« オバマの迷い――政権発足後の草の根ネットワーク | トップページ | オバマの参加型インターネット政治 »

2009.02.23

ブッシュに裁きのときがやってきた?

ブッシュ政権下では、裁判所の許可のない盗聴や、
拷問などの脱法行為が行なわれた。
政権が替わり、追及の声も上がり始めたが、
オバマはどうするつもりか?

●「ウェブ2・0」の落とし穴

 

 オバマは、選挙戦中に築き上げた草の根ネットワークを、『アメリカのための団結(Organizing for America)』と名づけた組織に再編し、政策遂行の力にしようとしている。しかし、今回書くように、ほんとうにうまくいくのか懸念される事件が早くも起こっている。
 不特定多数の情報発信によって成り立つ「ウェブ2・0」は恐い世界でもある。仕掛けているつもりが、反撃にあって仕掛けた側が窮地に陥る、などということがしばしば起こっている。
 企業が一消費者のふりをして宣伝するつもりでブログを作ったところ、それがばれて大変なことになった、などというのはそのひとつだ。もちろん「ウェブ2・0」の力学をよく知っているオバマ陣営だから、そんな稚拙なことはやらないだろうが、「落とし穴」はいくらでもある。
 ネットを使って草の根の支援組織を維持するためには、ともかくネット利用者に支持され続けなければならない。オバマ・チームはそのための努力をすでにいくつもやっている。
 就任前から政権移行サイトでオバマのメッセージを流し、有権者の声を聞いたりもしてきた。就任後も、ホワイトハウスのサイトは「コミュニケーション」「透明性」「参加」をモットーとしてあげ、議会を通過した法案は、急ぎでないかぎり、大統領がサインする前に5日間サイトで公開し意見を求めると発表した。

 こうしたオープンな姿勢の一環として、政権移行サイトでは、12月に2度にわたって質問を募り、その質問に票を投じさせ、支持を集めた質問に答えた。
 1回目にもっとも賛成票を獲得したのは、「マリファナを合法化するつもりがあるか」で、合法化賛成派からの質問と思われる。オバマは、合法化するつもりはないと答えている。
 2回目にもっとも賛成票を得たのはもっと微妙な質問だった。「拷問や裁判所の許可のない盗聴など、ブッシュ政権下の重大犯罪を調査する特別検察官を任命するつもりがあるか」というものだ。

 アメリカで人気ドラマ『24』の拷問シーンが問題になっているという話を昨年書いたが、民主主義や人権を旗印にしているアメリカが拷問をしているという事実は、ブッシュ支持が低下するにつれ、米国内でも広く問題視されるようになってきた。
 12月半ばのテレビ・インタビューでチェイニー前副大統領は、水責めのような拷問が行なわれていたのを知っていたし、それは正しいことだと思うとカメラの前で言ってのけ、波紋を呼んだ。しかし、特別検察官の任命についての議論はメディアであまりされていないようで、そうであれば、これはとりあえずいい質問だった。1回目にも6位だったが、2回目には22000票の支持を集めてトップになったという。

●オバマの立場

 けれどもこの質問は、オバマ陣営にとっては、あまり尋ねられたくないことだったようだ。オバマも就任直後に、グァンタナモ収容所の1年以内の閉鎖や、合法的な取り調べをするようにという大統領令は出している。しかし、自分の政権下で「超法規的措置」を認めないことと、前政権の所業を法の裁きにかけるのは同じことではない。
 オバマは就任式の演説でも、「ブッシュ大統領の我が国に対する貢献と政権移行に示した寛大さや協力に感謝したい」と冒頭で述べている。ブッシュ政権下で激しくなった社会の分裂を修復するためにも「融和」を強く打ち出している。また、経済混乱の深刻化でやらなければならないことが山積みだから、そういう意味でも、むやみな対立は避けたいはずだ。前政権の追及を始めれば、保守派との亀裂が深まることは避けられない。

 こうしたオバマの苦衷もあってのことだと思うが、質問コーナーを担当した広報官は、1回目は、6位の特別検察官の質問よりひとつ上の質問までしか答えなかった。2回目は、すでに答えた質問に分類してうやむやにしようとしたと、この質問の支持派が怒り出した。

