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2008.02.29

米ヤフーはどうしてそんなに落ち目になったのか?――米ヤフー衰退の理由(1)

マイクロソフトが買収を申し出て、
その苦境が日本でも注目を集めているが、
米ヤフーはいまでも多くの点でナンバー1だ。
問題はどこにあるのか。

●「あなたの会社が売られようとしています」

 大学に入ってあちこちからやってきた学生と同じクラスになり、カルチャー・ショックを感じたことがいくつかあったが、そのひとつは、福島出身者と鹿児島や山口の出身者が、ろくに口もきかないうちからけんかを始めたことだ。
 これらの地域は、150年ほどまでは、会津、薩摩、長州と呼ばれていた。明治維新のときに、会津は最後まで幕府側につき白虎隊などが無惨な死を遂げた。一方、薩長の人々は、新政府の要職に就いて歴史に名を残すことになったわけだが、二十歳前の学生が、100年以上も前のその恨みをまだ引きずっていたのだ。
 
 私は当初、彼らはふざけているのかと思った。まあいくぶんかは誇張していたのかもしれないが、負けた会津出身のクラスメートが薩長に対して好ましからざる感情を抱いていることは確かのようだった。「おい、いったい今は何時代だと思っているんだ」と私はバカバカしくなりながらも唖然としたものだった。

 マイクロソフトに買収をもちかけられたアメリカのヤフーは、トップから従業員まで「マイクロソフトには行きたくない」と思っている人が多いらしい。
 人が生き死にした明治維新のときの戦いと企業間の争いを一緒くたにするのは何だけど、ビル・ゲイツはじめマイクロソフトの創立メンバーが東海岸のハーバード出身なのに対し、ヤフーもグーグルも創立者は西海岸のスタンフォードの大学院出身。現在の会社の所在地は、どちらも西海岸ではあるものの、マイクロソフトがシアトルであるのに対し、ヤフーもグーグルもシリコンバレー。開放的な大学の雰囲気も残るヤフーやグーグルは、ビル・ゲイツの号令一下アグレッシブに突き進むマイクロソフトとは企業文化も違うようだ。
 グーグルとヤフーはそれぞれ検索市場のトップとナンバー2で激しく争っているはずなのに、ヤフーは、3位のマイクロソフトよりグーグルのほうに親近感を感じている。

 会津と薩長の対立はともかく、日本だったら、トップから従業員にいたるまで、「あの会社の傘下に入りたくはない」と思っているのであれば、株主たちもそれほどは無理じいできず、買収側はやがてあきらめざるをえない‥‥ということが、このところ日本では何度も起こっている。外資はあきれてだんだんと日本から離れ始め、日本の株価が上がらない理由のひとつにもなっているらしいが、アメリカのヤフーは、残念ながらそんなのんびりした状況ではないようだ。

 米ヤフーは、昨年タイム・ワーナーから来て6年間ヤフーを率いてきたテリー・セメルに替わって、創業者のジェリー・ヤンが最高経営責任者(CEO)になった。こんどの経緯を説明するためにヤンが株主たちに送ったメールは、「マイクロソフトはあなたの会社を買うという求めてもいない提案をしてきました」という言葉で始まっている。
 「会社は株主のもの」だから、思いがけない買収を仕掛けられているのはほかならぬ「あなたたち株主の会社」というわけだ。
 日本だったら、大株主はともかくとして、小口の株を持っているぐらいで「あなたの会社が買われようとしています」などという手紙を受けとったら、株主たちはそうとうびっくりするだろう。

 こんなメールが送られるぐらいだから、創業者や従業員がどんな感情を抱こうが、判断するのは株主で、マイクロソフトが買収価格を上げて再提案してくれば、マイクロソフト嫌いのCEOも断われなくなるのではないかと見られている。

