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2009.04.13

「ネットは無料」の潮目が変わろうとしている?

ネットのニュース記事を有料化しようという動きがアメリカで出始めた。
新聞をめぐる状況がここまで危機的になれば、
そうした動きが出てくるのも当然か。

●ウェブだけでほんとうにやっていける? 
 

 前回、「フリー」という本を出版しようとしている米ワイアード誌編集長クリス・アンダーソンの「95パーセント無料、5パーセント有料で黒字転換がウェブ2・0企業では望ましい」という説を紹介した。ニコニコ動画の決算を見たらそんなふうな数字になっていて、何やら説得力があった。
 しかし、これはあくまでも「ウェブ2・0企業」、つまりコンテンツを作らず、投稿によって成り立っている場合だろう。コンテンツを作るメディア企業の場合には、これですむのかどうか。
 すんでいるのかどうかはともかく、米ウォールストリートジャーナル紙も「5パーセント有料」に近い数字になってきたようだ。同紙は、無料で読める記事を大幅に増やしたものの、いまもって有料購読の制度を維持している数少ない新聞サイトだ。
 同紙の印刷版は、新聞が読まれなくなってきたこの時代に平日の定期購読者が2・4パーセントも伸びたという。そして値上げしたこともあって、四半期の印刷版の購読料収入は前年同期から9パーセントもアップしたそうだ。経済の急速な混迷によって経済情報の必要度が高まっているにしても、驚くべき数字だ。しかし日本でも、日経新聞は、部数やサイトへのアクセスが増えているらしい(追記参照)。
 ウォールストリートジャーナルのサイト利用者は1月が2000万人で、そのうち有料購読者は107万9000人だというから、ほぼ5パーセントにあたる。
 もっとも、リリースなどに付いている会社説明には利用者数は月1090万人と書かれている。昨年1月がだいたいこれぐらいだったから、そのころの数字を使っているのだろう。その後、無料の記事を大幅に増やし、昨年6月に1・5倍ぐらいになっていたが、リーマン・ショックを経てさらに利用者が増えたわけだ。「新聞崩壊」などと騒がれている時代に何とも景気のよさそうな話だが、広告収入はやはり減っているはずだ。しかも、サイトの記事は印刷版の流用が多いから、サイトだけでやっていけるはずはない。
 アメリカの新聞社の中には、印刷版をやめてネット版だけにするところも出てきたが、いままでのレベルを保っていけるのかはかなり疑問だ。昨年クリスチャン・サイエンス・モニターがいち早くそうした決断に踏み切ったときにも疑問に感じたが、それから経済がいよいよ深刻な状態になり、ネット広告も集まりにくくなったいま、いよいよ疑問である。記事をそうとう絞りこみ、得られた収入でやっていけるだけのスタッフにするというかなり淋しいものにせざるをえないのではないかと思う。

●「読むことを売る」のが新聞社の仕事

 アメリカの新聞業界の苦しさは、日本をはるかに上まわっている。そのアメリカの新聞社がこのところ熱心に検討し始めたのは、記事の有料化だ。
 ネットで記事を無料公開したのは大間違いで、その行為は「原罪」に相当するとまで書いていたメディア・コンサルタントのブログがあったが、「新聞崩壊」真っ逆さまのこの時代、こうした主張は説得力を持つようになってきた。日本でもこうしたことを思っている新聞人は多いだろう。
 日本でウェブ・サイトの本格的な有料化を考えている新聞社があるようには思えないが、アメリカのメディアでは、新聞社の幹部が有料化を検討しているという記事が、2月から3月にかけて次々と出ている。
 2月27日のウォールストリートジャーナルは、ハーストがデジタル記事の有料化を考えていると、流出した社長の従業員宛メモをもとに報じている。
 ハーストは、経営危機が明らかになっているサンフランシスコ・クロニクルなど15の新聞を経営し、120年以上の伝統を持つが、社長のスティーヴン・スワーツが、無料と有料のコンテンツをはっきり分け、どれぐらいのコンテンツを有料に戻すかが日々の経営判断で、消費者が理にかなっていると感じるような価格設定能力を失わずに最良の無料サイトを運営することが必要だとメモに書いている。90年代にIBMが、自社の大型コンピューターを売るビジネスを脱皮して、必要なときには他社の製品も売るITコンサルタント企業に転身したのと同様、自分たちも、たんにページを売るのではなくて、「読むことを売る」方向に向かうべきで、自社のものでない商品もパッケージ化して売ると言っている。
 ニューヨークタイムズなどでも、他のサイトにリンクを張っている。ブログなどでは当たり前のことだが、マスメディアのサイトではまだ多くはない。ページを売るのではなくて、「読むことを売る」というのは、このように他サイトに積極的にリンクを張ることなどを考えているのだろう。

