« ヤフーの恫喝によって買収をあきらめたというマイクロソフト | トップページ | アメリカ株式資本主義ならではの意外なヤフー騒動予測 »

2008.05.30

アメリカの検索広告をめぐる戦いは終わった?

株主から取締役一新も求められ、
追いつめられた米ヤフーは、
グーグルとの提携をもくろんでいるようだ。
自殺行為とも言われるそんな行動に打って出る可能性は?

●結局トクをしたグーグル

 マイクロソフトによるヤフー買収提案が明らかになったとき、強硬な買収をすればトクをするのはグーグルだと書いた。
 ヤフーとマイクロソフトがそれぞれ別個に頑張っているから両社の検索シェアはあわせて3割になる。マイクロソフトとヤフーがひとつになれば、1強2弱の検索の世界が1強1弱に変わる。トクをするのは、何もしないで最強のライバルのヤフーが消えてしまうグーグルだ。どうしてマイクロソフトがそう考えないのか不思議だった。

 結局マイクロソフトは、自分たちが敵対的買収を仕掛けたら、ヤフーが検索広告の一部をグーグルにアウトソーシングし検索ビジネスをメチャクチャにしてしまうことがわかったから買収をやめると発表した。
 しかし、ここまでくるともはや単純な後戻りはありえないようだ。
 著名な投資家のヤフーの株主が、取締役を一新してマイクロソフトとの再交渉をめざすということで委任状争奪戦を始めた。かと思えば、それを見たマイクロソフトが、こんどはヤフーまるごとの買収ではない形でヤフーとの交渉を再開するという。

 ヤフーはグーグルに追いつこうと「パナマ」と名づけた検索広告の技術を開発し、ようやく収益につなげるところまできた。それなのに、検索広告をグーグルに投げてしまったのでは、これまでの投資がすべて無駄になる。
 当事者以外の人間には、これまでの技術開発を無にし、社内の志気にもかかわるような振る舞いを、まさかヤフーがするとは思えなかった。

 それに、検索広告のシェア6割のグーグルと2割のヤフーがひとつになることは、独禁法上も認められないと思われる。だから、グーグルとの提携は現実味のない話に感じられた。

 そうしたムードを少し変えたのは、シティ・グループのアナリスト、マーク・マハネイのレポートだ。
 検索広告は、クリックされるたびに広告費が発生する仕組みだが、クリック単価はグーグルのほうがヤフーより高い。そのため自社の広告よりもグーグルの広告を使ったほうがヤフーの儲けは大きくなる。グーグルの広告を使えば、ヤフーのキャッシュ・フローは25パーセント増えるというレポートを、買収提案が発表された2月始めにこのアナリストは出した。
 実際、それから2か月してヤフーは、マイクロソフトを牽制するかのように、3パーセント以下のキーワードの検索にグーグルの広告を表示するという試験的な試みを2週間限定でやった。このレポートが可能性を示した方向に一歩踏み出したわけだ。

 こうした動きを横目にこのアナリストも、ヤフーが検索広告を完全にグーグルにまかせれば、07年のキャッシュフローの50パーセントにあたる10億ドル以上の儲けになると予想額をさらに上昇させた。16億ドルの検索広告の売り上げが27億ドルになるというのだから、かなりの増収だ。
 こうした数字が知られ、ヤフーは「試験的に」と言いつつ実際に提携を始め、しかもこの試みは成功したというのだから、マイクロソフトとしても無視できない。
 「グーグル効果」があやふやならば、ヤフーの嫌がらせとも見える試みを、マイクロソフトは「子どもっぽい」とせせら笑って敵対的買収に突き進むこともできただろう。しかし、検索広告のグーグルへの丸投げは、ヤフーの自殺行為になるどころか、少なくとも短期的には大幅な収益の改善になるというのだから、笑いごとではすまない。

 マイクロソフトはこうした成りゆきになるのを避けるために買収をやめたはずだった。それがここへきてあらためてヤフーに提携を申しこんだのは、このままほうっておけば、ほんとうにヤフーがグーグルと提携してしまうことがいよいよはっきりしてきたからだろう。

●これでグーグルと提携しやすくなった?

