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2008.02.22

マイクロソフトがヤフー買収に必死になる理由

マイクロソフトとグーグルの争いは
「最終戦争」の熱っぽささえ帯びてきたが、
巨大IT企業は死活的に何を重要と考えているのか。

●つかみ合いのケンカにならんばかりの非難の応酬

 
 マイクロソフトの米ヤフー買収に対するグーグルの反発はすさまじい。

「マイクロソフトは、PCでやったのと同様に、こんどはインターネットに対しても不適切で違法な影響力を行使しようとするのか? ネットは競争的な改革によって発展してきたが、マイクロソフトはしばしば独占的な力を打ち立てようとし、その支配力を新たな隣接市場でも用いてきた。過去の深刻な法令違反にもかかわらず、ヤフーの買収によって、マイクロソフトが不公正なやり方をブラウザやOSからインターネットにまで広げるのを認めるのか」

 この声明は、グーグルの上級副社長兼チーフ・リーガル・オフィサーの名前で出されている。グーグルの法務の最高責任者の名にかけて、マイクロソフトは違法行為をしてきた、と非難しているわけだ。
 日本のメディアもこの声明をとりあげたが、「違法な」というくだりは、テレビなどでは飛ばしていることが多い。マイクロソフトに気を使ったというよりも、あまりに激しすぎてそのまま放送してしまっていいのか、という判断もあったにちがいない。

 少なくとも日本の大会社だったら、業界トップの会社に向かって、「おまえらのやっていることはずっと違法なんだよ!」と決めつける公式声明を出すなんてことはまずやらないだろう。日本の大企業の場合はライバル会社といっても、業界の新年会なんかでトップ同士が「やあやあ、今年もよろしく」「こちらこそお手やわらかに」なんて挨拶を交わしている。
 マイクロソフトとグーグルの幹部も、パーティーやイベントなどで同席することはあるにちがいないが、これでは、「テメー、おれたちを犯罪者あつかいにしやがって」「ナニー、だって実際そのとおりだろう、この独禁法違反者め!」「キサマたちこそ!」などとつかみ合いのケンカになりそうだ。
 
 グーグルも、大手ネット広告会社の米ダブルクリックを買収しようとして、マイクロソフトなどがすかさず「独禁法違反だ!」と欧米の規制当局に働きかけて、「待った」をかけられる、ということがあった。そのほか、人材の引き抜きなどで、両社はことあるごとにぶつかっている。だから、グーグルのこの声明には、いわば積もり積もった鬱憤もこもっているのだろう。
 
 マイクロソフトも、グーグルが声明を出したのと同じ日、ネットではグーグルこそが支配的な地位を占めており、ヤフーの買収は、ネットの公開性と改革、プライバシー保護に貢献すると反撃する声明を出している。

●ヤフー買収でほんとうに相乗効果はあるのか
 
 ふたつの会社の争いは、行き着くところまで行き着き始めた気もするが、そもそもマイクロソフトはいったい何でヤフーを買収しようと思ったのか。
 
 2月1日にヤフーに提示したヤフー株の購入価格は市場価格の6割り増しで、買収額は446億ドル(4兆7500億円)。お金持ちのマイクロソフトも創業以来初めて借金して費用を捻出するつもりだったようだが、ヤフーは「安すぎる」と蹴った。しかし、この額には「高すぎる」と見る声もあった。マイクロソフトは、07年の4兆円のネット広告市場が3年後には倍の8兆円になると見ているが、アメリカ経済が怪しくなれば広告収入も頭うちになる。期待どおりにいくとはかぎらない。
 また、両社の合併による相乗効果は年1000億円ほどだと、マイクロソフトは言っている。5兆円近い買収の帳尻をあわせるには、単純計算すれば50年近くかかることになる。

 メディアなどでは、「アメリカにおけるグーグルの検索シェアが6割にたいして、ヤフーが2割、マイクロソフトが1割で、両社をたすと3割になる」などと説明している。しかし、買収によってどちらかの検索がなくなってしまうのであれば、なくなった検索の利用者はグーグルにも流れる。検索にかぎらず、こうしたことは起こる。メールや動画などほかのサービスでも、両社で重複しているものをひとつにすれば、両社の合計のシェアが落ち、グーグルを利することにもなりかねない。サービスを統合するのはむずかしく、合併によって合理化をはかるということもやりにくい。

