いかけ取材にもとずく記事が次々と出た。
 しかし、その内容の詳細は日経とは違っていた。
 大手出版社とアマゾンの契約は難航しており、簡単にはまとまりそうにないと朝日新聞やJ-CASTニュースなどは報じた。

 アメリカでアマゾンは仕入れ価格を割ってまで安い値段をつけて出版物の「価格破壊」をやった。日本の出版社はその経緯をよく知っており、同じことが日本でも起こるのではないかと警戒している。アマゾンは、日本国内での販売実績を公表していないものの、印刷版の本ではすでに最大手の書店になったと見られる。アマゾンがこれ以上、力をつけることも懸念され、大手出版社との交渉は簡単には進まない。後追い取材の記事は、そうした情勢を反映したものになっていた。
 日経は、こうした経緯を知らずに、先のスクープ記事を書いたのだろうか。

 とてもそうとは思えない。
 アマゾンが守秘義務を課しているので「答えられない」という出版社もあったが、それでもいくつかの出版社はJ-CASTニュースなどの取材に答えている。事実と異なる日経の記事が出たから答えたということはあるのかもしれないが、アマゾンとの契約がそう簡単にいかないことは日経も知っていたはずだ。にもかかわらず、先のような記事を書いた理由はいったい何なのか。

 日経は、朝日とともに、モバイル端末などへの電子配信を積極的に進めている。自分たちの電子配信事業に勢いをつけたいために、アマゾンとの交渉について過度に楽観的な記事を書いた‥‥というのではよもやあるまい。それではあまりにひどすぎる。

 とはいえ、交渉が難航しているのならば、「日本でも電子書籍の普及が本格化しそう」というスクープ記事は成り立たなくなる。こうした「配慮」がミスリーディングな記事を生んだということはいかにもありそうだ。

 日経はどうも、交渉というのはまとまるものだと勘違いしているようで、この夏にも、日立と三菱重工が経営統合するという大スクープの誤報を流すというポカをやっている。アマゾンについてはその後の記事でも、難航しているケースは無視してうまく行きそうな面を強調する記事を流しているように見える。


●アマゾンの契約の中身

 そんなことを思っていたら、「Blogos」というネット・メディアが興味深いスクープ記事を書いた。
 ある中堅出版社の編集者からアマゾンの契約書を見せてもらったとのことで、その内容をすっぱ抜いたのだ。アマゾンは10月末までの契約を求めており、10月20日に交渉が進んでいるという記事が出たのは、出版社をあせらせ、交渉を前進させるためのアマゾンのリークだったのではないかとこの編集者が語っているというのだ。
 その真偽はわからないが、日経の記事は、当然予想される大手出版社との交渉状況を無視した奇妙なもので、何らかの思惑が働いて出た記事ではないかと勘ぐられても仕方がない。

 何だかきな臭い話になってきたが、アマゾンが出版社に突きつけた契約書というのは、じつは私も見たことがある。
 その内容は、「Blogos」が伝えているものとは少し違っていた。交渉相手によって内容が違っているのだろう。
 ただ、アマゾンの取り分が希望小売価格の55パーセントといったことはやはり書かれていた。アマゾンが希望小売価格の半値で売ったとしても利益が出る計算で、アメリカでアマゾンが大幅な値引きをできたのは、アマゾン自身の取り分が大きかったからということもあるはずだ。

 力の強い流通企業が仕入れ値を抑えて値引きをし、いよいよ優位に立つということはすでにいろいろな産業で起こっている。とはいえ、アマゾンの取り分は多すぎるのではないかとネットでは批判の声も上がった。
 55パーセントというのはアマゾンの主張で、出版社は交渉もしないのかとあざけるコメントもあったが、私に契約書を見せてくれた出版社の担当者はもちろん交渉するつもりでおり、アマゾンは45パーセントまでは折れると見ていた(実際アメリカでアマゾンは、大手出版社からこれぐらいの割合で仕入れているようだ)。

 ただ言うまでもなく、交渉というのはパワーゲームなので、力のない出版社は、アマゾンで売ってもらうためには言いなりになるよりないかもしれない。


●印刷代や製本代がない代わりに‥‥

 電子書籍をめぐる大きな問題は、このように流通の取り分が大きいことだ。

 電子書籍では、印刷代や製本代がいらないので安くなるはずとか、著者の取り分を大きくできるはずといった意見があるが、印刷代や製本代がなくなったぶんがそっくりアマゾンのような流通企業の取り分になっている。紙の本では書店と取次の取り分は3割から4割だが、電子書籍では、たとえば携帯電話のトップ画面に表示したさいには、携帯電話会社などの取り分が8割ということもあるらしい。
 アメリカでアップルは3割の販売手数料で電子書籍を売っているが、これは取り分が低いほうで、流通が半分ぐらいとるのは珍しいことではないようだ。

 「電子書籍は印刷版より安いはず」という消費者の期待値にしたがってさしあたり電子書籍は紙の本より3割ぐらい安くなっていることが多いが、流通企業の裁量によって値段が決まるようになれば流通企業間の勝ち負けがはっきりしていく。結局は、アマゾンのような企業のひとり勝ちになっていくだろう。

 重たい本を運んで全国くまなく届けるのはたいへんだが、電子書籍の販売システムの初期投資もかなりの額になる。電子書籍がたいして売れていない現状では、販売サイドも、取り分を大きくして初期投資を回収したいのだろうが、電子書籍になって浮いたコストをそっくり力の強いものがとる構造になってしまっている。

関連サイト
●J-CASTニュース「アマゾン、日本で電子書籍 米国同様『圧勝』できるか」(
http://www.j-cast.com/2011/10/20110655.html)。日経の記事で名前の出た大手出版社のうち、回答が得られた小学館は「交渉の提案は受けているが、進展しておりません」、集英社は「報道されている事実はありません」と答えたという。
●アマゾンの契約書をいち早くスクープしたBLOGOSの記事「『こんなの論外だ!』アマゾンの契約書に激怒する出版社員 国内130社に電子書籍化を迫る」(
http://news.livedoor.com/article/detail/5977004/)。日経の追いかけ取材記事では、ネットメディアのがんばりが目立った。


afterword
次回からは、もとの予定に戻って、またしばらくフェイスブックについて書く。電子書籍をめぐっては、フェイスブックの話が終わったあたりでまた取りあげたい。


(週刊アスキー「仮想報道」Vol.703)

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