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2009.03.02

オバマの参加型インターネット政治

オバマの経済政策第一弾は、かろうじて議会を通過したが、
法案が通るだけでは十分ではない。
有効性を国民に納得してもらうことが必要と、斬新な手法をとっている。

●ネット普及15年後に実現した直接民主主義は?
 
 

 オバマが政権運営のために再編成した草の根組織「アメリカのための団結(Organizing for America)」についてここ何回かとりあげてきた。
 そろそろ違う話に移ろうと思っていたのだけれど、実際に始まった活動はユニークで興味深い。
 もう少し見てみることにしよう。

 インターネットが一般に使われるようになって15年ほど経つが、当初思っていなかったことがいろいろと起こった。
 「インターネットによって直接民主主義が可能になる」といったことは早くから言われていたが、オバマが始めたのは、ひとつひとつの政策について国民投票を行なうなどといったこととは違った形の直接的な政治手法である。

 オバマ陣営は、選挙戦中に集めた膨大なメールアドレスを使って支援者たちに呼びかけ、法案に反対している議員たちに電話やメールを出して圧力をかけるよう求めるのではないかと見られていた。しかし、第一弾の経済振興策がかろうじて議会を通ったこともあって、そうしたことはやらずにすんだ。
 とはいえオバマは、「アメリカ経済が崩壊するのを手をこまねいて見ている気はない。それを阻止するためなら何でもする」と公言している。「ワシントン政治は党派的利害でゆがんでいる」とも選挙戦中から強く批判してきたから、政策がほんとうに進まなくなったら文字どおり「何でもする」可能性はあるだろう。けれども、さしあたりオバマが始めたのは、露骨に政治圧力をかけるのではなくて、もっとずっと穏健で地道、そして次元の高い手法だった。

 経済刺激策の上院通過を待つオバマは、2月2日の朝、次のようなメールを支援者たちに送った。

「数週間のうちに法案に署名できると思う。しかし、私は言葉を広め支えるあなた方の助けを必要としている。法案が議会を通過しただけでは十分ではないのだ。法案が自分たちにどのような影響をおよぼすかをアメリカ国民が知る必要がある。経済支援はまだ途中であって、政府が経済成長と安定のために投資しているところなのだということを理解する必要がある」。

 このように述べ、オバマは、ハウス・ミーティングを開いて、経済危機によってどんな苦境に陥っているか自分たちの物語を語りあうとともに、経済政策を説明するビデオを見て話し合ってほしいと呼びかけた。サイトでは、経済政策についての質問を受けつけ、集会で使えるように、オバマが信頼している民主党全国委員会委員長が質問に答えるビデオをアップした。

「自分の物語」を語りあってほしいというのはおもしろい。サイトでも自分の物語を共有しようと、投稿を呼びかけている。
 アメリカは「自己責任」をことのほか重んじる国だから、政府のお金を投じるのには根強い反発がある。それを納得してもらうためには、苦境に陥っている人たちの生の声が必要と考えたのだろう。
 また経済困難に陥っている人々も、集会やサイトで苦境を分かち合うことで、自分たちは政府から見捨てられているわけではないと感じることができる。「癒し」の効果もあるはずだ。

●経済政策の実現には心理的効果も必要

 ハウス・ミーティングを開いて話しあっても、法案の議会通過の役には立たないし、限られた期間内のボランティア・ベースの集会で、実際にどれぐらいの効果があるのかは怪しい。またこの経済政策では十分ではないという批判の声も上がっており、オバマ自身も、これはまだ第一弾に過ぎないと言っている。
 しかし、経済がほんとうに回復すると人々が思えば消費は増え、経済は早く回復の方向に向かう。反対に、減税をしたり、日本でやろうとしているように給付金を配っても、政府のやっていることが信じられず、経済が回復しないと思えば、想定以下の効果しかない。同じ金額でも、心理的効果によって、インパクトは違ってくる。「オバマの経済政策はほんとうに役に立つのか」といった話題が職場や地域で出たとき、経済政策についての知識を集会で蓄えた人々が説明してくれれば理解が広がっていく。お金をばらまいてただそれだけの日本とは異なり、オバマ政権は、草の根的な広がりのなかで、経済政策への理解を深め、経済効果を高めようとしている。
 先のメールでオバマが書いているとおり、「経済プランがあなた方の地域にどのような影響をあたえるか、友人や家族、近隣の人々に確実に理解してもらうことで、あなたは、アメリカ経済への信頼を回復する手助けができる」というわけだ。

