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2008.11.17

新聞が毎日発行されなくなるのはもはや時間の問題?

アメリカで始まった紙の新聞の「死」はゆっくりと、
しかし確実に日本の新聞にもやってくるにちがいない。
アメリカでの変化は大方の予想を超えた速度で進んでいる。

●波紋を呼んだ5万部の全国紙のウェブへの移行 
 

アメリカの新聞の状況は、そうとうに悪い。日本でも知られている新聞社が倒産したり、発行を中止しても不思議ではなくなっている。
 アメリ カの新聞社は広告料収入の割合が高いが、広告料の低下を防ぐために発行回数を減らし、広告枠の価値を維持しようとするところも出てくるのではないか‥‥な どと思っていたら、クリスチャン・サイエンス・モニター(以下CSM)が、アメリカの全国紙で初めて日刊の発行をやめ、ウェブ版に重点を移すことを明らか にした。
 CSMはその名のとおり宗教団体から資金提供を受けているが、国際面の記事などが評価されている。ピュリッツァ賞も7回受賞している。しかし、70年代に22万部を超えていたのが、いまは5万部台になってしまった。
  日本の全国紙は、読売新聞の1000万部を筆頭に、朝日が800万部、経営が苦しいと言われる毎日新聞でも380万部、産経新聞が220万部と桁が違う。 アメリカの新聞社はよくそんなに少ない部数でやっていけるものだと思うが、通信社の配信記事に頼っているところが多く、日本の新聞のようには経費がかから ないと言われている。しかしCSMは、ロシア、中国、イスラエル、インドなど11か国に記者を送っていて、APやロイターなどの通信社への依存度は、たい ていの日刊紙よりも低いらしい。
 3号前に、 ニューヨークタイムズがもしいま印刷版の発行をやめてネット版だけにしたら収入が1/5になるし、日本の新聞も控えめに見ても1/10以下にはなるだろう と書いた。ネット版だけにするのはそうとうにむずかしいはずだが、CSMは、何をどう考えたのか。CSM自身の説明も含めていくつかのメディア情報を総合 すると、次のような計算ができる。

●紙の新聞の発行をやめると経営が改善する?

 ニューヨークタイムズの記事によれば、CSMのサイトは現在月300万ページ見られており、それを5年で2000万から3000万にするのが目標だという。そうなれば、サイトを安い広告だけで埋めても維持可能になると編集長は言っている。
 ウェブサイトからの現在の収入は年130万ドルだから、ページビューが2000万を超えて7倍になり、それにともなって収入も7倍になるとしたら780万ドルの増収になる。ビジネスウィークによれば、CSMの年商は1250万ドルだそうだから、これは少なくない額だ。
 5万人の購読者がネット版に来るようになって毎日1人10ページずつ見れば月1500万ページビュー。印刷版をやめてネット版に力を注いだことによるアクセス増があれば、目標の月2000万から3000万のページビューは達成できる。
  しかし、紙の新聞の購読者は毎日10個の記事を読むかもしれないが、ひとつのサイトで毎日10ページ読んでもらうのはたいへんだ。現在のサイト利用者は月 150万人なので、見ているのは一人平均月2ページにすぎない。印刷版の購読者は、検索経由で来る人よりは熱心に読むだろうが、それにしても150倍見て くれるとはとても思えない。利用者数を増やし、ページビューを稼ぐ新たな方策はやはり練らなくてはならない。
 印刷版CSMの広告収入は100万ドル以下で、アメリカの新聞にしては珍しく購読料収入の割合が高い。それだけに日刊の発行をやめるダメージは大きいはずだ。
 現在の印刷版の購読料は年219ドル。それによって同紙は900万ドルの収入を得ている。印刷版を完全にやめれば、購読料900万ドルと100万ドル足らずの広告料がなくなる。年商1250万ドルが250万ドルほどに激減し、やはり1/5になってしまう。
 ただ来年4月から、日刊をやめるかわりに週刊の印刷版を出すそうで、その年間購読料は89ドルと発表されている。週刊になってとるのをやめる人もいるかわりに購読し始める人もいるだろう。仮に購読者数が同じとすれば、540万ドルの減収にとどまる。
  日刊での発行をやめることによって印刷や紙の経費が減り、さらに編集部門から100人、営業部門から30人の削減を考えているとのことで、現在の1890 万ドルの赤字が13年には1050万ドルへと840万ドル減らせるという。赤字削減は、広告の収入増(印刷版広告の収入減をがあるので700万ドルの皮算 用)と購読料の収入減(540万ドル)との差し引き(160万ドル)と、コスト削減による。とすれば、コスト削減効果は、840万ドルから160万ドルを 引いた680万ドルということになる。実際はもう少し大きなコスト削減効果を見こんでいるようにも思われるが、この計算では、2570万ドルの経費が26 パーセント削減される勘定だ。
 結局のところ、こんどの決断の成否は、ページビューをどれぐらい増やせるかにかかっているわけだが、目標が達成できれば教団からの資金提供は、現在の1210万ドルから370万ドルに減らせるという。
  こうした計算はアメリカのほかの新聞社でもやっているはずだ。CSMのネットへの移行が成功すれば、追随するところも出てくるだろう。アメリカのたいてい の新聞は部数が少なく、広告収入が重要なので、それが得られれば、経営的には紙でもネットでもどちらでもいい、というところがそもそもある。印刷版の発行 頻度を大幅に減らして経費を削減し、ネット版に移行する新聞社は今後かなり出てくるかもしれない。

●日本の新聞はどうなる?

 経営が苦しいのはCSMだけではない。昨年あたりまではまだ新聞の買収が相次いであったが、ここに来るともはや買い手がいない、といったことも起きているようだ。
  もっとも、こうした話は数か月前から出ていた。「リーマン・ショック」のあと経済混乱が拡大し、広告収入がいよいよ落ちこむことが予想される。ネット広告 も伸びは鈍化するだろうが、それでも成長は続くだろう。経済の混乱によって、新聞の淘汰とネットへの移行が促進され、メディアの地図がよりいっそうのス ピードで塗り替えられていくにちがいない。
 日本の新聞はどうなるだろうか。
 日本の新聞社は購読料収入の割合が高いので、広告の変化が およぼす影響はアメリカに比べれば小さい。新聞離れが進んでいるとはいえ、アメリカに比べればまだまだ読まれてもいる。だから、印刷版をやめるのはさしあ たり自滅行為でしかない。しかし、いよいよ広告が集まらなくなれば、発行頻度を減らして広告枠の価値を維持し、ウェブに力を注ぐことも、選択肢のひとつに なってくるはずだ。今回やったように、失われる購読料と期待できるウェブ広告料の増収、それにコスト削減効果を秤(はかり)にかけ、さらに「毎日発行する のが新聞の使命」という社会的な役割も考慮しながら、経営判断を迫られることになるだろう。

afterward
 10月23日に第3四半期の決算を発表したニューヨークタイムズは、投資格付けが3つ下がって「投機的」とされるレベルになってしまい、ほんとうに持つのかといった声も出てきた。次回は、アメリカの新聞サイトのトップでもあるニューヨークタイムズの危機について。

関連サイト
「クリスチャン・サイエンス・モニター」のサイト。日刊での印刷版の発行をやめてネットへ移行するという大胆な決断を行なった編集長は、この7月、ニューヨークタイムズ社傘下の「ボストン・グローブ」から移ってきている。
●BusinessWeekの記事‘The Christian Science Monitor to Become a Weekly’by Jon Fine 
●ニューヨークタイムズの記事‘Christian Science Paper to End Daily Print Edition
by STEPHANIE CLIFFORD

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.557)

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