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2009.01.26

グーグルと米出版社協会、結局勝ったのはどちら?

ブック検索をめぐるグーグルと米出版社協会などとの裁判の和解案がまとまった。
裁判所に認められれば、アメリカで膨大な絶版本の電子データ市場が立ち上がる。

●今年のグーグルは何をやる?

 

 ネットを通して人類の知的遺産にアクセスできるようにするグーグルの試みはどんどん加速している。
 グーグルは06年9月にニューヨークタイムズやワシントンポストと提携し、ニュース検索で、200年以上前の記事まで遡れるようにした。昨年9月からはさらに多くの新聞社と提携し、写真やイラスト、広告なども含め新聞レイアウトのまま検索・表示できるようになった。また先月からは、数多くの雑誌のバックナンバーもブック検索の対象になって表示される。

 こうしたことができるのは、グーグルが膨大なドキュメントを高速で効率よく電子化する技術を持っているからだ。
 300ページの本一冊を電子化するには通常40分の時間が必要で、1ページあたり10セント、本一冊だと30ドル(約2700円)ほどかかるようだ。しかしグーグルは、創立者のラリー・ペイジみずから研究し、効率的に電子化する方法を見つけたらしい。

 電子化技術のめどをつけたグーグルは、04年ブック検索のために、大学図書館などの延べ1500万冊以上に及ぶ蔵書を電子化するプロジェクトを開始した。それに対し、アメリカ作家協会や出版社協会が、勝手に複製するのは著作権侵害だと集団訴訟に打ってでた。その裁判の和解案が10月末にまとまった。
 グーグルは、承諾なしに本をスキャンしたことなどに対して1億2500万ドルを支払う一方で、膨大な絶版本について、拒否の意思が示されないかぎり連続する5ページ内の範囲で表示することができ、それ以上のページは有料で閲覧させるビジネスを始められる。和解案は、6月11日に開かれる予定の最終審理を経て裁判所に認めてもらう必要があるが、それがクリアできれば、グーグル主導の膨大な書籍データの閲覧ビジネスがアメリカで立ち上がることになる。

 グーグルが支払う1億2500万ドルには、権利者が個々の電子データの扱いを登録するためのデータベースの作成や裁判の費用も含んでいるが、それでも少なくとも4500万ドルは、許可なく本をスキャンしたことに対する補償金だ。だから、出版社側は「勝った」ととらえているようだ。

「公正利用(フェア・ユース)」についての法的な主張に関しても、グーグルは譲歩したように見える。グーグルは、ページ全部の表示をプレヴュー、3-4行のテキスト3つまでをスニペット表示と区別し、検索に応じたスニペット表示はアメリカ著作権法で認められている「公正利用」にあたり、権利者の事前許可は必要ないと主張してきた。和解案では、絶版本は、出版社が拒否の意思を示さないかぎりスニペット表示できることになっているが、流通している本については、事前の許可なく電子化しないと譲っている。

●グレーな解決がグーグルにとってベスト

 ニューヨークタイムズの記事によれば、グーグルは、許可なくスニペット表示をしないというのはこの和解についてだけで、これまでの法的主張を変えたわけではないと言っているそうだ。和解案末尾の付属文書にも、この和解によって「グーグルは悪事を働いたことも賠償責任も認めるものではない」と明記している。
 法律関係者のなかには、公正利用の問題について決着をきちんとつけるべきだと言っている人もいる。しかし、グーグルはまさにそれを避けたいこともあって、和解に応じたのではないか。
「検索に応じた表示は公正利用の範囲内」というグーグルの主張を制限する判決がもし出た場合、ほかの検索にも波及し、経営基盤が揺るぎかねない。事前の許可なく検索表示をすることはもはや既成事実化しているのだから、あえて司法判断を求めてグーグルが得することは何もないだろう。

 出版社側は、ブック検索が自分たちに経済的損害をもたらすものでないことはもともと理解していた。グーグルの検索に引っかかることが本の売り上げ増につながりうると米出版社協会会長も認めていた。しかし、著作権者には出版物の扱いを決める権利があるという原理的な部分で見過ごすことができず、訴訟になった。『プラネット・グーグル』という本の記述によれば、グーグルは、出版社との交渉の途中で、図書館とのプロジェクトを突如発表し、出版社側を激怒させたようだ。強行突破をはかろうとしたためにこじれてしまい、多額の補償金を払わなければならなくなったわけだ。

●グーグルがブック検索訴訟で得たもの

 出版社側はこの和解によって補償金を得てメンツを保ったうえに、もはや利益を生まない絶版本を復活させ、お金に換える算段までグーグルが提供してくれることになった。
 グーグルにしても、和解金額は払えない額ではない。グーグルはすでに700万冊以上の本の書籍全文を検索できるようにしており、そのうち400万冊から500万冊は絶版本だそうだ。それを使って大規模な書籍データ閲覧ビジネスがすぐにも始められる。和解によってグーグルは、少しばかり名を捨てたものの、しっかり実(じつ)はとっている。
 アメリカでは、アマゾンやソニーが出した読書端末がそこそこの成功をおさめ始めている。電子書籍をたくさん売るためには、読みやすい端末の普及が必要だが、その環境が整いだした。アマゾンは端末の発売を始める際に出版社に働きかけて、新刊も含めた電子書籍を紙の本より安く発売させることに成功している。さらにグーグルのこの電子データ市場が立ち上がれば、コンテンツが爆発的に増える。端末が普及するためにはコンテンツが必要という堂々めぐりの問題があったが、それが解消される。「電子書籍の時代がやってくる」といったことは何度も言われてきたが、とうとうそれが実現するかもしれない。

 ただ和解が認められても、絶版本データの有料閲覧ができるのはさしあたり米国内だけだ。著作権法も違う日本で始めるには、超えなければならない障碍がまだいくつもありそうだ。しかし、日本の出版社にもメリットがある話だから、グーグルは、遠からず日本でも出版社への働きかけを始め、電子データの有料閲覧に着手しようとするのではないか。

 問題は、一民間会社が電子的な本の流通を独占するようなことになっていいのかということだ。
 アマゾンも本の電子化は進めてきたものの、出版社から本の提供を受けてやっているので、大きな図書館の蔵書をごっそり電子化しているグーグルにはかなわない。マイクロソフトもグーグルに対抗して本の電子化を始めたものの、昨年あきらめてしまっている。また米ヤフーも参加している本の電子化プロジェクト「オープン・コンテント・アライアンス」も著作権の切れた本が中心で、電子データの販売を目的にしているわけではない。和解案通り進めば、グーグルはこの分野で圧倒的な地位を築くことができる。将来的には、こうした分野はかなりの規模の市場になる可能性があると思うが、それについてはまた次回。

afterword
 膨大な本を効率よく電子化できるグーグルが上に書いたようなことを始めれば、日本でもライバルが生まれるのはむずかしいだろう。しかし、次回書くように、グーグルのこのブック・プロジェクトに対抗できるようなアイデアが、日本でも提案されている。

関連サイト
●アメリカの雑誌のバックナンバーなども検索・表示できるようになったグーグルのブック検索(http://books.google.com/)。日本語ページでも洋雑誌の検索はできる。
●米作家協会のサイトには、和解案やその解説などいくつもの文書が掲載されている。これらはもちろん英語だが、この和解の公式サイトは、日本語表示もできるようになっている。和解によってどのような利点があるかなどが説明されている(http://www.googlebooksettlement.com/)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.566)

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