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2009.01.19

グーグルの傲慢

利用者の立場に立ったサービスを提供していたグーグルは、
どこへ行ってしまったのだろう。
いまや、神経を逆なでし、不安を感じさせる変わり果てた会社になってしまったのか。

●情報が公開されてしまうグーグルのマイマップ

  

 昨年も、グーグルはずいぶんわれわれを驚かせてくれた。「クロム」というブラウザを突然公開したし、ストリートビューのその場にいるようなリアルな街路の写真にもびっくりさせられた。
 ストリートビューは便利ではあるが、キスをしている高校生の写真なども含まれていたりと、ずいぶん荒っぽい。自治体などからも対応の申し入れが相次いでいる。これから書くような事例もあわせて考えてみると、最近のグーグルにはそもそも構造的な問題があるのではないかという気がしてくるが、少なくとも当初ストリートビューについてはそれぐらいの感想だった。
 グーグルがその傲慢さにおいて「一線を越えた」ことを強く感じたのは、グーグルの地図に情報を加えることができるマイマップを初めて使ったときだった。マイマップは07年4月から使えるようになっていたので、ストリートビューよりもっと前からあったわけだが、私がマイマップを初めて使ったのは昨年7月だった。
 マイマップでは、データ保存の最初の設定が「一般公開」になっている。個人的な情報を入れてそのまま「保存」をクリックすると、誰でも見ることができてしまう。それどころか、「保存」を押さなくても一般公開されてしまう。タイトルを入れて数十秒ほっておくと、保存のボタンが自動的に押され、公開される。グーグルのサービスはGメールなどでも自動保存をしているが、マイマップは、タイトルを入れたらすぐ「限定公開」に変えないと、一般公開されてしまう。
 そして、「限定公開」にすれば、ほかの人が見ることができないというわけでもない。少し前までは「限定公開」ではなく「非公開」と表示されていたが、これはまったく不正確な名称だ。パスワードなどで保護されているわけでもなく、URLを知っている人は誰でもアクセスできる。だから、たとえば数十秒経って自動的に一般公開されてしまった時点で誰かがURLをソーシャルブックマークなどに保存してしまえば、その後、公開方法を変えても、リンクをたどって誰でもアクセスできてしまう。
 公開方法を変えるオプションは画面の左下のほうにあって、いまでもたいして目立たないが、当初はもっと目立たなかった。そもそもネットでもコンピューター・ソフトでもあれこれ注意書きが出てくるのをいちいち読まず操作してしまうというのは、多くの人がふつうにやることだ。「選択肢を提供してあるのだから、あとは利用者の責任」などというのは傲慢というもので、ソフトを作った側は、リスクがあることがわかっていれば、そのリスクをできるかぎり回避するのが、提供側の責任というものだろう。

●グーグルが一般公開を初期設定にした理由は?

 私もマイマップを初めて使ったときには、公開設定を変えずにそのまま保存してしまいそうになった。待ち合わせの店の情報を入れただけなので、公開してもとくに支障があるわけではなかったが、驚いた。
 名前からして「マイマップ」だし、「個人的な待ち合わせ情報などを入れてください」とばかりに提供されているのだから、最初の設定が一般公開になっているなどとは思わない。知らずに公開してしまう人が出るのではないかと思ったが、やはりそうなった。
 読売新聞は、11月17日の時点で、少なくとも37校で約980人の生徒の家のデータが公開されてしまったと報じている。

 グーグルはなぜこんな設定にしたのだろうか。いまや大会社になったグーグルのことだから、「ついうっかり」こういう設定にしてしまったなどということがあるはずはない。グーグルのサービスは、実験的に社内で公開され、検討やチェックを経るのがふつうだから、これもそのようにして公開されたはずだ。

 好意的に解釈すれば、ウェブとはどういうものか、人々を啓蒙する教育的意味をこめてこういう設定にした、ということも考えられなくはない。「ウェブでは、情報は共有するのが基本です。あなたの持っている情報を自分だけのものにせず、みんなに見せてください。公開しない設定も提供はしますので、どうしてもそうしたい人だけそれを利用してください」。ショック療法的なこんな考えのもとに常ならぬ初期設定にした‥‥
 「まさか」と思うかもしれない。私もじつは最初はそう思った。しかし、だんだんグーグルはけっこうまじめにそう考えているのではないかという気がし始めた(後述「追記」参照)。
 というのは、しつこいようだが、ふつうだったら、初期設定は非公開にするだろう(グーグルも、「カレンダー」の初期設定などは非公開になっている)。それなのにグーグルはそうしなかった。あえてそうしなかったのには、それなりの理由があるはずだ。こういう設定にして問題が発生し、批判を浴びても変えないのにはやはり明確な理由があるにちがいない。

