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2009.04.20

ニュース記事を有料に戻す方法

「新聞の危機」を超えてもはや「ニュースの危機」だとまで言われ始めたアメリカの大新聞で、有料化実現のために「談合を認めろ」という声まで上がっている‥‥

●未来の喪失
 

 経済危機によって、「この半年ほどのあいだにまったく別の世界になってしまった」と思っている人は現在、世界中に数多くいるだろうが、ニューヨークタイムズの幹部もまたそう思っているにちがいない。
 少なくとも昨年前半までは、アメリカの大手新聞や雑誌はネットの広告収入に自分たちの未来を託そうと、無料で読める記事を大幅に増やす方向に向かっていた。この欄でも紹介したように、ニューヨークタイムズは2007年9月に有料課金を基本的にやめ、過去の記事についても1851年から1922年までと87年以降は無料でアクセスできるようにした。タイムやニューズウィーク、スポーツ・イラストレイテッド、ポピュラー・メカニクスなどの雑誌も何十年分もの記事に無料でアクセスできるようになった。
 少なくとも昨年前半まではこうした流れだった。
 ところが、リーマンショック以後、変調を来たした。
 少なくとも短期的には、広告をあてにしたビジネスモデルではまわらないことがはっきりしてきた。ウェブ広告への期待を高めていたまさにそのときに、期待を一気に崩すこうした激変が起こったのだから、アメリカのメディア産業はたまらない。
 いわば未来を喪失してしまったことになる。
 タイム誌のサイトの2月5日の記事「新聞の救い方」は、

「[集団自殺する]レミングの群れにとって険しい断崖が未来だというのと同じ意味でのみ、無料はジャーナリズムの未来のように思われる」

と断じている。
 いまや「新聞社の危機」にとどまらず、「ニュースの危機」さえ語られるようになってきた。

●新聞社の「談合」を認めろ

 同じく新聞社が危機に陥っているフランスでは、18歳になった若者に一年分の新聞を配達する費用を政府が負担するなどの助成策を打ち出している。しかし、2月4日のロサンジェルスタイムズは、「新聞社もいまや自動車会社と同じく、もっとも同情すべき存在だという疑わしい理由で政府に援助してもらうような存在なのかもしれないが」と自虐的な前振りをしたうえで、直接的な援助の前にやってもらうことがあると書いている。
 それは、(わかりやすくいえば)「談合」を認めてもらうことなのだそうだ。
 新聞社が示し合わせ、いっせいに無料で記事をサイトに載せることをやめる。アメリカの新聞社はもちろん英語のニュースメディアがそろってテーブルにつき、どれぐらいの購読料にするか、そしてまた、ヤフーやグーグルなどニュースを使っている企業からいくら代価をとるかを話し合う。そうした行為を独占禁止法の対象からはずしてもらうことを提案している。
 いやはやすごいことを考える人がいるものだ。
 これを提案したティム・ロッテンは、独占禁止法の適用除外はかつて1922年に大リーグに対して認められた前例があると書いている。この年、連邦裁判所はこうしたことを認め、選手が自由に球団を移れない保留条項を合法化した。前例があるのだからできないはずはない、というのだ。
 また、無料のメディアが有料化した事例もあると書いている。テレビ番組は無料だったのが、ケーブルテレビや衛星放送が出てきて有料化されたではないかという。
 そう言われると、なるほどという気もしてくるが、しかし、こうした提案が実際に動き出したときにどれぐらいすごい反発が出るかを考えるとそら恐ろしいものがある。大っぴらに談合を認めてもらうというわけだから、少なくともニュースがなくなることについての危機感がもっと広く共有されることが必要だ。それなしでは、マスメディアの社会的信用は失墜するだろう。

