« オバマの当選で、アメリカは変わったか? | トップページ | ウェブが街なかに出て行くとき »

2008.12.26

日本人は、なぜことのほか自分たちを貧しいと思うのか?

なぜ貧しいと思うのかって? 
実際、お金がないからに決まっているじゃないか、と思うかもしれないが、
そうとは限らないという調査がアメリカで出ている。

●日本人は悲観しすぎ?

 

 金融危機は海の向こうの話‥‥だったはずなのに、あっという間に日本を呑みこみ、暗い年の瀬になってしまった。
 アメリカの調査機関ピュー・リサーチ・センターのレポートをあれこれ見ていたら、日本人の経済観についておもしろい発表をしていることに気がついた。
 その主旨をひと言で言えば、「日本の経済はそんなに悪くないのに、日本人は悲観しすぎじゃないの?」というものだ。調査そのものは春に行なわれているが、9月の麻生政権誕生直後、日本人の経済に対する考え方をクローズアップする形で次のような数字をあげてレポートしている。
 国内総生産トップのアメリカが巨額の貿易赤字にあえいでいるのに、日本は、中国、ドイツに次ぐ貿易黒字国だ。ここ5年間のアメリカの経済成長率は年平均2・9パーセント。それに対し、移民が少なく少子化の日本のここ5年の年平均成長率は2・1パーセントにとどまっているものの、一人あたりのGDP伸び率は、アメリカやドイツを上まわっている。それなのに、日本人の経済状況についての見方はきわめて悲観的だ。経済状況が「よい」と思っている人は13パーセントしかいない。85パーセントの人が「悪い」と思っている。
 この数字は、経済混乱まっただ中の02年の「よい」6パーセント、「悪い」85パーセントよりはましだが、昨年に比べると「よい」と答えた人は半分以下になり、「悪い」と答えた人も14パーセント増えている。
 今後の予測についても日本人は悲観的で、この先12か月で「とてもよくなる」と答えた人はゼロ。「少しよくなる」と答えた人が5パーセント。「悪くなる」と答えたのは48パーセント。

 サブプライムローンの問題はすでに昨年秋から始まっていたから、ほかの国だって同じくらい悲観的だろうと思うかもしれない。けれども、明るい展望を持っている人が一桁、それも5パーセントという国は調査対象の24か国のなかでどこもない。飛び抜けて悲観的なのだ。問題発生源のアメリカでも、34パーセントもの人が「この先よくなる」と答えている。「さすが楽天的な国民!」という面目躍如(?)の数字だ。

 02年の日本は、「よくなる」という人が11パーセントで、「悪くなる」は26パーセントだった。だから、春の時点で日本はすでに、以前の経済混乱時よりも今後の見通しが悲観的になっている。いまの経済状況は春に比べて格段に悪くなっているから、あらためて調査すれば、おそらくもっとずっと悲観的な数字になるにちがいない。

●一人あたりのGDPは増えているというが‥‥

 一人あたりのGDPについての先の指摘は、英エコノミスト誌の記事がもとになっている。
 同誌によれば、2007年までの5年間の年平均一人あたりGDPの伸び率は、アメリカが1・9パーセント、ドイツが1・4パーセントなのに対し、日本は2・1パーセントだったそうだ。エコノミスト誌は、「広まっている日本経済についての悲観的な見方とは反対に、日米独3つの金持ち国のなかで日本は、一人あたり平均収入についてここ5年の経済発展から最大の恩恵を受けた」とのことで、「(日本では)経済が期待はずれだとずっと報道され続けているが、一人あたりの収入がそうとうに伸びていることに日本政府が注目を向けさせたならば、消費者はもっと明るい気分になってお金を使い、GDPももっと伸びただろう」と、低成長なのは気分のせいとばかりの言葉で記事をまとめている。
 このエコノミストの記事も今年3月に書かれたものだが、それにしても、われわれの実感とかけ離れている。