 騒ぎが拡大したのは、じつはこの質問への支持がネットで「動員」をかけられたものだったからでもある。左派系の雑誌『ネーション』やリベラル派のブログなどが、たくさんの質問のなかからこの質問を選び出し賛成票を投じるやり方を示して、支持を呼びかけた。

 日本でも、掲示板やブログなどでいろいろな呼びかけが行なわれるが、こうしたことはどこの国でもやっているわけだ。そしてこの場合は、日本のネット用語で言えば「プロ市民」が仕掛けた質問ということになる。運動なれしている人々が、オバマ政権のリベラル度を測る踏み絵にしようとした、という側面もあった。

 オバマ陣営は、こうした動きがあることを知って、ことさら無視しようとした可能性がある。しかし、結果的には、これは賢明な判断ではなかった。「オバマがウェブ2・0に足をすくわれた」事件はニューヨークタイムズなどメジャーなメディアもとりあげるところとなった。なかでもチェイニーに質問したのと同じABCは、インタヴューでオバマに直接この質問をぶつけた。

 部下が処理できず、ボスが引っ張り出されて、かえって焦点が当たってしまったわけだ。『ネーション』は、きつい質問を露骨に避けて反発を呼び、オバマに答えさせることになったのは、この政権移行サイト最初の大失敗だとすかさず指摘したが、それはそのとおりだろう。

●草の根組織がオバマに刃(やいば)を向けることも‥‥

 オバマはABCのインタヴューで次のように答えている。

「尋問や拘束などの問題にどう対処するかはまだ決めていない。誰も法を超えた立場にはいない。しかし、私は、後ろをふり返るよりも前を見ることのほうが必要だとも思っている。とくに、アメリカの安全を守ろうとしているCIAの有能なスタッフたちが過去をふり返り、弁護士と打ち合わせすることに時間を使わなければならなくなることは望まない」。

 オバマの答えはいつもと同じく思慮深くバランスがとれている。このインタヴューでは、露骨に法を破っているとなれば話は別だと、特別検察官任命の可能性が皆無ではないと留保しながらも、自分の基本的な考えは、過去よりも未来を重視することだと何度も繰り返し語っている。
 質問コーナーでのこうした経緯を報道したニューヨークタイムズは、次のように書いている。

「オバマ大統領が、オンライン部隊を組織してターゲットに向かわせられるかどうかは誰にもわからない。その組織がオバマ自身に向かってくるかもしれない」。

 たしかに、オバマ陣営は、オープンな仕組みを作って草の根の支持者を動かすつもりでいたのに、支持者たちが急進化するなどしてオバマに圧力をかける存在にとって変わってしまう、ということはありえなくはない。これまで大成功をおさめてきたオバマのネット戦術が今後どのようなものになっていくか。
 これからも見続けていきたい。

afterword
 ブッシュ政権下の脱法行為については、議会でも、司法委員会の委員長などが調査委員会を作って追及すると言っている。オバマも、選挙中はブッシュを批判してきた。追及の声がほんとうに高まれば、オバマは阻止することまではしないのではないか。

関連サイト
●政権移行サイト「Change・gov」の「開かれた質問」コーナー(http://change.gov/newsroom/entry/open_for_questions_round_2_response)。1回目は2万を超える人が質問を寄せ、100万近い投票があった。2回目はさらに多く、10万以上の人が質問し、470万もの投票があった。
●ABCテレビのオバマ・インタヴュー「オバマはブッシュ政府高官の訴追に(少し)ドアを開いている(Obama Leaves Door Open (a Bit) On Prosecuting Bush Officials)」(http://blogs.abcnews.com/george/2009/01/obama-leaves-do.html)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.570)

« オバマの迷い――政権発足後の草の根ネットワーク | トップページ | オバマの参加型インターネット政治 »

ウェブ2・0」カテゴリの記事

オバマ」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/56597/44151374

この記事へのトラックバック一覧です: ブッシュに裁きのときがやってきた?:

« オバマの迷い――政権発足後の草の根ネットワーク | トップページ | オバマの参加型インターネット政治 »

2014年8月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31