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2008.12.08

記事を無料で見せると、やっぱり損をする?

ウォールストリートジャーナルを手に入れたマードックは、
サイトの無料化を主張したが、説得され、課金に同意した。
言いだしたら聞かなさそうなボスが納得したのはなぜか。

●記事アーカイヴ公開で利用者増をはかる米メディア 

 ニューヨークタイムズは、苦しい決算発表をして投資格付けが大幅に下がり前途が危ぶまれるといったことを書いてきたが、この新聞は、自社のことも含めた新聞の末路を記録に残していくつもりなのかもしれない。いろいろな角度から記事にしている。
 前回書いたように、ニューヨークタイムズは有料課金を大幅に縮小し、1851年から1922年までと87年以降の記事に無料でアクセスできるようにした。こうした記事アーカイヴによってどれぐらいアクセスを集めることができ、お金になるのか。
  今年3月の記事「ウェブのためにアーカイヴのホコリを払う」によれば、「スポーツ・イラストレイテッド」誌のサイトは、ヤフー・スポーツなどと激しい競争 をしているが、ライバルにはない強みがひとつあるという。それは53年にわたる記事や写真で、3月に「Vault(地下貯蔵庫)」と名づけてアクセスでき るようにした。検索もでき、たとえば「Ichiro」で検索すると、250本の記事、73枚の写真、683の動画、4つの表紙がヒットする。動画はヤフー やMSN、テレビ局など他サイトへのリンクだが、いい写真も多いので、アメリカン・スポーツ好きには楽しめる。
 このアーカイヴの公開で、サイトの容量が4倍になり、月600万人の新規利用者を期待しているとのことだ。アーカイヴ公開前の月間利用者は週に210万人とのことだから、利用者が倍増するぐらいのアクセスを期待しているわけだ。
  しかしながら、収益への貢献はかなり低く見積もっている。将来的にはもっと増えるにしても、最初の年にはサイト全体の収入の5パーセントになることを望ん でいるとのことだ。アーカイヴはアクセスを増やしはするが、広告を出すページとしては魅力がとぼしい。けれども、アクセスしてきた人は、アーカイヴだけで なくほかのページにもアクセスするだろうから、広告収入アップにはつながる。
 いずれにしてもアクセスが急増することは間違いないようだ。やはりアーカイヴを無料公開した「ポピュラー・メカニクス」は利用者の35パーセントがアーカイヴ経由、ニューヨークタイムズもページビューの10パーセントはアーカイヴだという。
 印刷版が苦しくなってくると、記事アーカイヴを無料公開するという流れもあるように思われる。タイムやニューズウィークなど苦境が伝えられるアメリカのニュース雑誌もやっている。
 タイムで「Japan」を検索してみたら、いちばん古い記事は1923年のものだった。タイム誌は、この年からの記事を公開している。
 こうしたアーカイヴを作るのは数十万ドルかかるというのがある大手雑誌の見積りだとニューヨークタイムズは書いている。いったん作れば運営コストはあまりかからないが、どれぐらいネットに賭けるかという覚悟は必要なのだろう。

