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2008.03.28

情報技術が超大型スーパーにもたらしたもの

日本進出を試み続ける世界最大のスーパーは、
情報と移動技術の変化によって苦境に陥った。
いかにもありそうなことだが、興味深い成りゆきだ。

●店員の見つからないショップが珍しくないアメリカ

 90年代半ば、2年ほどアメリカに住んでいたが、何度か行った近くのデパートには驚かされた。
 ともかく店員がいないのだ。
 アメリカのデパートは日本よりも営業時間が長く、夜などはとくに、買い物をしようと思っても店員が見つからない。フロア中探しまわってもいないのでほかの階まで探しに行き、ついに見つからなくてあきらめて帰ったことも何度かあった。
 それではものが売れるはずがない。
 「何てバカなことをしているのだろう。こんなふうでは、いずれつぶれてしまうんじゃないか」と思っていたが、実際そのデパートは経営が苦しくなってやがて買収されてしまった。

 アメリカ最大の小売りであり、世界最大の企業であるウォルマートが陥った苦境についてあれこれ読んでいたら、なぜ店員がいなかったのか、わかってきた。
 コスト意識の強いアメリカのデパートや大型スーパーなどは、店員を最少でまわそうとする。コストを考えると、客の少ない時間帯に店員を張りつけておくのは不経済だ。
 とはいえ、開店時間は決まっているから、勝手に店を閉めるわけにもいかない。
 その結果、店員をほとんど置かずに店だけ開けておくという奇妙な時間帯がときに(というよりも平日の夜はほとんどいつもだった記憶があるが)生まれるのだろう。
 十分な利益をあげられない時間帯は店員をおかないというのは、コストを考えると理にかなっているのかもしれない。しかし、そんなふうでは客は、店員がまたいないのでは、と思って、そのデパートに行かなくなる。

 激しいコストダウンをはかって「いつも低価格(オールウェイズ・ロー・プライス)」を実現してきたウォルマートもまた、こうしたジレンマに陥っているようだ。

  昨年10月ビジネスウィークは、ウォルマートを抜き打ち調査した記事を載せた。
 「例によって」店員の姿が見えず、試着室に鍵がかかっていて開けてくれる店員もいない。「顧客はたいていたった1人で売り場に残される」。
 90年代にワシントン郊外のデパートで見た光景そっくりのありさまが報告されている。

 毎年300店の新規出店をして急拡大を続けてきたウォルマートが苦しくなった理由はいくつもあるが、ひとつには、安い賃金でこき使うために従業員の志気が落ちてしまったことにあるようだ。ビジネスウィークの記事では、レジ係が、「従業員を大事にしないのに、どうしてウォルマートのことを心配しなきゃいけないわけ」と居直っている。
 従業員は、会社に忠誠心を抱くどころか敵意さえ感じている。
 これでは、経営がうまくいかなくなっても当然だ。
 清掃係を減らしてしまったためにトイレが汚い店舗もあったりして、顧客満足度も低下しているという。

●IT技術も世界最大の企業を苦境に追いこんだ

 ウォルマートは、IT技術を駆使した情報管理システムを導入している。
 本社が一元管理し、商品がなくなると自動発注する仕組みになっている。
 ところが、盗まれた場合には商品がないことが認識されず、欠品が放置される。売り場の人間が気づいても、各店舗には商品発注の権限がないため、そのままになってしまうらしい。

 利益率は低くてもその商品があることで、他の商品が売れるということはよくある。
 しかし、単品の売れ行きだけを管理しているのでは、現場の人間の持つそうしたノウハウは活かされない。商品間の関連まで踏まえた情報システムができないのなら、現場にまかせていたほうがよかった、ということになる。

●ネットもまた世界最大の企業を追いこんだ
 
 ウォルマートは、音楽配信に力を入れたり、ネットで注文を受けつけるなど、ネットを積極的に取り入れている。しかし、ネットで逆境も招いている。
 
 ウォルマートは名の知られたナショナル・ブランドの商品を低価格で売ることで顧客を惹きつけてきた。こうしたことは、高速道路(フリーウェイ)とマスメディアの発達によって可能になったと、昨年10月3日のウォールストリートジャーナルは、スーパーをめぐる文明の推移を感じさせる記事を載せている。

