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2009.06.01

近未来のニュースメディア

近未来のニュースメディアの雛型を見せてくれるのは、どういうサイトなのか。
新聞社には期待できず、むしろ意外な小サイトが可能性を示しているように思われる。

●新聞社に過大な期待はできない

 新聞やニュースの未来についてここ何回か書いてきて、はっきりわかってきたことがある。
 それは、少なくとも日本の大手新聞社を見ていても、ネット時代のニュースメディアの将来は見えてこないだろうということだ。
 できるだけ長くできるだけ多くの社員にできるだけ高い給料を払うためには、1000万部とか800万部も出ている新聞は、できるだけ長く印刷版の新聞を出したほうがいい。ネットをあまりに使いやすくしてしまえば、印刷版の読者が減ってしまう。以前から言われていたことだが、共食いはやはり起こる。紙の新聞が苦しくなっていくことは避けられないが、とはいえ「死」を早めるようなことをするのはメリットがない。ネット広告が十分に得られるめどでもたたないかぎりは、無料のサイトの使いやすさはほどほどにしておく、というのが合理的なはずだ。
 おそらく来年初めに発表される今年のネット広告の市場規模は新聞広告を上まわる。ちょっとした騒ぎになることは間違いない。だからといって、無料のサイトを充実させてしまえばどうなるか。新聞がばたばたと倒れていくアメリカの様子を目の当たりにした日本の新聞社の経営陣はそれを悟ってしまったはずだ。
 06年から07年にかけて本欄でもテレビの動向を追って『ネットはテレビをどう呑みこむのか?』という本にまとめたが、新聞がテレビと決定的にちがうのは、ネットに進出して得られる経済的メリットが少ないことだ。テレビの場合は、ネット配信をすれば新たな収入源になる可能性が大きいが、記事を無料公開した新聞はそうはいかない。日本の新聞社は戦略の見直しを迫られている。

●くずれたネットによる「販促の夢」

 もともと日本の新聞社は、広告収入をもっぱら当てにしてネットに進出したわけではなかった。
 アメリカの新聞社には、クラシファイド広告(地域の不動産や求人の広告)をネットでも確保するというねらいがあったが、日本の新聞社にはこうした目的はなかった。アメリカのニュースメディアが記事を公開し始めたのを見て、販促になる、つまりネットで記事を読んだ人が印刷版を購読してくれるだろうと思った。
 しかし、このもくろみはもろくも崩れた。
 ネットで記事を読んだからといって、その新聞を購読し始めた人はほとんどいなかっただろう。ヤフーなどのポータルサイトで記事を読む圧倒的多数の読者は、そもそもどこの新聞の記事を読んだのかさえ意識していないのだから。

 新聞社がネットで記事を無料公開し続ける残る経済的理由はネット広告しかない。
 他のサイトにはない媒体価値をアピールしたり、有力な他サイトと広告ネットワークを作って広告価値を上げる試みなどをしているが、ネット広告に依存しすぎると、経済危機で広告収入が落ちこんだときに破綻してしまう。販促はまったく、広告収入も当てにしすぎるわけにはいかないとなれば、有料課金が魅力的に見えてくる。

 アメリカでも有料課金の道が探られているが、578回で書いたように、ニュースメディアが示し合わせていっせいに有料化するといったことでもないかぎりウェブではむずかしいだろう。

●日本に米経済紙が進出する理由

 新聞社が収入を増やすもうひとつの方法には、ウォールストリートジャーナルが日本で始めようとしているやり方がある。
 今月7日、同紙を発行しているダウ・ジョーンズは、ネット証券のイートレードなどを持つ金融グループSBIと組んで日本語サイトを立ち上げると発表した。コストをかけて集めた情報をマルチ展開するために日本にも進出するのだろう。580回で「記事の使い回しが新聞の生きる道」などと書いたが、まさにそれを実践しているわけだ。