 グーグルとの提携を独禁法取り締まり当局が認めるかどうかだが、これについては、検索広告の将来をどう見るかにもよるのではないか。

 現在のところ検索広告は、4割を占めるアメリカのネット広告最大の市場である。ヤフーがグーグルに外注すれば、グーグルのシェアは高まる。取り締まり当局が認めない可能性は高い。
 しかし、検索広告の戦いは、事実上もはやグーグルの勝利で終わっており、ヤフーは、グーグルと提携することで効率化し、ほかの得意分野に集中することにした、ということであれば、それはひとつの経営判断で、少し話が変わってくるのではないか。

 マイクロソフトは再開した交渉で、ヤフーの検索事業の買収をねらっていると伝えられている。これはヤフーにとってメリットがない提案で、株主も賛成しないように思う。実現見こみのなさそうなことを、マイクロソフトはなぜ提案したのか。
 それは、ヤフーが自社の検索広告をあきらめつつあると感じているからだろう。そもそもヤフーがこれまでの検索広告の努力を無にしかねないグーグルとの提携を模索し始めたのも、自社独自の検索広告を放棄することを選択肢のひとつとして考え始めたからではないか。

●マイクロソフトの試みは裏目に出つつある?

 ネット広告全体のゆくえを考えると、ヤフーがそう考えるのは、かならずしも不思議ではない。
 ネット広告市場における検索広告のシェアは少しずつ落ちていき、かわって動画広告まで含めた広い意味でのディスプレイ広告が伸びていくと見られている。長らくメディア最大の広告収入を確保してきたテレビ広告費がネット広告に流れこめば、こうした動きは一気に加速される。

 現在こそ検索広告はおいしい分野と見られ、激しい戦いが繰り広げられているが、地味なテキスト中心の検索広告全盛の時代がずっと続くわけはない。となれば、いつまでも検索広告に無理な投資を続けて収益を悪化させるよりも、次の有望分野での戦いに精力を傾けたほうがいいかもしれない。つまり、グーグルとの提携は、自殺行為であるどころか、真っ当な経営判断の可能性もあるのだ。
 取り締まり当局がもしそう考えれば、グーグルの検索広告との(少なくとも部分的な)提携は認める可能性があるのではないか。

 マイクロソフトから提携を申しこまれたヤフーは、かえってグーグルと提携しやすくなったようにも思う。
 いまやヤフーは両方の会社と提携するというウルトラC級の手だってないわけではない。
 ヤフーが最近打ち出している「オープン戦略」の一環として、「広告に関してもうちはオープンで、いろいろなところの広告を載せるんです」といって、両方の広告を載せてしまう。
 広告の数が多くなりすぎるようであれば、クリック効率のいい広告(つまり事実上はグーグルの広告)から順に掲載すればいい。
 独禁法取り締まり当局とバトルしなければならないにしても、グーグルと単独で提携するのに比べればずっと戦いやすくなるはずだ。
 マイクロソフトはこのように「裏目に出る」事態は考えたのだろうか。

afterwards
 この原稿を書いている時点でヤフーは、マイクロソフトとグーグルのどちらと提携することもありうる。虚々実々の交渉のゆくえはわからないが、米メディアでは、マイクロソフトと提携するという見方が強いようだ。私にはどうもそうは思えないのだが。

関連サイト
●マイクロソフトとの買収交渉再開をめざして株主の委任状争奪戦を始めた投資家カール・アイカーンに対して、われわれは株主価値を最大化しようとしてきたのだがあなたは誤解していると、取締役会会長がこれまでの経緯を説明した手紙をヤフーはサイトで公開した(http://yhoo.client.shareholder.com/press/releasedetail.cfm?ReleaseID=310754)。
●3日後の18日(日曜日!)、マイクロソフトは、ヤフーに提携を申しこんだことを発表した(http://www.microsoft.com/presspass/press/2008/may08/05-18statement.mspx)。
●マイクロソフトのヤフー買収提案に関してCitiのインターネット・アナリストMark Mahaneyの発言が注目された。ヤフーは検索広告についてグーグルと提携すれば収益が大幅に改善されるという。日本語で読めるサイトでは、TechCrunchが伝えていた。たとえばこの記事(
http://jp.techcrunch.com/archives/20080428interview-with-citi-analyst-mark-mahaney-on-yahoomicrosoftgoogle/)。

●検索広告から広義のディスプレイ広告に広告市場の重点が移っていくかもしれないという予測については、このエントリで触れた

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.534)

« ヤフーの恫喝によって買収をあきらめたというマイクロソフト | トップページ | アメリカ株式資本主義ならではの意外なヤフー騒動予測 »

マイクロソフトの米Yahoo!買収」カテゴリの記事

2014年8月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31