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2008.08.22

高福祉こそが経済競争力を生む――北欧社会の「逆転の発想」

北欧社会は、高福祉・高負担で生活を楽しんでいて、
どうして経済競争力があるんだ? 
そうした謎を解くレポートが昨年末に公開されている。
  

●わかったようでわからない北欧モデル

 暑いときには、涼しそうな国のサイトを覗きたくなる‥‥というわけでもないのだけれど、北欧は、高福祉・高負担の国でありながら、いったいどうやって経済成長をさせているのだろうと、あちこちのサイトにアクセスしてみた。すると、興味深い文書が見つかった。フィンランド経済研究所の「北欧モデル」と題した英文のレポートだ。フィンランドの経済学者たちがまとめたもので、北欧の経済的な強さの秘密と直面している問題について詳説している。
 北欧は、世界経済フォーラムの国際競争力の最新ランキングで、デンマークが3位、スウェーデン4位、フィンランド6位と上位を占め、日本は8位と負けている。1位はアメリカで、「やっぱり」と思うかもしれないが、数年前まではフィンランドが何年も続けて1位だった。北欧は一人あたりのGDPでも日本を上まわり、アメリカと競っている。
 とはいえ、税金は高いし、夏休みは平気で何週間もとるらしいし、労働時間は短く、総じてのんびり暮らしているらしい。何でそんな国が、サービス残業をものともせず長時間労働をしている日本や、激しい競争を繰り広げているアメリカと対等に戦えるのか。北欧をめぐる統計的な数値を知ってはいても、なぜそうなのかまで知っている人は少ないのではないか。
 北欧の強さの秘密は、「グローバリズムを受け入れリスクを共有する」というこのレポートのサブタイトルに集約されているようだ。北欧の国は経済的な規制が少なく、自由貿易を重んじ、総じてオープンだという。小さな国は国を開き貿易で生きていく以外に道がないと思っているからだ。その一方、失業したときに、国は経済的に面倒を見るだけでなく、再教育もしてくれる。
 日本では、社会保障というのは経済力を高めるには役立たず、むしろ働く意欲をなくさせるものだといったアメリカ的な考えが浸透している。ところが、このレポートによれば、高福祉こそが北欧社会の経済的な強さの秘密であるという。なぜなのか。

●グローバリズムに適応しやすい北欧社会

 新興国がどんどん力をつけるグローバル社会で勝ち抜くには、環境の変化に応じて産業構造を柔軟に変えていく必要がある。生産性の低い、つまり儲からない業種にいつまでもこだわっていれば、いくら働いても人も会社も国も豊かにはならない。こうした理屈は誰でもわかるが、実際に改革するとなるとたいへんだ。ひと言で言えば、大量の失業者が出るのもかまわず、弱い産業や部門の労働者をクビにするのはむずかしいからだ。
 日本でも、財政が逼迫し、「公共事業を減らせ」と言われていたが、なかなか進まなかった。建設業は長らく余った労働力を吸収する緩衝役を果たしており、公共事業を一挙に削減して関連企業がつぶれれば大量の失業者が出て社会が混乱する。
 しかし、失業者の生活も再教育も国が面倒を見る体制ができていれば、産業構造の転換をどんどん押し進められる。失業対策費用が一時は増えるものの、短期間で新興分野に労働力を移せれば、ジリ貧の産業を必死に維持するよりも、もっと楽に経済力をつけられる。つまり、このレポートのサブタイトルどおり、「リスクを共有する」体制ができていればグローバリズムは受け入れやすくなるというわけだ。
 北欧社会も90年代前半には経済危機に陥った。けれども、ITにリソースを集約させたことで短期間で立ち直った。携帯電話機メーカー・トップのノキアは、ITによって復活したフィンランドの象徴的な存在だ。
 アメリカ型資本主義の問題を感じている人も、グローバリズムの世のなかアメリカのマネをしないとやっていけないと思いこんでいる。ところがこのレポートは、アメリカとは別のやり方で経済競争力がつくことを教えてくれる。

