グーグルのすごさとその限界が見えてきた
グーグルが始めた「ストリートビュー」は、
グーグルのすごさをまたまた感じさせる。
しかし、グーグルに対する批判も高まっている。
●MSやアマゾンが先んじていた「ストリートビュー」
歩行者視点の街の風景を見ることができるグーグルの始めた「ストリートビュー」は、あまりにリアルに街の様子が見えてしまい、波紋を呼び、「問題シーン」だけを集めたまとめサイトまでできた。
こうしたプライバシーの問題はともかく、これを見ると、グーグルの底力を見せつけられる思いがする。「ポスト・グーグル」とか「グーグルを超える」みたいなことが言われるが、実際のところグーグルはそんなに簡単に超えられず、「グーグル王朝」の時代はまだまだ続くのかもしれない。
このような「ストリートビュー」は、じつは2、3年前にマイクロソフトやアマゾンが先行してやっていた。
検索技術の重要性を感じとったアマゾンは、A9という子会社を作って検索の開発をしている。05年には、車窓から見えるストリート・レベルの光景を表示する実験的な試みを始めた。しかし、アメリカの大都市のいくつかの場所についてやっただけで、地図検索そのものをやめてしまった。A9はいま、商品検索や、日本のアマゾンで「なか見!検索」と名づけられている本の全文検索など、アマゾンの業務に直接結びつく検索の開発をやっている。
マイクロソフトも06年に、シアトルとサンフランシスコの街について、歩行者視点と自動車の車窓から見た光景を表示するデモページを作ったが、その後、進んでいない。
いうまでもないが、「ストリートビュー」を作るにはお金と手間がかかる。すでにどこかの会社が電子データを持っていて、その権利を買えばよかった地図や衛星写真のようなわけにはいかない。マイクロソフトは先のプレビュー版を作るために、シアトルだけで1000万の画像を撮ったと言っていた。グーグルのは「パノラマ」で、左右だけでなく上下の光景まで見ることができる。いったいどれぐらいの写真を撮ったのだろうか。
●グーグルの途方もなさ
グーグルは、カメラを載せたクルマを走らせて写真を撮り集めたらしいが、昨年5月にアメリカの大都市について始めた後、日本でも東京、大阪、札幌など主要12都市のかなり細い道まで「ストリートビュー」を提供している。アメリカは50都市に増え、日本と同時にオーストラリアでも始めた。ヨーロッパでも自転車レースの「ツール・ド・フランス」のコースの「ストリートビュー」を見ることができる。とはいえ、展開している国はまだそれほど多いわけではない。日本で始めたのは、やはり日本市場を重視しているからなのだろうか。プライバシーの問題が大きくならなさそうなところをねらった、などということもあるかもしれない。
これまでもグーグルには、地球規模で鮮明な画像を提供した「グーグル・アース」にはあっと驚かされたし、大図書館の所蔵書を含めた膨大な本をスキャンし検索対象にするというブック検索にも唖然とさせられた。
書籍のデジタル化プロジェクトは、グーグルのあとを追ってマイクロソフトも、大学図書館や公立図書館と協力して始めたが、今年になって中止してしまった。グーグルのほうは昨年、慶応大学との提携を発表し、日本でもブック検索を開始するなどやめる気配はまったくない。
アマゾンにしてもマイクロソフトにしても潤沢な資金はあるのだろう。けれども、これらのプロジェクトはお金も手間もかかる一方、コストに見あう利益がほんとうに得られるのかはっきりしない。だから、グーグルの勢いに押されるようにしていったんは着手したものの、続かなくなったとしても無理はない。
尋常でないのは、明らかにグーグルのほうである。
ストリートビューでもグーグル・アースでもブック検索でも、採算が合うかどうかわからないという点では同じはずだ。ケータイも含めた広告事業を展開する上で、地理情報の充実は強い武器になるにはちがいないが、これらの技術でどう利益をあげるかその具体的な方法はまだはっきりしていないと思われる。それでもどんどん押し進めてしまうところが、グーグルがバカなのかすごいのかわからない桁外れなところだ。まあ超秀才ばかりを集めた会社がバカのはずはないので、資金の圧倒的な余裕と、こうした途方もない事業を進められるだけの自由度(株主のプレッシャーからの自由も含めて)を持ちえているからこそできるのだろう。
●人気ランキングにもとづく検索の危うさ
ストリートビューによってグーグルのすごさをあらためて実感させられたものの、グーグルに対する批判も着実に強まってきている。
グーグルは99パーセント広告収入で、その大半はクリック検索型の広告だ。クリック詐欺が横行しているといった話は前にこの欄で書いたが、グーグルが検索で人為的な操作をして「グーグル八分」をやっているという批判の声も上がっている。吉本敏洋氏の著書『グーグル八分とは何か』はこうしたことに関心のある人には必読の本だ。
さらにグーグルに対する原理的な批判は、グーグルの検索が結局のところ「人気投票」で成り立っているということだろう。グーグルは、他のページからのリンクをそのウェブページへの投票と見てランク付けし、評価の高いウェブページを検索結果の上位に表示している。こうした手法によってグーグルの検索は注目されるようになり、その後ほかの検索にまでこうした手法は広がっていったが、これが唯一絶対のものでないことは明らかだ。ユーザー一人一人が探し求めているものが、「人気投票」方式のランク付けでかならずしも見つかるわけではない。せいぜいが、多くの人が注目しているから見て損はないページである可能性が高いといったことでしかない。一般的ではない興味や関心にもとづいて情報を探している場合は役に立たないこともある。
そのうえ、「正しい情報がほしい」ということになってくると、人気投票方式はいよいよどうなのかということになってくる。
たとえば、検索サイトは、機械翻訳に力を入れている。機械翻訳を使って、他国語の情報まで検索して閲覧できるようになれば、その情報量は格段に多くなる。何語で書かれているページであっても、日本語に翻訳されて同様に検索結果に並ぶといったことが実際に始まっている。こうなると、ネット人口の多いところの見方が検索結果の上位に並ぶ、といったことも起きる。日中で揉めているガス田についての見解はどちらの国が言っていることが正しいのか。あるいはシンクロは日本と中国でどちらが強いのかなどといったことを世界中のウェブページを対象に検索して調べるようになれば、アクティヴなネット人口の多い国の主張が断然有利になる。
こうした例からは、人気ランキングにもとづく検索の危うさを容易に感じとれるが、検索が人気投票にもとづくものであるかぎり、すでにこうしたことは日本語のウェブ内でも起こっていると考えられる。
afterward
グーグルの危うさについて痛烈に批判している本がこのところ相次いで刊行されている。次回以降もしばらくグーグル批判やグーグルを超えようとしている試みを取り上げる。
関連サイト
●グーグル・マップ(http://maps.google.co.jp/maps)のストリートビュー。
●アマゾン傘下のA9.comが05年ごろに公開したストリートビュー。
●マイクロソフトの「ライブ・サーチ・マップ」のストリートレベルのプレビュー(http://preview.local.live.com/)。歩行、レースカー、スポーツカーで街を通ったときのフロント・ガラスと両サイドの窓からの眺めが表示される。
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.547)
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