●読書端末が次々と出る?

 同じ日CNNは、ハーストがワイアレスの読書端末を出すつもりだと報じている。すでにアマゾンが「キンドル」という端末を出しているが、ハーストは、雑誌の表示にあったもっと大画面の端末を考えているらしい。
 無料で手に入る方法があったとしても、消費者は、簡単に買える仕組みがあればお金を払うということは、iTuneやキンドルによって証明された。キンドルでは、驚くことにブログ記事まで有料で売っている。いうまでもなくPCでサイトにアクセスすればタダで読めるわけだが、メディアを変えれば、お金を取れる商品に変貌する。ニューヨークタイムズなどおもだった新聞もすでにキンドルで購読できるようにしている。サイトでは無料で読めても、そこそこの需要があるようだ。
 デジタル記事の有料化を考えているアメリカのメディア企業が有力な選択肢としてまず考えているのは、こうした専用端末での販売だ。ニューヨークタイムズの編集責任者も、新しい読書端末を可能性のひとつとしてあげている。
「有料化」についての記事をいくつも集めてみて気がついたが、なぜかみな同じ2月27日に出ている。どうしてこの日なのか不思議だが、ニューヨークの近郊ロングアイランドの新聞「ニューズデイ」もこの日、同紙がウェブの無料コンテンツをやめることを検討しているという記事を掲載している。自社のことながらふつうの記事で、親会社の幹部がそう言っていると報じている。
 こうして見てきてもわかるとおり、有料化を「検討している」という記事ばかりだ。有料化に踏みきることを明言したところはさしあたりまだ見あたらない。専用端末での販売は可能だろうが、ウェブで今さらすべての記事を有料にするのはむずかしい。有料化を考えている新聞人もそう思っているようで、具体的な結論が出ないようだ。とはいえ、有料化をめぐるびっくり仰天のアイデアもアメリカの大新聞では提案されている。次回はそれについて書くことにしよう。

afterword
 ニューヨークタイムズの編集責任者は、6か月前にはウェブが新聞界の救命ボートになると思ったが、そうした状況は一変したと言っている。次回は、「では何がいまの救命ボートなのか」について。

関連サイト
 なぜか2月27日に、アメリカのあちこちのメディア・サイトにニュースの有料化に関する記事が出た。右から、ウォールストリートジャーナル紙の「デジタル・ニュースへの課金を始めるハースト」(http://blogs.wsj.com/digits/2009/02/27/hearst-to-begin-charging-for-digital-news/)、CNNの「ワイアレスのeリーダーを出すハースト」(http://money.cnn.com/2009/02/27/technology/copeland_hearst.fortune/index.htm )。ハーストは、新聞だけでなく、「コスモポリタン」や「エスクワィアー」など日本でも馴染みのある雑誌を含め、アメリカで発行している月刊誌だけでも15誌出している。

追記
 『創』四月号は、首都圏での即売売り上げが急増し、他の全国紙が軒並み部数を落とすなか、昨年12月の日経新聞の部数は前年同期比1万部増の306万1000部だったという。「NEKKEI NET」のアクセスも、普通は1日1600万件ぐらいなのに、2000万件を超えたという広報グループ長の談話が載っている。ただし、日経新聞社の昨年12月期の決算は減収減益(http://www.tv-tokyo.co.jp/contents/ir/jpn/irnews/pdf/090310_1.pdf)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.577)

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