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2009.02.16

オバマの迷い――政権発足後の草の根ネットワーク

オバマは、草の根組織を使って大統領の座を勝ちとったが、
政権発足後、何百人もの専従活動家を選挙区に張りつけ、
ネットを駆使して、政策実現に役立てると見られているが‥‥

●「オバマ2・0」の実態は圧力団体?

  

 オバマ陣営は、選挙を勝ち抜く過程で築き上げた草の根ネットワークを活かそうと、公式サイトでオンライン調査をしたり、支援者たちの集会を開いて検討を重ねてきた。
 こうしたネットワークは、次期大統領選挙でも力を発揮するはずだが、それはまだ少し先のことだ。

 支援者たちは、献金や有権者への働きかけなどの「支援疲れ」もしており、少し休みたいとの声もある。しかし、経済混乱は深刻になっていく一方で、オバマ政権は、一刻の猶予もできないとフル回転している。支援者たちについても放置する気はない。むしろ引き続き活動を続けることで、ネットワークを維持し、再選につなげていくつもりのようだ。
 就任3日前にオバマは、支援組織を『アメリカのための団結(Organizing for America)』と名づけて再出発することをメッセージ動画で明らかにした。

 オバマ人気は高いが、政策実現のためには法律を通さなければならない。
 敗北した共和党は2年後の中間選挙もにらんで、すんなり法案を通してはくれない。
 与党の民主党議員も、日本の政党のような党議拘束がないから、オバマの提案に賛成するとはかぎらない。共和党が強い選挙区の民主党議員は、共和党支持者の顔色を見て行動しがちだ。反対派の議員を説得するのも大統領の重要な仕事のひとつである。
 こうして法案が難航したときが、「オバマ2・0」と呼ばれる、政権発足によってバージョンアップした支援ネットワークの出番になると見られた。陣営が獲得した1300万のメールアドレスにオバマが苦しんでいると流す。そして200万の支援者には、議員に電話やメールをしてオバマに賛成するよう働きかけてほしいと呼びかける。選挙区住民の声に弱いのが議員の習性だから、すさまじい反応が起これば、とくに与党の民主党議員などはびびってしまうにちがいない。

●オバマが草の根の支持を必要とする理由

 ネット・ビジネスは、利用者の個人情報をたくさん集めた企業が有利と言われるが、政治の世界も同じようなことになってきつつあるのかもしれない。
 もっとも、支援組織のこうした「圧力団体化」には、与党の議員からも懸念の声が上がった。議員の反発を買ったのでは元も子もなく、陣営幹部は、議員に直接圧力をかけるつもりはないと弁明した。

 とはいえ、反対派の議員に支持を頼めば、「今回は、政権が推す法案に賛成するから」などと、議員たちは見返りを求めてくるだろう。
 オバマは、草の根の支持で勝利したために、特定の業界や大企業、大口献金者の顔色を従来ほど気にしなくてもいいまれに見る政権だ。こうしたフリーハンドを維持するために、議員たちにもむやみに借りは作りたくないはずだ。そのためには草の根の支持がやはり不可欠で、ばらばらの支援では力にならないので、組織化する必要がある。
「アメリカのための団結」結成を伝えたメッセージ動画でも、オバマはこう訴えている。

「ジョー・バイデン(副大統領)と私は、議会と協力してワシントンに変化をもたらす。しかし、あなた方の協力なしではできない。われわれが求めて戦ってきた変革は、一般のアメリカ人が関わらないかぎり起こらない。あなた方のような支援者が道を開いていかなければならないのだ」。

 オバマは動画のなかで視聴者の目を見つめ、一人一人に語りかけるようにこう説いている。

●草の根ネットワークをどう組織化するか

 当選が決まった後、公式サイトでは、次のような運動の目的が重要と思うかなどアンケート調査をした。
 3つ目の項目は、不特定多数の人に訊くべきことなのかという気もするが、支援者の気持ちを図りかねている心情が伝わってくる。

