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2009.07.27

近未来の情報世界を垣間見せたイラン騒乱

イランの騒乱によって、ネットの新たなページが開かれた。
一回に140文字までしか書けないミニブログに大きな可能性があることが示された。

●アメリカ政府も頼ったツイッター情報

 アメリカのニュース・サイトは、イラン騒乱を大きくあつかっていた。日本では総選挙が近いと国内政治のニュースばかりで、イランは、騒ぎが大きくなったときにだけ取りあげられるぐらいのものだったから、違いは顕著だった。アメリカでもふつう一般の人びとは国外のニュースにそれほど関心を持たない。しかし、今回は様相が異なっていた。騒乱のなまなましい写真や動画が次々と流れ、それが人の目を惹きつけた。
 急成長したニュース・サイトのハフィントン・ポストなどは、トップページのいちばん上にイラン騒乱の写真を連日大きく載せていた。
 イラン当局は、外国メディアの活動を抑えにかかっており、写真や動画の大半は、ジャーナリストによって撮られたものではない。イラン国内の人びとが監視の目をかいくぐり、携帯電話で撮って送信している。ユーチューブやフェイスブック、画像共有サイトのフリッカーなどにアップし、そのURLをツイッターなどで広めるというやり方がとられた。
 イランからの発信は、政府のチェックに引っかかればただちにブロックされてしまう。だから、プロキシ(代理接続)を使って送信される。プロキシが見つかってブロックされるとまた新たなプロキシを使うというぐあいに、政権側とのイタチごっこを繰り広げたようだ。
 ニュースサイトは注目度の高いニュース素材に困らず、大きく扱うことによって人びとが関心を持つという好循環が生まれた。こうしたことが起こったのは、アメリカのニュースサイトがとにもかくにも日本に比べて発達しているからだろう。

 こうした情報はメディアが使うばかりではない。興味深いことに、世界中に情報ネットワークを張りめぐらしているはずのアメリカ政府もまた、ツイッター情報をあてにしているようだ。
 アメリカは20年以上イランと国交を断絶し、大使館をおいていない。情報交換が密なヨーロッパの国などから情報をもらったりしているようだが、騒乱の現場にいる人からのリアルタイムの情報は貴重だ。米政府は、自由や民主主義を求める体制批判派を助けたいだけではなく、イランで何が起こっているかについての目撃証言を得るためにもツイッターの情報回路が必要だった。イランからの情報発信の妨げにならないように、イランの夜の時間にメンテナンスをずらすようツイッターに働きかけた。ツイッター側は、あくまで自分たちの独自判断でメンテナンスの時間をずらしたと言うもののの、要請があったことは米国務省の人間が認めていると、AP通信は伝えている。マスメディアばかりか、アメリカ政府までもがツイッターに頼っているわけだ。

●情報爆発と真偽不明情報の氾濫

 近未来のニュースメディアを描いたショートムービー「EPIC2014」は、2014年には、グーグルとアマゾンが合併して作り上げたシステムが世界のニュース配信を支配している未来を描いた。しかし、翌年公開した改訂版「EPIC2015」では、街角から人びとが「ビデオポッド」でニュースを伝えあっている明るいエンディングを付け加えた。こうした2015年の「未来」は、6年も早く実際にやってきたことになる。
 ただ、実際にやってきた「未来」は文字どおり情報爆発の世界だ。真偽のわからない情報がすさまじい勢いで流れ出している。
 イラン騒乱の情報戦において、もっとも大きなインパクトがあったのは、イランの街角で撃たれて死んでいく女性の動画像だ。倒れて顔に血が流れ出すショッキングな映像で、この女性はイランの反体制運動のシンボルになった。日本のテレビ・ニュースでもぼかしを入れて使っていたが、ユーチューブにアップされている映像にはぼかしはない。しかし、年齢制限はかけられている。
「ネダ」という名前のこの女性は当初16歳と言われたが、ロサンジェルスタイムズは、家族に会って26歳だったことを確かめている。「ネダ」というのはペルシャ語で「声」とか「呼びかけ(call)」といった意味だそうで、仮につけられた名前ではないかとも言われていた。しかし、同紙によれば本名だという。彼女は政治にとくに興味があったわけではなかったが、家族や友人が危険だから行くなと止めたにもかかわらず、デモを見に行って撃たれたらしい。
 CNNのサイトは、ネダが撃たれる前の映像として父親だという白髪の男と歩いている女性の動画を流した。しかし、ロサンジェルスタイムズの記事では、音楽の先生や友人と行ったと書かれている。ネダに関してだけでも、情報が錯綜している。