●グーグルは「自信過剰」の病にかかり始めた

 グーグルとしては、地図にさまざまな情報を加えたい。最初の設定を「一般公開」にしておいたほうが公開情報が増えるという打算もあるだろう。
 しかし、それだけだろうか。
 グーグルには、「情報を私有するのは古い」という発想がそもそもあるのではないか。
 少なくともそう考えたほうがグーグルがこのところやっていることは理解しやすい。ストリートビューなどでも、「問題が指摘されればそのとき対処すればいいさ」と言わんばかりの公開の仕方をしたのも、情報の私有化、つまりプライバシーを軽視する考えがあるからではないか。
 もっと言えば、「自分たちはウェブ・カルチャーの最先端を行っている。自分たちのやっていることが理解できないのは、たんにあんたたちの意識が遅れているだけ」といった考え方に陥っているのではないか。
 じつはこうした発想は、グーグルにはこれまでにもときどき見られた。しかし、このところそれが露骨になってきたように思われる。

 モラルというのは、そもそも現在の社会や時代に沿ったものだ。未来企業であるグーグルは、現在のモラルを絶対視していないだろう。「悪いことはしない」という超素朴な規範をグーグルは社是にしているが、以前にも書いたとおり、「悪いこと」というのは相対的なものだ。ほかの人には「悪いこと」に見えても、グーグルにとっては悪いことには感じられないということはありうる。大胆なアイデアを好み、自分たちの能力に強い自信を持っているグーグルのことだから、重要なのは、自分たちにとってそれが「悪いこと」に見えるかどうかだろう。
 グーグルはもともと、自分たちの経済的利益よりも、利用者の役に立つことを第一に考えて検索サービスを提供し、強い支持を得て、急成長を遂げてきた。しかし、多額の報酬を出し世界中のエリートを集めるにいたったグーグルは、いまやときに傲慢な態度を見せつつある。

 グーグルは、会社が大きくなって、初心を失ったばかりでなく、利用者を不安がらせ始めている。そんなことでは、これまでのような発展を続けるのはむずかしくなるのではないか。

afterword
今回書いたようなグーグルが「悪いグーグル」だとしたら、知的な面で貢献したいというグーグルも依然として存在してはいる。ただそうした面でも傲慢な態度をとったために余計な道草を食っている。次回は、そうしたことを感じさせる、本の流通を一変するグーグルのプロジェクトについて。

追記
問題が生じて「非公開」を「限定公開」に変えたときだと思うが、昨年11月グーグルは、公式ブログ【http://googlejapan.blogspot.com/2008/11/blog-post.html】で、次のように言っていると掲載雑誌を読んだ読者の方からメールをいただいた。

 Google マイマップは Google マップの機能のひとつで、ユーザーが任意で、カスタマイズした地図を作成して、個人での利用はもちろん、他の人々とその情報を共有するサービスです。誰と共有したいかに応じて、ユーザーは、マイマップを作成するときに、情報公開の範囲の設定を、「一般公開」または「限定公開」から選ぶことができます。
 マイマップは、カスタマイズした情報をインターネット上で共有することが目的のサービスですので、初期設定は「一般公開」になっています。

 マイマップは、カスタマイズした情報をインターネット上で共有することが目的のサービスだから、初期設定は「一般公開」というわけだ。
 しかし、カレンダーなどは公開が初期設定ではないのに、マイマップはなぜそうなのか。
 そもそもの目的が違うということなのだろうが、ではなぜ違うのか。
 前回、グーグルもデジタル・サイネージ(電子看板)に興味を持っているという話を書いた。グーグルは、リアル世界とデジタル世界を結んで展開する広告ビジネスの大きな可能性を感じとっている。グーグルの広告ビジネスにとって、カレンダーは、共有情報を増やしても利用価値は小さいが、地図情報には大きな可能性がある。マイマップが「共有が目的」で、初期設定が「一般公開」なのは、そういうことから導き出されたことなのではないか。

関連サイト
●グーグル・マイマップ(http://maps.google.com/)の公開設定。当初「非公開」となっていたが、「限定公開」に変わった。「この地図のURL (アドレス) を知っている人だけが地図にアクセスできます」とのことで、見られてしまう可能性があることがほのめかされている。Photo

●「高木浩光@自宅の日記」08年11月10日のエントリ「本当はもっと怖いGoogleマイマップ」(http://takagi-hiromitsu.jp/diary/20081110.html)。11月には、ストリートビューとともに何度かマイマップが取り上げられ、「こんなアホな設計はありえないだろ常識的に」「作ってる奴は頭おかしい」と書かれている。マイマップを使うのだったら、この日と前日のエントリなどを読んでからにしたほうがいい。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.565)

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