・「草の根の努力で、法案が通るようオバマ政権を助ける」

・「国についてのビジョンを共有する州や地域の候補者の選挙を助ける」

・「われわれがオバマを選ぶのに使ったテクニックをうまく使えるボランティアを育成する」

・「コミュニティに影響をあたえる地方の問題に対処する」

 このように尋ねて教育や福祉、経済、外交など支援する気のある政治課題を選ばせている。

 この4つの項目のなかでオバマ陣営がとくに望んでいるのは、やはり最初の項目だろう。しかし、支援者たちのほうはどうなのか。国政レベルよりも、地元の問題により関心があるのではないか。草の根ネットワークをどう使うかについてオバマ陣営が何を考え、また迷っているのかがうかがえて興味深い。
 たしかに、ネットで登録して献金したり近所に呼びかけてくれた支援者たち一人一人に陣営の人間が直接会っているわけではない。ネット越しの関係なので、膨大な数の支援者が具体的に何をどう考えているのかはわからない。政権後の活動方針を決めるためには、あらためて調査してみる必要があったのだろう。

 結局、オバマの政策推進を手伝いたいという声が多かったようで、2月2日、オバマは支援者たちに、選挙運動のときと同じようにハウス・ミーティングを開き、経済政策の意味を説明したビデオを見て、家族や友人、近所の人たちと話し合ってほしいと支援を求めるメールを送った。反対派の議員に働きかけてくれといったことは、やはり書かれてはいなかった。
 その一方で、潤沢な資金を持っているオバマ陣営は、年7500万ドルの予算で何百人もの専従者を雇い、重要な選挙区に張りつけてフルタイムで活動させるつもりだという陣営に近い筋の証言をロサンジェルス・タイムズにスクープされている。

●「オバマ2・0」は成功するのか

「いかにもいまの時代らしい」と思う一方で、「ほんとうにうまくいくのか」という気もする。
 さしあたりしばらくはオバマ人気は高いから、「オバマが困っているんなら助けなくなっちゃ」というムードは続くと思われるが、熱が醒めてくればどうなるかわからない。とくに具体的な政策が出てくれば、支援者のなかでも賛否は分かれる。これまでのオバマは、微妙な問題についてあいまいな態度をとることで支援を広げてきたが、これからはそうはいかない。

 また、「仕掛け」めいた話がメディアに流れると醒めるのは早くなるだろう。自発的に応援しようと思っているときには頑張るが、仕掛けられているようだと興ざめしてくるのが人情だ。

 オバマ大統領としては、何も決まらないというのは最悪の展開だから、大きな力になりうる草の根ネットワークを使わない手はないのだろうが、「オバマ2・0」が政権にとってプラスになるとばかりはかぎらない。次回詳しく書くように、思いがけない展開になるかもしれない予兆もすでに現われている。
 草の根ネットワークがどこまでうまく機能するかはオバマ政権最大の見もののひとつだろう。

afterword
日本でも、小泉政権時代にメールマガジンの配信を始めて話題になった。登録者にメッセージを送って理解を求めたわけだが、動員して政権支援の運動を起こさせようとまではしなかった。しかしこれからは日本でも、人気のある政権トップは、そうしたことを考えるだろう。

関連サイト
●就任後も活発な活動を続けているオバマの公式サイト『barackobama.com』(http://www.barackobama.com/index.php)。アンケートをしたり、バラク・オバマ2・0の組織「Organizing for America」結成を伝えるメッセージ動画などを公開している。
●「バラク・オバマ2・0」について報じたロサンジェルス・タイムズの記事「Retooling Obama's campaign machine for the long haul」(http://www.latimes.com/news/nationworld/washingtondc/la-na-obama-army14-2009jan14,0,2211031.story)。具体的な証言を集めたこの記事など、バージョンアップを図った支援ネットワークの動きについて、いろいろな米メディアが報じ始めた。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.569)

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