 ツイッターに関しても、おもしろい「デマ」が流れた。
 ツイッターの制作者ジャック・ドーセイが、「ツイッターは、ヒマで自己中心的なエゴイストが、どうでもいいバカげた考えを物好きなやつらと情報共有するために作ったものだ」と言って、イラン騒乱で使われたことを悲しんでいるというのだ。この「ニュース記事」は「オニオン」という風刺サイトに載ったもので、冗談だったらしい。しかし、記事だけがツイッターなどで転送され、当のドーセイも、ツイッターでその記事はウソだと否定せざるをえなくなった。

●文字通りの「サイバー戦争」を闘うために

 もっと深刻な情報戦も行なわれているようだ。
 イラン政府は、ツイッターを監視しているばかりではなく、ニセの情報を流すなど積極的な情報攪乱も行なっているらしい。ツイッターのイラン関連トピックスの「初心者のためのサイバー戦争ガイド」というブログ記事にそう書かれている。このブログ記事は、ニセの情報があるので信頼できる情報だけを転送しろとか、重要な情報を流しているイラン国内の発信者を隠すために、ツイッターで自分の住所を「テヘラン」に設定してイラン時間にすることなどを勧めている。みんながテヘラン在住者として発信すれば、身の危険のあるほんとうのテヘランからの発信者が誰だか当局にわからなくなるというのだ。
 この「ガイド」は評判がよかったとのことで、一週間後には第2バージョンが出た。そこでは、支援者、活動家、サイバー戦士それぞれに向けて注意事項を書いている。
 初心者はまず何が起こっているかきちんと把握しろとのことで、基本的なことはBBCのイラン問題ページ、新しい情報はハフィントン・ポストやガーディアン、ニューヨークタイムズが信頼できると勧めている。
 情報爆発の時代には、真偽をチェックしているメディアの存在がよりいっそう重要になるとかねてから言われていた。今回のイラン騒乱でもそうしたことがいえる。
 風刺サイトが皮肉ったように「ヒマ人たちの時間つぶしの道具」とも見られかねなかったツイッターが、この事件によってシリアスな情報ツールとして脚光を浴びるようになった。いまや「ツイッター革命」といった言葉も広がっている。

afterword
EPIC2014は、未来のニュース配信は、「最高の状態では、より深く、より幅広く、より詳細にこだわった世界の要約」だが、最悪の場合、「ささいな情報の単なる寄せ集め」で、「その多くが真実ではなく、狭く浅く、そして扇情的な内容となる」と言っていた。この予想もきわめてマトを突いたものであることがこんどのイラン騒乱でもわかる。

関連サイト
●「ネダ」が撃たれて倒れたシーン。ユーチューブの動画より。
●抵抗を続けている改革派のムサビのものと思われるtwitterのホームページ(http://twitter.com/mousavi1388)。「私は殉死の心の準備ができている。逮捕されたらストライキをしろ」などと書きこんでいる。twitterは日本でも多様な使い方がされ始めた。
●twitterのトピックス「#iranelection」の初心者のためのサイバー戦争ガイド(http://reinikainen.co.uk/2009/06/iranelection-cyberwar-guide-for-beginners/)。活動家向けには、信頼できるツイッター会員のユーザー名などが列挙され、どの日に活動のピークが来るかなど具体的なことが書かれている。サイバー戦士向けの注意を書くのは能力に余ると断わりながらも、コンピューターが壊される危険は覚悟しなければならないと注意している。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.589)

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