 ウォルマートは大型スーパーの強みを活かし、品揃えも豊富である。マスメディアで宣伝し、顧客は低価格に釣られて少々遠くからでもやってきた。
 ところがいまや、ネットを使えば、消費者は、どんなに大型の店舗でもおよばないぐらいに豊富な品揃えの中から自分にあったものを選び、低価格で買うことができる。このような状況が消費者の嗜好を変えてしまい、低価格だけでは満足できなくなっている、というのだ。

 日本でもテレビの視聴率は落ちていて、20パーセントを超えれば週間トップに食いこめる。消費者のメディアとの接触が多様化しており、広く情報を行きわたらせようとすればあちこちに広告を出さざるをえない。
 つまり、ブランドを生み維持するコストが上がっている。
 その一方、ネットの口コミで、ニッチなブランドが誕生し、商品棚を占領してしまう。こうしてナショナル・ブランドに必要な利益が吸い取られている。
 高速道路とマスメディアの時代からネットの時代へ移行することによって、スーパーやメーカーと消費者の関係が一変してしまったというわけだ。

●嫌われ始めた安売り大型スーパー
 
 ウォールストリートジャーナルの記事では、「大型スーパーは広くて混んでいるから行かない」という消費者の声も紹介している。これもよくわかる話だ。
 
 私の家の近くにも、大きなスーパーと小さなスーパーがある。
 どちらによく行くかというと、小さなスーパーのほうだ。
 店舗がきれいということもあるが、大型スーパーは、広い店内を歩き回らなければ買いたいものにたどりつけない。
 また、大型スーパーは自分で商品を詰めなければならないが、小さなスーパーはレジ袋に入れてくれる。少々高くても、小さなスーパーのほうに足が向く。

 ネットでは、大量に買えば無料で届けてくれるサイトがあるし、安く買えるところもある。歩いていって買うときには、大型スーパーではなく、簡単で快適に買い物ができるスーパーを選ぶという発想になりがちだ。
 アメリカでも似たことが起こっているらしい。
 ウォルマートは電化製品にも力をいれており、電器専門店のなかには経営が傾いたところも出た。しかし、購入後の設置までしてくれる電器店チェーンなどは、逆に売り上げを伸ばしているそうだ。
 いくら安くても、重たい電化製品を持って帰って、マニュアルとにらめっこしながら使えるようにするのは面倒だ。少々高くても面倒見のいい店で買う客が少なくはなかったというわけだ。ウォルマートもあわてて設置サービスを始めているという。

  ネットによって流通の構造が変化しているというが、人々の消費性向そのものも変わっている。大型スーパーがかならずしも順風満帆というわけではなくなってきたというのはおもしろい。

afterword
 ウォルマートは、西友を完全子会社化して、日本上陸を成功させようと必至だ。未開拓の客層である富裕層をねらった戦略が失敗し、アメリカではもはや拡大の余地がなくなってきて、海外に希望を託さざるをえなくなっているらしい。

関連サイト
●ウォルマートを抜き打ち調査した昨年10月のビジネスウィークの記事(http://www.businessweek.com/bwdaily/dnflash/content/oct2007/db2007101_957507.htm)。●「日経ビジネス」のサイトにも、写真はないが、翻訳が載っている(http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071009/137090/)。
●ウォールストリートジャーナルの記事(http://online.wsj.com/article_email/SB119135657404946747-lMyQjAxMDE3OTAxMzMwNTM2Wj.html)。
●ウォルマートは音楽のネット配信ビジネスにも力を注いでいる(http://www.walmart.com/music)。パソコンや携帯音楽プレーヤーに何度でも楽曲をコピーでき、アップルの同様のサービスよりも安い。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.526)

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