フェイスブックが爆発的人気を呼んだ理由
匿名志向の強い日本では、「実名登録が原則の
フェイスブックは流行らない」などと言われるが、
実名登録したくなる要素がフェイスブックにはあった。
●もともとのフェイスブックは「お見合いアルバム」
「リアルタイム性の強いソーシャル・メディアは嫌いだ」と以前書いたが、そうは言っても、フェイスブックは、CEOのザッカーバーグの言うとおり、世界を変えるかもしれない。
情報発信を匿名ですべきか実名ですべきかは、ネット誕生以来、熱い議論のマトだった。過熱した事件がしばしば起こる韓国などでは、容易に実名がわかるように立法化までした。
しかしフェイスブックでは、利用者たちが実名で情報発信をしているばかりでなく、性別や誕生日、血液型から学歴などの経歴、好きな音楽・本・映画・ゲーム、趣味等々、自分の詳細なプロフィールをみずから進んで登録している。
これまでいろいろなサイトが個人情報を得ようと苦心惨憺してきた。フェイスブックは誰でも登録できるようにしてからわずか5年で、膨大な人びとの個人情報を集めることに成功した。
なぜこうしたことができたのかは、フェイスブックの発展をたどってみるとわかる。フェイスブックを理解するのに役立つので少し詳しくたどってみよう。
日本では、学校を卒業するときに「卒業アルバム」を作る。卒業アルバムはいうまでもなく「実名」だが、載せてほしくないという人はまずいない。
アメリカでは、入学したときに、人名録を作るらしい。卒業アルバムは「思い出の品」としては役に立つが、実用を考えれば、たしかに入学時にアルバムを作ったほうがいいかもしれない。入学時には、誰が誰だかわからない。アルバムがあれば便利だ。その冊子のことをそもそもフェイスブックと呼んでいたのだそうだ。文字どおり「顔の本」で、写真入りで誰だかわかるようになっていた。
いずれの国でも学生の最大の関心事は異性だ。「新入生アルバム」はボーイ・フレンドやガール・フレンドを見つけるのに役立つ。こうした(ひそかな?)用途もあって、アメリカでは、学校や学生の自治組織などが「フェイスブック」を作る習慣があるらしい。
フェイスブックの創立者ザッカーバーグがいたハーバード大学でもこうした冊子がほしいという学生の要望があった。しかし、プライバシーの問題からか学校側がためらっていた。
コンピューター・オタクのザッカーバーグには、学生寮のデータベースの写真をハッキングして公開し、退学処分寸前になったという「前科」がある。その事件を報じた学生新聞は、批判しながらも、こうした問題を回避する方法も提案していたそうだ。勝手に公開したから批判を浴びたが、利用者が自分でコンテンツを載せるようにすれば問題なかったのではないかというわけだった。オンラインの「フェイスブック」はこうした発想を採り入れるかたちで誕生した。
フェイスブックに登録しなければほかの学生たちに認知されず、ボーイ・フレンド、ガール・フレンドもできにくい。というわけで、学生たちはこぞって登録した。自分のことを知ってもらうには、顔や名前だけでなく、趣味や関心などもわかったほうがいい。学生たちは自分から進んでこれらの情報も公開した。実名で登録しているので、ウソを書いてもバレる。情報の信頼性も高かった。
設立からしばらくは各学校単位でフェイスブックが作られていった。学生たちは気になる同窓生の詳細な情報を知りたくて、頻繁にアクセスし、この「アルバム」をあっちこっち「めくる」ようになった。こうして実名化に向けての「インターネットの革命」の第一歩が踏み出された。
●われわれがもっとも関心のある「ニュース」
フェイスブックはわかりにくいと以前書いたが、当初のフェイスブックはきわめてシンプルだった。ザッカーバーグによれば「人間を登録する電話帳」だったとのことで、写真が一枚だけ載せられる人名録サイトだった。ミクシィのように日記を書いたりできるSNSとは大きく違っていた。
ブレークスルーは、写真掲載の機能を拡張したことから起こった。
写真を一枚しか載せられなかったので、学生たちはその写真を頻繁に変えた。異性の友だちを見つけるための「お見合い写真」でもあるのだから、どんな写真を載せるのかは重要だ。
利用者のこうした行動を見て、ザッカーバーグらは、複数の写真を載せられるようにし、写真説明の「タグ」もつけられるようにした。そこに友人の名前を書くと、友人のフェイスブックのページでアナウンスされる。
自分が映っている写真がアップされたら気になる。気になっている異性が誰と映っているかも知りたい。こうしてフェイスブックはますますアクセスされるようになった。大学単位で展開されているSNSはいくつもあったが、フェイスブックはこのようにして魅力を高めて打ち勝っていった。
SNSにはデートする相手探しといった要素がもともとあったし、そうした目的のためのSNSもあったが、フェイスブックは、デート相手を探すというよりも、身近にいる人について詳しく知るためのSNSだった。身近にいる彼女(あるいは彼)を知ることができるサイトというのは、漠然とした「ネットの誰か」を探すサイトよりもアクセスしたくなる。後進のフェイスブックが他のSNSに勝てたのは、こうした心理が作用したからでもあるだろう。
学生たちは、写真だけでなく、気になる友だちのプロフィールが更新されたら知りたい。そうした欲求があることを知って、友人のプロフィールの更新が告知されるページを作った。それがいまのフェイスブックの「ニュース・フィード」だ。
「ニュース」といっても、政治や経済などのニュースではなくて、友人・知人のニュースを知るための機能が「ニュース・フィード」だったわけだ。
●パーティーに明け暮れるティーンとフェイスブック
フェイスブックがなぜ人気を呼んだのかは、関東などで深夜に放送されていた「ゴシップガール」というアメリカのドラマと重ね合わせてみるとよくわかる。
このドラマは、ホテル経営者の息子や売れっ子デザイナーの娘といったセレブの子弟が通うニューヨークの高校が舞台だ。生徒たちが気にしているのはもっぱらパーティーと異性だ。名門大学に進学する生徒もけっこういるのだが、酒と麻薬とセックスが関心事とあれば「堕落した資本主義の末路」といった言葉も浮かんでくる。とはいえアメリカの一面が見えてきてとてもおもしろい。
「ゴシップガール」というのは、生徒のゴシップを伝えるニュースメディアの名前で、高校生みんながケータイで読んでいる。こうした学生たちのあいだでフェイスブックが生まれれば、たしかに爆発的に広がるにちがいない。
次回からは、こうして広まっていったフェイスブックがなぜ世界を変えるのかについて見てみたい。
afterword
誰でも参加できるようになったいまのフェイスブックは、発足当初のような動機では実名登録してもらえない。昔の知りあいなど懐かしい人びとを発見できるという魅力に加えて、以前書いたように、日本では、希望企業にいるOB・OGを見つけて就職につなげられるという別の「実利」も提供し、実名登録したくなるようにしたわけだ。
●デビッド・カークパトリック著『フェイスブック――若き天才の野望』(日経BP社)。フェイスブックの前にザッカーバーグが作ったのは、その授業をとっている学生が誰か、また気になる学生がどの授業をとっているかがわかる仕組みだったそうで、目の付け所が一貫している。
●「ゴシップガール」は、ネットではhuluで見ることができる(http://www.hulu.jp/gossip-girl)。高校生活がずっと前のことになってしまった身としては、「世も末」という気もしてくるドラマだが、自分の高校時代を考えると、(心理的には)「ゴシップガール」の高校生たちとあまり変わりはなかったかもしれない。
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.702)
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