ヤフーの恫喝によって買収をあきらめたというマイクロソフト
マイクロソフトは無理強いすれば、
ヤフーが自滅行為をしかねないので、
買収をあきらめたという。
しかし、買収中止は「新たな作戦」という見方も消えない。
●ヤフー買収に代わる画期的な案があるとは思えない
マイクロソフトは、米ヤフーの買収をやめた、のだそうだ。そのニュースを聞いてまず思ったのは、「信じられない」ということだ。
マイクロソフトとグーグルはもはや相手をたたきつぶさなければ生き残れないといわんばかりの激しい戦いに突入している。グーグルは、マイクロソフトのドル
箱のワープロや表計算、プレゼン・ソフトなどをネットを通してタダで提供し始めている。マイクロソフトがグーグルの攻勢をとめるには、グーグルを出し抜く
しかない。
だからマイクロソフトは、グーグルの成長を支えてきた検索に多額の資金を投じてきた。しかし独力では、短時間のうちにグーグルに追いつくことがむずかしいこともはっきりしてきた。
グーグルに追いつく足がかりになりうるのはヤフー買収ぐらいのものだ。
ヤフーの創立者でCEOのジェリー・ヤンが買収に対して示した拒否反応は、マイクロソフトの予想を超えてはいたが、ヤフー買収をあっさりあきらめることは考えにくい。敵対的買収に踏み切るなどの強攻策に打って出るものと思っていた。
それが、あっさり「やめた」というのだから”信じられない”わけだ。
●タヌキの化かし合い?
でも考えてみれば、「買収はやめた」というのは、かなりうまい手かもしれない。
強攻策に打って出ても、ヤフーを傘下におさめるには時間がかかる。その間に、グーグルに追いつくために必要な人材が流出してしまう。
やたらに無理強いするよりも、ヤフー経営陣に、マイクロソフトに買収される以外に道がないことを納得してもらい、自分たちから率先して傘下に入ってくれる
ことこそが望ましい。そんなうまい手はなかなかありそうにないが、買収はもうやめたととりあえず言ってみる、というのは、そうしたことを達成できる数少な
い手段かもしれない。
マイクロソフトが買収をやめれば、ヤフーの株価は下がる。ヤフーの株主からはすでに、買収をいやがる経営陣にたい
する批判の声が高まっている。株価がもとのように下がれば、反発はこれまで以上のものになる。マイクロソフトがヤフーの株主に働きかけなくても、彼らのほ
うから、マイクロソフトの買収を承諾するよう経営幹部に圧力をかけてくれればいうことはない。
昨年のヤフーの株主総会でも、株価を上昇
させることができない経営陣に対する反発は強く、総会終了後、当時のCEOのテリー・セメルは辞任せざるをえなかった。こうした経緯からも、ヤフー経営陣
が株主の反発に抗しきれないことははっきりしている。株主の猛反発に直面したヤフー経営陣が困って助けを求めてきたときに、「パクッ」と食べてしま
う‥‥。
交渉ごとだから、「ほしい、ほしい」と言えば価格は上がっていく。「いらないよ」と言えば、あわてて「じゃあいいよ、その値段で」ということになりがち、というのは、量販店での買い物でも会社を買うのでも同じことだろう。この際、ごり押ししてもトクはない。
まあ、マイクロソフト幹部たちの「ヤフー買収はやめ」という発言がすべて演技だという証拠はないが、こうしたことを思ったのは私だけではない。「ヤフー買
収はやめ」という発表を受けていったんは下がった株価が、また上がり始めた。ほんとうにこれで終わりなのかと疑っているトレーダーたちが多いわけだ。
もちろん、ほんとうに買収をやめたのだと市場が確信すれば、株価はまた下がるだろう。
「買
収やめ」が作戦だとしたら、ヤフーの株主や経営陣が動揺してくれなければ意味がない。マイクロソフトは、真意を疑(うたぐ)られ、いつまでもヤフーの株価
が下がらないのは困るはずだ。ビル・ゲイツ始めマイクロソフト幹部がそろって「ヤフー買収はやめた」と言い続けていることも、そう考えれば不思議ではな
い。
ヤフーは、様子を見ようと先延ばししていたのか、マイクロソフトの買収とりやめの発表後の5月5日になって、昨年よりもずっと遅い
7月3日に株主総会を開くことを発表した(追記・その後、7月下旬に再延期された)。この株主総会、さらにそのあとのヤフーの動きまで見てみないと、ほん
とうにヤフー買収がなくなったのかどうかはわからない。
●「無理強いしたら自爆しちゃいますよ」?
