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2009.03.09

グーグル・マイマップの謎が解けた

グーグルのマイマップは、個人情報をなぜ公開してしまうことになったのか。
サービスを発展させていくうえで、
「いかにもありそうなこと」が起きていたのではないか。

●「マイマップ」でありながら共有が目的という不思議

 

 グーグルの「マイマップ」について、このあいだから気になっていた「謎」が解けたように思う。グーグルが陥った落とし穴は、ネットの発展を考えてみたとき興味深いものに思われるので、今回はその話を書くことにしよう。
 本欄で以前「グーグルの傲慢」と題して書いたように、グーグルのマイマップでは、最初の設定が「一般公開」になっている。「限定公開」に変えずにデータを入力してそのまま「保存」をクリックすると、誰でも見ることができてしまう。それどころか、タイトルを入れて数十秒ほっておくと、「保存」のボタンが自動的に押され、一般公開されてしまう。こうした設定のために、教師が生徒の家の情報を公開してしまうなどの事件が起こった。
 グーグルがこんな設定にしたのは、ウェブでは情報共有が基本だということからかもしれないが、問題点を指摘されたにもかかわらず、あくまで直さないグーグルは傲慢の病いにかかっている、と書いた。

 その後、この原稿を読んだ方から、グーグルが公式ブログで次のように言っているとメールをいただいた。

「Google マイマップは Google マップの機能のひとつで、ユーザーが任意で、カスタマイズした地図を作成して、個人での利用はもちろん、他の人々とその情報を共有するサービスです。誰と共有したいかに応じて、ユーザーは、マイマップを作成するときに、情報公開の範囲の設定を、『一般公開』または『限定公開』から選ぶことができます。
 マイマップは、カスタマイズした情報をインターネット上で共有することが目的のサービスですので、初期設定は『一般公開』になっています。」

 マイマップは、そもそもカスタマイズした情報をインターネット上で共有することが目的だから、誰と共有したいかによってふたつの設定を用意した、というわけだ。

●地図情報を増やすことが目的?

 スケジュールを書きこむ「カレンダー」などでは初期設定は公開ではない。それなのに、マイマップでは、なぜこうした設定なのか。そもそもの目的が違うということだが、ではなぜ違うのか。

 グーグルは広告ビジネスを展開するうえで、リアルな世界とデジタル世界を結ぶこうしたサービスに大きな可能性を感じている。地図上の情報を増やすために初期設定を「一般公開」にしたのではないか、と公式ブログの記事を紹介するときに、私はブログで書いた。
 しかし、どうもいまひとつ納得できなかった。グーグルは、なんでそんなセコイことをしたのだろうか。

「悪いことはしない」をモットーにしているグーグルは、しばしば短期的な利益を度外視して、サービスを提供し始める。知識を共有することに強い情熱を持っていることが感じられる一方で、利益のほとんどを得ている広告に関しては、じつはけっこう微妙なこともやっている。それについては、本欄でも「クリック詐欺」などにからんで触れたりもした。
 大企業になったグーグルはやはりきれいごとだけではやっていけないんだと感じさせられることはときどきある。だから、あまりにセコイと思いつつそんなことを書いたわけだ。
 しかし、グーグルが、「マイマップ」の初期設定を「一般公開」にしたのは、別の理由があったからではないかと思いあたった。思いあたってみれば、それはかなりあっけないもので、ものすごい陰謀が隠されているといったことではまったくなかった。

●スケールアップして性格が変わったにもかかわらず‥‥

 そもそも「謎」が解けたのは、何かがわかったというよりも、「思い出した」といったほうが当たっている。謎の答えは、グーグル・マップについて自分が以前書いた原稿のなかにあった。

 グーグルが公式ブログで言っているとおり、たしかにグーグル・マップは、「カレンダー」などとは違い、そもそも個人の情報を保存するためのものではなかった。地図にフラグを立てて情報を加え、自分のサイトのコンテンツにするといったことのためのものだった。天体観測のためにいい場所や、軍事基地のある場所、ニューオリンズの洪水情報などを個人が加えてサイトで公開していたし、NHKも、番組でとりあげた場所をグーグルの地図にマッピングして公開した。こうしたことは本欄でも紹介した。

 グーグルは、早くから自分たちのデータベースを自由に使わせている。検索ウィンドウを個人サイトなどにも設置できるようにした。地図も、個人サイトに置いて、自由に情報を加えることを認めた。
 このようにデータベースを使えるようにするのをAPI(Application Program Interface)を公開するといって、グーグル以外にも、アマゾンや楽天などが、商品データベースを使ってサイトのコンテンツを作ることを認めている。こうすることで、アマゾンや楽天の場合なら、各サイトを自分たちの商品のショーウィンドーにできるし、グーグルの場合は、広告を表示できる。
 05年頃にはグーグル・マップもこのように使われ始めていた。そもそもひとに見せるコンテンツを作るわけだから、初期設定は「一般公開」で何の問題もなかった。グーグル・マップをサイトに設置できたのも、プログラミング技術のある人たちだけだった。

 ところが07年に、グーグルはこのサービスを「マイマップ」に発展させた。その際、以前からの初期設定をそのまま継続してしまったのだろう。

●グーグルは「過ち」に気づいていない?

 「マイマップ」という名前までついているのに「共有することが目的」という公式ブログの説明は、「マイマップ」からの利用者にはトンチンカンに思える。
 しかし、グーグル・マップを発展させて「マイマップ」のサービスを始めたグーグル自身にとっては、こうした説明は、しごく当然のものに感じているにちがいない。もしかするとグーグルは、いまもって何で批判されることになったのかよくわかっていないのかもしれない。いや、「かもしれない」というより、おそらくそうだからこそ、グーグルは問題点を指摘され、公開すべきでない情報を公開してしまう人が次々と現われたいまでもなお直さないのだろう。

 以前からグーグル・マップのAPIを使って地図情報を公開していた人にとっても、いまの設定はとくに異常なものには思えないかもしれない。しかし、「マイマップ」以後の利用者には理解できない不可思議な設定になってしまっている。

 「マイマップ」と名づけた時点で、グーグル内部の人間は、こうした問題に気づくべきだった。サービスやコンテンツを、限られた人たち相手から一般向けにスケールアップし、さらに名前も変えることによってその性格が違ってしまったわけだ。それなのに、提供側がそのことに気づかないでいるというのはいかにもありそうなことだし、今後も起こることなのかもしれない。

afterword
おもしろいことに、筆者の「グーグルの傲慢」のようなかなり厳しい批判的な原稿も、右のグーグルの公式ブログに関連文書としてリンクされている。こういうところは、「敵(?)ながらあっぱれ」ではあるのだが。

関連サイト
●昨年11月4日に出されたグーグルの公式ブログでの「マイマップ」への注意喚起と「共有が目的」という説明(http://googlejapan.blogspot.com/2008/11/blog-post.html)。「マイマップ」を使っている人のうちごくわずかしか見ない公式ブログで説明したからといって説明責任が果たされたというわけにはいかないだろう。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.572)

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