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2008.12.01

記事を無料公開するのは損か得か?

アメリカの新聞サイトへのアクセスは、05年夏頃から急成長を始めた。
こうした変化は、アメリカの新聞社にどのような変化をもたらしたのだろうか。

●新聞サイトを見ている人の利用パターン 
 

 ニューヨークタイムズは、「タイムズセレクト」と名づけた有料課金を05年9月に始め、2年後の昨年9月にやめている。グーグルやヤフーなどの検索からのアクセスが予想以上に大きく増えたためと理由を説明しているが、実際その間、新聞サイトへのアクセスは急増している。
  米新聞協会のサイトに掲載されているニールセン・オンラインのデータによれば、ニューヨークタイムズが有料課金を検討していたと思われる05年7月まで は、月1回以上、新聞サイトにアクセスした人(ユニーク利用者)は4000万人から4400万人ほどのあいだを上下していた。ページビュー(以下PV)も 平均すると17億ほどだった。前年も、年平均のユニーク利用者数が4100万人、16億弱のPVと05年とあまり変わらない。ところが、ニューヨークタイ ムズが有料課金を始めたまさにその05年夏からふたたび成長を始め、ニューヨークタイムズがタイムズセレクトをやめた07年9月の翌月の利用者数は 6000万人、月間PVは30億を超えた。つまり、04年から05年にかけて新聞サイトへのアクセスはあまり伸びなかったにもかかわらず、05年夏からの 2年で利用者数が1・5倍、PVは倍近くになっているわけだ。その後もさらに伸び、この8月には利用者数は7000万に近づき、月間PVは34億を超え た。
 各新聞サイトは、こうした変化に驚いたはずだ。前々回書いたように、クリスチャン・サイエンス・モニターが日刊での新聞の発行をやめウェブに重点を置くことにしたのも、こうした変化を受けてのことだろう。
  おもしろいことにニールセンのこのデータでは、一人平均アクセスするページ数や滞在時間、訪問回数はここ数年それほど増えてはいない。04年は年平均で新 聞サイトの利用者は月に7・16回アクセスし、38・44ページ見て、月間合計滞在時間が35分前後だった。今年8月には、月に8・52回アクセスし、 50ページ近く見て、合計滞在時間が43分になった。月1回強アクセスする回数が増え、アクセスしたときに見るのが5・36ページから0・5ページだけ増 えたといった変化でしかない。PVが増えたのは新聞サイトの利用者そのものが増えたからにほかならない。
 とはいえ、新聞サイトに平均で月に8・ 52回アクセスし、1回あたり6ページ弱見ているというのはそうとうに利用していることになる。もちろんリンクをたどって1回だけアクセスした人も多数い るわけで、そうした利用もあわせて平均でこの数字なわけだから、かなりの数のアメリカ人が毎日のように新聞サイトにアクセスし、新聞を読むぐらいの数の記 事をチェックしていることになる。
 しかも、この数字は「新聞サイト」のデータである。ヤフーなどのポータルやCNNなどのニュースサイトへのアクセスを含めれば、はるかに数字は大きくなる。そうしたことを考えると、「ニュースはネットで読む」という習慣がかなり浸透していることになる。
  新聞協会のサイトには1940年以来の新聞数と販売部数が載っている。平日の新聞の部数減少は04年までは1パーセント以下だったが、それ以後は前年比2 パーセントから3パーセントに拡大している。そして、この1年は下げ幅がさらに拡大した。前年9月からの1年で平日の新聞の販売部数が4・6パーセント 減ったことを、米ABC協会が10月末に明らかにしている。
 これだけ新聞サイトが利用されているのだから、新聞購読者数が減るのも当然だろう。

●無料公開によって大幅に増えたページビュー

 