●ウォールストリートジャーナルが有料課金を続ける理由

 記事アーカイヴを作成している雑誌や新聞でも有料のことがまだ多いが、アメリカの新聞や雑誌のサイトは、しだいに無料公開のメリットを感じ始めたようだ。
  ところが、その一歩手前まで行きながら、無料公開をやめてしまったメディアもある。経済紙のウォールストリートジャーナル(WSJ)だ。この新聞を発行し ているダウ・ジョーンズは、世界中のメディアを買収しているマードックの傘下に入った。マードックは無料公開したかったようで、買収前には、「100万人 [の有料課金の登録者]よりも、無料にして世界中から来る少なくとも1000万人から1500万人のアクセスを望む」と言っていた。それが同紙の幹部の反 対にあい、説得されてしまった。いまはさしあたり有料課金を続けることに納得しているようだ。
 どういうぐあいに説得したのかは、今年1月25日のWSJの記事でわかる。マードックに対して、ダウ・ジョーンズの幹部は次のように説明したようだ。
  お金を払ってまでサイトにアクセスする熱心な読者がいるからこそ、広告主はプレミアム付きの広告料金を払ってくれる。無料にすればアクセスは増えるだろう が、忠実とは言えない無料の利用者に対して高い広告料は払ってくれない。そればかりか、ウェブ版を無料にしてしまえば、これまで印刷版を購読してくれてい た読者もそちらに移行してしまうかもしれない‥‥。
 有料登録者は100万人以上いて、07年には有料課金収入は6000万ドルだった。かなりの 記事が有料でも、ユニーク利用者は今年1月の時点で月1000万人(ニールセンの調査では540万人)いる。無料にした場合、倍の2000万人の利用者が なければ採算があわない。最大のニュースサイトであるヤフー・ニュースでも3540万人なので達成はむずかしいという。結局、WSJは無料にするどころ か、年20ドルだったウェブ版の料金を103ドルに上げ、印刷版も値上げしたようだ。
 ただしその一方、無料でアクセスできる記事も増やした。また、グーグルのニュース検索やソーシャルブックマークのDiggのリンクをたどってアクセスした場合には、本来は有料であっても記事全文を読めるようにするなど、アクセス増加のための方策もとった。

●利用者は増えたがページビューは減った?

 無料でアクセスできる記事を増やした結果どうなったのか。
  Diggからのアクセスは以前の12倍になったそうで、今年3月には利用者は1年前から175パーセントの増加で1500万人、ページビューは75パーセ ント増えて1億6500万になったという。有料課金のままでいてもこんなにアクセスが増えるのであれば、マードックも急いで無料化しようとは思わないはず だと、この件を記事にしたポートフォリオ誌は書いている。
 ただし、7月7日のシリコン・アレイ・インサイダーによれば、6月の利用者は1620 万人、ページビューは1億5000万だったそうだ。つまり、3月から6月にかけて利用者は増えたものの、ページビューは減ってしまっている。リンクをた どってアクセスしてきた人たちはほかのページをあまり見ない。アクセス解析サイトのComPeteのデータを見ると、1年前に利用者は1回のアクセスで平 均12ページ見ていたのが8ページに減っている。
 ダウジョーンズの幹部が心配していたように、熱心な読者が減ったとあれば、広告料金が引き下げ られる恐れもある。たしかに、前回のニューヨークタイムズの試算でも、大幅に無料化した結果、利用者数は増えたが、それに見あうほどは広告収入は伸びてい なかった。有料課金の壁を下げ利用者が増えればそれで万々歳かといえば、どうもそうではないようだ。ネット・メディアのビジネスはむずかしい。

afterward
古い記事のアーカイヴ化によってサイトのボリュームをアップできないネット・メディアは、ブログなどに力を入れ、そうやってアクセスを増やすことにエネルギーを注いでいる。

関連サイト
●ニューヨークタイムズの今年3月18日の記事「ウェブのためにアーカイヴのホコリを払う」(http://www.nytimes.com/2008/03/17/business/media/17mags.html)。
●「スポーツ・イラストレイテッド」誌の記事アーカイヴ「Vault(地下貯蔵庫)」(http://vault.sportsillustrated.cnn.com/)。
●タイム誌のサイト(http://www.time.com/)で「Japan」を検索した。写真はスキャンしてアーカイヴ化するのがたいへんで、また著作権の問題もあるとのことであまり含まれてはいないが、日本関係の表紙の号は一覧できる。
●ウォールストリートジャーナル1月25日の記事‘WSJ.com to Retain Subscription Component’(http://online.wsj.com/public/article/SB120119406286813757.html)。
●シリコン・アレイ・インサイダー7月7日の記事‘The New WSJ.com: More Readers, Who Are Less Interested’(http://www.alleyinsider.com/2008/7/the-new-wsj-com-more-readers-who-are-less-interested)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.560)

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山本一郎氏の情報革命バブルの崩壊、歌田明弘氏の地球村の事件簿を読むにつけ、新聞というメディアが危機に晒されていることをよくよく知らされた。週刊/月刊雑誌系の知り合いからはリアルに厳しいという話は2007年問題以前から聞かされていたので、まだ肌感覚があったのだ... [続きを読む]

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