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2009.04.27

「新聞の終焉」が見えてきた

印刷版の新聞がなくなり、ネット版だけになるのは時代の必然とも言えるが、
実際にそれはどう進むのか。
アメリカで、そうした移行のプロセスが見えてきた。

●新聞と週刊誌の最終戦争? 

 

 朝日新聞と週刊新潮の戦いが緊迫している。週刊新潮が、朝日新聞阪神支局襲撃犯の犯人と称する人物の告白手記を載せたのに対し、朝日は、裏付けのない手記を載せたと批判し、訂正と謝罪を求めた。告白した人間が実行犯でないことを認めてしまい、週刊新潮は4月23日号でだまされたと謝罪したが、「だまされたですむことではない」と朝日は追及の手をゆるめていない。
 朝日新聞と総合週刊誌は、ずっと奇妙な関係を続けてきた。
「朝日たたきは売れるコンテンツ」ということか、朝日批判記事がしばしば書かれ、当の朝日にもその記事を大見出しにした週刊誌広告がたびたび載った。広告の内容にやたらに介入するのは言論の自由の点からも問題で、気に入らない広告だからというだけでむやみに変えさせることはできないのだろうが、読者からすればそうとう奇妙な感じがしたはずだ。
 自分たちを激しく批判する雑誌広告の大見出しを載せる新聞は度量が広いとも言えるが、当然ながら広告料をもらっているわけで、皮肉に言えば、持ちつ持たれつなのか、ということにもなる。
 しかし、そうした奇妙な蜜月は終わりつつあるのかもしれない。
 広告局と記事を書いている部署は別だから、記事は記事で作成され、広告は広告で作られるわけだが、メディアに対する世間の目が厳しくなっていることもあり、もはや「なあなあの関係」は維持できなくなって、新聞が生き残るのか総合週刊誌が生き残るのか、「最終戦争」に突入しつつあるかのようだ。
「最終戦争」を戦うにあたって、大部数の宅配が維持されている新聞の経済的な基本条件は雑誌よりずっといい。夕刊をやめる新聞も出てきてはいるが、社員の待遇悪化などに反発が出てリストラに失敗しないかぎり、日本の大手新聞は、「新聞崩壊」と言われても、まだもうしばらく持つと思われる。
 しかしアメリカでは、倒産や発行停止、ネットだけの刊行になるなど、「新聞の終焉」がすさまじい勢いで進んでいる。メディアの終末がどのように進行するのかを一足先に見てとれるという意味で、アメリカの新聞の世界で起こっていることは興味深い。

●ウェブの収入だけで新聞社はやっていける?

 シアトル・ポスト・インテリジェンサー(SPI)は、日刊をネット版だけにすることに最初に踏みきった名の通った新聞として歴史に名を残すことになった。3月17日で印刷版の発行をやめ、ネット版のみに移行した。それから10日足らずしてクリスチャン・サイエンス・モニターも日刊をネット版だけにしたが、こちらはキリスト教団体からの寄付というベースがあるのでほかの新聞の参考になるとはかぎらない。シアトルの新聞のほうに注目が集まっている。
 昨年末にはロサンジェルスタイムズ(LAT)の編集主幹が、「自分たちのウェブからの収入は編集の給与コストを上まわった」と明かし、新聞関係者やネットで話題になった。「なんだ、それならさっさとネット版だけにすれば、新聞は生き残れるじゃないか」というわけだ。
 こうした声に対して、たとえばニューヨークタイムズの編集責任者は、新聞は記者だけで作っているわけではない、給与が最大の経費ではあるが、広告や経理のセクションもいるし、出張経費や支局の費用、裁判や交渉のための弁護士費用、電話代やコンピューター、カメラといった装備費、仕事場を分散させるにしてもスペースの費用がいるなどとかかる経費を列挙し、そもそもLATは、現在のコストにするために、かつては自分たちと同じくらいいた記者をすでに大幅に減らしているではないかと、読者からの質問に答える形で反駁している。
 ネット版への移行は大幅なコストダウン、とくに記者の大量クビ切りとセットでなければ達成できないということは、SPIでも実証されている。165人いたニュース・スタッフをわずか20人ほどにしてしまったという。このほか広告のセールスなどに20人いるだけの小所帯になった。
 そもそも新生SPIのサイトはもはや「新聞のオンライン版ではない」というのが、SPIを経営しているハースト社の社長の説明だ。「活力のあるコミュニティ・ニュースと情報ウェブサイトを核にした新しいタイプのデジタル・ビジネス」という位置づけなのだそうだ。結局のところ、ブログや他のニュース記事へのリンクに頼ったサイトになるのではないかとLATは推測している。
 LATも発行元のトリビューンが昨年12月に破産している。日本の民事再生法に似た仕組みで新聞の発行は続けているが、自分たちもいつネット版だけになっても不思議ではない。そうした身の上だけに、同じ西海岸の新聞の運命をたどる記事には他人ごとではない切実さがある。

