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2009.05.25

「新聞崩壊」後のニュースメディア

アメリカでは、日本以上に「新聞崩壊」が進んでいるが、
ネットのニュースメディアはどのようなものになるのか。
一足早く予測してみよう。

●「すべてはいったん灰に帰する」

 

 前回まで新聞の危機的状況についてあれこれ書いてきたが、結局のところ新聞は、これからどうなっていくのだろうか。
 アメリカの新聞サイトでは、「新聞はどうなる?」とか「有料化すべきか」などの議論が飛び交っているが、ロサンジェルスタイムズは、二人のジャーナリストに意見を戦わさせている。
 有料化について、「発行元はネットでも課金する必要があるし、消費者は支払うべきだ」と一人が言うのに対し、もう一人は、「『べきだ』という理屈で組み立てられたビジネスでうまく行った試しがあるのか」などと反論している。後者のジャーナリストは、新聞がなくなり、しばらくは地元のニュースが伝えられなくなる地域も出てくるだろうが、「われわれはニュースを集め共有できる新たなやり方を手にしており、われわれの知っているものとはまったく違った形が灰のなかから生まれる」と予言する。
「すべてはいったん灰に帰する」と考えている人はネットでは多い。ニューヨークタイムズはあちこちのサイトの意見を集めているが、そこでも、「古いモデルが壊れ、その代わりにただちに何かが現われるということはなくて、無数の実験が行なわれるだろう」というブログの意見を紹介している。
 実験的な小さな試みが個人や小さな組織によって行なわれ、そのなかからネット時代のジャーナリズムが現われる、というわけだが、裏返していえば、いまのところまだそれが何かわからない、ということでもある。
 こうした意見のなかで、多少なりとも手がかりになるように思われたのは、「20年前には、マックのニュースはほとんど手に入らなかったが、いまやいくらでも手にはいる。こうした変化は、新聞の未来ではなくて、ニュースの未来を考えるうえで重要だ」という意見だ。
 新聞社が死につつあるのだとしても、ネットでの情報量は増えており、ニュースの量は明らかに増大している。政治家のブログがインサイダーの情報を流したり、タレントが離婚などを発表したり、あるいは秋葉原の殺傷事件などではその場にいた人が動画も含めた情報を発信したりと、従来のマスメディアによる報道とは違った形で多様な情報が飛び交っている。これらは客観的な情報でないといえばそのとおりだが、ニュースの総量はかつて考えられなかったほど増えている。
 ただ、こうしたとりとめのない膨大な情報を前にして、途方に暮れてしまう人も少なくない。信頼できる情報をまとめて伝えてほしいという需要があれば、ニュースメディアが必要になってくる。

●灰のなかから現われるニュースメディア

 その担い手になるのはどういう組織なのか。新聞社がダウンサイズしてネット時代に対応できる体制になり、その担い手になるのか。あるいは、ネット発のニュースメディアが力をつけていくのか。
 アメリカでは、新聞の発行元にとって最悪ともいえる時期に経済危機が起こり、体質転換がいやおうなく進んでいる。存続できない新聞社が出てくる代わりに、ネットへの適応も早いだろう。力をつけていくネット発のニュースメディアが現われる一方で、新聞社の転身組のなかでもそこそこ伍してやっていくところがあるにちがいない。
 印刷して配布するという物理的な障害がないので、ネットに移行したニュースメディアは、吸収合併が印刷版よりずっと容易だ。アメリカの新聞はほとんど地方紙だが、サイトのトップページだけ地域色を残し、地元記事以外は使いまわすなど経営効率をはかりながら融合していき、ふたたび規模を拡大していく、ということも起きそうだ。
 こうしたニュースメディアは、サイトの広告収入だけでなく、ポータルサイトやSNS、ショッピングサイト、あるいはエンターテイメント性を強めていく企業サイトなどにニュースの配信先を広げていくだろう。
 現在でも、十分な広告収入を得られない日本のニュースサイトは、配信収入の割合が大きいようだ。トップページさえも、表示されただけで収入を得られる表示課金ではなく、クリック課金の広告だけのニュースサイトもある。こうした場合、ニュース記事についた広告をクリックしてもらわなければ収入にならない。となると、クリックされやすい記事を優先する誘惑が出てきて、それをやってしまうと、ニュースメディアの生命線である信頼性がとぼしくなる。また広告収入だけだと経営が安定せず、そういう意味でも、配信収入が中心になるほうが健全だろう。

●ネット発のニュースメディアが育ちにくい日本

 ひと口に「ニュースメディア」といっても、記者会見やリリースなど企業や行政府などの情報発信にもとづくニュースと、取材を重ねて獲得した情報をもとにしたニュースがある。いまはこのふたつを同一のニュースメディアが担っていることが多いわけだが、だんだんと別の組織の仕事になっていくかもしれない。
 ニュースの数をある程度集めればとりあえずニュースサイトはできる。資金点にも人的にも十分でなければ、「発表もの」を中心にしたニュースサイトになりやすい。
 では、調査報道は誰が担うのか。
 商業的なベースでなく活動する人びとによって担われるケースが増えてくるだろう。
 こうした兆候はもうすでに出ている。隠された情報をネットで連携した個人が暴くということが、ときにかなり過激な形をとって行なわれているが、「個人だけでは心もとない」ということになれば、基金などによって成り立つ団体が行なうということも出てくるかもしれない。
 アメリカの大学が基金をもとに運営しているように、寄付などを集めて基金にし、その運用資金でニュースメディアを運営していくべきだという主張が、アメリカではしばしば見られる。寄付が集まりにくい日本ではむずかしいが、アメリカでは調査報道の危機が認知されるようになればなるほど、こうしたニュースメディアが増えてくるだろう。

 日本のニュースメディアは結局どうなるのか。
 この経済混乱がどれぐらい長く続くかわからないが、1、2年のうちに回復するのであれば、日本の新聞社は体制の変革をアメリカほど迫られない。また「紙離れ」の急速な進展のためのリストラは痛みが大きすぎ、日本の新聞社は自分たちの経済的基盤を印刷版に求め続けるだろう。日本では、率先してネットメディアに転換する動機付けが、アメリカに比べて乏しい。
 また日本では、アメリカほど潤沢なネット広告市場もないし、広告収入が特定のサイトに集中しがちだ。こうした問題点が解消されないかぎり、ネット発の多様なメディアは育ちにくい。
 日本のニュースメディアがどうなるかは次回もう少し詳しく書くつもりだが、こうしたことからも、コスト削減に成功しさえすれば、従来のニュースメディアが生き残る可能性はアメリカよりも大きいのではないか。

afterword
 アメリカでネット発の興味深いニュースメディアがすでにいくつも生まれている。日本のニュースメディアのゆくえについて書いたあと、そうしたサイトも取りあげていきたい。

関連サイト
●二人の専門家が3日にわたって論じているロサンジェルスタイムズの記事「新聞はどれぐらい長く生き延びられるか(How much longer for newspapers?)」(http://www.latimes.com/news/opinion/la-oew-mutter-jarvis2009-mar18-20,0,1283217.storygallery)。
●「新聞はなぜ生き延びられないのか。しかしニュースは生き延びられる(Why Newspapers Can’t Be Saved, but the News Can)」と題してブログの意見を集めたニューヨークタイムズの記事(http://opinionator.blogs.nytimes.com/2009/03/16/why-newspapers-cant-be-saved-but-the-news-can/?scp=1&sq=%22WHY%20NEWSPAPERS%20CAN%27T%20BE%20SAVED,%20BUT%22&st=cse)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.581)

   

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