●検索がすべてのカギを握っている
 
 マイクロソフトは、こんどの合併は考え抜いた上でのことだと言っているから、こんなことはわかっているはずだ。ではなぜ合併しようとするのか。
 同社は、次の4つの面で相乗効果を期待できるという。

①利用者増によって規模の経済が働き、広告の価値を高めることができる。
②両社の力が合わさって、技術発展を推進できる。
③余分なコストが削減できる。
④動画やモバイル、オンライン商取引、ソーシャル・メディアなどの新しい分野に力を注げる。

 こう列挙しているが、何としてもここでヤフーと合併しなければ、とマイクロソフトに決断させたのは①の広告だろう。
 強力な広告ビジネスを持っているところが圧倒的に強くなる、というのがこのところのネットの潮流だ。グーグルは、広告収入をもとに、大容量のウェブメールや、オンラインで使えるワープロ、表計算から航空写真や本のデジタル・データまで、すべて無料で提供している。いずれは動画や音楽の無料配信などもやりかねない。
 マイクロソフトはヤフーに呼びかけた文章の中で、「今日、広告のプラットフォームには、規模という点で、ひとつの競争者しかいない」と言っている。つまり世界の検索連動広告の75パーセントを占めるグーグルだけで、自分たちはグーグルの競争相手には成りえていない、と率直に認めているわけだ。
 そして、そのネット広告事業を支えるのが検索である。ネットで情報を見つけるためには検索はすでに十分に重要なものになっているが、その重要性はますます高まっていく。
 ウェブメールでも、ゲームや音楽・映像のダウンロード、ケータイのもろもろのサービスなどでも、利用者がほしいものをすばやく簡単にまた適確に見つけられなければ話にならない。すぐれた検索をもっているところが圧倒的に有利になる。

 マイクロソフトのCEOスティーヴ・バルマーは、ウォールストリートジャーナルのインタヴューでこう言っている。

「グーグルが市場リーダーである理由は、彼らがいくつもの製品を持っているからではありません。検索と呼ばれるひとつの製品分野でリーダーだからです」。

 すぐれた検索技術があれば、ネットでグーグルと互角に戦うことができるというわけだ。
 しかし、ヤフーを買収しようと躍起になっているところを見ても、マイクロソフトは、グーグルに対抗しうる検索技術を独力で短時間のうちに手に入れることは難しいと感じているのだろう。グーグルはそうとうに挑戦的なメッセージを出したものの、マイクロソフトが必死になってヤフーを獲得しようとしているのを横目で見て、自分たちの地位はまだまだ安泰だと高笑いしているにちがいない。

afterword
 2月1日にマイクロソフトが提示したヤフー株の購入価格は「高すぎる」と見る人がいる一方で、拒否されれば、マイクロソフトはさらに高額の価格を提示するだろうという話も流れていた。それでは、ヤフーがあっさりオーケーするわけはない。

関連サイト
●「ヤフーとインターネットの未来」と題された2月3日のグーグルの声明(http://www.google.com/press/annc/20080203_yahoo-and-future-of-internet.html)。オープンなインターネットがグーグルやヤフーを育んだが、マイクロソフトのヤフー買収はそれを破壊すると述べている。
●2月11日、米ヤフー取締役会は、2月1日のマイクロソフトのヤフー株購入価格は「安すぎる」と買収を拒否する声明を出した(http://yhoo.client.shareholder.com/press/releasedetail.cfm?ReleaseID=293129)。
●ヤフーが正式に拒否したその日、マイクロソフトは、ヤフー買収によって強力なナンバー2が生まれ、検索とネット広告の市場をより競争的なものにするので受け入れるよう、あらためて声明を出した(http://www.microsoft.com/presspass/press/2008/feb08/02-11msft-response.mspx)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.521)

追記
 マイクロソフトのヤフー買収の申し出については、Wired Visionのブログ連載「ネットと広告経済の行方」でも書きました。

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