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2009.08.20

グーグルが電話会社の仕事を奪うとき

「グーグルがなぜこんなことをやっているんだろう」と思う
さまざまな電話サービスをアメリカで始めている。
それらを通してみると、グーグルの次の戦略が見えてくる。

●なぜケータイを家の中で持ち歩かなければならないの?
 

 アメリカでグーグルは、「グーグル・ボイス」と名づけたおもしろいサービスを始めている。
 グーグルが割り振った電話番号にかけると、自宅の電話だろうと会社の電話だろうと、あるいは携帯電話であろうと、登録している電話すべてが鳴り、受けることができるのだ。
 かけてきた人によってどの電話を鳴らすかも決められる。イヤな相手はそのまま留守電にまわしたり、「この番号は使われていません」と受信を拒否してしまうこともできる。かけてくる人に応じた応答を録音しておくことも可能だ。グーグルは、迷惑電話をかけてくる人間のリストを作って、迷惑メールと同じようにシステム側で処理してしまうことも考えているらしい。

 この仕組みはもともとグランドセントラルという会社が開発したもので、グーグルは07年7月にこの会社を買収した。それから20か月ナシのつぶてで、それっきりかと思われた。しかし、そうではなかった。ひそかに準備を続け、この3月まずグランドセントラルの利用者にサービスを提供し始めた。6月からはほかの人の申し込みも受けつけ、招待を受けとった人から利用できるようにしている。
「ボイスメール」という相手を呼び出さずに伝言を送る仕組みがあるが、グーグル・ボイスでは音声メッセージをテキスト化し、ウェブ・メール同様、ウェブで管理できる。音声認識は完璧ではないのでテキスト化された伝言に間違いはあるが、ざっと見て、必要なメッセージだけ聴くことができる。たくさん電話がかかってくる人には便利だろう。テキスト化されているので検索して必要なメッセージも探せる。「返信」をクリックしてメールも送れる。
 スカイプのようにインターネットを経由すれば国内は無料、海外にも割安にかけられる。「グーグルの検索がウェブの、Gmailが無料メールの革命を起こしたのだとしたら、グーグル・ボイスは電話の革命を起こすだろう」とニューヨークタイムズは書いている。

●通信会社に圧力をかけるのがグーグルの目的?

 どの電話にも着信するというサービスは、日本でもぜひ始めてもらいたいサービスだ。
 私は、携帯電話を仕事用のメインの電話にしている。名刺にもその番号を載せている。外にいるときはともかく、家のなかでも携帯電話を持ち歩かなければならない。「ならない」のだけれど、しょっちゅう忘れている。たいてい着信音を消してバイブレーションにしているから、かかってきても気づかないことがある。ほとんどの仕事の連絡はメールなのでそれほど困ったことにはなっていないが、どうしても出る必要があるときには不便だ。ケータイを肌身離さず持っていないと不安という人も多いから、ケータイを家の中でも持ち歩いている人は多いだろう。
 コードレスフォンが広まったときには、「とても便利なものができた」と思ったものだが、このように持ち歩かないと困る日が来るとは思わなかった。しかし、グーグル・ボイスが日本でも始まれば、家の中では携帯電話を手放すことができる。

 日本でも、NTTとかKDDIなどの大手通信会社は、固定電話、携帯電話、インターネット接続をパックにして提供しようとしているが、同一の通信会社ならば、どの電話にも着信させられるかもしれない。固定とケータイをシームレスに使えるようにするというのはどこの通信会社でも意識していることだから、いずれやりそうだ。しかし、グーグル・ボイスは、異なる通信会社でもまったくかまわない。しかも、日本の通信会社が始めるときには月いくらとお金をとるだろうが、グーグルのは無料だ。

 グーグルは、電話機ではなくて、利用者それぞれに番号を割り振っている。いまの電話番号の発想とは異なっている。グーグル・ボイスの番号を教えておけば、携帯電話会社を乗り換え電話番号が変わっても問題ない。お金を払ってナンバー・ポータビリティ制度を使う必要もない。気軽に通信会社を変えられる。
 おそらくグーグルのねらいのひとつはここにあるのだろう。利用者が気軽に契約している通信会社を変えられるようにし、通信会社の競争を激化させ、通信料金を引き下げさせる。実際、次回詳しく書くように、グーグルは、創立者のラリー・ペイジみずから動いて、この数年、通信会社に圧力をかけるさまざまな試みをやっている。

 グーグルが来年後半にリリースすると発表したグーグルのOSは、ネットに接続することが前提だ。グーグルの提供しているワープロや表計算、プレゼンなどのソフトも、オフラインでも動くようにし始めているが、ネット接続が基本だ。「クラウド」と呼ばれるこうしたコンピューターのありようは、データ通信の量を増やし、通信会社の利益につながると見られている。
 しかしグーグルは、通信会社を儲けさせようと思ってこんなことをやっているわけではない。利用者の経済的負担が大きければ、利用は広がりにくい。グーグルが通信会社の競争を激化させ、サービス競争をさせようと考えたとしても不思議はない。

 グーグルが電話会社になろうとしているという見方もあったが、そうではないだろう。ただグーグルは、電話会社にならずして、音声通信についても首根っこをおさえてしまおうとしているようには見える。
 グーグルの幹部は以前から、「自分たちのやっている仕事は電話の交換局と同じ」と言っていた。コンテンツを作らず、もっぱら情報の流通にかかわる仕事をしているという意味だが、この言葉はもはやたんなる比喩ではなくなってきた。電話局がやっていた仕事のかなりの部分は、グーグルが無料で提供し、広告収入でその費用をまかなう。電話会社がコストのかかる電話線や光ファイバーを張りめぐらせ、サービスはグーグルが提供するという時代がくるかもしれない。

●情報をつなぐのはすべてグーグルの仕事

 グーグルは、もうひとつ「GOOG-411」というサービスもアメリカで始めている。
 411というのは、アメリカの電話案内の番号だ。この番号にかけて場所と探しているサービスを言えば、相手につながる。現在は日本ではやっていないが、もし始まれば、「高円寺、そば」と言えば、高円寺のソバ屋に電話がそのままつながる。グーグル・マップに登録されているビジネス・ナンバーにつながるようになっているらしい。「詳しく」といえば、店屋の名前と電話番号を教えてくれ、「地図がほしい」といえば、地図へのリンク付きのメールを携帯電話に送ってくれる。GOOG-411も無料だ。電話会社と同じことを、電話会社よりも安く便利に提供しているわけだ。
 こうした一連のサービスを見ると、グーグルは検索会社だったはずなのに、いったいどこをめざしているのだろうと不思議な気分がしてくる。しかしグーグルは、情報をつなぐ仕事はすべて自分たちの領域というふうに思い始めているのではないか。

afterword
 グーグルは、ネットにつながっていないアフリカやアジアの30億の人々に手ごろな価格でネット接続を提供するというプロジェクトも始めている。ネット接続する人が増えればいずれは自分たちの利益につながるというわけだ。次回はそうしたことについて。

関連サイト
●グーグルがアメリカで今年の3月にサービスを提供し始めた「グーグル・ボイス」(http://www.google.com/googlevoice/about.html#)。この仕組みはグランドセントラルという会社が開発したものだが、この会社の時代には、3台以上の電話を鳴らすのは月15ドルの有料だったらしい。グーグル・ボイスでは何台でも無料だ。
●「GOOG-411」のサイト(http://www.google.com/goog411/)。ピザを簡単に取り寄せることができると動画で説明している。個人の電話にはさしあたりつながらない。グーグル・ボイス同様、音声認識技術を使っている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.593)

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