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2008.04.04

世界最大の企業と監視団体の不思議な関係

西友を完全子会社化し、
日本で最終戦争に臨んでいる世界最大の企業には、
厳しい目が向けられているが、
監視団体はそうした企業をなま暖かく見守っている。

●厳しい目を向けられるウォルマート
 

 アメリカ最大の小売りで世界最大の企業であるウォルマートの巨大さは並大抵のものではない。
 06年度の売り上げは3450億ドル、06年あたりのレートで日本円にすると約40兆円。
 ギリシアとかオーストリア、ポーランドの06年のGDPより多く、世界25位のGDPに相当する。
 企業の経済規模というより、もはやかなり大きな国家のレベルだ。
 毎週1億7600万人が、日本の西友も含めた世界14か国のウォルマート帝国傘下の店舗で買い物をしている。

 これだけ大きいから、その影響力も尋常ではない。
 進出した地域の小売りに甚大なダメージをあたえることもあるし、雇用動向も左右する。そうしたことが広く知られるにつれ、進出先では反対運動も起こる。また、コストダウンをはかるために劣悪な労働環境になっていると疑惑の目も向けられる。
 こうなってくれば、経営にも悪い影響が出てくるのは避けられない。ドイツでは、ウォルマートの低価格販売は健全な競争を阻害するとの判決が出て、撤退するに到っている。
 
 こうした逆風をうけてウォルマートは、イメージアップを図ろうと躍起になっている。
 昨年9月には、19年間にわたって掲げてきて広く浸透もした「いつも低価格」のスローガンを、「お金を倹約してよりよい生活をおくろう(Save money. Live better.)」に変えた。安いだけでは満足できなくなってきた消費者の好みの変化にあわせたというわけだ。

 ウォルマートは一昨年、PR会社のエデルマンを使って、やらせブログをやったということで猛反発を受けた。
 ウォルマートの駐車場で休みながらキャンピングカーでアメリカを横断するカップルが、店員との暖かい交流をブログでつづった。じつは悪評に反撃するためのウォルマートの広報戦略の一環で、エデルマンの依頼を受けたプロのカメラマンのしわざだったことがわかり、激しいバッシングにあった。
 「やらせブログ」であったこともさることながら、ただでさえ反発を買っているウォルマートがらみの話だったことも、反発に輪をかけたにちがいない。

●次々と立ち上がった監視サイト
 
 このブログ事件が起こる前年から、ウォルマート監視グループが、労働組合や環境団体などの資金援助を受けて次々とサイトを立ち上げている。ウォルマートにおける従業員の待遇や、地域経済への影響、環境に対する配慮などに厳しい目を向け、ウォルマートに対して圧力をかけていた。

 これらの監視団体の発想で興味深いのは、ウォルマートは図体が大きいぶんだけ悪影響も大きいが、そのわずかの態度の変化によって世の中をよくすることもできると考えている点だ。
 ウォルマートは、メーカーや納入業者に、よくも悪くも圧力をかけることができる。たとえば、ウォルマートが納入業者に対して、これこれの環境基準を守っている会社、あるいは従業員にこれこれの条件を保証した会社でないと商品を受けつけないといったルールを作れば、ウォルマートに納入したいメーカーや生産者などはそれを守らざるをえない。国や地方自治体の規則がどうあれ、それよりレベルの高い環境や労働についての基準ができあがる。

●監視団体は対立関係にありながら貢献もしている?
 
 こうしたカラクリを、ウォルマート監視団体ははっきりと意識して行動している。
 たとえば、ウォルマート・ウォッチという団体は、「05年の春、世界最大の小売りであるウォルマートを善良な雇用者にして隣人、企業市民にするために全国レベルでの公共的な教育キャンペーンを始めた」とのことで、その使命についてこう述べている。

 「われわれは現在までに、そのビジネスの実践にさいして、ウォルマートが幅広い問題に配慮するよう仕向けることに驚くほどの成功をおさめた。ウォルマートは、従業員の健康を守らず、納税者が支えている公共サービスに頼らざるをえなくさせていることを認めた。また、もっと環境にやさしいビジネスへ向かう長い道程の将来有望な最初の一歩を踏み出した。われわれは、ウォルマートが変化の必要性を認めた以上、真摯な態度をとることを望み、またわれわれも引き続きウォルマートを前進させていく」。

  一定の成果が出ていることを、誇らしげに謳い上げこう述べる。

「ウォルマートは、その大きさや影響力、何百万の労働者の暮らしや何十億の消費者の求めに対する責任ということから、われわれの世界で独特の地位を占めている。このような圧倒的な影響力によって、ウォルマートには一定の道徳的な責任が生まれている」。

 ウォルマートと対立関係にあると同時に、ウォルマートをよりよい企業にしていこうとしているという意味では、これらの団体は、ウォルマートと利害をともにしているともいえる。とりあえずは対立関係にあるはずだけど、単純につぶれてしまえばいいと思っているわけではないのだ。
 
 ウォルマートとしても、企業として追い求める利益を手に入れるためには、経済から環境の問題にいたるまで地域や共同体に幅広い貢献をし、評判をよくしなければならない。
 ほかの企業との競争もあるので、ウォルマートとしてもできることに限界はあるだろうが、圧倒的なナンバーワン企業だからこそできることがあるはず、というのが監視団体の立場なわけだ。

 ウォルマートのほうも、こうしたサイトに対抗して、「ウォルマート・ファクツ・コム」というサイトを立ち上げている。
 ウォルマートの安売りのおかげで、06年にはひとりあたり957ドル、一世帯あたりにすると2500ドル(日本円で約29万円)が節約できたという。さらにウォルマートの従業員の92パーセントは何らかの医療保険に入っていて、50パーセントは会社の保険に入っているだとか、フルタイムの従業員は時給10・83ドルで地域の平均より高く、07年には128億ドルの税金を払い、2億4500万ドル以上の寄付をしているという。そして、慈善事業関係の新聞で、アメリカ最大の寄付をしている企業と認められているとも反駁している。

●資本主義経済が自律的に健全な社会を生んでいく?

 監視組織がきちんと機能し、圧力が強く働けば、労働条件にしても環境問題にしても、国の定めた基準以上のルールが広がっていく。そうなれば、国の規制は、いい意味で形骸化していく。つまり、国の存在を不要にしないまでも、その仕事をどんどん軽くしていくことさえ可能かもしれない。
 もちろん、こうしたことを言うのは、まだあまりに先走りすぎだろう。しかし、ウォルマートを監視している団体が発足から2年しか経っていない段階で、「驚くほどの成果をおさめた」と高々とサイトで宣言しているのを見ると、少しばかりの希望も感じられる。

afterword
 ウォルマートをめぐる批判派とのやりとりは、いまや情報戦の様相を呈してきた。ウォルマートも、ブログを使ってみたり、高級誌に派手な広告を出したりと、さまざまな戦略を試している。

●ウォルマート監視サイト『ウェイクアップ・ウォルマート』(http://www.wakeupwalmart.com/)と『ウォルマート・ウォッチ』(http://walmartwatch.com/)。前者は食品関係、後者は医療を中心としたいずれも大きな労働組合がバックにいる。
●米ウィキペディアにも、Criticism of Walmartというウォルマート批判の動きだけをまとめたかなり長文の項目ができている(http://en.wikipedia.org/wiki/Criticism_of_Walmart)。
●高まるウォルマート批判の声に抗して、ウォルマートも情報発信している。これはウォルマートが、いかに環境や福祉、地域経済に気を配っているかを広報しているサイト『ウォルマート・ファクツ・コム』(http://www.walmartfacts.com/)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.527)

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