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2009.04.06

「何でも無料」時代のネットのビジネスモデル

「95パーセント無料、5パーセント有料で黒字転換する」というのが、
ウェブ2・0時代のネットでは望ましいと
「ロングテール」の著者がブログで書いている。

●オープンソース・プロジェクトがときに独裁的な理由
 
 

 「ロングテール」という言葉を流行らせた米ワイアード誌の編集長クリス・アンダーソンが今年夏前に出す新刊を前回とりあげたが、彼のブログもおもしろい。3月12日には、オープンソースとソーシャルメディアは、会社と国のような違いがあると書いている。
 会社には利益追求などの目的がある。経営者の強いリーダーシップのもと、ときに独裁的に経営したほうがうまくいく。一方、国は国民の役に立つことが第一だから民主的な運営が合っている。
 ブログのようなソーシャルメディアも特定の目的があるわけではない。人びとの役に立つのが目的だから民主的な運営がふさわしい。一方、オープンソースのプロジェクトといえば、リナックスやウィキペディアなどが思い浮かぶが、それぞれ新しいOSや百科事典を作るというはっきりとした目的があり、いずれも立ち上げた人間の強い個性やリーダーシップに支えられている。
 オープンソースとソーシャルメディアにはこのようにはっきりとした違いがある。ソーシャルメディアは民主的に運営されるべきだが、オープンソースのプロジェクトの組織は階層的な構造になっていることが多いという【追記参照】。

 なるほど。短い記事だけどマトを射てる。
 国も、平和時は民主的であっても戦争遂行という目的がはっきりしている戦時下には独裁的傾向が強まったりする。現在の日本はもちろん戦時下ではないが、危機的状況にはなってきた。危機脱出という目的が強く意識されると、強権が求められるようになっていくのだろう。

●無料経済の4つのモデル


アンダーソンのブログは、このように興味深い知見に満ちているが、このところ頻繁に取り上げているのは、やはり新刊本のテーマの無料経済に関する話だ。ブログを読むと、このテーマについて彼の思考がどのように深まっているのかがわかる。
 アンダーソンによれば、無料経済には次の4つのタイプがあるという。

①何かをタダにする代わりにほかのものを有料にする――携帯端末の料金をタダにする代わりに通信料で回収するといったモデル。プリンターの本体は安いが、インクはそうでもないというのもこのパターンの変形だろう。
 こうしたビジネスモデルは、アメリカではけっこう長い伝統があるらしい。ジレットという会社は、ひげそりの器具をタダで配る代わりに替え刃で儲けたそうだ。たしかに、アメリカで買い物したら、安っぽいプラスチックのひげそり道具がカミソリなしで付いていて何なのだろうといぶかしく思ったことがある。

②広告モデル――いうまでもなく、CMによってタダで見ることができる民放が典型だ。

③だいたいは無料だが一部有料にして採算を合わせる――オンラインゲームなどでは基本的に無料だが、アイテムなどは有料ということもある。ニコニコ動画でも、無料で会員になれるものの、プレミアム会員もある。あるいは無料のニュース・サイトなどでも、一部有料のコンテンツがあったりする。フリーとプレミアム(有料)の融合型なので「フリミアム」と呼ばれている。
 この「フリミアム」には(a)期間限定(30日を過ぎると有料等)、(b)機能限定(基本は無料、上位版は有料等)、(c)数量限定(d)顧客タイプ限定(個人は無料、企業は有料等)などの形がある。
(a)は結局は有料なので利用者にいやがられやすく、(b)は複数のバージョンを作るのでコストがかかる。(d)は顧客タイプの判定がむずかしいなど、それぞれ一長一短があるという。

④贈与経済――寄付などで成り立っているもので、ウィキペディアがその典型だ。お金ばかりでなく、技術や知恵の無料提供といったものもある。

 ①は結局は何らかの形で払っているので、無料かどうか怪しい。ほんとうに無料といえるのは②以降だ。②以降は、誰かがお金を払っているにしても、かなり多くの人が無料で商品やサービスを手にできる。無料なので利用者が増大し、わずかの人がお金や知識、技術を提供するだけで成り立つ。

 こうしたことについてアンダーソンは、ユーチューブで公開されているグーグルの創立者サーゲイ・ブリンの大学での講演動画を張りつけて説明している。
 この動画でブリンは、記事の作成に貢献する人がわずかなのでウィキペディアは成り立たないと言っている。それに対しアンダーソンは、貢献する人はわずかかもしれないが数が膨大なのでやっていける、規模の力学がゲームの規則を変えたことをグーグルの創立者がわかっていないとびっくりしている。

●「帰りのガム代払えば焼き肉タダ」のデジタル経済?

