« アメリカの検索広告をめぐる戦いは終わった? | トップページ | 困りものの裁判員制度 »

2008.06.06

アメリカ株式資本主義ならではの意外なヤフー騒動予測

マイクロソフトの買収提案で始まったヤフー騒動は、
不思議なことばかりだが、世論動向の変化や、
アメリカ流の独特なものの見方が反映している。

●謎解きゲームのようなヤフー騒動

 マイクロソフトの米ヤフー買収をめぐる騒動は、謎解きゲームのようなところがある。
 メディアはさも当たり前のように次々と起こるできごとを伝えているが、ちょっと考えてみれば、不可解なことばかりだ。
 まずマイクロソフトの対応がよくわからない。
 ヤフー側がサイトで公式に明かしている経緯によれば、マイクロソフトは、交渉中止を発表する前日、一株あたり33ドルの買収価格を新たに2ドル上げる提案をした。それなのに翌日、ヤフーが37ドルでどうだと持ちかけると急に交渉を打ち切った。「もうヤフーとの交渉は終わりだ。別の策を考える」とマイクロソフトの幹部たちは口をそろえてきっぱり言った。
 にもかかわらず、それから2週間ほどしか経っていないのに、ヤフーの株主たちが(当然予想されたことながら)マイクロソフトの買収提案を経営陣に受け入れさせようと株主総会の委任状争奪戦を始めると、マイクロソフトはあっさり交渉再開を宣言した。
 ふらふらした対応をしているのはなぜなのか。

 そしてまた、ヤフーの動きもよくわからない。
 ヤフーは、多額の投資をして新たな検索広告をようやく立ち上げたのに、グーグルと提携して自社の検索にグーグルの広告を載せようとしている。マイクロソフトの買収提案に対抗するためだとしても、それではこれまでの努力が台無しになってしまう。
 あまりにも無謀のように思えるが、なぜそんなことをするのか。

 英語圏のメディアやブログをかなり読んだが、こうした謎について、説得力のある解釈は見あたらなかった。それで、前回前々回の2回にわたって私なりの解釈を提示してみた。
 あらためて簡単にそれをまとめておけば、マイクロソフトは、ヤフー経営陣が買収提案を受け入れる気がないとわかったので、交渉をいったん打ち切り、動揺する株主たちの反応を待とうと考えたのではないかというのが私の推測だった。
 またマイクロソフトが、ヤフーをまるごと買収するの独禁法上認められないのではという懸念を持ち始めたということもありうる。
 グーグルの幹部は公の席で、マイクロソフトとヤフーがひとつになれば、相互乗り入れがむずかしいメッセンジャーについて独占状態が生まれる。独禁法違反で取り締まられた「前科持ち」のマイクロソフトがシェアを握るのは問題だと指摘した。グーグルに言われるまでもなく、マイクロソフトは欧米の独禁法取り締まり当局と争い、すでに多額の制裁金を科されている。新たな火種を抱えるようなことは避けたいと思ったとしても不思議はない。

 米ヤフーがグーグルとの提携を模索している理由は何なのだろうか。
 ヤフーは、新たな検索広告システムを立ち上げたものの期待したほどの収益にはならないと見て、グーグルの広告を載せて収入増を図ったほうが賢明かもしれないと思い始めたのではないかというのが私の推測だった。

 パソコンの前に座ってやった推測で、絶対に正しいと強弁する気はないが、ほかに納得できる説明は思いつかなかったし、こう考えればすべて理解できるのではないか。
 一週間経ってもこの仮説を変える理由は、さしあたり見あたらない。

