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2009.05.12

リンク機能が生んだニュースメディアの危機

ウェブのリンクは、この時代の最大の発明のひとつだが、
この機能がそもそもニュースメディアの生き残りをむずかしくしているのかもしれない。

●ネットへの移行準備が進む新聞

 

 我が身にやって来なくても、失業や倒産のニュースには気が重くなる。海の向こうの話であってもそうだ。
 アメリカではいまや大量の記者がクビになって路頭に迷っている。
 3月12日のニューヨークタイムズによれば、アメリカで数少ない全国紙USAトゥデイなどを出している全米最大の新聞発行会社ガネットは、07年と08年の2年間で全体の22パーセントにあたる8300人のクビ切りをしたという。90年代に記者がもっとも多い新聞社のひとつだったロサンジェルスタイムズも1200人の記者を半分にした。ワシントンポストは、6年前に900人以上いた記者を700人以下にした。マイアミ・ヘラルドはすでに減らしている人数からさらに19パーセント減らした。サンフランシスコ・クロニクルも、4月初めに1割にあたる150人のスタッフの削減に合意した。
 こういう具合に、人を減らし、記事の数を減らし、ページ数を減らし、セクションを減らしている。さらに海外支局を閉鎖し、首都ワシントンの支局さえもなくした。映画評をなくし、書評をなくし、読者の住居地域から少しはずれたローカル・ニュースもなくした‥‥こんなリストラが進行しているという。

 日本も、4月に多くの新聞が紙面を変えたが、夕刊が(出ている場合も)薄くなったり、別刷りになっていたものがそうでなくなったり、あるいは記事のレイアウトを変えて、気づきにくい形で記事数を減らしたり、といったことが行なわれている。アメリカほどあからさまではないにしても、アメリカの後を追っている。
 ネット版だけになれば、印刷版ほどの収入は得られない。リストラしておけば、先々ネット版への移行は容易になる。現在の新聞の危機は、ニュース・メディアの構造を変え、ネットに移行しやすい体質にする準備になっている。少なくともアメリカでは、今年の新聞広告収入3割減という厳しい予想も出ており、こんどの経済危機は、印刷された新聞の終わりに向けた1ステップということになるだろう。

●記事の使い回しが新聞の生きる道?

 十分に低コストの体制になれば、4号前に書いた「無料経済」が実現できる。
 「無料経済」というのは、「大半は無料でも少しだけお金が入ってくれば成り立つ」ビジネスモデルのことで、ネットでウェブ2・0企業などが実践している。
 採算あわせのために過激なコストカットをして、はたしてそれで魅力的なメディアができるのかと思うが、ネットで現実に進行しているのは、まさにこうした「無料経済」の方向だ。「少しだけお金が入ってくるだけで成り立つにはどうするか」のノウハウや技術が蓄積されている。
 ニコニコ動画やユーチューブ、ミクシィ、ブログ運営会社などのいわゆるウェブ2・0企業は、自分たちでコンテンツを作っていないにもかかわらず、というよりも、だからこそ魅力的なサイトを作っている。その一方で、映画やドラマなどを調達して配信していたギャオが、事実上の救済策としてヤフー動画に統合されるなど、コンテンツの購入や作成にお金をかけている企業は苦しくなっている。
 ネットの「無料経済」にあわせるためにコストカットを進め、コンテンツの使い回しのようなアクロバチックなやり方でウェブ2・0企業に伍していくための「経済力」を身につけるというのが、メディア企業がネットで生き残るための至上命題になってしまっている。
 前回、名の通った新聞では初めてシアトルの新聞が日刊版をやめ、ネット版だけに移行したと書いたが、この新聞のオーナーであるハーストの社長も、ネット版のコンテンツは、地域のライターやブロガーに提供してもらったり、ハーストのほかの媒体の記事や情報を使うと言っている。
 15年前にウェブにアクセスし始めてすぐ、リンクによって成り立つドキュメント・システムは歴史上の大発明として記憶されることになるだろうと思った。しかしまさかこの仕組みが、自分で作らなくてもコンテンツをかき集めることのできるメディア・ビジネスの到来を意味するとは思いもよらなかった。しかし、リンクはまさしくコンテンツ企業の基盤を大きく変える時限爆弾だった。
 「コンテンツの使い回し」は、ネットに移行しなくてもやられている。
 3月30日のニューヨークタイムズによれば、ヨーロッパ最大の新聞「ビルト」などの発行元であるドイツのアクセル・シュプリンガーは、62年の歴史のなかでもっとも利益をあげているという。ほかの新聞社を吸収したり新たなメディアを立ち上げたりしているのだそうだ。
 「新聞崩壊」のこの時代になぜそんなことをしているのかというと、媒体が増えれば増えるほど同じ記事を使い回しできるからだ。たしかに、コストがそれほどかからず媒体数を増やし新たな読者を得られるのであれば、利益は大きくなる。

●コストカットのハードルが高い日本の新聞

 日本でも、こうしたことはできるだろう。
 実際、読売や朝日といった大手全国紙は、通信社のようにほかのメディアやサイトへの配信によって生き残りを図っていくことになるのではないか。
 また地方紙も、北海道新聞など力を持っているところが中心になって大同団結し、全国紙に対抗する新たな勢力をめざすといったことが考えられる。記事そのものはすでに通信社から買って「使い回し」をしているわけだが、総務や広告など間接部門を一体化し、編集部門が地域の情報だけを独自に集めて低コストで各地の新聞を出す。共同通信と各都道府県の53新聞社がまとまって「47NEWS」というサイトを作っているぐらいだから、こうしたことを考えている人はすでにいるにちがいない。
「47NEWS」は、各紙が単独でサイトを作ってもうまく行かないが、まとまれば存在感を得られるという発想で作られた。リニューアルしたりして苦労しているが、各紙の見出しを並べているために、「一目でわかりやすいサイト」にはなっていない。
 ヤフー・ニュースが一人勝ちの状態では、ただ「集まった」というだけではうまくいかない。そもそもネットでは、ニュース記事だけを提供してももはやアクセス集めには限界がある。SNSやブログ、ショッピング、オークション、その他もろもろのサービスに加えて、ニュース記事「も」読めるといったことでないと勝ち抜けないようだ。
 そう考えると、現状では明らかにヤフーが有利だが、対抗するためには、少なくともリンクを敵ではなく味方にする必要があるのだろう。ほかのコンテンツにリンクを張ればアクセスを逃すというのが日本の多くのメディア・サイトが思っていることだが、逆に言えば、リンクは、自分で作らなくてもコンテンツを集められる仕組みであるわけで、それを利用しないかぎり、ネットで勝ち抜くメディアサイトになるのはむずかしい。

afterword
 3月30日のニューヨークタイムズの記事では、プロバイダーに課金し、利用者がネットにアクセスするさいにコンテンツ利用料も徴収するというアイデアが紹介されていた。しかし、パソコン通信時代に逆戻りするかのようなこうしたプランが実現する可能性はきわめて低いだろう。

関連サイト
●ドイツの新聞発行元が利益を上げていることを紹介しているニューヨークタイムズの記事「アメリカの新聞が生き残りうるためのヨーロッパの教訓(In Europe, Possible Survival Lessons for U.S. Papers)」(http://www.nytimes.com/2009/03/30/technology/30iht-papers30.html
●共同通信と47都道府県の53新聞社がまとまって作られた「47NEWS」(http://www.47news.jp/)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.580)

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