「買収をやめた」と言ってみる、というのはマイクロソフトのうまい手なのではないかと書いた。しかし、買収をやめるにあたってマイクロソフトが公
開したCEOのスティーヴ・バルマーのヤン宛の手紙を読むと、打てる手があるとしたらじつはこういう奇策しかもはやなかった、ということでもあるようだ。
手紙には、こう書かれている。
私たちマイクロソフトが敵対的買収の行動を起こしたら、あなたたちヤフーは、主要な検索連動広告をグーグルにアウトソーシング(外注)してしまうだろうと
いうことが交渉しているあいだにはっきりとわかった。そんなことをされたら、ヤフーの広告ビジネスはメチャクチャになってしまい、買収する意味がなくなっ
てしまう。
そう困惑している。
グーグルに対抗するためにヤフーを買収しようとしているのに、グーグルと提携するなんて、マイ
クロソフトにすれば、とんでもない話しだ。それにヤフーは、グーグルに追いつくために新たな検索広告を開発し、売り上げを増やせると意気ごんでいたはず
だ。それなのにグーグルに外注するというのは、
「ヤフーさん、あなたたちは、『無理強いしたら自爆しちゃいますよ』というわけなんですね」
とマイクロソフトはうんざりして買収をやめることにしたというのだ。
バルマーの手紙は、こうした禍禍(まがまが)しい内容が、きわめて礼儀正しく、また落ち着いた語り口で綴られている。
「ビジネス書簡文学賞」みたいなものがあれば、ぜひ受賞させてあげたいような手紙だが、ヤフー経営陣が合理的な判断をできなくなっているということをヤフーの株主たちに訴えたくて、この手紙をわざわざ公開したのだろう。
ヤンのほうは、マイクロソフトからこうした手紙を送りつけられた今になっても、「マイクロソフトとの交渉を再開する用意がある」とまだ言っている。
とはいえヤフーは、4月に2週間ほどグーグルの広告を使うという、マイクロソフトへの嫌がらせとしか思えない試験的外注をやっている。株の価値を高めるた
めのさまざまな試みのひとつだとヤフーは言うが、マイクロソフトはカチンときたし、たんなる脅し以上のものとも感じたようだ。
ヤフーと
グーグルは、まもなく本格的な提携を発表すると報じている海外メディアもある。グーグルのCEOは、とりあえずいますぐそうした発表は予定していないと否
定したようだが、ヤフー経営陣が、予想される株価暴落に対処し、株主たちの不満を解消するためには、マイクロソフトとの交渉を再開するか、そうでなけれ
ば、このような衝撃的な発表をするしかない。グーグルとの提携はできるのか。可能だとしても、ほんとうにヤフーの自殺行為になるのか。次回はそれについて
考えてみたい。
関連サイト
●ここ1か月の米ヤフーの株価(http://finance.yahoo.com/charts?s=YHOO#chart1:symbol=yhoo;range=1m;indicator=volume;charttype=line;crosshair=on;ohlcvalues=0;logscale=on;source=undefined)。
●マイクロソフトのプレス・ページには、メディア・サイトばりにヤフー買収特集コーナーができている(http://www.microsoft.com/presspass/presskits/msft-yahoo/default.mspx)。ヤフー買収をやめるという5月3日のリリースと一緒に、CEOのスティーヴ・バルマーのヤフーCEOジェリー・ヤン宛ての手紙も公開している(http://www.microsoft.com/presspass/press/2008/may08/05-03letter.mspx)。
●マイクロソフトによる買収中止の発表後、ヤフーは、株主総会の日を告知した(http://yhoo.client.shareholder.com/releasedetail.cfm?ReleaseID=308431)。株主たちの不満をどうやって解消するのだろう?
ブログ版afterword
「マイクロソフトが買収をやめたというのはとても信じられない。やめたと言ってヤフー株主の動きを待つつもりではないか」と書いたが、ほんとうにそんなふうにも見える事態が進行している。それにしても早い展開だ。
ヤフーとグーグルの提携発表がまもないという観測をグーグルのCEOは否定したようだとも書いたが、それから時間が経って、それについてもいまや、グーグ
ルとの提携、マイクロソフトとの提携、どちらの発表が(あるいはどちらも(!?))あっても不思議はない情勢のようだ。
次号の原稿は、ここに載せる前に、事態のほうが進行している恐れが大だ。
というわけで、火曜日発売の週刊アスキーを買って読んでください。(^_^)
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.533)
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