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2011.10.13

ウィキリークスの終わりの始まり?

ウィキリークスは、情報提供者の身を危うくする未編集の文書の公開を始めた。
これまで協力していたメディアも強く批判し始めた。

●ネットの海に流れていた未編集の文書

 今年の春、何回かウィキリークスをとりあげた最後に、ウィキリークスは技術面を支えていた人物などが辞めてしまい、混乱状態に陥り、新たな情報の受け付けもできないでいると書いた。9月になって、メディアを巻きこんだ非難合戦が始まっている。

 ウィキリークスは、各国政府の批判を受けながらも機密文書の公開を続けてきた。昨年11月には、「ケーブルゲート」と名づけた25万本を超えるアメリカの外交公電の公開を始めた。公開にあたっては、各国のメディアと組んで、情報提供者などに危害が及ばないように名前を伏せるなど文書を編集して公開してきた。
 当初ウィキリークスと組んだメディアは、英ガーディアンや独シュピーゲル、米ニューヨークタイムズなど限られたメディアだったが、提携相手を広げ、ウィキリークスによれば現在は90のメディアや人権団体と組んでいるという。日本では朝日新聞が公電の提供を受け、文書の解読をして記事にした。

 ところが、8月末から9月初めにかけて突然、未編集のまま公開し始めた。
「突然」と書いたが、じつは情報の流出が少しずつ起こっていた。

 この流出事件のいわば当事者である英ガーディアン紙は、この件について9月初めに何本も記事を書いている。それらの記事やウィキリークス側の説明などを総合すると次のようなことが起こったようだ。
 ウィキリークスからガーディアンへの昨年夏の公電の提供はネット経由で行なわれた。創立者のアサンジュはファイルを暗号化してアップし、記者にパスワードを教えた。ガーディアンの記者の理解では、それは一時的なファイルで、一定の時間が経てばダウンロードできないようになっているはずだった。

 ところが、当時ウィキリークスのナンバー2だったダニエル・ドムシャイト-ベルグが、アサンジュとケンカ別れした際に、そのファイルも含めて膨大な文書を持ち出した。数週間経って、外交公電は返却したが、12月7日、アサンジュがスウェーデンでの婦女暴行容疑で逮捕される少し前、支持者のひとりが共有ソフトの「ビットトレント」を使ってそのファイルをネットにアップした。アサンジュが逮捕されても運営を続けられるようにするためだったというが、アサンジュにはそのことを伝えなかったらしい。
 こうして未編集の外交公電がネットの海に流れ出すことになった。


●パスワードの使い回し

 ただし、そのファイルは暗号化されており、ダウンロードされても、そのままでは読めない。
 しかし、ファイルを流出させた人間にも思いがけなかったであろう次のような経緯で、パスワードは多くの人の知られるところとなった。

 今年2月にガーディアンの記者たちがウィキリークスとの顛末を明かした本を出版し、文書の受け渡しの様子を語ったくだりでパスワードを書いてしまったのだ。ファイルは一時的なものでパスワードも数時間で使えなくなるとアサンジュに言われたとのことだが、じつはマスター・パスワードだったらしい。

 ガーディアンは、ドムシャイト-ベルグの証言を紹介する形で、パスワードはそのつど変えるのがセキュリティの基本なのに、アサンジュは機密情報をあつかう仕事をしているにもかかわらずズボラで、マスター・パスワードを使いまわし、彼に責任があると批判している。

 一方ウィキリークスは、「ガーディアンの記者は十分な注意を払わずパスワードを明かし、自分たちの仕事を危機に陥らせた」と非難する。この件のほかにもガーディアンは、ウィキリークスとの取り決めに反して、ネット接続しているコンピューターで文書を扱うなど、自分たちのセキュリティを脅かす振る舞いを繰り返したと怒っている。


●ファイルのありかを言ったのは誰か


 とはいえ、「ビットトレント」に流出させた「cables.csv」というファイル名を見ただけでは、何の文書かわからない。本ではパスワードは書いたものの、ファイル名もそのファイルがどこで見つかるかも書いていない。ファイルとパスワードを結びつける情報がなければ文書は読めない。その情報はどう流出したのか。

 その点はいささか曖昧だ。

 ウィキリークスはこう言っている。

「ここ何か月も、ウィキリークスは何が起こったのかについてコメントできない困った立場に置かれていた。コメントすればガーディアンの本のパスワードに注目が集まってしまう。ほかの人間によってファイルとパスワードの結びつきが明らかになったので、われわれはようやく、何が起こり、これからどうするつもりかを説明することができる」。

「ほかの人間」とはドムシャイト-ベルグのことで、彼とガーディアンを訴えるつもりだと述べている。

 ドムシャイト-ベルグは、ウィキリークスから離れて「オープンリークス」という情報漏洩サイトを開設しているが、ドイツのメディアの取材に対して、ウィキリークスのいい加減さの例として、パスワードやファイルが誰でも手に入るようになっているなどと語ったようだ。
 その際にはパスワードやファイルのありかは言っていないが、ガーディアンの説明によれば、ウィキリークスは、自分たちの落ち度ではないということを言うために、パスワードがどこで見つかるかをツイッターなどでほのめかしてしまい、ファイルも(その世界では有名な)情報漏洩サイト「クリプト」で見つかるということが少数のネット利用者にわかってしまったという。そして、それなりの技術が必要なフォーマットだったにもかかわらず解読されてしまったというのがガーディアンの言い分だ。

 ウィキリークス側も9月1日のガーディアン批判の声明文の中で、「ガーディアンの暴露についての知識は数か月ひそかに広がっていたが、先週、臨界点に達した」と述べている。ドムシャイト-ベルグの暴露で情報流出が決定的になったと彼とガーディアンを批判し、この暴露でもはや外交公電を編集する意味がなくなったと、未編集の公電を公開することにした。
 その行為に対して、朝日新聞も含めて協力関係にあったメディアもウィキリークスを非難し、よりいっそう距離を置き始めた。

 未編集の公電を公開したことについて、メディアなどからは疑問の声が上がっている。
 たとえ情報流出したとしても誰もが読めるようにするのとは違うというわけだが、文書を編集したのは独裁国家などの取り締まり当局による情報提供者への弾圧を恐れたからで、取り締まり当局が知りうる状態になってしまったのであれば、もはや文書の一部を伏せる意味はないと判断したのだろう。

 いずれにしても「ウィキリークスの「終わりの始まり」は、いよいよ本格的になってきた。

afterword
ジュリアン・アサンジュには、できすぎのスパイ小説のように次々といろいろなことが降りかかる。というより、彼自身が引き起こしている側面も大きいのだろう。本人が認めていない「自伝」の発売まで始まった。次回はそれについてなど。

関連サイト
●ガーディアンやドムシャイト-ベルグに対する批判など、ウィキリークスの声明を掲載しているサイト「ウィキリークス・セントラル」(
http://wlcentral.org/)。
●公開されたアメリカの外交公電「ケーブルゲート」の検索サイト(
http://www.cablegatesearch.net/search.php)。 

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.697)

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