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2011.07.20

ツイッターで未来がわかる

ツイッターは、個人利用者にとって情報の宝庫であるばかりではない。
ツイッターは「大衆の叡智」を実現するための宝庫でもある。

●ネットの「未来予測」の仕組み

 ここ何回か書いてきたように、ツイッターによって公的な地震速報より早い速報ができるばかりか、ニュース・メディアもできる。デマかどうかもわかる。ツイッターで何でもできてしまうのではないかという気がしてくるが、未来予測もできるらしい。今回とりあげる研究はそれだ。さすがにそれは無理じゃないかと思うかもしれないが、そうではないようだ。

 ネットを使った未来予測の仕組みには「予測市場」というのがある。参加者が仮想的な持ち金を使って株を売買する「市場」を作り、未来を予測する。

 たとえば総選挙の結果を占う予測市場では、各党がどれぐらい票を取るかを予想して株の売買をする。その時点のある党の予想獲得議席が多すぎると思えばその党の株を売り、少なすぎると思えば買う。このように株の売買をして、各党の獲得議席予測値を上下させる。参加者が頭をひねって予想すれば「みんなの意見」は案外正しく、意外に正しい予測になっているという仕組みだ。
 製品の発売予測や適正価格の決定など、さまざまな予測のためにすでにこうした「市場」が作られている。IT企業を始めとする企業内でも利用され、研究が行なわれている。

 映画の興行の当たりはずれについては「ハリウッド株式取引所」という予測市場がある。的中率が高いことで知られている。しかし、ツイッターを使えば、この予測市場よりすぐれた予測ができるというのが今回とりあげる研究だ。

●宣伝が成功しても映画が当たるとはかぎらない

 映画の興行は結果がはっきり出るので、予測の当たりはずれを見るのに都合がいい。09年11月から10年2月までの24の映画について触れている289万のつぶやきを対象に調査した。

「ツイッターで話題にのぼっている映画ほどヒットする」という仮説を立てて調べたところ、明らかに相関関係が見られた。
 つぶやかれている数の多い映画ほどヒットし、つぶやきが少ない映画はヒットしていない。映画の予測市場「ハリウッド株式取引所」のデータと比較しても、ツイッターのほうが予測精度が高かった。

 「トランシルマニア」という映画は、封切り前の週に1時間あたり2・75回とつぶやきがもっとも少なかった。
 この映画はお笑いホラーらしいが、1000以上の映画館で公開され、最初の週末の興行収入は26万3941ドル。日本円にすれば2000万円ぐらいだが、1000館で割れば1館あたりわずか2万円だ。翌週の終わりには打ち切られてしまった。

 好調だったのは、「ニュームーン/トワイライト・サーガ」と「アバター」。
 「ニュームーン」は1時間あたり1366回、「アバター」は1213回つぶやかれ、最初の週末の興行収入は、それぞれ1億4200万ドルと7700万ドルだった。「ニュームーン」は4024館で公開され、封切った各映画館はこの週末だけで300万円平均近く稼いだことになる。「トランシルマニア」の150倍だ。映画の興行はまさにバクチだ。

 封切り前はURLを含むつぶやきが多かったという。
 映画会社がサイトなどで宣伝活動をして、ユーザーがリンクを張ったからだと思われる。こうしたデータは、プロモーションがどれぐらい成功しているかを検証する指標になる。宣伝サイトのURLが多くのつぶやきに含まれていればいるほど、プロモーションがうまくいったと考えられる。
 しかしおもしろいことに、こうしてURLが添付され宣伝がうまくいったと考えられる映画ほど興行収入が多いかといえば、かならずしもそうではなかった。プロモーションが成功しても映画が当たるとはかぎらない。

 なぜそうなのかこの研究では書かれていないが、人気俳優が出演すればサイトにリンクはされる。しかし、それで映画が当たるわけではない。宣伝ビデオがおもしろいからといって、映画本編がおもしろいとはかぎらないことも観客は体験的に知っているのかもしれない。