 日本の新聞社も、日本の記事を海外に売るなど「使い回し先」を増やすことはもっとやっていくだろう。読書端末や携帯などPC以外の装置への有料配信の可能性も探っているはずだ。
 新聞社の経営陣がよく言う「『紙かネットか』の二者択一ではない」という言葉の意味は、「ネットも数多くの記事や情報のアウトプット先のひとつ」ということで、収入を得る方法を多角化させていくだろう。

 ただ新聞社のなかでも、このままではかなり早くに行き詰まると思ったところは過激なネット戦略に踏みこむ可能性がある。産経新聞などは実際そうし始めているわけだが、大手新聞はそれを横目で見ている。遅れをとって大きな支障が出ると判断しないかぎり大胆な手は打たないだろう。

 できるだけ長くそうやって印刷版に主力をおいて生き延びて、いよいよ危ないとなったときに始めてアメリカで起こっているように規模を大幅に縮小し、主力をデジタルに移す。そして以前に書いたように、ネット広告収入とニュース配信(それと不動産などのその他の収入)でやっていけるだけの体制にする。新聞社が合理的な判断をするのであれば、そうした経緯をたどる可能性が高いように思える。

 このようなわけで、日本の新聞社は、実験的な意味を超えて本格的な動きをするところは少ないだろうが、ただネット・ニュースの実験場であるアメリカの動向にはこれまで以上に目を注ぎ続けるはずだ。そこで何かめぼしい動きがあれば、それを取り入れようとはするかもしれない。そういう意味で、今後のニュースメディアの動向を知るためにはアメリカの動きを見ることがいよいよ重要になってくる。

●有料課金できるのは小サイト

 新聞社のような大組織が有料化してやっていくのはさしあたりむずかしいが、個人もしくは小さな組織がウェブで課金しニュースメディアをやることは可能なようだ。そうしたことに気づかせてくれるのは、渡邉正裕氏の『やりがいのある仕事を市場原理のなかで実現する!』という本だ。
 タイトルはビジネス本のようだが、この本は、近未来のニュースメディアを考えるための興味深い素材を提供している。
 日経新聞出身の渡邉氏は、社員など関係者に取材して企業の内情を赤裸々にレポートしている「MyNewsJapan」というニュースサイトを04年に立ち上げている。冒頭の文章を除いて有料で、会員料金は月1890円で自動更新される。かならずしも安くはないが、ほかで得られないような企業の内部事情がわかり、とくに勤務の実態が報告されているので、就職や転職を考えている人には実用的な情報でもある。
 こうしたことは知っていたが、先の本ではこのサイトの経営実態も含めてこれまでの経緯が詳しく書かれている。
 サイトを立ち上げてまもなくの会員数は46人で売り上げが8万円しかなかったが、昨年6月には1588にまでなり、渡邉氏個人の自由に使える経費と給与をあわせて月210万円にまでなったという。
 こうした有料課金の小メディアの可能性については、次回あらためて詳しく取り上げたい。

afterword
 ウォールストリートジャーナルが日本に進出することが明らかになり、アメリカの新聞の騒動がついに日本にも波及してきた。言葉の壁によってグローバリズムから守られてきたメディアの世界も、海外の大メディアの動きとますます無縁ではなくなってきた。

関連サイト
●産経新聞は、マイクロソフトと提携して立ち上げたサイト「MSN産経ニュース」(http://sankei.jp.msn.com/)で、スクープも含めた第一報をネットに出したり、注目裁判の一問一答などを即座に伝える「法廷ライブ」を始めて人気を呼んでいる。グループのサイトでも記者ブログを立ち上げるなど、他紙にない試みを先駆けてやっている。
●渡邉正裕氏の『やりがいある仕事を市場原理のなかで実現する!』
●「MyNewsJapan」(http://www.mynewsjapan.com)。月1890円の会員料金はヤフーの新聞記事横断検索と同額とのことだ。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.582)


   



  
  

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