 アメリカは年1パーセントぐらいの人口増加をしている。GDPを人口で割った数字が一人あたりのGDPだから、人口が増えていれば、一人あたりの額は増えにくい。反対に、日本はもはや人口が増えていないから、GDPがそれほど伸びなくても、GDP増加がそのまま一人あたりの増加につながる。
 こうしたカラクリはあるものの、そうしたこと抜きでも同誌の指摘はやはりマトはずれだ。よく言われるように、このところの企業の利益は雇用者に広く分配されることはなかった。株主への配当などの形で分配され、金持ちがより裕福になっただけで、一般の雇用者には渡らなかった。明るい展望がないのは「気分のせい」とばかりはいえない。

 とはいえ、これから紹介する同センターのデータを見ると、雇用者への分配がどうのこうのを超えたところで経済についての見方が決まっている、と思わざるをえなくなってくる。

●希望のある国とない国の経済意識

 日本経済全体の見通しが悲観的だから、当然、自分の経済状況についてもいいと思う日本人は少ない。「よい」と答えた人は37パーセントで、「悪い」と答えた人が61パーセントである。
 日本は依然としてGDP2位なので、自分の経済状態についてもっとも悲観的な国というわけではなかったが、それでも経済状態が悪いと答えた人が日本よりも多かったのは、レバノン、韓国、ヨルダン、エジプトの4か国のみ。ナイジェリアやメキシコは20パーセント以上、パキスタン、中国、ポーランドなどは30パーセント前後も、自分の経済状態が「悪い」と答えた人が日本よりも少なかった。
 驚くことに、この調査で、自分の経済状態が「よい」と答えた人がもっとも多かったのは、何とインドである。84パーセントもの人が「よい」と答えている(下グラフ。ピュー・リサーチセンターのレポート‘A New Leader for a Chronically Gloomy Japan’より。右から5番目が日本)。Photo_2
 インドは、日本からは想像もつかないぐらいの格差社会だから、金持ちにだけ尋ねたのではないかと思いたくなるような結果だが、そうではないだろう。
 きちんとした調査組織のやった仕事なので、各国での調査の仕方は明記されている。インドなどは、実際の人口比よりも都市住民の割合が多いが、地域的には東西南北さまざまな場所で調査したという。

 経済状況についての認識というのは、そもそも主観的なものだ。「新しいケータイやデジカメが買えないから貧しい」と思う国の人もいる一方で、泥を塗り固めただけの家でも「雨つゆをしのげているから裕福だ」と思う国の人もいる。
 インドでは、少なくとも以前よりはずっとよくなっていると感じている人が多いのだろう。また、明るい将来展望があるので現在の経済状況がよく感じられる、ということもあるにちがいない。
「自分の経済状態がよい」と答えた人が6割を超えているのは、インド、パキスタン、中国、ブラジル、ナイジェリアなどだ。これらの国の人々が総じて日本よりも上のレベルの暮らしをしているとはとても思えない。
 こうしたデータを見ると、人間にとって幸福とか経済繁栄とは何なのかと思ってしまう。人間にとって「希望」というのがいかに重要か。実際の暮らしが貧しくても、希望があれば豊かに感じられるし、そうでなければ貧しさが実際以上にこたえる。このデータが示しているのはそういうことではないか。

afterword
 英エコノミスト誌が言うように、明るい気分になれば、消費者はもっとお金を使い、GDPが伸びるのであれば、日本でもっとも必要でありながら決定的に欠けている経済対策は「希望を感じられるようにすること」なのかもしれない。

関連サイト
●ピュー・リサーチセンターのレポート‘A New Leader for a Chronically Gloomy Japan’(http://pewresearch.org/pubs/960/a-new-leader-for-a-chronically-gloomy-japan)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.563)

« オバマの当選で、アメリカは変わったか? | トップページ | ウェブが街なかに出て行くとき »

経済」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/56597/43522289

この記事へのトラックバック一覧です: 日本人は、なぜことのほか自分たちを貧しいと思うのか?:

« オバマの当選で、アメリカは変わったか? | トップページ | ウェブが街なかに出て行くとき »

2014年8月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31