 ③の「フリミウム」も、デジタル経済でなくてもあった。3個買うと1個タダといったものだ。しかし、前回書いたように、デジタル経済では、主要な原料である記憶容量・情報処理能力・伝送容量が劇的に安くなった。そのため、ほとんど無料で少しだけ有料というのでもやっていけるようになったとアンダーソンは説明している。

 彼は、ウェブ2・0企業が「フリミアム」を収益モデルとして使うのならば5パーセント有料を損益分岐点にすることを勧めている。10パーセント有料になれば、十分な利益が出る。しかし、それ以上にはすべきでない。有料の割合を増やしすぎると利用者を十分に集められず、儲けそこなっている可能性があるからだそうだ。

 少し前に、ウォールストリートジャーナルを手に入れたメディア王のマードックが、サイトの記事をすべて無料で読めるようにしようと思ったものの、社員に説得されて考えをひるがえしたという話を書いた。結局、有料購読を残し、無料で読める記事を大幅に増やしたわけだが、アンダーソンの考えからすれば、これは理にかなっていることになる。
 じつは、アンダーソンもブログで同紙のこの件をとりあげている。しかし彼は、有料時の広告収入をまったく計算に入れないという誤りを犯し、その結果、すべて無料にしたほうが儲けが大きくなると結論づけている。たしかにすべて無料のほうがカッコはいいが、前に書いたように、少なくともウォールストリートジャーナルの場合はそうでないほうがさしあたり収益が大きいはずだ。

●ニコニコ動画は「5パーセント理論」を実証している?

 ニコニコ動画は、アンダーソンの「5パーセント理論」を実証しているように見える。
 昨年12月末の時点で会員数が1072万人、有料会員も24万8000人になったそうだ。「大人はプレミアム会員になろう」とユーザーが呼びかけたこともあって、有料会員はこのところ増えている。売り上げも伸びているものの、コストも増大していて、第1四半期はまだ4億7500万円の赤字だ。アンダーソンの理屈に従えば、昨年末の会員数だったら有料会員がもう29万人多ければ全体の5パーセントになり黒字転換できることになる。月額525円だから、掛け算すると四半期で4億5000万円増になり、たしかに損益分岐点に近い数字になる。

関連サイト
●米ワイアード誌編集長クリス・アンダーソンのブログ(http://www.longtail.com/)。「カテゴリ」を「Free」にすれば、無料経済についての記事だけを表示できる。
●親会社ドワンゴの今年度第1四半期決算説明資料(http://info.dwango.co.jp/pdf/ir/news/2009/090205_ir.pdf)。

afterword
景気の悪化が無料経済にどう影響するかもアンダーソンは書いている。広告にはマイナスだが、無料の魅力が増すので有料部分がきちんと機能していれば③も悪くない。仕事がなくてヒマになり技術や知識を無料提供できる人が増え、ネットで名を売る必要も出てくるので④は追い風とのことだ。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.576)

追記(4月8日)
 リナックスはgitというコマンドツールを採用し、「階層的」という言い方はいまはあたらないのではないかというメールを知人からもらった。
 クリス・アンダーソン自身は、オープンソースのプロジェクトの例をとくにあげているわけではない。
 オープンソースのプロジェクトも以前よりももっと民主的になろうとしているようだ。

追記2(4月18日)
 上の「知人」は@ITの西村賢氏で、この件について記事を書いている。開発者でないと、よくわからないところもあるが、おおよそどういうことになっているのかはわかると思う。

http://www.atmarkit.co.jp/news/analysis/200904/14/git.html

「OSSプロジェクトは、じつは専制的」というのは、意表を突いていて話としてはおもしろいが、組織化の技術が十分に発達していないからそうなっていたにすぎない、ということはありえるように思う。

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