 そのためには、もうひとつ重要な要素がある。
 北欧は、政治の腐敗が少なく、クリーン度が高い。業界と癒着している政治家が多い国では、果敢な政策は行なえない。ただ「ばらまき」をやっても経済成長するはずはなく、経済成長につながる形で社会保障を充実させる必要がある。
 そうと知ると、「日本では無理かな」と悲観的な気持ちになるが、このレポートには、日本人になじみ深い言葉も並んでいる。
 北欧の国々は、平等志向が強く、だから、再分配を強力にやってもそれほど不満が出ないらしい。平等志向が強いのは、民族的に同一な小国だからで、そのため協調的な行動をとりやすく、互いの信頼感を生み、社会の効率性をもたらしているという。これは、少し前までの日本に大いにあてはまる説明だ。

●日本は北欧型のほうが向いている?
 
 フィンランド人はシャイでもあるそうで、地理的にはずいぶん隔たっているけれど、北欧と日本は似たところが多そうだ。
 アメリカのように自己責任を重視する国では、税金を高くしてリスクを共有するのは無理だろうが、規制緩和に強い反発が起こりワーキングプアや格差が大問題と思う日本は、アメリカよりもむしろ北欧型のほうが向いているのではないか。少し前まで日本は「社会主義国より社会主義的」といわれていた。急に自己責任を強調して規制緩和をばんばん進めるというのはやっぱり無理があるのではないか。
 実際のところ、日本の社会は、いまやあらゆる意味で萎縮しまくっている。収入があっても将来が不安でお金を使わない。起業して失敗すれば、人生終わりだからベンチャーが生まれない。学生のあいだでは、大企業に就職するのが一番というムードも強まっている。少子高齢化が避けがたく進行しているうえに、新興国の成長による物資の奪い合いもあって物価は上がるだろうから、「守り」のムードがちょっとやそっとで変わるとは思えない。けれども、踏みはずせばどうなるかわからないと、多くの人がお金を使わなくなる社会に先行きがないのは明らかだ。
 規制緩和をやれば、経済競争力がつくというのはほんとうだと思うが、セーフティネットをぼろぼろにして中途半端に規制緩和をやったので、反発が起き、あと戻りが始まってしまった。安心を与えるような政策をやりながら規制緩和をしないとうまくいかないというのが小泉・竹中改革の教訓だろう。
 
「社会保障の費用がたりないので、1パーセント消費税をあげます」といったことを少しずつ繰り返し、結局いつのまにか高い消費税になるぐらいだったら、この際10パーセントぐらいバッと上げて、その代わり、「年金はばっちり払います。失業しても生活費の面倒はもちろん見るし、再就職するための勉強や訓練も提供します。グローバリズムに適応するために、産業構造の転換はどんどんやりましょう。教育費も大学までタダにするし、子どもの保育の面倒も見るので、女性も安心して働いてください」とやったほうが元気も出るし、経済的にもプラスなのではないか。欧米に比べて消費税率がかなり低い今なら、こうしたことはまだ可能だろう。1_3

●IMFの予測データにもとづく北欧と日本、アメリカの一人あたりGDP。2013年の時点で、多いほうから、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、アメリカ、日本の順。米ドルの下落ということがあるので、為替換算だとアメリカが北欧より下になるという予測だ。

afterword
 リナックスの開発者トーバルズは、お金を儲けようと思えばいくらもできたのに、そうしたことに執着せず、オープンソースのソフト開発をやって信頼を勝ち得た。こうした性格は、フィンランドの社会環境によっても形作られたのだろう。

関連サイトNordic_model_3
●フィンランド経済研究所のレポート『北欧モデル――グローバリズムを受け入れ、リスクを共有する』(http://www.etla.fi/files/1892_the_nordic_model_complete.pdf)。もちろん、高福祉にすればそれだけで経済成長ができるなどとは書かれていない。北欧社会も高齢化しつつあり、公共部門を民営化するなど効率化が必要などと問題点も指摘されている。しかし、アメリカに追随するしかないと信じこむ前に、政治家や官僚、学者などがじっくり読んで研究すべき報告書だ。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.545)

 

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