●グーグル絶賛の時代は終わった

 ただ、先週までよくわからなかったのは、アメリカのアナリストやブロガー、メディアがいまもって、ヤフーはマイクロソフトの申し出を受け入れると予測し続けていることだ。
 米メディアはこのところ繰り返し、「まもなくヤフーはグーグルと提携する」といった情報を伝えている。グーグルの幹部たちも、「ヤフーとの提携について今晩話し合うつもりだ」などと、きわめて具体的なことをイベントで口にしている。
 ヤフーはマイクロソフトとも話し合いはしているようだが、こちらは、提携発表が近いといった情報は漏れてこない。にもかかわらず、わけ知り顔の人びとが有力視しているのは、マイクロソフトとの提携のほうなのだ。

 海の彼方からこうした反応を見ていると、かなり異様な感じがする。しかし、その背景には、第一にグーグルをめぐる世論の変化があるように思われる。これまですぐれた技術によって賞賛を集めてきたグーグルに対する警戒感が強まっているのだ。
 日本では一般に、大きな企業は信頼され尊敬もされる。
 ところがアメリカではかならずしもそうではない。大きくなって独占的な存在になっていけばいくほど警戒感も高まっていく。これまでそのように警戒され懸念される代表的企業がマイクロソフトだった。けれども、グーグルもそうした対象になってきたようだ。
 検索企業の競争がなくなって広告単価が上がることを心配する広告主の思惑もあわさって、グーグルの対抗勢力ができるのは好ましいというムードになっている。こうした期待感が、マイクロソフトとの提携の可能性を実際より大きく感じさせているのではないか。

●アメリカ株式資本主義が形作る独特の世論

 ヤフーがマイクロソフトの申し出を受け入れることになるという見方には、ムード的なものばかりでなく、もっとリアリスティックな理由もあると思われる。
 マイクロソフトは、米ヤフーに対して、検索事業(あるいは検索広告事業)の買収と、米ヤフーが持っているヤフー・ジャパンや中国のネット企業アリババ株の買収を提案していると伝えられている。しかし、検索広告やこれらの企業は、米ヤフーの収益に貢献している。売却すれば、いったんはお金になるものの、それで終わりである。
 それに対し、グーグルと提携し、検索横のスペースにクリック単価の高いグーグルの広告を載せれば、ヤフーはずっと収入を得られる。独禁法上認められるかどうかという問題はあるにしても、認められればこのほうがメリットは大きいように思う。

 ところが、目先の利益を求める株主にとっては話が違う。
 マイクロソフトの買収に応じて資金ができれば、株主に還元することにも使われる。ずっと早く株主たちの儲けになる。
 だから、「グーグルとの提携発表が近い」というインサイダー情報にもかかわらず、マイクロソフトとの提携説が有力視されているように思われる。

 日本では、「目先の利益を得れば、会社があとはどうなってもかまわない」などという発想はありえない。しかし、四半期ごとの利益を重視するアメリカ株式資本主義では、「将来的に会社がどうなろうと、とりあえず目先の利益を」という発想が、それほど疑問視されていないようだ。
 こうした発想が前提になって、ヤフー、グーグル、マイクロソフトの三角関係が読み解かれているように思う。

 冷徹無比のアメリカ株式資本主義は、ウェブ最古の有力企業のひとつを事実上葬り去ってしまうような振る舞いをほんとうにするだろうか。
 その結論はもうまもなく出る。

afterwards
「マイクロソフトの米ヤフー検索事業の買収は、グーグルの対抗勢力ができてネットにとってプラス」という考えは誤りだと思う。1強2弱が1強1弱になって、グーグルが有利になるだけだからだ。ネットにとってプラスなのはヤフーが独立を保つことだろう。

関連サイト
●ヤフー騒動について、さまざまな観測が飛び交っているさなか、米マイクロソフトは、おもしろい検索サービスを始めた。利用者がこの検索を使ってECサイトなどにアクセスし購入すれば、キャッシュバックしてもらえるのだそうだ(http://search.live.com/cashback/)。これについては、いずれこちらのブログ連載で取り上げる。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.535)

« アメリカの検索広告をめぐる戦いは終わった? | トップページ | 困りものの裁判員制度 »

マイクロソフトの米Yahoo!買収」カテゴリの記事

2014年8月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31