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2008.05.02

ネット企業の名誉毀損対策――ミクシィと「はてな」

ネット企業は、情報を削除すれば発信者に訴えられ、
削除しなくても、名誉毀損などで被害者に訴えられる。
板挟みの状態だが、どう対応しているのだろうか。

●板挟みのネット企業

 新聞は、一般に表現の自由の問題には敏感に反応するが、ゴシップやスキャンダルを書きたてる週刊誌や夕刊紙の名誉毀損訴訟には冷たいことも多い。
 ゴシップやスキャンダルは、読むほうはもともと話半分ぐらいのつもりで読んでいる。そうした記事が裁判で事実ではないということになっても、週刊誌や夕刊紙の致命的なダメージにはなりにくい。
 その一方、信頼度が高いと思われているメディアほど、裁判で負ければ、賠償額以上のデメリットになる。だから日刊紙などは、名誉毀損訴訟を頻発させるメディアに冷たい。

 いずれにしても、あやふやなことを書かなければいいだけではないかと思うかもしれないが、前回書いたように、名誉毀損になるかどうかは、裁判官の感性ひとつにかかっているところもある。
 マスメディアの報道では、独自取材をした記事が訴訟のリスクにさらされるのに対し、警察発表などに頼っていれば心配はない。裁判結果がどっちに転ぶかわからないとなれば、リスクのある報道はためらいがちになる。
 メディアの安易な報道姿勢が批判されるが、法律も裁判所の判決も、調査報道の衰退と公式発表頼りの報道を促している。司法のあり方はメディア状況を方向づけてしまう。

 CGM(消費者が作るメディア)を運営しているネット企業もまた、名誉毀損などの問題について板挟みの状態にある。
 権利を侵害する情報を放置した場合、被害者から賠償請求される可能性がある一方で、勝手に情報を削除すれば、発信者から賠償請求される恐れもある。
 02年に施行されたプロバイダー責任制限法と通称される法律は、プロバイダーの板挟み状態を解消しようとして作られた。プロバイダーの賠償責任と発信者情報の開示の要件を定めている。
  この法律によって、プロバイダーやBBSの運営者などは、他人の権利が侵害されていると信じるにたりる理由があるか、削除の申し出があったことを情報発信 者に連絡して7日以内に反論がないときには情報を削除できることになった。また、他人の権利が侵害されていることを知りながら放置したのでなければ責任を 問われなくもなった。

 しかし、捜査権があるわけではないから、他人の権利が侵害されているかどうかを調べるのは難しい。
 この法律については、総務省による「逐条解説」に加えて関連団体による「ガイドライン」まで作られているが、曖昧な点はやはり曖昧なままで、結局は、裁判所の判断しだいである。
 プロバイダ責任制限法は、明確な規範を示しているというよりも、「とりあえずこのへんがまあ常識的な線ではないですか」といった感じの法律になっている。

●ミクシィの規約
 
 困りながらも各プロバイダーは、この法律よりもう一歩踏みこんだ規約を作っている。

  ミクシィは、利用規約の14条で、「弊社もしくは他者の財産、プライバシーもしくは肖像権を侵害する行為または侵害する恐れのある行為」について、「強制 退会、利用停止、日記等の情報の全部もしくは一部の削除、または公開範囲の変更等の不利益な措置を採ることがあります」と書き、さらに20条では、「弊社 の削除権限」として、

(1) 人の裸体を撮影・描写した日記等の情報が投稿されたとき。
(2) 公的な機関または専門家から、違法、公序良俗違反または他人の権利を侵害するなどの指摘や意見表明があったとき。
(3) 権利者と称する者から、日記等の情報が自分の権利を侵害する旨の申告があったとき。

 これらの場合は、

「日記等の情報の違法性・規約違反の有無に関わらず、関連する日記等の情報について、その全部もしくは一部の削除または公開範囲の変更などの不利益な措置を行なうことができる」