新聞をめぐってこのような環境変化があったわけだが、ニューヨークタイムズが1000万ドルあった「タイムズセレクト」の収入を捨てて広告収入に賭けたほうが儲けが大きくなると判断したのは、どのような計算にもとづくのだろうか。
  ニューヨークタイムズは、高値で売れるプレミアムの広告スペースは1000回の表示(CPM)が15ドルから50ドルといった価格で売れるが、広告ネット ワークなどが介在し売りにくいスペースなどは1ドルということもあると説明している。仮に平均10ドルとすると、年1000万ドルを稼ぐには10億PVが 必要だ。ニューヨークタイムズのサイト利用者数はアメリカの新聞サイトのトップだが、かなり高いハードルに思える。
 しかし、「タイムズセレク ト」をやめた昨年9月の時点で、利用者数が1470万人だったのが、1年後の今年9月には37パーセント増えて2010万人になったという。PVがどれぐ らい増えたのかははっきりしないが、冒頭の米新聞協会のデータによれば、新聞サイトにアクセスした人は07年9月に一人平均48・77ページ、08年8月 には49・36ページ。ニューヨークタイムズの利用者も同じぐらいのページ数にアクセスしているとすると、利用者数にこの数字をかければ、おおまかなPV の予測ができる。07年9月が7億1692万、08年8月は9億9213万、差し引きすると2億7521万PVの増加。年換算すれば33億PVを上まわ る。10億PVのハードルを軽くクリアしていることになる。

●1ページビューは0・2円?

 実際の広告収入はどれぐらい増えたのか。
 第3四半期のネット広告の収入は、前年の6750万ドルが7440万ドルへと690万ドル増え た。これは、ニューヨークタイムズ社傘下のボストン・グローブやインターナショナル・ヘラルド・トリビューン、アバウトなどの各サイトも含んだ数字だ。ア バウトは前年の2470万ドルが2870万ドルへと400万ドルの増収だ。傘下のほかの新聞サイトやアバウトの増収分も除くとニューヨークタイムズ紙のサ イトのみの増収は4半期で200万ドルぐらい、年にすれば800万ドルぐらいではないか。
 失った1000万ドルの有料課金収入をまだ取り戻せていないにしても、もうまもなくカバーできるはずだ。
  PVの増加は目標の3・3倍にまでなっている計算なのに、増収は目標の8割にとどまっている。PV増によって期待できる増収額の24パーセントにしかなっ ていない。1000回の広告表示料金を10ドル平均として計算したのが高すぎたのだろう。2ドル40セントにすると計算が合うことになる。プレミアムの広 告スペースが15ドルから50ドルといってもそれ以外の広告はやはり厳しいようだ。
 アメリカのネット広告全体が2桁成長しているわけだから、 ニューヨークタイムズのサイトの増収は、タイムズセレクトをやめたためばかりではないだろう。しかし、有料課金登録の増加がそれほど期待できないのであれ ば、無料化してネット広告収入の増大にはずみをつけたほうがいいという判断はたしかに成り立つ。
 ところが、今年になってまったく逆の判断をした新聞がある。ウォールストリートジャーナルだ。次回はこの新聞が何を考えたかについて。

afterward
 ニューヨークタイムズにはほかの新聞サイトよりも熱心な利用者がいて、上の数字よりPVがもう少し多いということはあるかもしれないが、05年の月間PVが5億台半ばという記事がいくつかあるので、実態から大きくはずれているということはおそらくないだろう。
 ただ、次回とりあげるウォールストリートジャーナルのように有料課金をやめると利用者一人あたりが見るページ数は減ることがある。competeの1ア クセスあたりに見るページ数や滞在時間からするとニューヨークタイムズの場合はどうもあまり減っていないようだが、そうだとすると、PVの伸びはもう少し 小さく、したがってCPMはもう少し大きいかもしれない。

関連サイト
●米新聞協会の「Trends & Numbers」のページ(http://www.naa.org/TrendsandNumbers.aspx)にアメリカの新聞サイトの利用者数の変遷が掲載されている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.559)

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