●封切り後の変化はつぶやきの内容が担当

 つぶやきの数だけでなく、それぞれの映画について肯定的だったか否定的だったかつぶやきの内容も調べている。
 これはコンピューターだよりにはできず、人の手を借りた。そのため289万のつぶやきからサンプル調査したが、数千人も雇ったというから、かなりの数の調査をしたのだろう。

 人集めはアマゾン・コムでやったそうだ。
 驚くことに、いまやアマゾンは人材斡旋業もやっている。「機械仕掛けの首切り係」という悪趣味な名前のサイトを開き、仕事を探している人と雇いたい側のマッチング・サービスをやっている。サイトのキャッチ・フレーズは、「人工的な人工知能」。こうした人海戦術的な作業に動員する、人間という「人工的な人工知能」をネットを使って集められるようにしているわけだ。

 ネットでイージーに集めた人たちで大丈夫なのかと思うが、どのつぶやきの評価調べも3人ずつに担当させて、同じ評価だったものだけを採用するという周到な方法をとっている。

 封切り前のつぶやきは期待を示していると解釈されるのに対し、肯定や否定といった評価を含むつぶやきは封切り後に多いと予想した。結果はそのとおりで、封切り後のつぶやきにはより感情が表われていたという。

 どの映画についても肯定的な感情がより多く見られたが、アメリカン・フットボール選手の実話にもとづくヒューマン・ドラマ「しあわせの隠れ場所」は封切り後、肯定的な評価が著しく増加した。最初の週末の興行収入も3110館で封切って3400万ドルとそれほど悪くはなかったが、次の週末には4010万ドルに増えた。結局この映画は28週のロングランになり、北米で2億5600万ドルの興行収入を稼いでいる。

 一方、最初の週末に1億4200万ドルの興行収入とバカあたりした「ニュームーン」は反対の道をたどった。「しあわせの隠れ場所」と同じ週末に公開されたが、つぶやきの評価は下がり、翌週末の興行収入は4200万ドルになってしまった。

 つぶやきに見られる感情表現は、時間あたりのつぶやき数ほど映画の当たりはずれを予測するデータにはならないものの、予測を改善するのに役立つと総括している。

 予測市場を立ち上げるには、ひとを集めて活発な投資をやってもらう必要があり、手間もコストもかかる。しかし、ツイッターのデータは公開されていて、参加者は膨大、しかも多様な話題が交わされている。「この研究は、ソーシャル・メディアが集団的知性をどのように発揮しているかを明らかにし、適切に利用すれば、きわめて強力で的確に未来を予想するものになりうる」と述べている。

 ツイッターは、個人利用者にとって情報の宝庫であるばかりではなく、「大衆の叡智」を実現するための宝庫でもある。

afterword
上の研究では人の手でつぶやきのなかの感情を拾い出しているが、自動化も試みられている。大きな事件や経済変動があったときの感情をツイッターから読みとった研究もあった。

関連サイト
●「ソーシャル・メディアで未来予測(Predicting the Future With Social Media)」(
http://www.hpl.hp.com/research/scl/papers/socialmedia/socialmedia.pdf)。以前、米ヤフー研究所の研究を紹介したが、これはヒューレット・パッカードのソーシャル・コンピューティング・ラボの研究だ。当然といえば当然だが、IT企業の研究部門は、ツイッターなどのソーシャル・メディアを熱心に研究している。
●映画の興行の予測市場「ハリウッド株式取引所」(
http://www.hsx.com)。
●アマゾンの人材斡旋サイト「機械仕掛けの首切り係」(
https://www.mturk.com/mturk/welcome)。サイト名を直訳すれば「機械仕掛けのトルコ人」だが、トルコ人は大きな刀を使っているというイメージから「首切り係」という意味もある。「人集めも首切りも機械がやってくれます」ということかもしれないが、この時代、とても笑えるジョークではない。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.687)

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