●儲かる会社(=グーグル)と儲からない会社(=米ヤフー)はどこが違うのか
 
 しかしそもそも、アメリカのヤフーは何でこんなにまで苦境に陥ってしまったのだろうか。
 日本の場合は、私も含めた物書きやメディアが「グーグル、グーグル」と騒いでいるのを尻目に、検索シェアでもページビューでもヤフーが圧倒している。グーグルの検索シェアはしだいに上がってきているものの、ヤフーは安定した地位を占めている。

 アメリカのヤフーも、検索シェアではグーグルの3分の1ほどだが、サイトへのアクセスではまだまだ勝っている。07年の売り上げも70億ドルほどで、前年から8パーセント伸びている。グーグルは前年から56パーセント伸びていて160億ドルもの売り上げがあるので、それに比べればそうとう見劣りするし、ネット広告市場の拡大スピードに比べても低成長だが、「赤字が積もり積もって身売り」などというわけではない。
 
 株主に宛てたメールの中でCEOのヤンも、われわれには世界のネット利用者の半分にあたる5億人以上のユーザーがおり、パーソナル化できるホームページや、メール、ニュース、音楽、ショッピング、旅行などよく使われるネット・サービスでナンバーワンであり、ウェブ上の広告量の90パーセントを占めるディスプレイ広告でもトップである、などとその実績を強調している。

 では何が問題なのか。

 ヤフーの危機の直接的な原因は、ネット広告の「ドル箱」の検索連動広告で出遅れたことだと言われている。
 またヤフーは、売り上げは一応伸びてはいるものの、営業コストなどを除いた営業利益は前年から26パーセントも減少している。前の年も15パーセント減で、このところ利益が落ち続けている。サービスをあれもこれも増やした結果、コストがかかるわりに儲からない体質になってしまっている。

●時間はもうない?

 こうしたヤフーとは対照的に、グーグルは、かなり長いこと検索一本でやってきた。最近でこそユーチューブを買収するなど業務を拡張しているが、創業からしばらくは、「検索なんかでほんとに儲かるのか」といぶかる周囲をものともせず、「利用者のためになることに力を尽くす」と検索にエネルギーを注いだ。その姿はいかにも「まじめな好青年」といった感じで、その真摯な態度には、私も含めた多くのネット・ユーザーはジーンとさせられた。
 しかし、こうして検索広告が高い利益を生むようになってみると、よけいなことにお金を使わないぶんだけいよいよ儲かる会社になっていることに気づく。「うーん、まじめな好青年だと思っていたけど、あれはもしかして深謀遠慮だったのか」といったふうになってきた。

 ヤフーとしては、グーグル追い上げに必要な検索連動広告についても手はすでに打っている。
 余分な人材を削って儲けにつながる部門を強化するために、1月には全社員の7パーセントにあたる1000人の削減も発表した。
 さしあたりやれることはやった。
 マイクロソフトも、ヤフー買収しかグーグルに追いつく方法がなくなってきたようだが、ヤフーもまた、画期的な打開策がない。
 それでも昨年半ばにCEOになったジェリー・ヤンにすれば、「もう少し時間をくれ」と言いたいところだろう。しかし、非情な株主資本主義が実践されているアメリカでは、ヤフーに与えられる時間はいよいよ少なくなってきたようだ。  (以下続く)

afterword
日本のヤフーも、相当な数のサービスを提供し、コストはかかっている。日本のヤフーは、そのぶん利益を上げているから(営業利益率50パーセント!)困らないわけだけど。

関連サイト
●米Yahoo!とGoogleの月間ユニークユーザーの推移。上の折れ線がYahoo!。CompeteのSite Analytics(http://siteanalytics.compete.com/yahoo.com+google.com/)より。
●Yahoo!の創業者でCEOのジェリー・ヤンが株主たちに宛てたメールを公開したプレスリリース(http://yhoo.client.shareholder.com/releasedetail.cfm?ReleaseID=294288)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.522)

【追記】
 米ヤフーは、サービスをたくさん作りすぎて収益を圧迫していると書いたが、グーグルと比較してコストがかかっているのはマーケティングの費用のようだ。つまり広告を取るのに、グーグルより手間がかかっているというわけだ。

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