としている。

 「情報の違法性・規約違反の有無に関わらず」というのだから、かなりあっさり削除できるルールだが、(3)については、

「ただし、権利者と称する者から、権利者であることを合理的に判断できる資料を提示され、弊社にて慎重に検討した結果、権利者であると弊社が判断した場合に限る」

となっているのに対し、(2)の「公的な機関または専門家」には、国や地方の公共団体などのほか弁護士も含まれるという。
 第三者的な判断をしているはずの公共的な団体とは違い、弁護士は削除を求める側の代弁者にすぎない。
 (3)の本人からのクレームには対応が抑制気味なのに、顧問弁護士のいる大手企業などからのクレームには機敏に対処するというのでは、個人の利用者より企業対応を考えていると思われても仕方がないのではないか。

●はてなの情報削除ガイドライン

 結局、ミクシィは友だち作りのコミニティ・サイトであって、グレイ・ゾーンの表現が飛び交うような場所ではないということなのだろうが、もっと「硬派」な対応を表明しているところもある。
「はてな」は「情報削除ガイドライン」で、「企業その他の法人」に対する名誉毀損について、「原則的に別に定める発信者への照会手続きを経て対処を行なう」とまず書いているが、次のような文章も付け加えている。

「企業の営業秘密情報であり、当該企業やその顧客に経済的に多大な損失を被らせる切迫した危険がある場合は、例外的に削除を行なう」。

 法人についてはかなり限定的にしか削除しないというわけだ。それは、この文章の上に書かれている次の3つのことからだろう。

  1. 法人はほとんどの場合、公的存在である。
  2. 表現行為が公共の利害に関する事実にかかわり、もっぱらかどうかは別としても、それなりに公益を図る目的でなされたと評価できる。
  3. 表現が法人の社会的評価を低下させても、そこで摘示された事実の真偽についてははてなによる判断ができない場合が多い。

 つまり、公的存在である企業に関する表現は、公共性や公益性があり、自分たちでは真偽の判断ができないから限定的にしか削除しないと言っているわけだ。

 もちろん削除しなければ訴えられる可能性がある。
 とくに企業は、個人よりもお金や人員の融通がつき、訴訟を起こしやすい。また、賠償金額も大きくなる可能性が高い。
 そうしたことから、はてなとは逆に、個人からのクレームはなかなか受けつけないが、企業から文句を言われるとあっさり削除してしまうところもある。そうしたなかで、はてなの基準は興味深い。

 はてなはその一方で、

「民族・人種差別にあたる情報は原則として削除を行なう」

とも書いている。
 2ちゃんねるなどのCGMでは民族・人種差別的表現があふれかえっているが、そうした行為には、毅然とした態度をとることを表明しているわけだ。
 欧米ではこうした規定はいかにもありそうだが、日本では珍しいのではないか。

 はてなは本社を京都に戻したが、海外進出の夢は持ち続けているようだ。世界企業になるためには、たしかにこうしたルールは必要なのだろう。

afterword
 何気なく読んでしまうことの多い利用規約だが、読み比べてみると、微妙ながらも、けっこう大きな違いがあっておもしろい。

関連サイト
●『mixi』利用規約(http://mixi.jp/rules.pl)。mixiの利用規約は、最近、著作権の扱いの変更で物議をかもしたが、上に書いたように、第三者である公共団体とまったく同じ位置づけで、当事者の代理人である弁護士からのクレームも、あっさり削除する可能性を表明しているのは首をかしげたくなる。
●『はてな』の利用規約(http://www.hatena.ne.jp/rule/)。「はてな」は、利用規約のほかに、削除に関して、「情報削除ガイドライン」「はてな情報削除の流れ」「はてな情報削除関連事例」と3つも文書を作成している。削除の問題を重視していることがわかる。
 これらの文書を通してみると、法知識のある人間によって全体にかなり高度な対応がなされていることが感じられる。
●プロバイダ責任制限法関連情報ウェブサイト(http://www.isplaw.jp/)。プロバイダ責任制限法対応事業者協議会が法規や解説、ガイドラインなどを集めて提供している。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.531)

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