●ひとつの記事ワンクリック1円

 タイム誌も、無料のコンテンツを大幅に増やしてきたが、ここへきて有料化を検討しているとトップが認めている。そのタイム誌が記事で提案している「新聞の救い方」は、一見もっとずっと穏当だ。小額決済を導入するというものだ。ひとつの記事が1セント、その日の記事すべてで10セント、月契約で2ドルなどといった低価格で、メディアすべてを通して同一の仕組みで簡単に決済できるようにする。そうすれば既存のメディアの役に立つばかりでなく、市民ジャーナリストやブロガーなどを育てることもできると書いている。
 ひとつの記事の代価が1円で新聞社が納得するかどうかはともかくとして、これぐらいの低料金で簡単にアクセスできるのであれば、サイト間に築かれる壁はそれほど高くはないかもしれない。
 かつてテッド・ネルソンがウェブの前身とも言えるリンクを使った文書システムを提案したときには、こうした小額決済のアイデアを盛りこんでいた。だから、それを導入すればいいというのが、この記事を書いたウォルター・アイザックソンの意見だ。
 しかし、これをほんとうに機能させようとすれば、やはり有力な新聞がそろって参加しなければむずかしい。同じようなニュースが無料で公開されていれば、有料課金は成り立たない。
 おそらくそういう理由からだろうが、ニューヨークタイムズは、先ごろノーベル賞を受賞したクルーグマンはじめ有力な書き手をそろえたコラムを有料にするという試みを一昨年までやっていた。たしかにこれなら、他のサイトの無料記事と競合するわけではない。理屈はあっているが、しかしこれは書き手の評判が悪かった。何で自分たちのコラムだけ料金の壁で仕切って自由に読めないようにしているのか、と反発された。そうした声に加え、同紙は損得勘定のうえでも、無料公開してアクセスを集め、広告収入をねらったほうが利益が大きいと、検討に検討を重ねた結果、無料化に踏み切った。だから同紙の編集責任者は、「少なくともさしあたり短期的には6か月前に思っていたように、ウェブが頼りになる救命ボートというわけではない」ものの、「景気後退が終わったときにはネット広告はぶり返す」とも思っていて、有料化の検討はしているようだが、さしあたりほかのメディアほど積極的ではなさそうだ。
 デジタル部門の責任者のニーゼンホルツも、「減少しているクラシファイド(不動産や求人の小広告)に依然としてかなり頼っているほかの多くのニュース・サイトと違い、ニューヨークタイムズは、大企業のディスプレイ広告が入っている」と言い、アクセスを殺すような有料課金がほんとうに得策かどうか思いあぐねている。

 課金をためらうこうした有力ニュース・サイトがあるかぎり、ほかのサイトの有料化への道のりはけわしいものにならざるをえない。
 キンドルのような読書端末を使った有料配信は今後ますますさかんになるだろうが、「情報はフリーになりたがっている」という言葉に象徴されるように「無料の天国」となったウェブでは、特化した情報やバックナンバーなどの部分的な課金以外の有料化はやはりむずかしいのではないか。

afterword
タイムの創立者はかつて、広告収入にだけ頼ると雑誌が広告主のほうばかりを向き、読者とのつながりが希薄になってしまうと言ったそうで、その主張はマトを射ていると思う。しかし、いったん無料化した記事を有料化するのは大変だ。

関連サイト
●新聞社に対する独占禁止法の適用除外の必要を主張するロサンジェルスタイムズ紙2月4日の記事「新聞は独占禁止の適用除外が必要だ(Newspapers need an antitrust exemption)」(http://www.latimes.com/entertainment/news/la-oe-rutten4-2009feb04,0,5807598.column)。
●ロサンジェルスタイムズの記事の約1か月後の3月8日、ニューヨークタイムズも同様の主張の記事「ひとつになれば、新聞はやっていける(United, Newspapers May Stand)」を載せた(http://www.nytimes.com/2009/03/09/business/media/09carr.html?_r=1&scp=1&sq=%22Tim%20Rutten%22%20newspaper&st=cse)。
●タイム誌2月5日の記事「新聞の救い方(How to Save Your Newspaper)」(http://www.time.com/time/business/article/0,8599,1877191,00.html)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.578)
 



  

 

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