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2008.09.22

国をあげてグーグルに対抗しようとしているヨーロッパ

グーグルは、知識や文化にとって福音なのか。
災いなのではないかと感じた人もいる。
そうして国家プロジェクトが立ち上がった‥‥
   

●グーグルがヨーロッパにもたらした不安

 フランスの国立図書館長ジャンヌネーが書いた『Googleとの闘い』という本からは、ヨーロッパがグーグルに対して抱いた危機感がはっきりと見てとれる。

  04年12月14日、グーグルが英米の大図書館の本1500万冊を電子化してブック検索の対象にすると知って、ジャンヌネーは強い衝撃を受けた。蓄積され た知識がすべての人々の役に立つという、かつて夢見られたことがついに実現すると興奮すると同時に、不安にも襲われた。
 検索結果はすべて一挙に表示できない以上、順番をつけなければならない。こうしたブック検索によって、本の市場を支配しているアメリカの出版社の本が優位に立ち、文化的支配力がいよいよ強まるのではないか。
 そう感じたというのだ。

 翌年1月24日、ジャンヌネーはルモンド紙に、「グーグルがヨーロッパに挑むとき」と題した記事を寄稿し、フランス語文化を守るために行動を起こすべきだと呼びかけた。
 この記事は私もその時すぐ読んだ。正直なところ、危機感をあおって国立図書館のデジタル化事業に資金を出させようという政治的な意図があるのではないかと疑った。
  グーグルは英語圏の本のデジタル化だけをするわけではない。日本やフランスの本についてもブック検索を始めている。グーグルが、言葉の壁を超えてあらゆる 情報を届けたいと思っていることは確かだろう。だからグーグルにすれば、ジャンヌネーの懸念は大げさで、見当違いのものに思えたはずだ。

 ジャンヌネーがこの本で書いていることに全面的に同意はできないが、とはいえ、それから少し時間が経ったいま、このフランス国立図書館長の言っていることも多少は理解できるような気がしてきた。
  それは前々回少し書いたように、グーグルの検索が、人気ランキング方式にもとづいているという事実があるからだ。グーグルは、ほかのウェブページからのリ ンクを支持投票と見てウェブページの格付けをしている。こうした人気ランキング方式では、検索結果で上位に出るものはいよいよ注目され、その地位がますま す強固なものになる。グーグルだけでなくヤフーも含めて主な検索が採用するようになったこうした方法は、注目を浴びているものをますます注目させる働きを する。

●日本でヨーロッパ的発想が受け入れられない理由

 便利な検索によって埋もれていた情報が発見できるようになった一 方で、一極集中も起きるというのは矛盾しているようだが、ミクロなレベルでは、「ロングテール」と言われるようにたしかにマイナーな情報にアクセスされる ようになる。けれども、たとえば、英語とフランス語の本を全体として比較してみれば、検索してアクセスされる度合いにはかなりの差が生まれ、その差は検索 によって拡大していくだろう。

 「経済力がこうした格差を生むのだから仕方がない」と考えてすますかどうかは考え方しだいである。日本で は、「仕方がない」という考えが強いかもしれないが、フランスは、しばしばそうした考えをとらない。そして、フランスのように頑固に自国文化にこだわると ころがあるからこそ、アメリカの圧倒的パワーにもかかわらず、多言語文化が維持できているというところはあるはずだ。

 ジャンヌネーは、この本の中で、「市場は国民と国家の上にあるのではない。政府も国民も市場を監視しなければならない」というドゴールの言葉を引用し、ヨーロッパの人々はこうした考えに組みしている、と書いている。

  日本ではこのところ、こうしたヨーロッパ流の考えよりも、市場を重視するアメリカの考え方のほうが受け入れられやすい。それは、政府をまったく信用できな くなっているからだろう。政治家や官僚に任せておくよりも、市場にゆだねたほうがまし、と多くの人が思っている。ヨーロッパがどんどん遠くなっているのは そのせいではないか。