●いっけん全体主義国家の「学習会」に似ているが‥‥

 オバマは、効果的な政策実現のためにはマスコミを通した情報回路だけでは十分ではないということがよくわかっている。
 テレビや新聞のニュースでは一度に大勢の人に伝わるが、オバマの言葉がそのまま届くわけではない。質問を受けつけてそれに答えるとか、自分の物語を語ってもらって悩みを共有するといった双方向的なやりとりも無理だ。しかし、ネットではそうしたことができるし、いまや動画というわかりやすいメッセージ伝達手段もある。

 草の根の集会を開いて政府の主張を浸透させるということは、これまでもやられなかったわけではない。全体主義国家などではしばしば行なわれてきた。中国では、地域や職場ごとに学習会を開き、政府や党の考え方を広めるといったことが、たとえば文化大革命のときなどさかんに行なわれた。北朝鮮では、いまでもやっているかもしれない。
 民主的な社会では、そんなことをやろうとしても嫌がられるだけだし、強行したら、メディアをあげて批判され逆効果になる。それなのにオバマがなぜできるのかと言えば、それは、自発的に協力しようとする人が大勢いるからだ。
 全体主義国家がやっていることと形は似ていても、強制力もしくは恐怖によって「草の根集会」を開くのか、自発性にもとづくかで、その実態はまったく異なる。強制力や恐怖以外にも、巧みな宣伝によって「自発性」を人為的に作り出すことも不可能ではないだろうが、オバマは、さしあたりそんな忌まわしいやり方をせずにすんでいる。

●「癒しと再生の物語」が語られるか

 国民投票でひとつひとつの政策を決めるという「直接民主主義の夢」はまだ実現していない。技術的には可能であるにしても、国民がひとつひとつの政策について考え、判断するのはたいへんだ。
 オバマ政権下で始まった直接民主主義的な試みは、ネットを使って草の根的な集会を呼びかけるというオンラインとオフラインを組み合わせた巧みなやり方だ。国民と問題意識を共有し、お互いが理解し合っているという感覚を作り出しながら政策を浸透させ、癒しと再生の物語を紡(つむ)ぎ出していこうというものだ。オバマ政権では、インターネットはたんなる政治広報の装置といったことを超え、政策遂行のための重要なツールとして使われ始めている。

afterword
 ハウス・ミーティングは今回はまったくのボランティア・ベースで開催されたようだ。2月2日に呼びかけて、その週の週末だけの期間だったが、全米で3200以上開かれたという。

関連サイト
●オバマ陣営のサイトでは、グーグルの地図を使って、全米中の草の根レベルの「経済危機の物語」が次々と表示される(http://www.barackobama.com/displayer/pages/econ-stories.php)。ページトップには、「私はあなた方が信じてくれることを望む。私がワシントンに真の変化を起こすことができるということだけではない。自分たちが変化を起こせることを信じてほしい」というオバマの言葉が掲げられている。
●オバマ政権は、「1ドルたりとも無駄にはしない」と、経済政策に投じられたお金がどこでどのように使われたか、無駄や非効率をなくすためにサイトで公開し、透明度を高めるという(http://www.recovery.gov/)。こちらの「経済回復サイト」では、身近な経済再生の物語を投稿するように呼びかけている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.571)

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