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2009.02.10

姿を現わし始めた「バラク・オバマ2・0」

草の根ネットワークによって政権を勝ちとったオバマが、
巨大ネットワークをどう活かすか悩んだ末に、
「バラク・オバマ 2.0」と呼ばれる新たな展開を開始した。

●「ユーチューブ政権」の幕開け
 

 ロックスターなみの人気といわれるオバマ大統領の就任式の熱狂はすさまじいものがあった。ネットの動画で就任式を見ようとした人も多く、アクセス数はオバマの当選日を抜き、演説開始時に新記録になったらしい。
  CNNのサイトだけでも同時に130万人が見たそうで、就任式の午後の9時間で2130万の動画が視聴され、選挙日全日の530万の記録を大幅に塗り替え た。コンテンツ配信をやっている会社アカマイも、通常は同時アクセスは100万以下だが、オバマが宣誓をした12時15分頃には700万のアクセスがあっ て、秒速2テラビットを超えるデータがネット上を流れたと言う。動画だけでなく、SNSやミニブログも活躍し、「ウェブ2.0就任式」などとも言われた。

  こんどの大統領選挙は「ユーチューブ選挙」と言ってもいいほど動画が主役になったから、就任式はいわばそのフィナーレのようなものだが、むしろ「ユー チューブ政権の幕開け」と言ったほうが当たっている。政権発足後も、毎週土曜日のオバマの動画メッセージや演説などを頻繁に公開している。

  ただホワイトハウスのサイトはのちのち「公文書」になるはずだから、ユーチューブは使わないのではないかと思っていた。しかし、そうではなかった。個人サ イトなどと同じく、ユーチューブにリンクする形で公開している。高精細の同じ動画も用意していて、こちらはホワイトハウスのサーバーにデータがあるので、 「公文書」の問題はそれでクリアしているのだろう。

 この原稿を書いている1月29日の時点で、就任式の動画の再生回数は100万回を超 えている。就任式の動画はメディアなどでも流しているのでアクセスが分散しているのだろうが、24日に行なわれた就任後初めての「週刊動画メッセージ (Weekly Address)」も、時差を考えれば5日も経っていないはずなのに、99万回と早くも就任式の視聴回数に迫っている。
 こうし たユーチューブ動画を見ていると、もっぱらマスメディアを経由して大統領のメッセージが伝えられていた時代が過去のものになろうとしていることがはっきり と感じられる。オバマ政権は初めての黒人大統領としてだけでなく、政権運営においてもネットを重用したことで記憶される大統領になるだろう。

●オンライン動画の政治効果

  テレビのニュースでは大統領の演説は部分的にしか流れないが、オンライン動画はそんなことはない。また2メートルほど先のテレビに映ったオバマと、目の前 50センチのところで話しているオバマとでは親近感がまるで違う。ネットでは自分にだけ呼びかけているようで、メッセージ効果がずっと大きい。
 日本の政治家も、ネット動画の重要性に気がつき始めたが、テレビを見ない若者対策といったことを超えて、こうしたことをどこまで感じとっているだろうか。

  ただユーチューブのサイトでは、コメントが好き勝手につけられる。それを読むと、かなり「荒れた」感じになっていることもたしかだ。もっとも、あちこちの サイトやブログに埋めこまれたユーチューブ動画にはコメントは表示されないし、ユーチューブのサイトで動画を見る人も、コメントまで読む人はそう多くはな いかもしれない。

●大統領就任後の草の根ネットワークの行くえ

 こうした動画戦略の一方で、「バラク・オバマ2.0」が姿を現わしつつある。この言葉はもともとオバマの側近たちが口にしていたらしいが、いまやメディアも取り上げている。
 日本のメディアは、オバマの政策については熱心に報道しているものの、この原稿を書いている段階では「バラク・オバマ2.0」はまだ伝えていないようだ。しかし、これは注目すべき動きだ。
 当選までのオバマが「1.0」で、就任後にさらにバージョンアップするというわけだが、バージョン・アップするのはオバマ本人ではなくて、支援組織である。選挙を戦う過程でできあがった草の根ネットワークを就任後にどう活かすか戦略が練られている。
  選挙期間中、たとえば「マイ・バラクオバマ・コム」のサイトで登録すると、隣人や近くの選挙区の有権者のリストが提供され、電話をしたり訪問してオバマへ の支持を呼びかける草の根の運動が展開された。献金などでも個人情報の登録が必要で、そのほかSNSやミニブログなどウェブ2.0的な仕組みも使って、オ バマ陣営は、1300万のメールアドレス、400万の携帯電話番号、200万のアクティヴな支援者を獲得したそうだ。
 大統領就任後もこうしたネットワークを活かすというのが「バラク・オバマ2.0」だ。就任式直前の1月17日、オバマは動画メッセージで次のように言っている。

「私 がアメリカ大統領として宣誓するのはあなたたちのおかげだ。あなたたちは史上最大の草の根の運動を作り上げた。こうした動きはとても重要で、発展を止める ことはできない。選挙中あなたがたが始めた運動にもとづいて『アメリカのための団結 (Organizing for America)』という組織の結成をお伝えするのをうれしく思う」。

●どうするかはあなたたちで決めてください

  この組織は、民主党傘下に入るものの一定の独立性を保つことや、責任者なども決まったようだ。しかし、具体的に何をするのかははっきりしない。陣営の幹部 も、こうした組織はこれまで作られたことがないので、試行錯誤を繰り返さなければならないと言い、設立が発表されたいまでも具体的なことを明らかにしては いない。

 できてしまった膨大な草の根ネットワークをどうするかは、はたで考えているよりもずっとむずかしいことなのかもしれない。
  暗中模索していることは、オバマ選対のサイトを見ただけでもわかる。あなたたはどうしたいのかとアンケートしているのだ。「そんなこと訊くなよ」と思うの は、古い感覚というものだろう。「あなたたちが作ったネットワークなのだから、その将来はあなたたちで考えてください」というのは、それなりに筋が通って いる。

 こうしてオンラインで50万人が調査に答えた。そればかりでなく、4000以上の「ホーム・パーティー」を開いて支援者たちの考えを聞いたという。草の根ネットワークを重視しつつも苦慮しているようすがうかがえる。

  この組織の実態をつかもうと、さまざまな米メディアが取材している。それによると、4年後の再選の母体にするといったことは当然考えているようだが、それ だけではなくて、反対派の議員に圧力をかけるためにも使うのではないかと議員たちが恐れているという。しかし、議員たちの反発を買うのはオバマ政権として も避けたいようで、この組織をうまく使えるかどうかは政権運営の成否にかかわってくる。
 と同時に、こうした草の根ネットワークは、扱いを間違えるととんでもないことになりかねない存在でもある。そうしたことを感じさせる「危険な予兆」はすでに起きているが、そうしたことについては次回以降で。

afterword
 就任式のオンライン生中継はアクセスが殺到して視聴できなかった人もいるようだ。メディア側の問題とい うより、受信側の回線が貧弱で見ることができなかった可能性もあるらしい。オバマは、ブロードバンドにアクセスしていない地方の世帯を支援するためにも高 速無線インターネットに力を入れるという。

関連サイト
●YouTubeの「ホワイトハウス・チャンネル」(http://www.youtube.com/user/whitehouse)。
●YouTubeの動画を埋めこんでいるホワイトハウスのサイト(http://www.whitehouse.gov/blog/inaugural-address/)。通常とは違い、ユーチューブのロゴは表示されていない。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.568)

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