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2011.09.27

知っているようで知らないネット視聴率

ネット視聴率は、ネットの存続をも左右する存在だが、
その調査方法はいろいろある。
調査によって、結果が違うという恐るべき状況になっている。

●混乱しているネットの価値基準

 いきなりこうしたことを書くとびっくりするかもしれないが、お金が使えるのは、みんながその価値を信じているからだ。1000円札に1000円の価値がないと思えば、お店は1000円札を出しても商品を売ってくれない。
 少なくともいまの日本では現実味のない話に思われるが、ネット、とくにネット広告の世界では、(少々大げさに言えば)そうしたことが起こっても不思議ではない状態のようだ。

 ネットにおける価値基準は何か。
  それはネット視聴率だ。
  ネットにどれぐらいアクセスがあるかをもとにネットの広告料金が算定されているから、ネット視聴率=お金で、ネット視聴率が価値の源泉になっている。

 ところが、このネット視聴率というのがはなはだあてにならないものらしい。

 この欄でも、ニールセン・ネットレイティングスやコムスコアといったネット視聴率を調査している会社のデータをしばしば紹介してきた。このふたつの会社は、アメリカの二大ネット視聴率会社で、日本でも営業している。
「あてにならない」と書くとこれらの会社から文句を言われるかもしれないが、少なくともこのふたつの会社のデータを比べると、しばしば大きく違っている。

 たとえば、6月のアメリカの動画視聴者数は、ニールセンが1億4260万人、コムスコアは1億7800万人。3540万人も違っている。カナダの人口が3400万人ぐらいだそうだから、カナダ一国分の人口以上の違いがある。
 一人あたりの動画の視聴時間はもっと大きく違っている。ニールセンが270分なのに対し、コムスコアは1008分と4倍近い。個々のサイトについてのデータも大きく違っていて、たとえば米ヤフーのサイトの動画視聴者数は、ニールセン2300万人、コムスコア5267万人と倍以上の開きがある。

 こうした結果になるのは、それぞれ調査対象者(パネル)を選んで、その人たちの行動を調査し、そこからネット視聴者全体の行動を推計しているからだ。調査対象者の選び方によって大きく差が出てくる。

 ニールセン・ネットレイティングスは、自分たちのネット視聴者分析について、こう言っている。

「日本最大のオンラインパネルからリアルタイムに取得するインターネットアクセス情報を基に、お客様のウェブサイトのパフォーマンスを明らかにするベンチマーク指標をご提供します」。「パネルは代表性の高い無作為抽出方式で選定されたRDDパネルと、データに深みをもたらすオンラインで募集されたオンラインパネル」だとも説明している。
 日本では4万人、アメリカでは20万人、世界全体で50万人の調査対象者を選んで調査しているという。

 コムスコアのほうも、「ほとんどのコムスコアサービスの中心は、これまでで最大の継続測定消費者パネルであるコムスコアパネルです。コムスコアパネルは、正確にデジタル環境の人とその行動を測定するようにデザインされた、洗練された手法を使っています。この膨大な情報ネットワークは、デジタルとオフライン環境の両方で、最も品質の高い、インターネットブラウジングの最も包括的な展望、購買およびその他のアクティビティを提供します」とのことで、アメリカ100万人、世界全体で200万人のパネルを構成しているそうだ。

 以前も書いたように、調査対象者の人数が多いほうが正確というわけではかならずしもない。
 全体の利用者を適切に代表している調査対象者を選べば、人数が少なくても正確な調査ができる。だから、どちらのほうがより正確とは決められない。
 一部の人たちを調査して全体を類推するこの調査方法は、ネットにかぎらずしばしば使われている。


●さまざまなネット視聴率の調査手法

 ネット視聴率調査には、ほかのやり方もある。
 サーバーにソフトを入れて計測する方法だ。
 動画なら動画サイトのサーバーにソフトを入れて計測する。
 アメリカの大手では、オムニチャーとグーグル(グーグル・アナリティクス)がこうした方法をとっている。

 サイトの運営者もアクセスをもとに利用者数をはじきだしている。その数字とニールセンやコムスコアといった権威ある第三者の数字が違い、しばしば議論になっている。

 サイトの運営者たちは、調査会社の数字は少なすぎると文句を言う。しかし当事者よりも第三者の数字のほうが客観性があるように思われるから、話はややこしくなる。サイト側とこれら調査会社が主張する数字の桁が違っているなどということさえある。

 さらに、大手インターネット接続業者のサーバーのデータにもとづいてネット視聴率をはじきだしているところもある。米コロンビア大学ジャーナリズム・スクールのレポートによれば、ヒットワイズがこうした方法を使っているらしい。雑誌になぞらえれば、これは、書店で誰が何の雑誌を買ったかを調査するようなやり方だと、このレポートはうまい比喩を使っている。

 ともかく、こうした調査手法の違いによって得られる結果が違い、調査会社によってデータがまちまち、という困った状況になっている。


●乱立するネット視聴率の功罪

 いくつかの会社の名前をあげたが、ネット利用者の動向のデータを持っているところは、じつはまだまだある。

 アクセスしたときに、そのサイトのサーバーにアクセス・データが残るのは当然だが、ウェブページには広告も埋めこまれている。広告を埋めこんだ広告会社や広告ネットワークの会社にも、どこそこのページの広告が表示されたというデータが行く。そうしたデータによって広告主に広告料金を請求するのだから必要で、利用者の動向もわかる。
 かぎられたところが調査していた従来メディアと違って、ネットではいろいろところがデータを取得しており、データの種類も豊富だ。こうしたことが、ネット上の共通の価値尺度ができにくい原因のひとつになっていると、先のコロンビア大学のレポートは述べている。
 インターネットは利用者の動向が把握できるので、広告主の納得が得られるデータを提供できると言われてきたが、データのこうした混乱ぶりを見ると、状況は少々変わってきたようだ。

 冒頭に「通貨」の話を書いたが、みんなが信じていればこそ通貨として成り立つのだから、混乱ぶりが認識されると通貨として成り立たなくなる恐れがある。こうした原稿が書かれ始めると「信用不安」の恐れがあるわけだが、調査会社も手をこまねいているわけではない。
 次回は、調査会社がどのような手を打ち始めたかをとりあげる。


関連サイト
●ニールセン・ネットレイティングスのサイト(
http://www.netratings.co.jp/)。6月のアメリカの動画視聴調査は米サイト(http://blog.nielsen.com/nielsenwire/online_mobile/june-2011-top-u-s-online-destinations-for-video/)にある。
●コムスコアのサイト(
http://www.comscore.com/jpn/)。グローバルベースで継続的に測定している調査集団には約 200 万人が含まれ、そのうち 100 万人は米国に居住し、残りの 100 万人は 170 ヶ国に散らばっていると説明している。6月のアメリカの動画視聴調査はhttp://www.comscore.com/Press_Events/Press_Releases/2011/7/comScore_Releases_June_2011_U.S._Online_Video_Rankings

afterword
サイト運営者がやった調査は、客観性に疑いがあるからだろうが、広告代理店や広告主は無視する傾向があるとも、米コロンビア大学ジャーナリズム・スクールのレポート「ネット上の混乱――不完全な測定基準とデジタル・ジャーナリズムの未来」は指摘している(このレポートのURLは次回)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.695)

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