●人員削減かしからずんば死か

 ハーストはSPIのことを、ネットに移行した全米最大の日刊新聞と説明しているが、日刊をやめた時点の部数は11万7000部にすぎない。日本の大手新聞とは比べものにならない少なさだ。逆に言えば、これぐらいの規模だからネット版へ移行できた、ともいえる。印刷版をやめると大量の失業者を生んでしまうようではそう簡単にはやめられない。
 もっともハーストは、「人員削減かしからずんば死か」という選択肢を傘下の新聞に突きつけている。
 ハースト以外の新聞グループでも、ニューヨークタイムズは、93年に11億ドルという高値でボストン・グローブを買収したにもかかわらず、2000万ドルのコストカットに5月1日までに同意しなければ廃刊にすると同紙の組合に迫っている。
 アメリカの新聞社が日本以上に悲惨な状況になっているのは、大きなダメージを受けている広告への依存の割合がもともと高かったことに加えて、ついこのあいだまで激しい買収合戦を繰り広げたために、大きな負債を抱えこんでしまっているからだ。まさに最悪の時期に激しい経済混乱に見舞われ、「泣きっ面にハチ」状態で一挙に「新聞崩壊」に突き進んでいる。
 シアトルにはもう一紙、シアトル・タイムズという日刊紙が出ているが、ライバルが消えて一安心かと言えば、そうではないようだ。大幅なリストラを迫られてきたアメリカの新聞は、経費削減のため、同じ地域のライバル紙と新聞の配布や印刷について提携している。ライバル紙はコストを負担しあう協力者でもある。その相手が消えてしまえば、一挙にコストが増大するわけで、「ライバル紙の読者を取りこめる」と喜んでばかりはいられない。
 アメリカの新聞は、ほとんど地方紙だが、こうして二紙あった新聞が一紙になったと思うまもなく、一紙もなくなる、ということが起こる。「新聞のない地域」が全米で少しずつ出てくるだろう。経済混乱が長引けば長引くほどそうした地域が広がっていき、やがてアメリカは「ニュースはネットで読むもの」の時代に移っていくだろう。

afterword
 日本の新聞社は販売や印刷の面でほかの新聞社と提携し、コスト削減を図っている段階だ。悪条件がいくつも重なったアメリカの新聞より総じて危機の度合いは低い。全国紙がいくつもあるし、新聞が消えてなくなることはまだしばらくないだろう。新聞の行くえについてもう少し追ってみたい。

関連サイト
●ネットに移行した全米最大の日刊新聞「シアトル・ポスト・インテリジェンサー」(http://www.seattlepi.com/)。
●同じく日刊の印刷版の発行をやめ、ネット版だけに移行した全国紙「クリスチャン・サイエンス・モニター」(http://www.csmonitor.com/)。
●New Yrok Times,‘As Cities Go From Two Papers to One, Talk of Zero’(http://www.nytimes.com/2009/03/12/business/media/12papers.html

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.579)

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