●乱立気味の検索プロジェクト

 ヨーロッパでは、国ごとといってもいいほど各国で検索開発プロジェクトが進んでいる。

 前回は セマンティック検索の開発をしているドイツの「テセウス」というプロジェクトをとりあげたが、ドイツは、もともとフランスとともに「クエロ」という計画に 参加するはずだった。クエロは、音声や画像などのマルチメディア検索と多言語情報に重きをおいていた。しかし、ドイツはセマンティック検索に関心を持ち、 また協力を約束したドイツの首相が変わってしまったこともあって、結局、別のプロジェクトを始めた。

 このほかノルウェーは、企業向けの 検索技術を持つファーストが中心になって「iAD」というプロジェクトを立ち上げている。また、その他の国が加わっているプロジェクトもある。さらには EUも、テセウスやクエロを承認する一方で、自身でもマルチメディア検索に重点を置く「ファロス」計画を進めている。ヨーロッパでは、このように乱立気味 にさまざまなプロジェクトが立ち上がっている。

 こうした動きは日本ではあまり伝えられないながら、官僚は動向をつかんでいたようだ。昨年4月にかなり派手に立ち上がった「情報大航海」プロジェクトはこうした流れのなかで生まれたものだ。
  このプロジェクトは、グーグルに対抗する「日の丸」検索をめざしているなどと言われたが、立ち上げた経済産業省の官僚は、そうではないと力説していた。マ ルチメディア検索やリアルタイムの検索に重点をおき、ウェブ検索だけでなく、医療情報や製造業の部品や設計支援ための画像検索、証券取引や企業内の情報処 理の異常検知、ICタグ情報の検索など、日本がもともと強い部分に力を入れると言っていた。グーグルを明確に意識して始まったフランスのプロジェクトなど とは違い、グーグルへの対抗意識を鮮明にはしていない。

●MSのカネで検索開発をしているヨーロッパ?
 
 アメリカは、ヨーロッパのこうしたプロジェクトに冷ややかだ。たとえばアメリカの有名ブログ「テックランチ」は、独禁法違反でマイクロソフトから多額の賠償金をせしめておいて、ヨーロッパはプロジェクトにお金を回している、とイヤミを言っていた。
 グーグルやヤフーを生んだアメリカがこうした国策検索プロジェクトをバカにするのは理解できる。実際のところ、しぼりこんだプランに税金を注ぎこむより、多くの企業に製品を出させて市場の選択にゆだねたほうが、とくにネット技術の開発は効率がいい。
  しかし、アメリカが自由市場にゆだねて開発を押し進めるのが望ましいと考えるのに対し、ヨーロッパは、利益追求をはかる企業を信用せず、一国の文化を左右 しかねないものについては国も関与すべきだと考える。こうした文化的な違いがこれらのプロジェクトにも現われている。一概にどちらがいいとは言えないだろ う。

afterward
 北欧のことを書いた回のネットでの反応などを見ても、日本ではアメリカ流の視点がきわめて深く浸透している。賛成でも反対でも基準はともかくアメリカで、その結果、選択肢が狭くなってしまっているのではないか。

関連サイト
●マルチメディアと多言語に重きをおいた検索技術の開発を行なうフランスの「クエロ」プロジェクト(http://www.quaero.org/)。国と企業がそれぞれ1億ドル近くを拠出する官民共同プロジェクトだ。
●フランス国立図書館長ジャン-ノエル・ジャンヌネー『Googleとの闘い――文化の多様性を守るために』(岩波書店)。上に書いたルモンド紙への寄稿を発展させて本にした。

●「日の丸」検索プロジェクトなどと騒がれた「情報大航海」(http://www.igvpj.jp/)。昨年春から3年間のプロジェクトだが、ネットでも、環境情報のRSS配信だとか、好みの動画を集め次々と再生できる「サグールテレビ」など、いくつかの成果を目にすることができる。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.549)

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